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21夜明け

ウィンダムの剣先は、カリンの喉元へ迫ったまま止まっていた。



静寂が流れる。



ウィンダムは無言で、気を失った少女を見つめていた。



『それなら私は、今度こそミオと対等な友達になれる。』


『今度は私が、ミオをその呪縛から連れ出すわ。』



先ほどのカリンの言葉が、不意に脳裏をよぎる。



ウィンダム「……。」



(……何を迷っている。こいつは莫大なクレイドを生み出す、エリシオンとなり得る器だ。)


(……アルバ教帝は恐らく、もう殺されている。)


(アルファリア教会はオーメン卿率いる枢機卿の手に落ち、新貴族と結託するだろう)


(エリシオンの力が新貴族の手に渡れば、ルクセリア政府は誰にも覆せない支配者になる。)


(やらなくては。エリシオンの力を巡って苦しめられてきた人々のためにも。)



ウィンダムは握った剣に力を込める。

迷いを振り払うように、剣先をカリンの喉元へ突き出した。



その瞬間――。



「ピィィーッ!!」

青い小鳥――シルフィが勢いよく飛び込み、小さな翼でウィンダムの顔へ襲いかかった。



ウィンダム 「ちっ!」

反射的に顔を背けた、その刹那。



ズンッ!!

鋭い衝撃が脇腹を貫いた。



「ぐっ……!」

思わず数歩よろめき、ウィンダムは視線を落とす。



拘束の外へ伸びたまま残っていたベレット。

その柄を、小さな両手で必死に握り締めるアメリの姿があった。



ベレットから放たれた赤いクレイドが、真っ直ぐウィンダムを撃ち抜いていた。



ベレットを支えるだけでも精一杯。

それでも涙をいっぱい浮かべながら叫ぶ。



アメリ「お、お姉ちゃんに……ひどいことしないでぇっ!」



声は震え、今にも泣き出しそうだった。

それでもベレットだけは離さない。



再び赤いクレイドが炸裂する。

ドンッ!!



連続して放たれた衝撃がウィンダムの身体を打ち据え、カリンの髪を掴んでいた手が離れる。



「ぐあぁっ!」

ウィンダムは大きく後方へ吹き飛ばされた。



アメリはベレットを握り締めたまま、泣きそうな声で何度も叫ぶ。

「お姉ちゃん!起きてよぉ!」



シルフィも必死に鳴き続ける。

「ピィー! ピィー!」



吹き飛ばされたウィンダムは身体を起こし、目を見開いた。

「……なんだと?」



その視線はベレットを握るアメリへ向けられる。

(あの子ども……。まさか、本当にクローンだというのか……!?)

(見た目だけじゃない。クレイドまでカリン様と同じ……。だからベレットが反応したのか。)




アメリが無我夢中でクレイドを流し込むたび、ベレットから溢れた赤い光が暴れ狂う。

地面を抉り、木々を裂き、周囲を無差別に切り刻んでいく。

その刃は、カリンを拘束していた銅線にも次々と食い込んでいった。



ウィンダムは静かに立ち上がる。

「……だが、制御はできないようだな。」

剣を構え、一歩踏み出す。



シルフィは慌ててアメリへ飛び寄った。

「ピィ! ピィ!」



アメリ「えっ?」

振り返った、その瞬間――。



ブツンッ!!

銅線が完全に断ち切られた。



支えを失ったカリンの身体が、そのまま地面へ崩れ落ちる。



ドサッ。



アメリ「お姉ちゃん!!」



アメリは慌ててカリンのもとへ駆け寄り、その場に膝をつく。

小さな肩を何度も揺さぶりながら、泣きそうな声で呼びかけた。



アメリ

「お姉ちゃん……! 起きてよぉ……!」

「お願いだからぁ……!」



しかし、カリンは目を覚まさない。



アメリは迫ってくるウィンダムと倒れたカリンを何度も見比べ、小さな身体を震わせる。



アメリ「ど、どうしよう……。」



恐怖と焦りでクレイドはさらに暴走した。

ベレットから溢れる赤い刃が周囲一帯を無差別に薙ぎ払い、ウィンダムでさえ容易には近づけない。



「くっ……。」

ウィンダムは顔をしかめる。

「このクレイド量……。質だけじゃない。総量までカリン様に匹敵するのか……。」



アメリは涙を浮かべながらカリンの手を取り、ベレットを握らせた。



アメリ

「お姉ちゃん……お願い……。」

「起きてぇ……。」

「アメリじゃ……こんなの使えないよぉ……!」



その瞬間だった。

ベレットを介して、アメリのクレイドがカリンの身体へと流れ込んでいく。



ウィンダムは静かに剣を構えた。

「……制御できない以上、長引かせる方が危険か。」


「ここで終わらせる。二人まとめて殺す。」



二人の足元に魔法陣が浮かび上がる。



シルフィが必死に叫んだ。

「ピィー! ピィー!」



しかしアメリには、その意味が分からない。

「な……なに? これ……?」



次の瞬間。

ゴゴゴゴ……。



頭上に巨大な鉄塊が精製される。

アメリはゆっくりと見上げ、顔を青ざめさせた。



アメリ「……いや。」



轟ッ!!

巨大な重しが一直線に落下する。



その瞬間――。



ヒュンッ!!

アメリの身体が誰かに抱き寄せられ、一瞬でその場から消えた。



ドゴォォォン!!

重しが激突し、大地が大きく揺れる。

砂煙が一面を覆い尽くした。



ウィンダムは目を細める。

「……今、何が。」



やがて砂煙が晴れていく。



そこにはアメリを抱きかかえたまま片膝をつくカリンの姿があった。



「ピィーッ!」

シルフィが嬉しそうに飛び回る。



「お姉ちゃんっ!!」

アメリは泣きながら飛び付く。



カリンはまだ足元をふらつかせながらも、優しく微笑んだ。



カリン

「ありがとう、アメリ。」

「あなたの呼びかけも、流れてきたクレイドも……ちゃんと届いたわ。」



アメリは張り詰めていた糸が切れたように、その胸へ飛び込む。

「お姉ちゃぁん……。」



小さくしゃくり上げながら、ぎゅっとカリンへしがみついた。



ウィンダムは目を見開く。



「……動いただと!?」

(全身にあれだけの電流を浴びたのに……。)



カリンはベレットを受け取り、ふらつきながらも立ち上がる。

まだ足元は覚束ない。

それでもベレットを構え、真っ直ぐウィンダムへ向けた。



カリン「……痛かったわ。ウィンさん。」



一方のウィンダムも満身創痍だった。

カリンとの激闘で蓄積した傷。 アメリの反撃によるダメージ。 そして何より、ラミアナを執拗に追い続けた戦いで、体内のクレイドも精製魔法に使える材料もほとんど使い果たしていた。

残された力は、もう多くない。



それでも剣だけは静かに構えた。



ウィンダム

「助かったと思ったか?晩餐会で……あの時、俺に殺されていれば。アルバ教帝は死なずに済んだだろうにな……。」



カリンの瞳が大きく見開かれる。

「……なんですって?お祖父様が!?」

「どういうことよ!!」



隣ではアメリが不安そうにカリンを見上げていた。



ウィンダムの肩が小さく震える。

剣を握る手にも、力がこもっていく。



ウィンダム「あの時、アンタがあのまま死んでいれば、イグニス公は計画を続行できなかった。」



そして苦しげに歯を食いしばる。



ウィンダム

「国王陛下まで……巻き込まれた。」

「……なのに。」

「アンタが生き残ったら、俺は何のために……!」



ウィンダムの叫びと同時に、剣が激しいクレイドを纏う。



ブワッ――。



カリンたちの足元へ、先ほどよりもさらに巨大な魔法陣が広がった。



シルフィが危険を察し、慌てて叫ぶ。

「ピィーッ! ピィーッ!」



アメリは恐怖に震え、カリンへ強く抱きついた。

「あぁっ……。」




カリンは優しく声を掛ける。

「アメリ。ベレットにクレイドを込めて。」



「う、うん……!」

アメリは震える両手でベレットの片側を握った。

「こ、怖いけど……お姉ちゃんを守る……!」



魔法陣が眩く輝いた、その瞬間――



カリンはアメリを抱きかかえ、全身へ赤いクレイドを纏って大きく跳び上がった。



ドゴォォォォンッ!!



直後、巨大な黒い重しが大地へ叩きつけられ、地面が激しく揺れる。



間一髪。



二人は落下よりも先に回避していた。



アメリから流れ込む赤いクレイドがベレットを伝い、次々とカリンへ注ぎ込まれる。



二人を包む赤い輝きは、先ほどまでとは比べものにならないほど濃く燃え上がっていた。



カリンは目を細める。

「あの重し……黒いわ……。」


「鉄塊じゃない……?」



その直後だった。



黒い重しから、無数の銅線が蛇のように飛び出した。



カリン「同じ手は食らわない!」



ベレットの片端へ巨大な赤い刃が形成される。



カリンは身体ごと回転し、襲い掛かる銅線を次々と斬り裂いた。



ギギギギィンッ!!



切断された銅線が宙を舞う。



ウィンダムは静かに目を細めた。


「なんて大きな赤いクレイドだ……。」


「あの子どものクレイドを、そのまま自分の力へ還元しているのか。」


「……だが。」



ウィンダムが片手を掲げる。

空中へ精製された鉄球が、一斉にカリンへ放たれた。


銅線へ意識を向けていたカリンは反応が遅れる。


次の瞬間。


ゴォンッ!!



飛来した鉄球がカリンへ直撃し、そのまま背後の黒い重しへ叩きつけられた。



カリン「あぐっ……!」



それでも、とっさにアメリだけは胸へ抱き寄せる。


アメリ「きゃあっ!」



「ピィッ!」

シルフィが悲鳴を上げた。



カリン

(この重し……。)


(磁石……!)



考える暇はない。

次々と鉄球が射出される。

磁石へ吸い寄せられ、凄まじい速度で飛来する鉄球。


ドゴンッ!


ガンッ!


バキィンッ!!



アメリ「あぁぁっ!」



恐怖に震えるアメリから、さらに大量のクレイドがベレットへ流れ込む。


その瞬間。

ベレットが赤い光を激しく脈動させた。



カリン「えっ……?」



許容量を超えたクレイドが爆発するように解き放たれる。

カリンはその勢いのままベレットを振り抜いた。



バゴォォォンッ!!



飛来する鉄球をまとめて薙ぎ払う。



ウィンダムが目を見開く。

「なっ……!」

「磁力ごと……弾き飛ばしただと!?」



弾き返された鉄球は逆方向へ飛び散り、ウィンダムの周囲へ降り注ぐ。



カリンはその隙に磁石から飛び退いた。



しかし。

再び銅線が幾重にも伸び、追いすがってくる。



カリン

(この子のクレイド量……。)


(恐怖でここまで増幅されるなんて……。)



カリンはアメリを抱えたまま、一気にウィンダムとの距離を詰める。



ウィンダム「子どもを抱えている分、動きが鈍いようだな。」



ウィンダムが不敵に笑う。

近付いてくるカリンの行く手へ次々と大きな磁石を落下させる。



さらに地面へ散らばった鉄球が、新たに落下した磁石へ向かって一斉に吸い寄せられる。

磁石と磁石の間を、高速で鉄球が飛び交い始めた。



銅線、磁石、鉄球。



立ち止まれば拘束される。

前へ進めば鉄球が襲う。

完全な包囲だった。



カリンは足を止めた。

そっとアメリを地面へ降ろす。



カリン「アメリ。」「一緒に。」



アメリ「うん……!」



アメリはベレットの片側を両手でしっかりと握る。

カリンはその後ろへ回り込み、アメリの小さな手を包み込むように、自分の両手を重ねた。



カリン「大丈夫。一緒ならできる。」


アメリ「……うん!」



次の瞬間、大量の赤いクレイドが二人の手からベレットへ流れ込み、鎖の全身を駆け巡る。



カリンは腰を深く落とし、鎖を限界まで伸ばす。

二人は同時に地面を蹴った。



カリン「はああああぁぁっ!!」


アメリ「えぇぇいっ!!」



ベレットを軸に、二人の身体が一体となって猛烈な勢いで回転する。

轟音とともに、赤い旋風が巻き起こった。



ベレットへ絡みついた銅線。

飛来する鉄球。

周囲の磁石。

すべてが渦へ呑み込まれていく。



磁石同士が激しく衝突し、砕け散る。

鉄球がぶつかり合い、火花を散らす。

絡み合った銅線へ無数の電流が走り、赤い竜巻の中を雷光が駆け抜けた。



「ピィィィーッ!!」

シルフィは目を回す。



ウィンダムは息を呑んだ。


「なんだ……これは……。」


「もう材料もないというのに……!」



赤い竜巻はさらに巨大化する。

そして。

カリンがベレットを大きく振り抜いた。



「行けぇぇぇっ!!」



轟ッ!!



雷を纏った赤い竜巻が、そのままウィンダムへ襲い掛かった。



ウィンダム「ぐぁぁぁぁぁっ!!」



白銀の聖騎士甲冑が次々と砕け散る。

磁石も鉄球も銅線も。

すべてが逆流するようにウィンダム自身へ叩き返された。



「俺の……精製魔法を……!」


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」




やがて竜巻は夜空高く吹き抜け、静かに消えていく。



ズドォン――。



ウィンダムは力なく地面へ叩きつけられた。



一方、カリンもその場へ膝をつく。

「はぁ……はぁ……。」



「えへへ……。」

アメリはぺたんと座り込み、大きく肩で息をする。

「あれ……力が……。」



カリンは苦しげに息を整えながら微笑む。

「クレイドを使い過ぎたのね……。」

「ごめんなさい、アメリ。」



アメリは再びカリンへ寄り添おうとする。



しかし、カリンは静かに首を振った。



カリン「アメリ。少しだけ、ここで待っていて。」



そう言ってベレットを握り直し、ふらつく身体で立ち上がった。



ゆっくりと、仰向けに倒れたウィンダムへ歩み寄る。


ベレットへクレイドを流し込み、

禍々しい赤い刃をウィンダムの顔のすぐ横へ突き立てた。



ズガッ――。



カリン

「イグニス公の計画って何!?」


「お祖父様が死ぬって……どういうことなの!!」



怒りと困惑、そして恐怖。

様々な感情が入り混じり、カリンの表情は大きく歪んでいた。



ウィンダムは薄く目を開き、小さく息を吐く。

「……知る必要はない。」



「まだそんなことを……!」

カリンは思わず胸ぐらを掴み上げた。



「答えなさい!ここまでのことをしておいて、何も話さないなんて、あんまりだわ!」


「あなたの目的は、私を排除することだったんでしょう!? それが失敗したのなら、もう何も隠さず話して!」


「あなたが私をどう思っていようと、お祖父様も、私に関わってくれた人たちも……私にとっては、かけがえのない大切な人なの!」



ウィンダムはその叫びを黙って受け止め、やがて静かに口を開いた。



ウィンダム

「……イグニス公とオーメン卿は、アルバ教帝を排除し、教会を政府へ統合させるつもりだ。」


「そしてアンタを――エリシオンとして復活させる。」



カリンの瞳が大きく揺れる。



ウィンダム

「最終目的はアンタだ。」


「だが、そのためには計画を阻止しようとするアルバ教帝が、何より邪魔だった。」


「今頃……もう。」



カリン「……っ!」


絶望が胸を締めつける。

カリンはさらに胸ぐらを掴む手へ力を込めた。



カリン「そんな……!」


「あなたは、それを知っていてイグニス公に協力していたっていうの!?」



涙が堪えきれず頬を伝う。



ウィンダムは静かに首を振った。


「俺の目的は、あくまでアンタの排除だ。」

「アルバ教帝を殺すことじゃない。」


「アンタが晩餐会で死んでいれば、イグニス公の目的もそこで終わっていた。」

「教帝は殺されずに済んだはずだ。」



カリン「そんな……。」



カリンの涙がぽたぽたと零れ落ち、ウィンダムの胸元を濡らしていく。



しばらく黙って見つめていたウィンダムは、静かに問いかけた。



ウィンダム「カリン様。」

「アンタ、自分だけが苦しめられたと思っているのか。」



その言葉に、カリンは息を呑む。



ウィンダム

「ルクセリアの歴史は、新貴族と教会上層部だけが知る"エリシオン"の存在を巡って積み重ねられてきた争いの歴史だ。」


「アルファリア教会は、自らの象徴であるメイデスの力を政府へ渡さないため、世界中からクレイド量の多い者を探し出し、聖騎士にした。」


「孤児の中からも適性のある者を選び、カレドとして育て上げた。」


「一方、ルクセリア政府もまた、エリシオンを手に入れるため、クレイド量の多い者を探し続け、軍へ取り込み続けた。」


「どちらも目的は同じだった。」


「誰よりも先にメイデスを手に入れること。」


「その争いに巻き込まれ、人生を狂わされた人間が世界中にいる。」




カリンは何も言えなかった。

ただ瞳だけが激しく揺れている。



ウィンダムは冷たい眼差しのまま続けた。


「分かったか。アンタの存在そのものが、争いの火種なんだ。」


「アルバ教帝だって、その争いの被害者だ。」


「アンタさえ死ねば、新貴族の野望は終わる。」


「クレイドが枯渇すれば、ルクセリア政府の支配も弱まる。」


「そして世界中の人々は団結し、新たな秩序を築ける。」


「その未来へ人々を導くために――我々ナデラは存在している。」




その言葉を聞いた瞬間。

自分はいつか、みんなを幸せにする教帝になれる。

その未来だけを信じて歩んできた。

なのに。

自分の存在そのものが、争いの火種だったかもしれない。

その現実を、容赦なく突きつけられた。



カリンの中で、すべてが根底から揺らいでいく。



アルファリア教会。ルクセリア政府。

正義と悪。

次期教帝として信じ続けてきた人生。

そして、女神メイデスへの信仰。



信じ続けてきた世界が音を立てて崩れ始めた。



脳裏へ浮かぶのは、

アルバ。父レイノルド。ルノー。

そして、命を懸けて自分を守り続けたミオ。



(私の大切な人たちも……。)


(みんな……メイデスを巡る争いの被害者だったの……?)



カリンの手から力が抜けた。

ウィンダムの胸ぐらを掴んでいた指が、小さく震える。



その時だった。

東の空がゆっくりと明るくなり始める。

長かった夜が終わりを告げ、朝日が大地を淡く照らし始めた。



近くで様子を見守っていたアメリが、心配そうに立ち上がる。

「お、お姉ちゃん……。」



その肩に乗っていたシルフィが、ふいに横を向いた。

「ピィ?」



ザッ……。

ザッ、ザッ……。



重々しい足音が静かな平野に響く。



アメリの身体へ、大きな影が覆いかぶさった。

「ひぃっ!?」

振り返ったアメリは思わず悲鳴を上げる。



そこにいたのは、一頭の巨大な狼だった。

銀色の毛並みを朝日に輝かせながら、悠然とカリンとウィンダムのもとへ歩いてくる。



そして、巨大な狼はニヤリと笑った。



「いやぁ~、さすがに言い過ぎでしょ。」

「信仰だの、争いだの、秩序だのさぁ。」

「全部、人間が勝手に作った基準に縛られて揉めてるだけでしょ?」



その軽薄とも取れる口調に、カリンもウィンダムも息を呑んだ。



カリン「……!」


(お……狼!?しかも……喋ってる!?)


(でも、この声……この話し方……どこかで……。)



ウィンダムの顔から血の気が引く。

「ま……まさか……。アンタは……!」



巨大な狼は不敵に牙を覗かせた。

ウィンダムは震える声で叫ぶ。

「聖獣――フェンリル!!」



「えっ……。」

カリンは呆然と狼を見上げる。

「古の……聖獣……?」



その時だった。

狼の頭の上に、一羽の青い小鳥がちょこんと止まっていることに気づく。



「えっ……。」

カリンは目を丸くした。

「シルフィ……!?」



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