15イグニス公晩餐会3
「ピィ……」
シルフィは怯えるように鳴き、カリンの髪へ隠れた。
カリン「大丈夫よ、シルフィ。」
そう言いながら、カリンは前を向いた。
アルバはヴォルトの仮面たちを鋭く睨みつけた。
アルバ 「待てい、カレドの者。お主ら、誰の命令でこのような暴挙に出た。」
「今ここで指示を出した者の名を答えよ。」
その言葉が広間に響いた瞬間だった。
シエナとウィンダムは、ほんの一瞬だけ視線を交わす。
互いに小さく頷く。
ウィンダムは静かに剣を構える。
刀身に淡い光が宿る。
次の瞬間――
カレドたちの袖口に、小さな魔法陣が一斉に浮かび上がる。
カレド「はっ――!?」
カレド「これは……!」
魔法陣から銀色の針金が勢いよく伸びた。
それは瞬時に形を変え、まるで意思を持つかのように短杖へ絡みついていく。
カレド「ひえぇーっ!!」
カレド「なんなんだこれは!?」
ガキンッ!!
引き寄せられた針金は短杖を強引に絡め取り、カレドたちの手元から弾き飛ばした。
カレド「しまっ――!」
さらに同時だった。
床一面に幾つもの魔法陣が浮かび上がる。
ゴォォッ――!!
細い渦潮が無数に噴き上がり、宙を舞う短杖を飲み込んでいく。
渦潮は方向を変え、その全てをシエナの元へ運んだ。
巻き髪をふわりと揺らしながら、集められた短杖を見下ろし、妖艶な笑みを浮かべる。
シエナ「聖騎士を甘く見ないことね。」
カリンは息を呑む。
(なんて速さ……。目を合わせただけで、もう次に何をするか分かってる。言葉なんていらない。あの二人は、それだけ長く一緒に戦ってきたんだ。)
リリアン(まったく……いつもはあんなに自由奔放なのに。こういう時の判断力と魔法の腕は、本当に頼りになるわね。)
ウィンダムはすぐさま国王の元へ駆け寄った。
ウィンダム「国王陛下!王妃殿下!ご無事ですか!」
国王は肩で息をしながらも、ゆっくり頷く。
国王「ありがとう、ウィンダム君。しかし……これは一体何が起きているのだ……。」
王妃も不安げな表情を浮かべながら、無事を確認する。
ドレスの中で身を縮めるアメリは、外の空気が急に変わったことだけは感じ取っていた。
アメリ(大きな音がする…。)
(それにお姉ちゃん……大丈夫かな……。)
不安に震えるアメリを落ち着かせるように、カリンはドレスの上からそっと手を添え、優しく撫でた。
その一方で――。
アルバだけは、周囲を警戒したまま視線を逸らさなかった。
アルバ「お主らの武器は奪った。さあ、答えよ!貴様らを動かした者は誰じゃ!」
その瞬間だった。
ザシュッ!!
カレドたちが袖へ手を滑らせる。
袖口から細身の隠し刃が、一斉に飛び出した。
アルバの瞳が大きく見開かれる。
「なにっ……!?」
そして再び、
要人たちの首筋へ刃を突き付ける。
「きゃああっ!」
「なっ……!?」
「いやぁっ!!」
「ま、待て!我々は何もしていないぞ!」
「こんな真似が許されると思っているのか!」
「嘘だろ……教会の部隊が……こんなことを……。」
一度は安堵した会場に、再び恐怖が走る。
さらに一人のヴォルトが、国王の近くにいたウィンダムへ斬り掛かった。
イグニス公 (よし……今だ。)
ウィンダム「くっ……!」
ガキィン!!
ウィンダムは剣で刃を受け止める。
そのまま魔法を発動しようとした。
しかし――
ウィンダム 「なっ……!」
「発動しない……!」
シエナも驚いた表情でレイピアを見る。
シエナ 「えっ……!」
「魔法が使えないわ!」
アルバの表情が凍り付く。
アルバ 「……なんじゃと!!?」
カリン 「そんな……!一体どういうことなの!?」
その瞬間――
ドゴォォンッ!!
晩餐会場の巨大な扉が勢いよく吹き飛んだ。
重装備の兵士たちが雪崩れ込む。
ルクセリア兵 「ルクセリア軍だ!!」
「アルファリア教会の者を全員拘束する!直ちに武器を捨てよ!!」
カリンは目を見開く。
カリン 「!?」
ウィンダム 「!!」
シエナ 「えっ……ルクセリア軍!?」
「どうして!!それに他の聖騎士たちは!?」
ルクセリア兵「魔法媒体への干渉は完了した!クレイドを流しても、もう魔法は発動しない!」
リリアンはハッとする。
リリアン「最初からこれが狙い……。聖騎士を宮殿内へ集め、一度に魔法を封じるためだったのね……!」
シエナ「まさか!?」
アルバはゆっくりとイグニス公へ視線を向けた。
全てを悟ったように。
アルバ 「……そうか。」
「ここまでがお主の計画か。」
イグニス公はアルバだけに分かるほど僅かに口元を緩めた。
一方、人質を取っていたカレドたちは顔を見合わせる。
カレド 「……は?」
カレド 「なんだよ、それ……。」
カレド 「話が違うじゃねぇか……。」
彼らの声には明らかな動揺が滲んでいた。
ルクセリア軍は一斉にカレドを捕らえる。
アルバの瞳がゆっくりと細められる。
(……そういうことか。ここにいるカレド部隊は、オーメン卿にとって切り捨てるための駒。)
(イグニス公は、この場を利用して教会の真相を世界へ暴き、教会を"世界の敵"へと仕立て上げるつもりなのじゃ。)
(カレド部隊の暴挙も、メイデス様の真実も、その全てが教会を悪と断じるための材料……。)
(『教会はメイデス様という莫大なクレイドを隠し続けた』――そう世界に知らしめるために。)
(その上で、カレド部隊による要人襲撃を教会の総意として見せつける。そうなれば教会は世界の敵となり、ワシらを拘束する理由まで完成する……。)
(そして、正義の名の下に我々を裁くというわけか……。)
アルバはわずかに奥歯を噛み締めた。
その瞳には怒りとも悔しさともつかぬ色が宿る。
(オーメン卿の狙いは教帝の座……。)
(いや、それだけではあるまい。あやつはアルファリア教会そのものを、この世から消し去るつもりなのかもしれぬ……。)
そして――。
秘書のリリアン、聖騎士シエナ、ウィンダムも次々とルクセリア兵に取り押さえられた。
床へうつ伏せに押し倒され、背中で両腕を強く押さえつけられる。
そのまま後ろ手を手際よく拘束され、わずかな抵抗すら許されなかった。
リリアン「やめなさい!このような暴挙が許されると思っているのですか!」
シエナ「くっ……教会は何もしてないわ!」
ウィンダム「やめろ……!」
次に、ルクセリア兵たちはカリンへと歩み寄る。
リリアン「やめなさい!ルクセリア兵!カリン様に触れることは許しません!」
その瞬間だった。
ドレスの内側で怯え切っていたアメリの身体から、赤いクレイドがかすかに漏れ出した。
「ピィ……?」
シルフィが、何かを感じ取ったように、カリンのドレスへ視線を向けた。
アメリのクレイドに呼応するように、カリンの太ももへ固定されていたベレットが低い音を立てる。
――ブゥン……
ベレットが淡く赤く輝き始めた。
カリン「……え?」
次の瞬間。
カチッ――。
固定具がひとりでに外れる。
カリン「なっ!?」
ベレットは赤い光を放ちながら勢いよく跳ね上がった。
同時にドレスの裾が大きくめくれ上がる。
「きゃっ!」
小さな身体が勢いよく床へ転がり出た。
ベレットは少女の傍らへ音を立てて落ちる。
アメリ「あ……。あ……あ……。」
涙で潤んだ瞳が大きく揺れる。
突然、大勢の視線を浴びた恐怖で息が詰まり、身体は小刻みに震え始めた。
広間が静まり返る。
誰もが少女から目を離せない。
吸い込まれそうな水色の瞳。
その幼い顔立ちは――。
「カリン様……?」
「いや……。」
「同じ顔……?」
「そんな馬鹿な……。」
会場がざわつく。
アルバは目を見開いたまま、少女を凝視する。
アルバ「カリン……!?」
(この子は……一体……。)
リリアン「……えっ。」
シエナ「うそ……。」
ウィンダム「何なんだ……あの子は……。」
イグニス公 (……ちっ。例の魔法使いの子どもか……!)
ハインケル (まさか……カリン様は密かに魔法使いを連れてきていたのか……?)
(ドレスに忍ばせて……。)
(ん……いや、違う。)
ハインケルは目を凝らす。
(あの顔……。あの瞳……。)
イグニス公もまた、少女の姿を見つめる。
(違う……。)
(これは魔法使いの子どもなどではない。)
(この顔は……まさか……!!)
イグニス公とハインケルの反応は、明らかに異常だった。 初めて見るはずのアメリを前に、二人はまるで何かを知っている者のような表情を浮かべていた。
カリンの疑問はさらに深まる。
自分がメイデスだと言われた衝撃も、まだ整理できていない。 世界の真実も、アメリの存在も、何一つ理解できないまま、新たな疑問だけが積み重なっていく。
正直、もう頭がいっぱいだった。
それでも、考える暇など与えてはくれない。
イグニス公「とらえろ!殺せ!コイツは!」
その怒号と同時に、ハインケルが剣を抜き放つ。
涙で視界を滲ませたアメリへ向かって、一気に踏み込んだ。
「ひっ……!」
アメリは恐怖で身をすくませる。
次の瞬間――。
ガキィィンッ!!
鋭い金属音が広間に響き渡った。
ハインケル「……!」
アメリへ振り下ろされた剣は、寸前で止められていた。
その剣を受け止めていたのは、カリンだった。
ベレットを握ると同時に、柄から赤いクレイドが噴き上がる。 凝縮されたクレイドは鋭い剣身を形成し、ハインケルの剣を真正面から受け止めていた。
ギギギギギ……。 刃が軋み、激しく擦れ合うたび、無数の火花が広間へ散った。
ハインケル「なぜ、その子どもを庇うのですか!」
イグニス公「そやつは貴方に害をなす存在ですぞ!何故守る!」
カリンは二人を真っ直ぐ睨み返した。
カリン「子どもに平然と剣を向ける貴方たちの方が、どうかしているわ。」
全身から溢れ出した赤いクレイドが一層濃さを増していく。
「はあっ!!」
カリンがベレットを大きく振り抜く。
ズゴォォンッ!!
ハインケルの身体は衝撃とともに大きく吹き飛び、床を滑るように転がった。
広間が静まり返る。
要人たちも、ジェニス国王夫妻も、ルクセリア兵も、カレド部隊も。
誰もがカリンから目を離せなかった。
つい先ほどまで優雅に晩餐会へ臨んでいた少女とは思えない。
カリンはすぐにアメリのもとへ駆け寄った。
小さな身体は恐怖で震え続けている。
アメリ「うぅ…お姉……ちゃん…」
「怖いよぉ…うぅ…アメリ…消されちゃう…。」
アメリの声はか細く、途切れ途切れだった。
震えのとまらないアメリを、
カリンはそっと寄り添い抱き寄せる。
カリン「大丈夫よ。私が絶対そんな事はさせないわ。」
震える小さな手を、包み込むようにぎゅっと握る。
アメリは堪えていたものが一気に溢れた。
アメリ「うぇぇぇん……お姉ちゃん……。」
イグニス公(こんな……こんな事態は想定していない。)
(それに、この小娘……。自分がメイデス様だと暴かれたというのに、何故取り乱さない。)
(カレド部隊の裏切り。ルクセリア軍の襲撃。仲間は拘束され、会場は混乱の渦中……。)
(何故、そんな目ができる……。)
カリンは震えるアメリを胸へ抱き寄せたまま、イグニス公を真っ直ぐ見据える。
その瞳には怒りが宿っていた。
カリン「……なんて酷いことを。」
静まり返った広間に、その声だけが響く。
カリン「貴方は領主様でしょう。ジェニス国王陛下をはじめ、ご自身の領内の王侯貴族や要人たちを危険に晒し、私の仲間を拘束し……。」
カリンは腕の中で震えるアメリを、さらに優しく抱き締めた。
カリン「幼いこの子まで、こんな恐ろしい目に遭わせた。」
赤いクレイドが全身から静かに立ち昇る。
カリン「そこまでして欲しいものが、私のクレイドなのですか。」
イグニス公は鼻で笑う。
「何のことですかな。我々を襲ったのは、貴方がたアルファリア教会でしょう。」
カリンは一歩前へ踏み出した。
カリン「……いいわ。こんなことのために、これ以上誰かが傷つくくらいなら。——私が、自分の意思で貴方のもとへ行ってあげるわよ。」
吹き飛ばされていたハインケルが身体を起こす。
ハインケル「いててて……生意気な小娘め。」
イグニス公の表情が険しく歪んだ。
「……何だと。」
カリンは怯むことなく言い放つ。
カリン「その代わり。ここにいる全員へ謝りなさい。」
「そして、この子にも。貴方たちが傷つけた全ての人へ。」
その場の誰もが言葉を失った。
その時——
アルバ「カリン、やめなさい。」
その声は叱責ではなく、どこか悲しみを帯びていた。
アルバの視線が、ゆっくりとカリンへ向く。
その腕の中には、震えながらしがみつく幼い少女。
カリンと寸分違わぬ顔。吸い込まれるような水色の瞳。その姿は幼き頃のカリンそのもの。
アルバは目を見開いた。
(……あの子は。カリンの複製体……。まさか、本当に造り出した者がおるというのか……。)
アルバの背筋を冷たいものが走る。
(あの子は保護せねばならぬ。)
(……だが、カリンに危険を及ぼす存在である可能性も捨てきれぬ。)
(何者かによって造り出され、その者の命でカリンへ近づいた可能性もある……。)
ゆっくりと拳を握り締める。
(そしてイグニス公の目的は、ただ一つ。)
(メイデス様のクレイド……。)
("世界を救う"という大義名分を掲げ、カリンをクレイドの供給源として生かすつもりなのじゃろう……。)
アルバの表情が苦悶に歪んだ。
(そんな未来を……。ワシは、決して認めぬ。)
深く息を吐く。
胸の奥から、重い後悔が込み上げた。
(晩餐会など……断るべきだった。)
(オーメン卿に「イグニス公から出方を見られている」と告げられ、慎重になり過ぎた。)
(その判断が……この結果を招いた。)
アルバは静かに目を閉じる。
(あの時……。)
(カリンを、ミオと共に……どこにいるかも分からぬレイノルドの元へすぐに向かわせるべきだったのかもしれぬ……。)
そして――。
再び瞼を開いたその瞳には、迷いはなかった。
ゆっくりと服の内側へ手を差し入れる。
取り出したのは、隠し持っていた教帝の長杖だった。
カリンは息を呑む。
(あの杖……。)
教帝が普段から持ち歩くものではない。 幼い頃に一度か二度見たことがあるだけの、特別な長杖。
アルバがそれを取り出したということは――。
カリン「お祖父様……。何をなさるおつもりですか……?」
アルバは答えない。 ただ、静かに長杖を握り締める。
イグニス公はその姿を見つめ、わずかに口元を吊り上げた。
イグニス公
(ようやく、その決断に至りましたか……。多少の誤算はありましたが、結末は変わりません。)
(その一手こそ、私が最も待ち望んでいたものです。)
アルバ(……もはや、この術をかけるしかない。だが、この状況、ミオがおらねば成功する保証はない……。)
(ミオ……。無事にジェニスへ辿り着いておるのか……。)
***
一方、その頃。
アメリを捜し続けるミオは、宮殿中を駆け回っていた。
ダクトの隅々まで探し、部屋という部屋も一つ残らず確認する。
それでも――。
アメリは見つからない。
ミオの表情に焦りが浮かぶ。
ミオ「どこへ行ってしまったのですか……アメリ。」
小さく息を吐き、必死に思考を巡らせる。
「まだ誰にも見つかっていなければいいのですが……。」
「晩餐会は、もう始まっている頃ですね。」
ふと、一つの考えが頭をよぎる。
「まさか……会場へ忍び込んでいるなんてことは……。」
すぐに首を横へ振った。
「いえ……会場周辺の通路は聖騎士とルクセリア軍が厳重に警備しています。あの子が侵入できるとは思えません。」
「それなら宮殿の外……?」
「ですが、外にも大勢のルクセリア軍が――」
言葉が止まった。
何気なく窓の外へ目を向けたミオは、息を呑む。
「――っ!」
外で警備に当たっていたはずの大勢のルクセリア兵たちが全員、地面に倒れていた。
ミオ「まさか……。」
全身に悪寒が走る。
胸の鼓動が一気に速くなる。
「そんな……!」
ミオは動悸を押さえながら、一階の晩餐会場へ向かって全力で駆け出した。
そして、通路へたどり着いた瞬間――。
「……そんな。」
そこには、聖騎士たちが全員倒れていた。
しかし、先ほどまで同数ほど配置されていたルクセリア兵の姿だけが、一人もない。
その異様な光景を目にした瞬間、ミオは事態の深刻さを悟る。
ミオ「大丈夫ですか!」
倒れている聖騎士の一人へ駆け寄り、肩を支える。
聖騎士「がはっ……。子ども……?」
ミオ「私はアルファリア教会の者です。何があったのですか?」
聖騎士は荒い息を繰り返しながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
聖騎士「ルクセリア兵……じゃ、ない……。ここにいたのは……武装した、別の奴ら……。」
ミオ「!?」
ミオの表情が強張る。
ミオ「ルクセリア兵ではない者たちが宮殿へ侵入したというのですか!?」
聖騎士は小さく頷いた。
ミオ「では……外で倒れていたルクセリア兵たちは、一体……。」
聖騎士「分からない……。突然……外が紫色に光って……。その直後……外の兵士は……全員……。」
「がはっ……!」
再び激しく咳き込む。
ミオ「紫色……。」
その一言に、ミオの瞳が揺れた。
何か思い当たる節がある。
だが――。
ミオ「……いえ、今はそれどころではありません。」
ぶん、と首を横へ振る。
情報が頭の中で渦を巻く。
宮殿内にいたルクセリア兵は、偽物だった。
ならば、外で倒れていた兵士たちは、おそらく本物。
そして、外を包んだ紫色の光。
消えたアメリの行方。
嫌な予感だけが膨れ上がっていく。
額を冷たい汗が伝った。
そして、カリンの事が脳裏へ浮かびあがる。
ミオ「いや、今は何よりも…。」
次の瞬間、会場の入口へ向かって、全力で駆け出した。
ミオ「カリン様……!どうかご無事で!」
***
広間がざわめく。
「何だ……あの長杖は?」
「カレドのものとは違う……。」
アルバは静かに長杖を構えた。
アルバ「フェナード家のクレイドだけに反応する特別な長杖。一般の魔法媒体ではないためルクセリア軍の干渉も受けない。」
拘束されたリリアンが目を見開く。
リリアン「長杖を……お持ちだったのですか……!」
(アルバ様……。やはり、この晩餐会で何か起こることを覚悟していらしたのですね……。)
イグニス公は、その姿を見て静かに笑みを浮かべた。
イグニス公
(そうだ……。)
(やれ、アルバ。)
(その術を使うのだ。)
アルバはゆっくりと長杖へクレイドを流し込む。
その瞬間――。
「――いや、イグニス公。そうはさせないよ。」
広間に、静かな男の声が響いた。
アルバの目が見開かれる。
拘束されていたはずのウィンダムが、何事もなかったかのように立ち上がっていた。
拘束具を足元へ放り捨てる。
ウィンダム「アルバ様。それ以上動かないでください。」
アルバ「……ウィンダム?」
カチャリ――。
乾いた音が響く。
いつの間にか、一人のルクセリア兵がカリンへ銃口を向けていた。
カリンの瞳が揺れる。
その直後。
ルクセリア兵たちは一斉に帽子と制服を脱ぎ捨てる。
現れたのは、見知らぬ武装集団だった。
「撃て。」
ドンッ!!
ズドンッ!!
「ぐああっ!」
「がっ……!」
拘束されていたカレドたちが、次々と撃ち抜かれていく。
鮮血が広間を染めた。
「きゃああああっ!!」
「いやあああっ!!」
会場は、一瞬にして悲鳴に包まれた――。




