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新卒エンジニア、観察ノートを開く(上巻) 観察を、始める  作者: 音無 凪


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第3話「配属の朝、散らばる六人」

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、地名、企業名等はすべて架空のものです。実在のいかなる存在とも関係ありません。

 四月の最終週、金曜日の朝。


 今日のお昼休みの後に、配属先が発表されることになっていた。


 桜並木通りの桜は、もうほとんど散っていた。歩道の端には、薄茶色に変色した花びらが風で吹き寄せられ、小さな山を作っている。代わりに街路樹の若葉が、明るい黄緑色の影を地面に落とすようになっていた。


 研修の三週間は、先週の金曜で終わっていた。締めくくりは、テストの基礎。この一週間は配属前の週として、まとめの演習の仕上げと、各部署を回る短い見学や面談に充てられていた。


 テストの回で、いちばん顔つきが変わったのは、杉本さんだった。動かすことより、壊してみせることの方が、性に合っていたらしい。講師の人が用意した、わざと欠陥の入ったプログラムのバグを、誰よりも早く三つ見つけた。書かれていないことを読む人は、壊れ方を読むのも早いのかもしれない。


 丸山さんは、昨日の最終演習で、初めて誰の手も借りずに課題を最後まで通した。通った瞬間、声を出さずに両腕で小さくガッツポーズをして、それから周りを見て、ゆっくり腕を下ろした。見ていたのは、たぶん僕だけだった。


 午前中は、コンプライアンスとセキュリティの講義だった。重要な内容のはずなのに、正直、あまり集中できなかった。


 配属先のことが、頭にあった。


 ヨキエルの新卒の主な配属先は、五つあった。


 受託開発部のチームA、受託開発部のチームB、組込み開発部、それから製品開発部の自社サービス事業チームとパッケージ事業チーム。


 研修で各部のマネージャーを見てきた今、自分の中にはある程度の好みが、もうできていた。諏訪さんのチームAに行きたい。江口さんのチームBには、できれば行きたくない。組込みチームの大沢さんは明るくて感じはよかったけれど、丸山さんが言っていた機嫌の落差の話が、まだ少しだけ頭の隅に残っていた。牧野さんの自社サービス事業チームは、論外だ。


 ……希望は出せたけれど、決めるのは、会社だ。


 


 お昼休み、社員食堂の六人席で、皆が同じことを話していた。


「私、たぶん、チームBは厳しいなぁって思ってる」


 葉山さんが、味噌汁の器を持ち上げながら言った。


「分かるっす」


 丸山さんが深く頷いた。「俺も、なんか、江口さんのとこは、ちょっと辛そうだなぁって」


「研修の紹介も短かったしね。教えるのは現場の若い人に頼んでる、って自分で言ってたし」


 葉山さんの言い方は軽かったけれど、目は笑っていなかった。


「組込み、希望出したっす?」


 丸山さんが黒木に聞いた。


 黒木は小さく頷いた。


「俺は、そこ以外、考えてないから」


「迷いがないっすねぇ」


 丸山さんが感心したような声を出した。


「五年、機械のそばでやってきたから。それを仕事にしたいだけ」


 黒木の答えは短かった。けれどその短さがかえって、積み上げてきた時間の長さを感じさせた。


「俺は、希望は出してないっす。物流系の経験があるから、その関係の仕事に当たれば、ありがたいなぁって、それくらいっす」


 杉本さんはこう言った。


「私はサポートとかQAとか、そういう、文書を扱う仕事に近いところに希望を出しています」


 それから杉本さんは、こう付け足した。


「歴史の史料を四年間読んできたので、文書はたぶん、誰よりも読めます」


 冗談の口調だったけれど、たぶん半分は本気だった。


 アユシュさんは肩を軽くすくめた。


「I want組込みチーム, but I'll go anywhere with research opportunity」


 葉山さんは、自分の希望をはっきりとは言わなかった。「行きたいところより、行きたくないところの方が、はっきりしてる」と笑っただけだった。消去法、と言いながら、その消し方はちゃんと三週間の観察に基づいていた。


「桐谷くんは?」


 葉山さんがこちらを見た。


「諏訪さんのチームA、第一希望に書いた」


 言ってから少し恥ずかしくなった。誰でもそう書きそうな希望だと、自分でも思ったからだ。


「桐谷くんは、たぶん、行けるよ」


 葉山さんが、なぜかそう言った。


 


 お昼休みが終わって、研修室に戻った。


 時計が十三時半を指したとき、人事の沢田さんが、薄い封筒を六つ持って入ってきた。


「皆さん、お疲れさまでした。三週間の研修、よく頑張ってくださいました」


 沢田さんはいつもの低い声で、ゆっくりと言った。


「発表の前に、ひとつだけ、お話しさせてください」


 沢田さんは封筒の束を教卓の端にそろえて置いた。


「この三週間、皆さんが受けてきたものは、集合研修と呼ばれます。仕事の場を離れて、教室で学ぶ。研修の世界の言葉では、オフ・ザ・ジョブ・トレーニング。略して、Off-JTです」


 初めて聞く言葉だった。隣の席で丸山さんが、おふ、と小さく口の中で繰り返している。


「来週からは、その反対になります。オン・ザ・ジョブ・トレーニング、OJT。仕事をしながら、仕事の中で学ぶ。教科書はありません。代わりに、人がいます」


 人がいます、のところで沢田さんは少し間を取った。


「皆さんには一人ずつ、OJTトレーナーという先輩がつきます。日々の仕事を隣で教えてくれる人です。困ったことがあったら、まずその方に相談してください。それから、配属先のマネージャーとの面談が、節目ごとにあります」


 丸山さんが手を挙げた。


「トレーナーの先輩が忙しそうなときは、どうしたらいいっすか」


 いい質問だと思った。僕も同じことを考えていた。


「遠慮して聞かないのが、いちばん良くないです」


 沢田さんは即答した。


「聞き方を工夫することは、これから覚えていけばいい。けれど、聞かずに止まってしまうことだけは、しないでください。それで困った新卒を、私は何人も見てきました」


 研修室が、少しだけ静かになった。


「それから、教える側の先輩にとっても、皆さんは初めての相手かもしれません。教わる、と構えすぎないでください。お互いに学び合うものです」


 ……教室から、現場へ。


 頭の中でそう言い換えてみた。三週間、この長机で聞いてきた言葉たちが、来週からは机の外で起きる。


「私からの説明は、以上です」


 沢田さんは封筒の束を、もう一度手に取った。


「これから、皆さんの配属先を、お一人ずつ、お伝えします」


 六人の新卒の前に、沢田さんが立った。


「葉山さん」


「はい」


 葉山さんが姿勢を正した。


「受託開発部、チームB」


 葉山さんの表情が、ほんの一瞬だけ固まった。けれどすぐに「はい、よろしくお願いします」と返事をした。


「丸山さん」


「はい!」


「同じく、受託開発部、チームB。葉山さんとは同じチームになります」


 丸山さんが葉山さんの方を見て、小さく親指を立てた。葉山さんはそれを見て、ふっ、と短く笑った。


「黒木さん」


「はい」


「組込み開発部」


 黒木は頷いただけだった。けれどその肩から、明らかに力が抜けていた。


「アユシュさん」


「Yes」


「同じく、組込み開発部。黒木さんと同じチームになります」


「Thank you」


 アユシュさんが黒木の方を見た。黒木が、初めてはっきりとこちらに見える形で頷いた。


「杉本さん」


「はい」


「製品開発部のパッケージ事業チーム、サポートおよびQA担当」


「ありがとうございます」


 杉本さんは深く頭を下げた。希望通りの配属だということが、彼女の表情から伝わってきた。


「桐谷さん」


「はい」


 心臓が、ひとつ、強く打った。


「受託開発部、チームA」


 ……諏訪さん。


 返事をする前に、頭の中でまず、その名前が浮かんだ。


「はい、よろしくお願いします」


 声は、思ったより震えなかった。


 配属先が、決まった。


 葉山さん、丸山さん、僕の三人は、受託開発部。葉山さんと丸山さんはチームBで、僕がチームA。


 黒木とアユシュさんは、組込み開発部。


 杉本さんは、製品開発部のパッケージ事業チームのサポート/QA。


 六人が、三つの部に散らばった。


 三週間、同じ研修室で同じ方を向いて座っていた六人が、これから別々のフロアに分かれる。当たり前のことなのに、その当たり前が、少しだけ寂しかった。


 ただ、沢田さんの言い方を借りるなら、僕たちは散らばるのではなかった。それぞれの現場に、出ていくのだった。


「皆さん、午後三時から、それぞれの部のフロアに移動して、配属先のチームと顔合わせをしていただきます」


 沢田さんは、最後にこう言った。


「今日からは、新卒同士、いつも一緒というわけにはいきません。けれど皆さんは、ヨキエルに同じ年に入った同期です。それは、これからの三年、ずっと続く関係です」


 ……これからの三年。


 その言葉を、僕はノートにこっそり書き留めた。その横に小さく、Off-JTとOJTの二つも並べて書いた。


 顔合わせまでの短い時間、六人はまだ研修室に残っていた。別々のフロアになる、という空気が、少しだけ皆を無口にしていた。


 その空気を、最初に破ったのは、丸山さんだった。


「あのさ、皆さん。ひとつ、いいっすか」


 いつもの太く明るい声だった。


「俺、皆さんより年上で、社会人もちょっと長いっす。けど、同じ新卒の同期っす。だから、敬語とか、『さん』とか、いらないっす。『丸山くん』で、いいです。むしろ、そのほうが、楽っす」


「いいの?」


 葉山さんが聞いた。


「むしろ、お願いしたいっす。年上扱いされると、距離ができちゃうんで」


 葉山さんが、ふっと笑った。


「じゃあ、丸山くん、ね」


「っす!」


 丸山さんが、嬉しそうに親指を立てた。黒木が口の中で小さく「丸山くん」と言ってみて、ひとつ頷いた。アユシュさんは「Maruyama-kun、OK」と笑った。


 僕も、丸山くん、と呼んでみようとした。けれど、口に出すと、まだ少しだけ「さん」が残りそうになった。丸山さんは気にせず、「桐谷さんは、ゆっくりでいいっす」と笑った。


 ……不思議だった。


 敬語がひとつ外れただけで、これから別々のフロアに散らばる六人の距離が、ふっと、近くなった気がした。年上の丸山さんのほうから、その一歩を出してくれた。


 その一歩に続くように、今度は杉本さんが小さく手を挙げた。


「では、私からも、ひとつ提案です。最後に、ニックネームを交換しませんか」


「ニックネーム?」


 葉山さんが目を丸くした。


「呼び名は、関係の型です。別々のフロアに散らばる前に、六人だけの型を決めておきたいのです」


 型、という言い方がいかにも杉本さんらしかった。


「いいっすね! 最後の研修、ニックネーム研修っす」


 丸山さんが乗って、それからは早かった。蒼太だから、あおちゃん。葉山さんは、はーちゃん。黒木は下の名前の律から、りっくん。アユシュさんは、あゆ。健司の丸山さんは、けんちゃん。結の杉本さんは、ゆいちゃん。


「りっくん」


 黒木が口の中で自分の呼び名を転がして、微妙な顔をした。皆で軽く笑った。


「Ayu。短くて、呼びやすい。いい名前です」


 アユシュさんは嬉しそうに、もらったばかりの六つの呼び名を手帳に書きつけていた。


 その手帳にアユシュさんが目を落としているあいだ、葉山さんの目が一瞬だけ潤んだように見えた。葉山さんはすぐに「なんか、いいね、こういうの」と笑ってごまかした。気づいたのはたぶん、僕と丸山さんだけだった。


 ……ニックネーム、僕らだけの。


 心の中で僕は思った。三つの部に散らばっても、この六つの呼び名は、六人の真ん中に残る。


 


 午後三時。


 受託開発部のチームAのフロアに、僕は向かった。


 三階。エレベーターを降りると、フロアの真ん中にいくつかの島が並んでいた。それぞれの島が、一つのチームの席だった。チームAの島は、入ってすぐの窓側にある。


 研修室とは、空気の音が違った。


 キーボードを打つ音が、あちこちから途切れずに聞こえる。誰かが電話口で相槌を打っている。ホワイトボードには手書きの当番表が貼られ、壁際の棚には背表紙の色あせたファイルが並んでいた。教室の三週間が終わって、ここが現場なのだと、音のほうが先に教えてくれた。


 諏訪マネージャーが、僕を待っていた。


「桐谷くん、ようこそ、チームAへ」


 諏訪さんは研修の時と同じ、穏やかな声でそう言った。


「まず、島田副部長に挨拶してから、チームの皆さんを紹介しますね」


 諏訪さんは僕をフロアの奥、窓側の一番奥の席に連れていった。


 五十代前半くらいの男性が、MacBookから顔を上げてこちらを見た。白いシャツの袖を肘までまくり上げている。机の上にはペンと小さなノートが一冊だけ置かれていて、整理されていた。


「桐谷くん、ようこそヨキエルへ。受託開発部副部長の島田です」


 声は低く、穏やかだった。研修一週目に短く挨拶してくれた人と、同じ声だった。


「桐谷蒼太です。よろしくお願いします」


 島田副部長は軽く頷いた。


「諏訪マネージャーから、桐谷くんの話は聞いています。三年間、ゆっくり育っていってください」


 それだけ言うと、また視線をMacBookに戻した。


 ……短いけれど、ちゃんと顔を見て話してくれた。


 諏訪さんは僕をチームAの島の方に連れていった。


 最初に紹介してくれたのは、二十代後半の女性だった。


 肩で揃えた髪を後ろで一つに結んでいる。白いシャツに黒のジャケット。机の上には、二台のディスプレイと観葉植物の小さな鉢が一つ。机の上は整然と片付いていた。


 ディスプレイの片方には、四角と矢印がいくつも並んだ図が開かれていた。あれが設計書というものだろうか。図の余白に、小さな字の書き込みがびっしりと並んでいるのが遠目にも見えた。


「白瀬凪さん。入社六年目、チームAのシニアエンジニアです」


 白瀬さんは椅子から立ち上がって、軽く頭を下げた。


「白瀬です。よろしく」


 声は低かった。それから、ほんの少しだけ目元が緩んだ。微笑みのつもりだったのかもしれない。けれどそれは、本当にほんの少しの動きだった。


「桐谷蒼太です。よろしくお願いします」


 白瀬さんはもう一度、頷いた。それから、座った。


 ……静かな人だ。


 心の中で僕は思った。


 諏訪さんが次の島の人を紹介する。


「立花雄一さん、入社十二年目のシニアエンジニア」


 三十代半ばの男性が立ち上がって、にこやかに笑った。スーツの仕立ては良かった。肌が少しだけ日に焼けている。


 机の上は片付いていた。ただそれは白瀬さんの机の整頓とは質が違って、そもそも物が少ないのだった。


「立花です、よろしくね、桐谷くん」


 声は明るかった。けれどその明るさが、なぜか、僕の中にすんなりとは入ってこなかった。


「次は、古川さん」


 諏訪さんは別の島の方を指した。


 三十代前半の男性が、椅子の背もたれに深く沈み込むようにして座っていた。スーツのジャケットの肩が椅子の枠に乗っかっていて、本人の背中はほぼ椅子の中にあるような状態だ。


「ども」


 とだけ男性は言った。


 目線は机の上のディスプレイから、ほとんど動かなかった。


 そのディスプレイの隅に、赤い印のついた通知がいくつか溜まっているのが見えた。古川さんはそれを開くでもなく消すでもなく、ただ別の画面を眺めていた。


「古川真治さん、入社八年目」


 諏訪さんがそう紹介した。


 ……あ、はい、よろしくお願いします、と僕は頭を下げた。古川さんは頷いたのか頷かなかったのか、よく分からない動きを見せただけだった。


「そして、桐谷くんのOJTトレーナーはこちらの方です」


 諏訪さんが最後にある人の机の方を指した。


 三十歳前後の男性がすぐに椅子から立ち上がり、こちらに向かって大きく手を振った。


 その机は、画面の縁にカラフルな付箋がいくつも貼られていて、にぎやかだった。付箋の字は丸くて大きい。


「桐谷くん、ようこそ!」


 声は明るかった。明るすぎる、と感じてもいい程度の明るい声だった。


「赤坂拓真です、入社六年目! OJTトレーナー、よろしくね」


 赤坂さんは僕の方に歩いてきて握手を求めてきた。


 握手を返すと、力強い、けれど悪い感じではない握り方だった。


「桐谷蒼太です、よろしくお願いします」


「うちのチーム、本当に、優しい人ばっかりだから、心配しないで。分からないこと、何でも、聞いてね」


 赤坂さんの言葉は、まっすぐ僕の方に向けられていた。笑顔も自然に見えた。


「うちはね、本当にアットホームで、みんな仲がいいんだよ」


 ……アットホーム。


 その言葉が、僕の中でぴくっ、と反応した。


 牧野さんと同じ言葉だ。


 ……でも赤坂さんは、たぶん、悪い人じゃない。


 心の中で自分にそう言い聞かせた。


 顔合わせは十五分ほどで終わった。


 別れ際に諏訪さんは、チームAの今の仕事を短く教えてくれた。市内のみなと信用金庫の業務システムの保守と機能追加が、チームのいちばん大きな柱なのだそうだ。


 信用金庫。お金を扱うシステムを、このチームは預かっている。その言葉の重みに、背筋が少しだけ伸びた。


 諏訪さんが最後にこう言った。


「桐谷くん、月曜日から、本格的な業務が始まります。最初の一ヶ月は、赤坂さんと一緒に簡単なタスクから始めてもらいます。来月の終わりに、私と最初の1on1をしましょう」


「はい、よろしくお願いします」


 頭を下げて、フロアを後にした。


 帰りがけ、三週間通った隣のビルの研修室に、忘れ物のペンを取りに寄った。長机はもう、来年の誰かのために、きれいに揃え直されていた。ホワイトボードの隅に、消し残しの線が一本だけ残っていた。たぶん、遠野CTOの三つの言葉を囲んでいた、枠の線だった。


 教室は、終わった。


 


 寮に戻ったのは夜の七時頃だった。


 部屋に入ってジャケットを脱ぎ、机に向かう。ノートを開く前にスマホを見た。


 同期六人のLINEグループに、もうたくさんのメッセージが流れていた。


葉山:皆、配属、お疲れさまでした

葉山:私、チームB、覚悟して頑張ります

丸山:葉山さん、俺もチームBっす、よろしくっす

丸山:江口さん、まあ、なんとかなるっしょ、っす

黒木:組込み、希望通りでした

アユシュ:Same here. We'll do well, Kuroki

黒木:よろしく、アユシュ

杉本:私もパッケージ事業チーム、希望通りでした、感謝です

葉山:桐谷くん、チームAおめでとう!

葉山:諏訪さん、本物の大人だもんね

丸山:そういえば、皆のOJTトレーナー、どんな人っすか

杉本:私はトレーナーの先輩のほかに、業務を教えてくださる先輩もいるそうです。手厚いです

黒木:こっちは月曜に紹介すると言われた

葉山:うちも月曜だって。決まってるのかどうかも、ちょっと分からない

丸山:葉山さん、それ、大丈夫なんすかね


 赤坂さんの大きく振られた手を思い出しながら、うちは赤坂さんという明るい人だった、とだけ書いた。


 同じ会社で、同じ日に配属されたのに、チームによってずいぶん違う。その違いがどこから来るのか、僕はまだ言葉にできなかった。


 しばらく考えてから、こう書いた。


蒼太:皆、ありがとう。月曜日から、それぞれ、頑張ろう


 送信。


 すぐに、葉山さんから返信が来た。


葉山:うん、頑張る

葉山:でも、一緒に、観察しようね


 ……一緒に、観察。


 その一文が、なぜか、僕の中で温かく響いた。


 


 ノートを机に置いた。


 今日のページに僕はこう書いた。


 配属先が決まった。


 チームA(蒼太)、チームB(葉山、丸山)、組込み(黒木、アユシュ)、パッケージ(杉本)。


 白瀬さん、立花さん、古川さん、赤坂さん。


 四人の先輩と出会った。


 それぞれの第一印象を書きかけて少し迷った。


 まだ書けるほど僕は彼らを知らない。


 だから、こう書いた。


 四人の先輩。これから、よく観察する。


 それから少し迷って、もう一行を足した。


 月曜日からは、OJT。教室の外で、学ぶ。


 ペンを置いて、ノートを閉じた。


 窓の外、四月の終わりの夜、街の灯りがぽつ、ぽつ、と点っていた。


 来週から、月曜日から、本格的な業務が始まる。


 ……三年間。


 受付の女性の言葉と、村瀬社長の言葉と、遠野CTOの三つの言葉が、僕の中でしばらく、ぐるぐると回っていた。


 月曜日、僕の半径3メートルに、どんな人がいるのか。まだ、何も知らなかった。


 


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