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35渓谷の攻防

ブックマークと評価、ありがとうございます。

とても嬉しいです。

ノマド大尉の一撃をまともに受けたウィンダムは、全身に走る痛みに顔をしかめたまま、谷底へと落下していく。



ビュオオオオオッ!!

凍てつく風が身体を激しく打ちつける。

身体は痺れ、思うように動かない。 視界がめまぐるしく流れていく。



「ぐはははは……!」

頭上から、ノマド大尉の笑い声が響いた。

ウィンダムが顔を上げる。



大きな身体を持つノマド大尉が、ウィンダムを追うように落下してきていた。 その身体は、ウィンダムの落下速度を上回る勢いで、みるみる距離を詰めてくる。



ビュオオオオオッ!! 凄まじい風圧が、二人の身体を激しく打ちつける。



ノマド大尉の口元には、不気味な笑みが浮かんでいた。 目は異様なほど輝いている。



ウィンダムは顔をしかめる。

(くっ……。もう魔法は使えない……。)



剣は、もうない。

凍てつく寒さに身体がこわばり、思うように動かない。

このままでは、抵抗することすらできない。



ウィンダムは、眼下へ視線を向けた。

遥か下には、白銀に染まった谷底が迫っている。

(この谷底に辿り着けば……俺も、この男も助からないだろう。)



それなのに――

ウィンダムは、再び迫ってくるノマド大尉を見上げた。

(……なのに、なんて顔してやがるんだ。)



「ぐはははは……!」

ノマド大尉は笑いながら、さらに距離を詰めてくる。



そして――

その左手が、ウィンダムの足へ届いた。

「――っ!」



そのまま右腕に、凄まじい量のクレイドを集中させる。

「ぬぅ……!」



そして―― 右腕を、眼前の岩壁へ向けて振り下ろす。 ドゴォォォン!!



ガガガガガガッ!!

クレイドをまとった拳が岩壁を激しく削り、砕けた岩が次々と谷底へ落ちていく。



「……っ!? 素手で岩を!?」

ウィンダムが驚愕の声を上げる。



そのままノマド大尉の拳が岩壁へ深く食い込んでいく。

拳を岩壁に引っ掛けるようにして、二人の落下を強引に受け止めていく。



そして―― ギギギギギ……!

「……!」

二人の身体が、空中で大きく揺れる。



「……止まった……だと!?」

ウィンダムが目を見開く。



ノマド大尉は、左手でウィンダムの足を掴んだまま、宙にぶら下がっていた。

そして――

口元が、不敵に歪んだ。

「捕まえた~。」



ウィンダムは、逆さまのままノマド大尉を見た。

「ぐっ……。なんて奴だ。」

(こいつは恐らく、将校クラスの兵……。)



その時――



「ウィンダムさん!」

ライルの声が響いた。



「……!?」

ウィンダムが目を見開く。



なんとライルが、二人の横で空中に浮かんでいた。



ウィンダム「ライル……!? お前!?」



その足元からは、クレイドが勢いよく噴き出している。

靴底から噴射されたクレイドの推進力によって、ライルはまるで空中を飛ぶように、ウィンダムのもとへ駆けつけていた。



逆さまに吊られたウィンダムは、ライルを見上げる。

「またこんなものを作ったのか!?」

「お前、本当に何でも作れるんだな……!」



ライルは、照れくさそうに笑った。

「えへへ。カッコいいかな?」



そしてノマド大尉に向かって、八重歯を見せてニッと笑った。

「やっとウィンダムさんが戻って来たんだ。渡すもんか。」



そう言うと、ライルはウィンダムの掴まれている足の裏へ、何やら小さな装置を貼り付けた。

その装置には、小さなクレイドの結晶がはめ込まれている。



「……!?」

ウィンダムは、訝しげに眉を寄せた。



ライルは得意げに笑った。

「ロケットブースト!」



その瞬間――

ボフッ!

装置から、大量の煙が勢いよく噴き出した。



噴き出した煙が、ウィンダムの足を掴んでいたノマド大尉の顔面へ、容赦なく直撃する。



「お゙え゙っ……!」

ノマド大尉は煙をまともに浴び、顔を青ざめさせる。



ライル「一ヶ月放置した足の臭い付き♪」



ウィンダムが顔を引きつらせる。

「や、めろ……なんだそ――」

その瞬間――

ボンッ!!

装置のブーストが一気に作動する。



「れーっ!」

ノマド大尉の手から、掴まれていた足が離れる。 ウィンダムの身体が、その勢いのまま吹き飛ばされた。



「わっ!」

ライルはすかさず手を伸ばし、飛んできたウィンダムを受け止めた。

ガシッ。



ライルはウィンダムを抱えたまま、ニッと笑う。

「えへへ。効果アリ!」



ウィンダムは顔を真っ赤にして、怒鳴った。

「なんだ、このふざけた攻撃は!」

「しかも、足の裏から噴射させるなど冗談じゃない!」



ライルはウィンダムを抱え直す。

「でも……大人の人は重いや。」



ウィンダム「お前、俺の話を聞いているのか!?」

その直後――

二人の身体が、ゆっくりと高度を下げ始めた。

ライルの靴底にある装置だけでは、ウィンダムの重さを支えきれなくなっていた。




一方、ノマド大尉は――



「お゙ぇ゙ぇ゙っ!! ゲホッ、ゲホッ!!」

「な、なんだこの臭いはぁぁぁ!! 鼻がもげる!!」



その様子を、風船を取り付けて無事に谷底へ降り立ったナデラ兵たちも見守っていた。


「ウィンダムさんの剣がやられたのか……。」


「あの怪力坊主、色々とヤバいだろ。」


「だが、ライル君がウィンダムさんを助けてくれた!」


「頼もしいなぁ! さすがメカオタク!!」




「ぐっ……はぁ、はぁ……。」

ノマド大尉は鼻を押さえながら、ライルを睨みつける。

「このチビィ~……。何をした……。」



そして――

岩壁に食い込ませた拳を支点にしたまま、岩壁へ足をつけて踏ん張る。

その下半身に、凄まじい量のクレイドが集まり、眩い光を放ち始めた。



ノマド大尉「ふん゙っ!!」



バゴォォン!!

岩壁を蹴り飛ばす。

凄まじい脚力とクレイドの力によって、その巨体が一気に跳び上がった。



青ざめた顔に怒りを滲ませながら、ノマド大尉は降下していくライルとウィンダムへ迫る。



「マズイっ!!」

ライルが叫ぶ。



ライルは再び、銃のような形をした器具を取り出した。

その先端を地上へ向け、引き金を引く。



シュバッ!

強度のあるワイヤーが射出され、雪の積もった地面へ突き刺さる。



ヒュンッ!

ワイヤーが一気に短くなる。

その勢いに引かれ、ライルとウィンダムの身体が地上へ向かって一気に飛んでいく。



ウィンダム「うわっ!」



ボフッ!

二人は、雪の積もった地面へ着地した。



その直後――

ドゴォォォン!!

避けられたノマド大尉の拳が、眼前の岩壁へ叩き込まれる。

ガガガガガガッ!!

拳が岩壁を激しく削りながら、ノマド大尉の巨体が落下していく。



そして――

ドスンッ!!

そのまま地面へ着地した。




ライルが雪を払いながら、ゆっくりと身体を起こす。

「ててて……。」



その隣で、ウィンダムも身体を起こした。

「奴が来る! だが俺は……。」



ライルは、そんなウィンダムを見つめる。

「ウィンダムさん、もう魔法使えないんだよね……。」



ウィンダムの視線が足元へ落ちる。

雪の上に、折れた剣の柄が転がっていた。

刻まれているのは、教会の紋章。



ウィンダムは、それをしばらく見つめた。

そして、少しだけ目を伏せる。

だが――

すぐにライルへ顔を向け、穏やかに笑った。

「俺はナデラの人間だ。」

「聖騎士として振るってきたこの剣も、ここで終わりにするべきだったんだ。」



そして、ライルへ告げる。

「ライル、俺に新しい魔法媒体の武器を作ってくれないか?」



ライルは驚いたように目を見開く。

そして、顔を赤くしながら無邪気に笑った。

「もちろんだよ!!」

「ウィンダムさんの武器を作れるなんて、光栄だよ!」



ドスッ! ドスッ! ドスッ!



その時――

雪を蹴散らす音が響いた。

ものすごい形相で、ノマド大尉が二人へ向かって走ってくる。



ウィンダムは迫り来るノマド大尉を見据える。

「あの怪力を、どうにか止めるぞ。」

「ライル、今持っている発明品を見せてくれ。」



ライルは全身のポケットから、大小さまざまな機械やクレイドバッテリーを取り出した。

「じゃーん!!」



「すごいな……。こんなに持っていたのか。」

ウィンダムは、そのうちのいくつかを手に取る。

「よし、これで行こう。」

そう言って、ライルへ何かを耳打ちする。



ライルは頷いた。

「りょーかい!」



二人は、迫り来るノマド大尉へ向かって同時に駆け出した。



「ゔお゙ぉぉぉー!」

ドスッ! ドスッ! ドスッ!

ノマド大尉が、凄まじい勢いで二人へ迫ってくる。



ライルは両手を構えた。

「ボムボム手裏剣。」



二枚の手裏剣が放たれる。

シュッ――!

シュッ――!



ノマド大尉は、飛来した手裏剣を両手で勢いよく叩き払った。

カッ――!

カッ――!



弾き飛ばされた手裏剣は、ノマド大尉の左右へ大きく逸れていく。

そして、左右の岩壁へ突き刺さった瞬間、二つの手裏剣が爆発した。



ドゴォン――!

ドゴォン――!



爆発によって岩壁の雪が激しく舞い上がり、辺り一面を白い雪ぼこりが包み込む。



「……!」

その隙に、ウィンダムが銃のような形をした器具を構える。



シュバッ!

器具からワイヤーが射出され、ノマド大尉の足へ絡みつく。



ウィンダムは、そのままワイヤーを強く引いた。



「ぬおっ!?」

ノマド大尉の巨体が、ワイヤーに足を引かれ、大きく後ろへ倒れる。



「のあ゙っ゙!!」

ズドォォォン!!

大地が大きく揺れた。



「重たっ……。」

ウィンダムがワイヤーを握り直す。



その直後――

ライルはすでに、倒れたノマド大尉の上空へ飛び上がっていた。

靴底からは、クレイドが勢いよく噴き出している。



ライルは両手を構える。

その手のひらには、小型の器具が固定されていた。

そして――

手のひらを地上へ向ける。



ライル「エアスタンプ!」

ドンッ!!

手のひらの器具から、圧縮された空気が一気に放たれる。



バシュゥゥゥッ!!

凄まじい空気の圧力が、ノマド大尉の巨体を上から押し潰す。

「がっ゙……!!」



ズズズズズッ……!

地面が軋み、周囲の雪が激しく吹き飛ぶ。

それでも――



「ぬお゙ぉぉぉぉ!!」

ノマド大尉は、凄まじい圧力に抗うように上半身を起こそうとする。



ウィンダムは、呆れと驚きが入り混じった表情でノマド大尉を見つめる。

「なんてパワーと執念だよ……。」



だが――



「……っ。」

ノマド大尉の身体から、ふっと力が抜けた。

バタリ。

その巨体が、力なく地面へ倒れ伏す。



ウィンダム「……え?」



ライルは空中からノマド大尉を見下ろし、ニッと笑った。

「えへへ。強烈な眠気成分付き♪」



「眠気成分!?」

ウィンダムは驚いたようにライルを見上げる。

「そんな隠し玉を仕込んでいたのか……。そこまでは聞いてないぞ。」



ライルは得意げに笑った。

「へへ♪ 他にも目眩がする成分とか、動物の〇〇〇の臭いとかもあるよ!」

そう言いながら、ゆっくりと地上へ降りてくる。



ウィンダムは、思わず言葉に詰まった。

「なんて下品な……。やめろ。」



そして―― ほんの少しだけ、口元を緩める。

「だが、お陰で成功した。ライル。ありがとうな。」



「うん!」

ライルは八重歯を見せながら、照れくさそうに笑った。



その時――

「ウィンダムさーん!」

「ライルくーん!」

「無事かー!?」



ナデラ兵たちが、二人のもとへ駆け寄ってきた。

ライルは大きく手を振る。

「おー! みんなも無事かい?」



ナデラ兵の一人が、地面に倒れたノマド大尉へ恐る恐る近づく。

そして、寝息を立てている姿を覗き込んだ。

「ひえー……。」

「ほ、本当に倒したのか? この暴君を……。」



ライルは胸を張る。

「うん! 強力な眠剤だから、しばらく起きないよ。」



ウィンダムは、駆け寄ってきたナデラ兵たちへ目を向け、静かに目を伏せた。

「みんな、すまなかった。」

「予定が狂ってしまって、俺は単独で行動した。」

「そのせいで、全員スタヴァルド要塞に連行されるところだった。」



すると、一人のナデラ兵が前へ出る。

「俺からも、ウィンダムさんに謝ることがあります。」



ウィンダムは顔を上げる。

「なんだ?」



すると、別のナデラ兵が慌てて割って入った。

「違う!」

「それは、俺を守ってくれたからだろ!」



最初の兵士が、俯きながら口を開く。

「俺……喋っちゃいました。」

「俺たちのリーダーが、ウィンダムさんだってこと。」



そして、悔しそうに拳を握る。

「この坊主と女のルクセリア兵が、仲間を人質にして……目をえぐり取るって脅してきたんです。」

「だから……口を開いてしまいました。すみません。」



ウィンダムは、そんな兵士の肩にそっと手を置いた。

「いいんだ。そんなこと。」

「仲間が人質だったんだ。当然ではないか。」



そして、少しだけ表情を曇らせて続ける。

「記憶封印までかけられて、何も分からず苦しかっただろ?」

「助けに行けなくて、申し訳なかった。」



ウィンダムは、表情を和らげた。

「それに、教会への潜入は晩餐会で最後だったのだから。」

「もう俺の正体がバレても、構わなかったのさ。」



兵士は肩を震わせる。

「……本当に、ウィンダムさんが無事で良かった。」



その時――

ブゥゥン……。

ライルの横を、虫のような小型の機械が飛び回った。



そして――

「おい、いつまで手間取ってやがる?」



「……!」

その場にいた全員が、一斉に小型の機械へ目を向ける。



ライルが目を輝かせた。

「あ、ヴァンガードさん!!」



――一方。

渓谷の上。

その縁に、ヴァンガードが腰を下ろしていた。

その横には、同じ小型の機械が浮かんでいる。



ヴァンガードは、すぐ眼下へ視線を落とした。

線路の上には、車体のあちこちがへこみ、いくつかの穴の開いた車両が停まっている。

「列車がボロボロじゃねぇか。」

「……お前ら、無事なんだろうな?」



ライルは元気よく答える。

「うん! みんな無事だよ!」



すると――

ウゥゥゥゥ――! ウゥゥゥゥ――!

遠くから、スタヴァルド要塞の警報が鳴り響いていた。



ヴァンガードが要塞へ目を向ける。

「要塞が警報を鳴らしている。」

「早く撤退しないとまずい。」



ライルは苦笑いを浮かべる。

「それが……全員、谷底にいるんだよね……。」 「あはは……。」



「……なんだと!?」

ヴァンガードの眉が、ぴくりと動いた。



ウィンダムが、小型の機械へ向かって声をかける。

「オヤジ。俺の武器がやられた。魔法が使えない。悪いが、オヤジの魔法で転移してほしい。」



ヴァンガードは、鼻を鳴らした。

「俺のクレイドを要塞の前で使えってのか?」

「軍に感知されたら、面倒なことになる。」

「だからライル一人でやらせたんだろうが。」



ライルはシュンと肩を落とす。

「ごめん、ヴァンガードさん……。」



ウィンダムが口を挟む。

「将校クラスの兵士がついて来たんだ。予定外だったんだ。仕方がないだろ。」



ヴァンガードは大きく息を吐いた。

「ウィンダム、てめぇも参戦してこのざまか。」

「武器まで壊されて、仲良く谷底とはな。」



すると――

周囲にいたナデラ兵たちが、次々と声を上げる。

「ヴァンガードさん、助けに来てくれてありがとうございます!」


「俺たちを見捨てないでくれたんすね!」


「ウィンダムさんは、俺たちを助けている時に襲われて……。」


「ウィンダムさんがいなかったら、全員谷底で死んでました……。」



その言葉を聞き――

ヴァンガードは黙り込んだ。

そして――ふっと口元を緩める。

「……ったく。手のかかる息子どもだ。」



ヴァンガードはライルへ問いかける。

「ライル。遠隔装置はあるのか?」



ライルは気まずそうに笑った。

「それが、忘れちゃって。えへへ。」



「ええ!?」

ナデラ兵たちが一斉に声を上げる。



「……おいおい。」

ヴァンガードも思わず額を押さえた。



ウィンダムが口を開く。

「俺が転移魔法の式を雪に描く。」

「それでいけるか? オヤジ。」



ヴァンガードは目を細めた。

「……ほう。教会で習ったか。」

「無駄に潜り込んでたわけじゃなかったようだな。」



そして――

ヴァンガードは立ち上がる。

「よし。」

「なら、急げ。」



ウィンダムは小型の機械へ向かって答えた。

「ああ。」

そして、雪面に大きな魔法陣のような式を描き始めた。



ライルが興味深そうに覗き込む。

「これで、遠隔でヴァンガードさんの魔法が発動されるの?」



ウィンダムは式を描きながら答える。

「理屈上はな。だが、やるのは初めてだ。」



やがて、魔法陣が完成する。

ウィンダムはその中心に立った。

そして――

ゆっくりと自身のクレイドを身に纏わせていく。



その瞬間――

ヴァンガードが目を細める。

「……見つけた。」

ウィンダムが描いた魔法陣が、紫色に光り始めた。



ウィンダムが顔を上げる。

「よし! 来たぞ!みんな、中へ入れ!」



ナデラ兵たちは、恐る恐る魔法陣の中へ入っていく。



だが――

ライルは、地面に倒れているノマド大尉の身体を引きずろうとした。

「この人も一緒に。」

「こんな寒い所で寝ていたら、死んじゃうよ。」



ウィンダムとナデラ兵たちは、目を見開いた。


「何言ってるんだ!」


「そいつはルクセリア兵なんだぞ!」


「俺たちを襲って、ウィンダムさんの剣を折った奴だぞ!」



ウィンダムはライルを見つめる。

(……本当に、少年兵だった子なのか?)

(優しすぎる……。)



そして――

静かに口を開いた。

「わかった。」

「みんな、ライルを手伝ってくれ。」

「その大男も、魔法陣まで運ぶんだ。」



「ええ!?」

ナデラ兵たちは驚きながらも、ライルと共にノマド大尉を抱え上げる。


「せーのっ!」


「重っ……!」


「なんだこの筋肉……!」



なんとかノマド大尉を運び、全員が魔法陣の中へ入る。



ウィンダムは小型の機械へ声を飛ばした。

「オヤジ、準備は整った。頼む。」



ヴァンガードは、銃を構える。

銃身が紫色に光り始める。



すると、それに呼応するように――

谷底の魔法陣からも、強い紫色の光が放たれた。

光は魔法陣の中にいる全員を包み込んでいく。



ヴァンガードは、静かに言い放った。

「転移魔法――デメージェ。」



その瞬間――

谷底の魔法陣にいた全員の姿が、紫色の光とともに掻き消えた。



そして――

一瞬にして、渓谷の上へ。

ヴァンガードのすぐ側に、全員が転移していた。



「……!」

ウィンダムも、ライルも、ナデラ兵たちも――

突然の出来事に、目を見開いたまま言葉を失っている。



やがて、ウィンダムが小さく息を吐いた。

「……どうやら、成功したみたいだな。」



ライルは、ヴァンガードのもとへ駆け寄る。

「わーい! ヴァンガードさん!」

「凄いよ! ありがとう!」



ヴァンガードは、そんなライルを見ると、自分の防寒着を脱いだ。

そして――

そのままライルの身体へ掛けてやる。

「鼻が出てるぞ、ライル。」



「えへへ……。」

ライルは、防寒着に残ったヴァンガードの体温を感じながら、嬉しそうに身を包む。

「わ~っ。温かい~。」



ヴァンガードは、ライルの頭をくしゃっと撫でる。

「ふん。全員無事とは、たいしたもんだ。」



そして――

ヴァンガードの視線が、ナデラ兵たちに抱えられているノマド大尉へ向く。

「だが――余計なもんまで持ってきたようだな。」



ライルは、当然のように答えた。

「あんな寒い谷底に放っておくなんて、できないよ。」



ヴァンガードは、呆れたように息を吐く。

「ったく。で、こいつはどうすんだ?」

「言っとくが、こいつまで連れて帰る気はねぇぞ。」



ライルは、渓谷へ目を向けた。

そして――

八重歯を見せて、ニッと笑う。

「あれだ!」

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