29銀狼と赤髪の男
カリンは、大きく目を見開いたまま言葉を失っていた。
「アッシュ……父さんに……会ったの?」
アッシュは、カリンの気持ちを察するように、少しだけ視線を逸らした。
「うん。……ごめんね。黙ってて。」
「教会の人たちには、特にカリンちゃんには……言わないほうがいいと思ってたからさ。」
カリンは、まだ状況を飲み込めずにいた。
「盗みに入ったって……天狼宮に?」
アッシュ「……うん。そう。」
戸惑いとショックを隠せず、カリンは俯いた。
「ずっと行方不明だった父さんが……どうして新貴族の宮殿に……。」
「しかも……泥棒なんて……。」
アッシュは、かける言葉を探すようにカリンを見つめた。
すると――
ミオが、静かに口を開いた。
「フェンリル様は、レイノルド様が盗もうとしていたのですよね?」
「それが、どうしてアッシュさんと一体化しているのでしょうか?」
ミオは、アッシュをまっすぐ見つめた。
「何があったのか……教えていただけますか?」
アッシュはしばらく黙っていた。
やがて視線を上げると、ふぅ、と小さく息を吐く。
そして――
「……まぁ、順番に話すよ。」
努めていつもの軽い調子を作るように、アッシュは笑った。
アッシュ「フェンリルはさ、石板に封印されてたんだよね。」
「それが天狼宮の最奥にある部屋に、クロフィア家の家宝として厳重に祀られてたんだ。」
カリンは黙ってアッシュを見つめる。
アッシュ
「俺さ、子供の頃から、その石板に封印されてるフェンリルの声が聞こえたんだよね。」
「兄貴たちには、ただの石板にしか見えてなかったみたいだけど……俺には、ちゃんと話しかけてきたんだ。」
アッシュは、少しだけ遠くを見るように目を細めた。
「あの家、俺には窮屈でさ。」
「だから俺にとってフェンリルは……あの家で唯一、話ができる相棒だったんだ。」
カリンは、静かに目を伏せた。
ミオも何も言わず、アッシュの話に耳を傾けている。
その隣で、アメリは小さく首を傾げ、アッシュを見つめていた。
アッシュは、しばらく黙ったまま視線を落とした。
「……2年前の夜だった。」
「天狼宮に、一人の男が忍び込んできたんだ。」
〜〜〜
2年前――。
満月の夜。
朱塗りの宮殿が幾つも連なる、広大な天狼宮。
金色の装飾を施した屋根と長い回廊が、月明かりの下に浮かび上がっていた。
長い廊下を、一人の男が歩いている。
やがて男は、足を止めた。
古びた扉の前に立ち、ゆっくりと手を伸ばす。
ギィィ……。
扉が、静かに開いた。
男は、そのまま部屋の奥へと進み、石板の前で足を止めた。
すると――
石板が、淡い銀色の光を放ち始めた。
低く、重厚な声が、静かな部屋に響く。
『――なんと……なんと懐かしい。』
『これは……皇帝御一家のクレイド。』
『お主は、一体……。』
月明かりが、男の口元だけを照らす。
「へぇ。エリシオンのクレイドが分かるのか。さすが聖獣。」
男は、わずかに口元を緩めた。
「その力……解放してもらうよ。」
その時――
背後から声がした。
「何してんの。」
「フェンリルに何か用?」
男は、その声の主が誰なのかすぐに理解した。
振り返ることなく、口元だけがわずかに笑う。
「ほぉ……鋭いなぁ、君は。」
「……アッシュ様。」
扉に寄りかかっていたのは、褐色の肌に少し跳ねた銀髪を持つ少年。
まだ幼さの残る、16歳のアッシュだった。
アッシュ
「フェンリルは俺の相棒なんだけど。」
「それに、新貴族の城に忍び込んだ時点で、だいぶヤバいでしょ。あんた。」
その時――
男が、わずかに振り返った。
窓から差し込んだ月明かりが、その輪郭を一瞬だけ浮かび上がらせる。
「……っ!」
アッシュの表情が強張る。
「あ、あんたは……!」
「カリンちゃんの……!」
月明かりが雲に遮られる。
男の姿は、再び影の中へ沈んだ。
赤い髪だけが、月明かりの下に浮かんでいる。
アッシュの額に、冷や汗が滲む。
「ずっと行方不明だった……。」
それでも、アッシュはいつもの調子を崩さなかった。
「ふぅん……教会の人間が新貴族の城に侵入ねぇ。」
「けど、フェンリルに手は出させないよ。」
赤髪の男は振り返らず、静かに告げた。
「カリンが危ない。」
「聖獣の力が必要なんだ。」
「え……?」
アッシュの表情が変わる。
「え、え? カリンちゃんが!?」
だが、すぐに険しい表情を浮かべた。
アッシュ「……いや、それよりも、あんたの方が危険だろ。教会も政府も、あんたへの疑惑を強めてる。」
「それに――」
アッシュは男を睨む。
「カリンちゃんを、ずっと独りにしやがって……。」
赤髪の男は、何も答えなかった。
その時――
石板から、再び声が響く。
『――アッシュ。』
『我は、解放されなければならない。』
「……はぁ?」
アッシュは石板へ視線を向ける。
「なんだよ……。」
そして、目を伏せた。
アッシュ
「フェンリルがいなくなったら……俺は……。」
フェンリルは静かに告げる。
『ならば――我を受け入れるか?』
アッシュ「……え?」
『我と共に生きるということだ。』
アッシュはしばらく黙っていた。
そして――
「……そんなの、決まってるだろ。」
「俺は、フェンリルと一緒にいたい。」
その瞬間――
石板から放たれていた淡い光が、目も眩むほどの強烈な輝きへと変わった。
部屋中が、銀色の光に包まれる。
「マズイ……!」
赤髪の男が初めて声を荒らげた。
次の瞬間――
巨大な狼の形をした光が、
アッシュへ向かって駆け抜ける。
「!!」
銀色の狼は、そのままアッシュの身体へと吸い込まれていった。
バァァァン――!
強烈な光が弾ける。
そして――
アッシュの右腕に、銀色の狼を象った聖痕が刻まれた。
シュゥゥ――。
「っつ……!」
アッシュは右腕を押さえ、その場に膝をつく。
赤髪の男の動きが、止まった。
「聖痕を……刻んだ……のか?」
その時――
アッシュの中から、声が響いた。
『――アッシュ。』
『これなら、ずっと一緒だ。』
『お主の中でな。』
アッシュは、ハッと顔を上げる。
「フェンリル……!」
「俺の中にいるのか……!?」
『――それだけじゃない。』
その言葉と同時に――
アッシュの身体が、みるみるうちに巨大な銀狼へと変貌を遂げていく。
身体が大きくなるたび、部屋の木材が軋んだ。
ミシ……ミシミシ……。
やがて、その巨体は天井にまで届き――
バキッ!
天井に亀裂が走った。
銀狼と化したアッシュは、自分の身体を見下ろしながら驚きの声を上げる。
「これが……フェンリルの姿なのか……!?」
その姿を前に、赤髪の男が息を呑んだ。
「その少年は……何も関係ない。」
「何故、聖痕を刻んだ……フェンリル様……。」
『――俺とアッシュの関係こそ、お主には関係ない。』
『我が認めたのだ。口を慎め。』
部屋に響くフェンリルの声に、赤髪の男は黙り込む。
銀狼となったアッシュは、自分の巨体を見回しながら楽しそうに笑った。
「はは……なんだよ〜。」
「これなら、一緒にいられるじゃん。」
「なんでもっと早くやらなかったんだよ〜。」
『ふん……。』
『その男に礼を言うんだな。』
「どういう意味?」
アッシュは首を傾げる。
すると、赤髪の男が静かに口を開いた。
「フェンリル様。」
「あの子を守るために……その少年の人生を犠牲にするつもりか?」
『――犠牲、か……。』
フェンリルの声が、静かに響く。
『全くもって違うな。』
「……!?」
赤髪の男の声が、わずかに揺れた。
銀狼となったアッシュは、その言葉に反応する。
「あの子って……カリンちゃんのこと?」
「そーだな。」
口元が、ニヤリと吊り上がる。
「あんたよりは……大切にできると思うよ。」
「…………」
赤髪の男は、何も答えなかった。
ただ、赤い髪だけが月明かりの中で静かに揺れている。
銀狼となったアッシュは、ふっと目を伏せた。
「それに……もう、兄貴とはやっていけない。」
赤髪の男は、黙ったままだった。
『――いいのか……?』
フェンリルが、静かに問いかける。
銀狼のアッシュは、ゆっくりと前脚を動かした。
大きな身体を低く沈める。
まるで、今にも駆け出そうとするように。
そして――
アッシュ
「フェンリル、行こうぜ!」
「もう、俺にはアンタがいればいい。」
アッシュは、赤髪の男へと顔を向ける。
けれど、その顔を月明かりが照らすことはなかった。
アッシュ
「それに、カリンちゃんのピンチには、この俺が駆けつける。」
「じゃあな、レイノルドのおっさん。」
「よく分からないけど……サンキューな。」
ドガッシャーン!!
次の瞬間――
フェンリルが封印されていた部屋を、巨大な銀狼が突き破った。
瓦礫が宙へ舞い上がる。
銀狼は、そのまま夜の天狼宮を駆け抜けていく。
満月に照らされた巨大な朱塗りの宮殿。
その屋根を伝いながら、銀狼は夜の彼方へと消えていった。
静寂が戻る。
そこに残されたのは――
砕けた石板。
そして、見る影もなく壊れた部屋。
赤髪の男の姿は、もうどこにもなかった。
〜〜〜
カリンは、瞳を揺らしながら両手を強く握りしめていた。
初めて聞く――父と思われる男の話。
これまで何一つ知らなかった父の姿を、初めて知ることができた。
嬉しさと、疑問。
様々な感情が、カリンの胸の中で交差していた。
「カリン様……」
ミオが心配そうに声をかける。
アメリはカリンの顔を覗き込むように、見上げた。
「お姉ちゃん……大丈夫?」
二羽のシルフィが、カリンの頬へそっと擦り寄った。
アッシュが口を開く。
「赤い髪しかほとんど見えなかったんだけど……機密クレイドってものの話が本当なら、あれはレイノルドのおっさんで間違いないと思う。」
ミオも静かに頷いた。
「ええ。」
「機密クレイドをレイノルド様が持っていたのであれば、フェンリル様を封印から解き放ち、聖獣がその場にいた者へ聖痕を与えることも可能です。」
カリンは目を伏せた。
「つまり……」
「教会にあった機密クレイドは、父さんが持ち去った。」
ミオは、少し言いにくそうに答えた。
「……そうなります。」
だが、すぐに続ける。
ミオ
「ですが、アッシュさんのお話を聞く限りでは……」
「レイノルド様は、カリン様の身を案じてクロフィア邸へ忍び込み、フェンリル様を封印から解放しようとしたように思えます。」
カリンは、ゆっくりと顔を上げた。
「それなら……」
「教議会が出した、7年前の事件の結論は……」
「間違っている可能性があるってことだよね?」
ミオは静かに答えた。
「機密クレイドを持ち去っている以上、容疑者としての疑いが晴れたわけではありません。」
「ですが……少なくとも私は、レイノルド様がカリン様を傷つけるようなことをなさったとは思えません。」
「俺もそう思うよ、カリンちゃん。」
アッシュも静かに頷いた。
だが、その表情には、まだ晴れないものが残っていた。
アッシュ「だけど……それなら、何故姿をくらましたまま、ずっと戻らないんだ。」
「カリンちゃんを、ずっと独りにさせて……。」
その言葉に、カリンはしばらく黙っていた。
やがて――
その瞳が、静かに変わる。
カリン
「……考えられることは一つ。」
「私を、メイデスにさせないため。」
ミオが頷く。
「うん。私も、そう思います。」
カリンは、静かに言葉を続けた。
「イグニス公や、エリシオンを巡って様々な思惑を抱いている者たちも……」
「……あの機密クレイドがなければ、何も実現はできない。」
アッシュが納得したように頷く。
「そーゆーことね。」
しかし、すぐに何かに気づいたように首を傾げた。
アッシュ「だったら、どこかに機密クレイドを隠して、カリンちゃんの前に姿を見せればいいのに。」
「聖獣を解放するなんて回りくどいことをしないで、直接守ることだってできるじゃん。」
「あの人、強いんでしょ?」
カリン「確かにね。」
カリンは、ふとアルバの言葉を思い出した。
――教議会が何と言おうと、たとえ最重要機密のクレイドをあの馬鹿が持ち去っていたとしても
――わしはレイノルドを、息子を信じておる。
――……あやつは、意味もなくそのようなことをする男ではない。
カリンは、ゆっくりと顔を上げた。
「……やっぱり、父さんに直接聞いてみるしかないわね。」
父が何を知っているのか。
何故、機密クレイドを持ち去ったのか。
そして――
千年前から続く、この世界の真実。
それを知るためには、父本人に会うしかない。
「……行きましょう。」
カリンは、持っていた封筒を取り出した。
ミオが、その意図を察するように微笑んで頷く。
「なにそれー?」
アッシュが興味深そうに、封筒へ視線を向ける。
カリン「聖騎士が調べてくれた、父さんの足取りに関する記録よ。」
カリンは封筒から書類を取り出し、皆の前に広げた。
四人は身を寄せ、その内容を確認する。
アメリも一生懸命に書類を覗き込んでいた。
アッシュが書類を眺めながら呟く。
「へー……ダイコク通りにいたんだ。」
「まぁ、ダイコク通りに現れたのも、天狼宮に現れた時期と同じ頃だろうね。」
ミオも記録へ目を落とす。
「おそらく、2年前のカイエン国での目撃情報については、先ほどのアッシュさんのお話が最も有力な情報でしょう。」
「これ以上の情報が残っているかは分かりませんが……一番新しい足取りがここです。」
「そのため、現在もクロフィア領にいる可能性は、まだ残されています。」
「うん、そうね。」
カリンは書類を指でなぞる。
「でも、カイエン国に現れる前……」
「父さんは、政府と繋がりのある場所で働いていたのよね。」
「ここ。」
アッシュが書類を覗き込む。
「ファンベルク中央輸送商会?」
ミオが頷く。
「クレイドバッテリー関連の事業を行っていた輸送商会です。」
「政府による監査が入った直後、レインという男性が姿を消しています。」
カリンは、記録をじっと見つめた。
「……私の身を案じて天狼宮に忍び込み、フェンリル様を解放しようとした。」
「でも……」
カリンは少し考えるように黙った。
「父さんは、政府と繋がりのある場所で働いていた。」
「そこで、何かを知ったのかもしれない。」
「そして、その何かが……」
「私を守るために、フェンリル様の力が必要だと思わせたんじゃないかしら。」
ミオ「そこで何かを知ったのか……。」
「それとも、その輸送商会で働いていたこと自体、何らかの情報を得るためだった可能性もありますね。」
アッシュ「え、でもこれ……赤い髪の『レイン』って名前だけど、本当にレイノルドのおっさんなの!?」
カリン「お祖父様が、本人である可能性が高いと判断した情報だけを記したものよ。」
「調べてみる価値はあると思うわ。」
ミオ「一番大きな西の領土……スカニア領ですか。」
カリン「ええ。」
「他の領土と比べても、経済が発展している場所よ。」
アッシュ「決まりだね!」
親指を自分へ向け、いつものようにウインクする。
「みんな~、俺の背中に乗っちゃって!」
そのとき、右腕に刻まれたフェンリルの聖痕がカリンの目に入った。
カリンは小さく息を吐くと、口を開いた。
カリン「アッシュ。どうして……?」
アッシュ「ん?なにが?」
カリンは、少し言葉を選ぶようにアッシュを見つめた。
「アッシュが、フェンリル様と一緒にいられることはいいのよ。」
「だけど……聖痕を刻まれるって、そんな簡単な話では済まないでしょう?」
「それは、あなたの人生そのものに関わることなんだから。」
アッシュは、いつもの軽い調子で笑った。
「え~? 俺の大切な女の子を守るって気持ちのほうが、聖痕よりずっと熱いんだけどな~。」
「……っ。」
カリンの頬が、わずかに赤くなる。
けれど、すぐに表情を引き締めた。
カリン
「こんな大事なこと、そんな軽い調子で話さないで!」
「ミオにも言ったけど……私は、誰かが私を守るために、自分の人生まで縛られることを望んでいないの。」
「フェンリル様と一緒にいることを選んだのは、アッシュ自身なんでしょう?」
「その気持ちまで否定するつもりはないわ。」
「だけど……私を守ることだけを理由に、これからの生き方まで決めてほしくないの。」
「私は、そんなこと望まないわ。」
「じゃあ――」
アッシュの表情が変わった。
カリンへ近づく。
アッシュ「俺が、カリンちゃんを望んでいたとしても?」
カリン「え?」
アッシュは、そっとカリンの頭へ手を回した。
そのまま、顔を近づける。
カリン「……っ!?」
ミオ「なっ……!?」
「きゃっ!」
アメリは慌てて両手で目を覆う。
カリン(ち……近い……!)
アッシュ「……。」
カリン「…………。」
ミオ「アッシュさん!カリン様から離れてください!!」
アッシュ「ははー! なーんて。」
「カリンちゃん、かーわいーっ!」
カリンは顔を真っ赤にして、わなわなと震えた。
カリン「アー……ッシュゥ……。」
二羽のシルフィも怒ったように鳴き立てる
「ピィッ!」「ピィーッ!」
けれど――
アッシュの目から、いつもの軽さが消えた。
カリンの頭を支える手は、
そのまま優しく、力強い。
アッシュ「……けど。」
「大切な女の子だよ。カリンちゃんは。」
「皇族だから守るんじゃなくて……カリンちゃんを守る。」
「それじゃ、駄目かな?」
カリンは、言葉を失った。
目の前にあるアッシュの瞳から、もういつもの軽さは感じられない。
まっすぐに、自分だけを見つめている。
カリンの水色の瞳が揺れる。
ミオ「アッシュさん! いい加減にしてください!」
アメリは、指の隙間からそっと二人を覗き見る。
カリンは、自分の動揺を振り払うように、ゆっくりと首を横に振った。
「……いいえ。」
「そんな形は望まないわ。」
アッシュは、少し寂しそうに笑った。
「……そっか。」
「振られちゃったか……。」
そして、静かに手を離す。
カリンは、ゆっくりと息を吐いた。
そして、アッシュをまっすぐ見つめる。
カリン「アッシュ。私にとっても、あなたは大切な人なの。」
アッシュの目が、わずかに見開かれる。
カリン「だから、あなたに私を守る役目なんて負わせない。」
「お互いに守るの。」
カリンは、アッシュを見つめたあと、ミオとアメリへ視線を移した。
そして、三人をまっすぐ見渡す。
カリン「……みんな、大切な仲間でしょ?」
アッシュは、どこか納得したように目を細めた。
「ふっ……。そうだよね。それがカリンちゃんだ。」
カリンは、静かに目を伏せる。
「それに……」
「アッシュとクロフィア公のことも、いつか向き合わなければいけないわ。」
「このままでいいわけないでしょう?」
アッシュは、わずかに視線を逸らした。
「それは……。」
「カリンちゃんには関係ないよ……。」
カリン「関係あるわ。」
「フェンリル様のことも、聖痕のことも……父さんが関わっていたのよ。」
「それに――」
カリンは、アッシュの瞳を真正面から見据える。
「私の大切なアッシュと、その家族のことなのだから。」
アッシュは、一瞬だけ目を見開いた。
けれど、それを隠すように、いつもの飄々とした笑顔を浮かべる。
「ありゃ~。」
「次期教帝って、そんなことまで面倒見てくれるんだっけ?」
「カリンちゃん、相変わらず優しくておせっかいなんだから。ははっ!」
ミオは、くすりと笑った。
「……動揺してますね、アッシュさん。」
カリン「もう。夜も遅いんだから、休みましょう。アッシュ。」
アッシュ「そうだね。」
そして、いつもの笑顔でカリンを見る。
アッシュ
「カリンちゃん。」
「これからよろしくね。」
カリン「ええ。」
「よろしくね、アッシュ。」
そんな二人の傍らで――
アメリは、広げられた書類をじっと眺めていた。
「……レイノルド……。」




