↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

43辿り着いた場所

シュタット領――ハーブル。


赤茶色の瓦屋根と白い壁の建物が、斜面に沿って立ち並ぶ街だった。

細い石畳の道が続き、幾何学模様の彫刻やアーチ状の窓、花の飾られた黒い鉄製のバルコニーが、古い街並みに彩りを添えている。

陽の光に包まれたその街は、どこか古く、美しい趣を漂わせていた。



そして――。

ハーブル教会本支部の前。

ミオとアッシュは、そこに立ち尽くしていた。



ミオは顔を青ざめ、朝日に照らされた教会を見つめていた。

「……嘘……。」

震える声が、漏れた。

「……こんな建物では、ありません……。」



アッシュも困惑したように教会の壁へ手を触れる。

「真新しいよ。ミオちゃん。」

「建て直したばかり……みたいだね。」



ミオの胸に、不安が広がっていく。

「……そんな……。」



「カリン様……。」

「アメリ……。」









***









カリンは、目の前に広がる景色に愕然としていた。

「どうして……こんな所に!?」

「大変だわ! それに、ミオはどこなの!?」



カリンは慌てて振り返ると、勢いよく立ち上がった。

そして、大声で叫ぶ。

「ミオー! 返事して!」



「ピィー!」「ピィー!」

シルフィたちも、カリンの声に負けないほど激しく鳴いた。



その声に、アメリが布団から這い出てくる。

「お姉ちゃん……どうしたの……?」



心配そうにカリンを見つめた――その時。



――ガシャンッ!!



部屋全体が大きく揺れた。



カリン「わっ!」


アメリ「ひゃぁっ!」


シルフィ「ピィッ!?」「ピィッ!?」



すると――

壁の向こうから、巨大な爪の先が突き出した。



「!?」



次の瞬間。

――ガシィッ!!

鋭い爪が部屋を外側から掴んだ。



そして――



――グォンッ!!

部屋そのものが、勢いよく持ち上げられた。



カリン「きゃあっ!」


アメリ「いやぁっ!」


シルフィ「ピィィーッ!!」「ピィィーッ!!」



床が大きく傾き、家具や布団が一斉に滑り出す。

カリンの身体も、傾いた床に足を取られ、壁へ叩きつけられた。



ゴロゴロッ――!


ガンッ! ゴンッ!



「きゃあぁっ……!」

アメリの身体が、床を転がっていく。



「アメリ!!」

カリンは咄嗟に駆け寄った。



「――っと!」

転がるアメリを、両腕で受け止める。

バフッ!



「ピィッ!」「ピィッ!」

シルフィたちも羽ばたき、カリンの肩へ飛び移った。

小さな爪で、服に必死にしがみつく。



しかし、部屋はなおも激しく揺さぶられていた。



ガガガガッ――!


ゴンッ! ガンッ!



カリンはアメリを抱きしめたまま、何度も床や壁へと身体を打ちつけられる。

「くっ……!」



アメリはカリンの胸元にしがみつく。

「いやぁっ!」



「ピィィッ……!」「ピィィッ……!」

シルフィたちも必死に耐えている。



その瞬間――

カリンの視界に、窓の外を横切る巨大なアームが映った。



「……っ!」

カリンは揺れる身体を必死に支えながら、腰のベレットを取り出した。



――シュバッ!!

赤い鎖が勢いよく窓の外へ飛び出し、



――ジャラララッ!!

巨大なアームへと絡みついた。



カリン「アメリ、シルフィ。しっかり掴まって!」


アメリ「う、うんっ!」


シルフィ「ピィッ!」「ピィッ!」



すると――



――ジャラッ、ジャララッ!!

伸びていたクレイドの鎖が、凄まじい勢いで縮み始めた。



アメリ「きゃっ……!」


シルフィ「ピィー!」「ピィー!」



カリンたちは窓の外へ引きずり出される。

そのまま鎖に引かれ――

宙を飛んだ。



やがて、視界が大きく開けた。



カリンは振り返る。

そして――目を見開いた。



眼下に広がる廃材の山々。 その中を、一台の巨大な重機が動いていた。

その先端に取り付けられた大きなグラップルが――

カリンたちのいた屋根裏部屋を、丸ごと掴んでいた。



その重機の運転席から、作業員がこちらを見上げていた。

「おーい! お前ら何してんだー! なんでそんな所にいる! 危ねーだろー!!」



「ご、ごめんなさい!」

カリンはアームにぶら下がったまま、慌てて頭を下げた。



そして、ベレットを握り直した。

赤いクレイドの鎖が真下へ伸びていく。

――ジャララララッ!!

カリン達は地面へ降り立った。

「……ふぅ。」



「うぅ……怖かった〜……。」

アメリはへなっとカリンに寄りかかる。



「ピィ……。」 「ピィ……。」

シルフィたちも、ほっとしたようにカリンの肩へ身を寄せた。



カリンは、宙に浮かぶ屋根裏部屋を見上げた。

「……どうして、部屋ごとこんな所に……?」


部屋の中に、ミオはいなかった。

「ミオは……どこへ行ってしまったの?」


カリンの表情が曇る。

「無事でいるの……?」


そして、もう一つ。

「それに……ここは、一体どこなの……?」



「おい!」

再び、運転席から作業員の怒鳴り声が響いた。

「そんな所で突っ立ってたら邪魔だぞー!」

「ケガすっから、早くそこから離れろー!」



カリンは、作業員へ向かって声を張った。

「あの! ここは何という施設なんですか!?」

「それと……この辺りは、どこの街なんですか!?」



「はぁ!?」

作業員は、呆れたように声を上げる。

「一体、何言ってんだ、あんた!?」

「そもそも、なんでうちの敷地内にいるんだよ!」



その時――



――ウゥゥゥゥゥゥンッ!!

けたたましい警報音が、廃材の山々に鳴り響いた。



「マジかよ……朝っぱらから、なんなんだよ!」

作業員は顔を引きつらせ、空を見上げる。



そして、カリンたちへ大声で呼びかけた。

「おい、アンタら! 魔獣が近くまで来てる! さっさと事務所へ逃げろ! ここにいたら危ねぇぞ!」



「魔獣ですって!?」

カリンも、作業員の視線を追うように空を見上げた。



「ピィ……?」「ピィ……?」



アメリは両手で耳を塞いだ。

「すごい音だよ……お姉ちゃん……。」



その直後――。

空の彼方から、無数の影が姿を現した。

大きく翼を広げた、翼竜のような魔獣たち。

鋭いくちばしと爪を持つ魔獣の群れが、この場所へ向かって一斉に飛んでくる。



作業員の顔から、みるみる血の気が引いていった。

「んだよ……もう、こんな近くまで来てやがるじゃねぇか!」

空を睨みつけ、舌打ちする。

「警報鳴るの、遅すぎんだろ!」



「ひぇ……。」

アメリは慌ててカリンの腕にしがみついた。



重機から降りた作業員は、すぐに走り出した。

「何してんだ! 急げ!」



「大変だわ! アメリ、走って!」

カリンはアメリの身体を起こし、その手を取って走り出した。



「う、うん!」

アメリも慌てて走り出す。



「ピィ!」「ピィ!」

シルフィも後を追っていく。



三人は、廃材の山を抜け、事務所のある建物へ急いだ。



「はぁ……はぁ……!」



その途中、作業員が何度も後ろを振り返りながら、空を見上げた。

「廃材ってのは、あいつらの巣作りにちょうどいいんだよ。場所を知られてから、毎回これだ!」



翼竜たちの鳴き声が、空から次々と響いてくる。



カリンも走りながら空を見上げた。

「でも……巣を作るためだけに、こんな大群で来るものなの?」



「いや、今は子育ての時期。」

作業員は息を切らしながら答える。



「巣にいるヒナのために――餌を取りに来てやがるんだよ。」



それを聞いたカリンの顔が、さっと青ざめる。

「アメリ、頑張って逃げるのよ!」



「わ、わかった……!」

アメリは懸命に足を動かす。けれど足がもつれそうになり、何度もカリンの手を握り直していた。



次の瞬間――。

翼竜の魔獣たちが、急激に高度を落とした。

一気に、カリンたちへ向かってくる。

風を切る轟音とともに、巨大な影が頭上から迫った。



「まずい! 捕まるぞ!!」

作業員が声を荒らげる。



その直後――。

一体の翼竜が、鋭い爪を伸ばした。

その爪が、アメリの服を掴む。



「あっ……!」

突然、身体が引っ張られた。



アメリの顔が恐怖に引きつる。

「い、いやぁ……!」



カリンは足を止めた。

そして――振り返る。

「はぁっ――!!」



ベレットを大きく横へ振り抜いた。

ブォンッ!!

赤い大鎌が鋭く唸り、アメリを掴んでいた翼竜の腕を薙ぎ払った。



「ギャオォォォッ!!」

翼竜は大きく後方へ吹き飛んでいった。



しかし――。



「お姉ちゃん!! 上!!」



アメリの声に、カリンが顔を上げる。

その頭上では、別の翼竜が大きくくちばしを開いていた。

「――!」



カリンが身構えるより早く、アメリは反射的にベレットの柄を掴んだ。

「離れてぇー!!」

アメリが力を込めた、その瞬間――。



大鎌が消えた。

代わりに、赤い棒状のクレイドが勢いよく伸びた。

ズズズズズ――!!



次の瞬間――。

ズガァンッ!!



「ギャオォォォッ!!」

翼竜は勢いよく吹き飛ばされ、地面を転がった。



カリンは、一瞬アメリを見つめた。

「……アメリ、今の……!」



作業員も目を見開いた。

「魔獣を二体も吹っ飛ばしたぞ……。」

「あ、あんたら……何もんだ!?」

そして、二人が手にするベレットを見て、

「なんて危ねーもん振り回してんだよ……。」



だが――。

休む間もなく、翼竜たちが次々とカリンたちへ襲いかかってくる。

カリンとアメリは、ベレットの両端の柄をそれぞれ握りしめた。

二人の間を繋ぐ鎖が、赤く、一気に伸びていく。



「数が多いわ!」

カリンはクレイドの形状を剣へと変え、迫りくる翼竜を次々と斬り払う。

ザシュッ! ザシュッ!



「こっち来ないでー!」

アメリも棒状になったクレイドを振り抜き、迫る翼竜を次々と弾き飛ばす。

ドンッ! ドンッ!



「ピィー!」「ピィー!」

シルフィたちも、翼竜を前に小さな身体を精一杯大きく見せていた。



戦いに気を取られていた、その時――。



「や、やめろー! 離せーっ!」

作業員の叫び声が響いた。



「はっ!!」

カリンは、声のした方へ振り向く。



そこには、翼竜に掴まれた作業員の姿があった。

翼竜はそのまま翼を大きく羽ばたかせ、作業員を連れて上空へと舞い上がっていく。



「くっそー! 魔獣の餌になんか、なってたまるかーっ!」

作業員が必死に叫ぶ。



「いけないっ!」

カリンは握っていた柄を、作業員を掴んでいる翼竜へ向かって投げつけた。



しかし――。



届かなかった。



カリン「くっ……!」



その時――。

「やあっ! 離してぇー!」

アメリの叫び声が聞こえた。



カリンが振り向く。



「お、お姉ちゃん……!」

翼竜の爪に掴まれたアメリが、必死にもがいていた。




「アメリ! 駄目ー!!」

カリンはとっさに手を伸ばした。

けれど――。

その手をすり抜けるように、アメリの身体が空へさらわれていった。



「……イヤ。」

アメリの姿が、みるみる遠ざかっていく。

「アメリ……。」



作業員も、アメリも捕まってしまった。

このままでは、二人とも魔獣の餌にされてしまう。



カリンは、ぎゅっと拳を握った。

(だったら……)



そして――目の前へ迫る翼竜を見据える。

カリンはベレットを腰へ戻した。

もう、抵抗するつもりはなかった。



ゴクリ……。

唾を飲み込む。



やがて、翼竜の大きなくちばしが、目の前まで迫った。



その瞬間――。

シルフィが、カリンの肩へと止まった。

「ピィ……。」「ピィ……。」

カリンの決意を感じ取ったように、小さく鳴く。



そして――。

ガブッ!!



「――っ!」

カリンの身体は、翼竜のくちばしにくわえられた。



そのまま翼竜は、大きく翼を広げる。

カリンもまた、作業員とアメリとともに――遥か高い空へと連れ去られていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。