28初めての食卓
焚き火の上に置かれた鍋の中には、一尾の岩魚と色とりどりの山菜、採れたての茸が煮込まれていた。
飾り気はない。 けれど、自然の恵みをそのまま味わう、温かな山の鍋料理だった。
湯気と共に、魚や山菜の優しい香りが辺りへ広がっていく。
その香りに誘われるように、二羽のシルフィが鍋の上をくるくると飛び回る。
「ピィ?」 「ピィ?」
どうやら、漂う香りが気になって仕方ないらしい。
カリンは目を丸くする。
「え? これをアメリが作ったの?」
アメリは胸を張って笑った。
「うん!」
「アメリが茸を取って、お水を汲んだの!」
「アッシュ君がお魚を取ってくれて、茸も切って、お鍋に入れてくれたの!」
カリンは思わず微笑む。
「まぁ……そうだったのね。」
「お料理ができるなんて、アメリは凄いわ。」
(あはは……。ほとんどアッシュが作ったのね……。)
心の中でそう思いながら、カリンは優しくアメリの頭を撫でた。
「えへへ。」
アメリは嬉しそうに笑う。
アッシュはカリンとミオを見て、にやっと笑う。
「カリンちゃんとミオちゃん、なんか雰囲気変わったねぇ。」
「いやぁ、安心した安心した。」
そう言って鍋を覗き込む。
「うぉ〜! 美味そう!」
「アメリちゃん、見てみて!」
アッシュが具材を見せると、
「わぁ〜!」
アメリの瞳が輝く。
その様子を見て、ミオが首を傾げた。
「アッシュさん、お料理もされるのですね。」
「クロフィア邸には料理人の方がいらっしゃるのでは?」
アッシュは肩をすくめ、へらっと笑う。
「あの家じゃ全然やってなかったよ〜。」
「でも家出してからは、自分でやるしかなくてさ。さすがに食事まで野生化はできないじゃん?」
「狼で獲物とって、人間に戻って料理して〜って感じ。案外どうにかなっちゃうもんだよ。」
ミオは少し目を丸くした。
「それは……便利ですね。」
アメリが二人を見上げる。
「お姉ちゃんとミオちゃんは、お料理できるの?」
ミオは小さく微笑んだ。
「人並み程度にはできます。」
「ですが……料理をする機会は、あまりありませんでした。」
カリンは苦笑する。
「私は全然……。あはは。」
「だから、アメリの方がずっと凄いわよ。」
「本当?」
アメリの顔がぱっと明るくなる。
カリン「うん。本当よ。」
アッシュは笑いながら、お椀へ鍋を取り分けた。
「よし! じゃあ、冷める前に食べよう。」
それぞれがお椀を受け取る。
アメリは、お椀を手に嬉しそうに食べ始めようとした。
だが――。
カリンとミオは胸元へ手を添え、静かに目を閉じる。
その様子に、アメリはきょとんと目を丸くした。
「……?」
「お姉ちゃん、食べないの?」
カリンはゆっくりと目を開き、優しく微笑む。
「ふふ。これから命をいただくから、生き物たちへ感謝を伝えていたのよ。」
「お魚も、山菜も、茸も。私たちのために命を分けてくれるから。」
アメリは真剣な顔で聞いていた。
「そうなの……?アメリにも教えて。」
カリンは優しく頷く。
「もちろんよ。」
アメリも見よう見まねで胸に手を添える。
「……ありがとう。」
小さな声で呟いた。
その様子を見て、アッシュが笑う。
「へぇ。」
「そういうの、いいね。」
「じゃ、俺も。」
照れくさそうに笑いながら、アッシュも胸へ手を当てた。
ミオが驚いたように目を瞬く。
「アッシュさん……。」
「食事の前の感謝を、今までされていなかったのですか?」
アッシュは苦笑する。
「あー……まぁ。」
「俺、教会の教えを全部そのまま受け入れてるわけじゃないんだ。」
「カリンちゃんの前で言うのもあれだけど……。はは。」
「なんですって……!?」
ミオは本気で驚いていた。
カリンは苦笑した。
「昔からそういう人なの。」
「政治にも宗教にも、あまり縛られないというか……。」
アッシュ 「そうそう。」
「俺、特定の価値観に縛られるのが苦手なんだ。」
「だから教会を否定してるわけでも、政府を支持してるわけでもない。」
「自分が『そうだな』って思えたことを信じたいだけ。」
ミオは開いた口が塞がらなかった。
「信じられません……。」
「新貴族のお生まれで、そのようなお考えの方がいらっしゃるなんて……。」
アッシュは笑って肩をすくめる。
「でも、食べ物に『ありがとう』って言うのは嫌いじゃないよ。」
「命をもらって生きてるのは、本当だしね。」
カリンは穏やかに微笑んだ。
「私はね。色々な考え方があっていいと思うの。」
「女神様を信じる人もいれば、そうじゃない人もいる。」
「その人が自分で選んだ生き方なら、それも大切なんじゃないかな。」
ミオは少し考え込む。
「……そういう考え方も、あるのですね。」
カリンは笑った。
「それより。食べよう、ミオ。」
ミオは小さく微笑む。
「……はい。いただきます。」
その瞬間――。
アメリが、小さな手をお椀へ突っ込んだ。
カリン「え?」
ミオの目が見開かれる。
「!?」
アッシュも慌てて声を上げた。
「ちょ、ちょ、アメリちゃん!?」
そして、
アメリ「熱っ……。」
「アメリ!」
カリンは咄嗟に駆け寄る。
「ミオ、お願い!」
「……ええ!」
ミオはすぐにアメリの手を優しく包み込む。
淡い光が手を覆い、薄い氷の膜がそっと形作られた。
ミオ「この魔法なら、冷やしながらでも動かせますよ。」
アメリは涙を滲ませながら、小さく唇を尖らせる。
「……食べられないよぉ。」
カリンは安心させるように微笑むと、魔法で冷やしている小さな手へ木のスプーンをそっと握らせた。
アメリは、不思議そうに木のスプーンを見つめる。
カリンも自分のスプーンを手に取ると、優しく微笑んだ。
「こうやって使うのよ。」
お椀の中身をひとすくいし、ゆっくりと口へ運んで見せる。
アメリは真剣な表情で見つめると、見よう見まねで同じようにスプーンを動かした。
その様子を見つめながら、ミオは小さく呟く。
「……アメリ。」
アッシュも少し表情を曇らせた。
「アメリちゃん……。」
「今まで、ご飯ってどうやって食べてたの?」
アメリは視線を落とし、小さな声で答える。
「ドクターが、粉をお水で溶かしてくれたの。」
「たまに、ご飯っていうのも食べたけど……ほとんど粉だった。」
「だから今日は……嬉しくて。」
「早く食べてみたくて……。」
しゅんと肩を落とす。
アメリ「……ごめんね。」
ミオは息を呑んだ。
「それは……粉末栄養食、ですか……。」
「あっ、違う違う!」
アッシュは慌てて首を振る。
「謝らなくていいから!」
「それより、手は大丈夫? 熱かったでしょ?」
アメリは小さく頷く。
「うん……。」
「ミオちゃん、ありがとう。」
ミオは言葉を失ったまま、目を伏せる。
「どういたしまして。」
「スプーンや、お箸は……使ったことがなかったのですね。」
アメリ「……うん。」
カリンはそっとアメリの頭を撫でる。
「じゃあ、これから私が教えるわ。」
アメリは嬉しそうに顔を上げた。
「……お姉ちゃん。」
カリン「ほら、もう一回やってみて。」
「うん!」
アメリはスプーンを握り直し、慎重にお椀の中身をすくって口へ運ぶ。
ゆっくりと味わい――。
ぱっと表情が明るくなった。
アメリ「……美味しい。」
その瞳には、うっすら涙が浮かんでいた。
カリンも嬉しそうに笑う。
「ええ。本当に美味しいわ。」
そして二人へ振り返る。
カリン「ミオも、アッシュも。ほら、早く食べてみて。」
二人もお椀を手に取る。
「いただきます。」
ミオは一口含んだ瞬間、目を丸くした。
「……とても優しい味です。」
「身体の芯まで温まります……。」
アッシュも笑顔を弾けさせる。
「うんまー!」
「さすが、俺とアメリちゃんの合作だね!」
「ピィ!」 「ピィ!」
二羽のシルフィも嬉しそうに鳴きながら、皆の周りをくるくると飛び回った。
焚き火を囲み、笑い声が夜の湖畔へ溶けていく。
他愛のない話を交わしながら、穏やかな時間はゆっくりと過ぎていった。
やがて――。 食事を終えたアッシュが、空になった椀を置く。
その表情から笑みが少しだけ消えた。
アッシュ
「でさ、カリンちゃん。……いったい、何があったの?」
「聖騎士に襲われて、あんなボロボロになってたこともだけど。」
「フェンリルがカリンちゃんのことを『メイデス様』って呼んだり、『皇族』って言ったり……。」
「それに、カリンちゃんとまったく同じ顔のアメリちゃんまでいるし。」
静かな空気が流れる。
カリンとミオは互いに視線を交わし、小さく頷いた。
そしてカリンは、晩餐会で起きた出来事を最初から最後までアッシュへ語った。
ミオもまた、聖獣から聖痕を授かったアッシュになら真実を伝えてもよいと判断し、アメリと出会った経緯、自らがラミアナ・フォードであることを、静かに打ち明けた。
話を聞き終えたアッシュは、しばらく口を開けたまま固まっていた。
「えっ……。ちょ、ちょい待って……。」
「カリンちゃんが人間じゃなくて、エリシオンっていう種族で……。千年前の皇族……。」
「……フェンリルがさっき言ってたこと、全部繋がったじゃん。」
「しかも、とんでもないクレイドを持ってるから、イグニス公に狙われたっていうの!?」
カリンは静かに頷く。
「ええ。私も、まだ信じ切れてはいないわ。」
「でも……ウィンさんが本気で私を排除しようとしていたことを思えば。」
「きっと、それが真実なのでしょうね。」
アッシュは呆然としたまま、ミオへ視線を向ける。
「それに……ミオちゃんが、あのラミアナ・フォード様って……。」
「いやいや……さすがに信じられないって……。」
ミオは静かに首を横へ振った。
「……本当のことです。」
「ラミアナの『ミ』と、フォードの『オ』を組み合わせ、『ミオ』と名乗ることにいたしました。」
カリンは納得したように頷く。
「ラミアナ様のお名前から取っていたのね。」
「へぇ〜、そういうことね。」
アッシュは、先ほど目にした大人の姿のミオを思い返した。
「それにしてもさぁ……あの姿、めちゃくちゃ綺麗なお姉さんだったよなぁ。」
アッシュが驚きを口にする中、カリンはミオとアメリを見つめた。
自分の知らないところで、二人が貨物室で過ごしていたことが、胸に引っかかっていた。
カリン「二人とも……ミレーニアの貨物室にいたなんて。暗くて、寒かったでしょう?」
ミオは静かに頷く。
「私は慣れておりますので平気でした。」
「ですが……アメリは服も着ておらず、あの狭い貨物室の中におりました。」
アメリは目を伏せると、不安そうにカリンの服の裾をぎゅっと掴んだ。
そして、裸足の足の指をきゅっと縮こませた。
アメリ「ドクターに……裸にされて、箱へ入れられたの。お姉ちゃんの荷物に入るようにって……言われて……。」
その場の空気が凍りつく。
誰も言葉を発することができなかった。
カリンは息を呑み、小さく首を振る。
「なんて……酷いことを……。」
アメリは俯いたまま、小さく続けた。
「お姉ちゃんはね……子どもが大好きだから。」 「絶対にアメリを見捨てないって……。」
「でも、他の人に見つかったら……消されちゃうって……。」
「っ……。」
ミオは唇を噛み締める。
「ミオちゃん?」
アッシュが心配そうに声を掛ける。
ミオは静かに目を伏せた。
「私は、複製体であるアメリがカリン様へ危害を加えるものと思い……。」
「排除、あるいは拘束しようといたしました。」
「その結果……アメリへ恐怖を与えてしまいました。」
アメリはカリンの服をさらに強く握りしめ、小さく身を寄せた。
「でも……。」
「ミオちゃん、抱き締めてくれたよ。」
「毛布も掛けてくれたよ……。」
その言葉に、ミオの瞳がわずかに揺れた。
カリンはアメリの頭を優しく撫でる。
「二人とも……。」
「そんなことが、あったなんて……。」
自分が一等車両で晩餐会へ向かっていた、その時。 この小さな二人は、暗く狭い貨物室で、互いを警戒し、不安を抱えながら向き合っていた。
その事実は、カリンの胸に重く沈んだ。 自分に関わったからこそ、二人はそんな思いをしたのではないか。 そう考えるだけで、胸が痛んだ。
アッシュは、カリンの表情をじっと見つめた。
「……あ。」
「カリンちゃん、自分を責めてる顔。」
「……そうね。」
カリンが顔を上げる。
アッシュは慌てたように、カリンへ手を向けた。
「ちょい待ち。」
「ミオちゃんの判断は妥当でしょ。」
「アメリちゃんのその姿を見れば……俺でもそうするよ。」
「……ひっ。」
アメリの身体がびくりと震える。
「消すって……こと?」
その言葉に、アメリは怯えた表情を浮かべた。
ミオは何も言えず、静かに目を伏せる。
アッシュは、そんなアメリを刺激しないよう、声を落とした。
アッシュ「アメリちゃん。」
「『消す』ってのも、その……ドクターってのに言われたんだよね?」
アメリはカリンの服を掴んだまま、小さく頷いた。
「そっか……。」
アッシュは少し考えるように顎へ手を添える。
アッシュ「それなら、間違いなくカリンちゃんの荷物へ向かわせるためだったんじゃないかな。」
「服を取り上げたのだって、たぶん同じ理由だと思うよ。」
カリンの表情が強張る。
「つまり……私に確実に会わせるために……。」
ミオは静かに目を伏せる。
「そこで、たまたま私と遭遇してしまった……。」
(荷物に入ろうとしたことも……ドクターに仕向けられていたのですね。)
「うん。」
アッシュは頷いた。
アッシュ
「つまりね。そのアメリちゃんを作ったっていうドクターには、何か企みがあるはずなんだよ。」
「たぶん……イグニス公は、その企みについて何か知ってたんじゃないかな。だからこそ、アメリちゃんを手に掛けようとしたんだと思う。」
カリンは唇を強く噛み締める。
「酷すぎるわ……。そんなこと……。」
その顔を、アメリが不安そうに覗き込んだ。
「アメリと……ドクターがいけないの?」
自分と同じ水色の瞳が、戸惑うように揺れている。 カリンはたまらず、アメリを強く抱き締めた。
カリン
「……違うわ。」
「アメリは、何も悪くない。」
声が震える。
カリン
「ドクターが何をしたとしても……。」
「あなたが生まれてきたことまで、悪いことになるはずないでしょう……。」
アメリの身体を包む腕に、ぎゅっと力がこもる。
アメリは目を潤ませながら、カリンの温もりを静かに感じていた。
「お姉ちゃんは……やっぱり、温かくて、優しい人……。」
アメリが知っていた「カリン」という人物像。
それは、ドクターから聞かされていたものなのだろう。
そして今、目の前にいるカリンは、その言葉の通り――。
アメリがずっと信じていた、温かくて優しい「お姉ちゃん」だった。
アッシュが静かに口を開いた。
「つまりさ。」
「俺が言いたいのは、悪いのはカリンちゃんでも、ミオちゃんでも、アメリちゃんでもないってこと。」
「何かを企んでる大人たちでしょ。」
アッシュは、いつもの軽い調子を少しだけ落とした。
「カリンちゃんはさ。」
「あのウィンダムって聖騎士……あー、ナデラだっけ?」
「アイツに言われたこと、気にしてるんだと思う。」
「でも、それってさ。」
「世界が勝手にやってることで、カリンちゃんは何も悪くないよ。」
少し間を置いて、アッシュは続けた。
「もっと言うと……。」
「千年前の人たちが始めたことでしょ。」
カリンは、ゆっくりと顔を上げた。
軽い口調で話しているはずなのに、不思議とその言葉が胸に残った。
張りつめていたものが、ほんの少しだけほどけていく。
ミオも静かに頷いた。
「……そうですね。」
「全ては、千年前に人間とエリシオンの間で起きた出来事から始まったのだと思います。」
そして、カリンの腕の中にいるアメリへ視線を向ける。
ミオ「アメリが作られたことも……。」
「きっと、エリシオンのクレイドを巡る大人たちの思惑が、そこにはあるのでしょう。」
ミオは、アメリをまっすぐ見つめた。
「ですが……アメリは、アメリです。」
少しだけ目を伏せる。
「貨物室では……その……。」
「怖い思いをさせて、ごめんなさい。」
そして、ゆっくりと微笑んだ。
「あなたがいたおかげで、私の友達は守られました。」
「ありがとう。アメリ。」
アメリの水色の瞳が揺れる。
「ミオちゃん……。」
アメリは、カリンの腕の中からそっと抜け出すと、ミオのもとへと歩み寄った。
そして、もじもじと指先を絡めながら、上目遣いで尋ねる。
「ミオちゃん……。」
「アメリも……友達になりたい。」
「えっ……。」
ミオの顔が、ぱっと赤くなる。
驚いたように目を瞬かせ、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「……ええ。」
小さな声で答えると、ミオはほんの少しだけ微笑んだ。
アッシュは二人を見比べ、にやにやと笑う。
「おやおや〜。」
「ミオちゃん、またいい友達ができたねぇ。」
「それにしても……二人並ぶと、ほんっと可愛いなぁ。」
カリンは、小さな二人を見つめながら、胸の奥がぐっと熱くなった。
すると、アッシュがふっと笑い、カリンの肩に手を置く。
アッシュ「カリンちゃんのお陰だよ。」
カリン「……え?」
アッシュは、二人を眺めながら続けた。
「ここにいるみんなが出会えたのは、カリンちゃんがいたから。」
カリンは、ゆっくりとミオとアメリを見る。
ミオが微笑み、アメリも嬉しそうに笑っていた。
「……私が……」
カリンは、微かに目を見開いた。
「そーだよ。」
アッシュは、いつものように笑っている。
カリンは少しだけ目を伏せ、呆れたように小さく息を吐いた。
そして、アッシュを見上げる。
カリン「……ありがとう、アッシュ。」
アッシュは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「どーいたしまして。」
そのとき、二羽のシルフィがカリンの肩の上で小さく鳴いた。
「ピィ。」 「ピィ。」
カリンは二羽を見て、ふっと微笑む。
焚き火の音だけが、静かな夜の湖畔に響いていた。
やがて、ミオが静かに口を開いた。
「……アッシュさん。」
「アナタに、聞きたいことがあります。」
「おっ。」
アッシュは顔を上げる。
「きたきた!」
いつもの調子で、嬉しそうに笑った。
「可愛い子ちゃんからの質問、大歓迎〜。」
そして、ミオを見ながら付け加える。
「あ、綺麗なお姉さんからの質問は、もっと大歓迎〜。」
ミオは小さく息を吐き、話を続けた。
「アッシュさんが家出をされた2年前。カイエン国にて、レイノルド・フェナード様と思われる人物が目撃されています。」
「レイノルドっ……!?」
アメリが思わず声を上げる。 しかし、すぐに両手で口を塞いだ。
ミオは構わず続けた。
「それに、聖獣から聖痕を得るには、エリシオンのクレイドが必要となります。」
アッシュは苦笑した。
「え。」 「マジ? そうだったの?」
カリンが驚いたようにミオを見る。
「ミオ。エリシオンのクレイドって……教会から消えた機密クレイドよね……?」
ミオは静かに頷いた。
「はい。レイノルド様と共に失われたとされる、メイデス様が封印されているクレイドです。」
そして、アッシュを見つめる。
「アッシュさん。」
「何か、ご存じなのではないですか?」
「まいったな〜。」
アッシュは困ったように笑い、頭をかいた。
しばらく黙ったあと――。
「……そうだよ。」
アッシュの表情から、いつもの軽さが消える。
「2年前、レイノルドのおっさんが……フェンリルを盗みに来たんだよ。」
カリンは、目を大きく見開いた。




