表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

第14話:レオの秘密特訓? 聖女に『男』を見せたい狂犬

 演習も三日目に入り、野営地の空気は一層熱を帯びていた。

 だが、レオニード将軍の心中に渦巻いているのは、戦意ではなく「屈辱」と「焦燥」であった。


(……お兄ちゃん。長男。可愛いレオ……)


 セレスにかけられた数々の「子供扱い」の言葉が、レオニードの脳内で呪詛のようにリピートされる。

 俺は貴女の弟でも、世話を焼かれるだけの仔犬でもない。貴女をこの腕に閉じ込め、二度と外に出したくないと渇望する一人の『男』だ。


「……見ていろ。……今日こそ、貴女のその『慈悲』という名の防壁を、根底から破壊してやる」


 レオニードは漆黒の瞳をギラつかせ、あざといまでの「男の魅力」作戦を開始した。


 作戦その一:視覚的蹂躙。

 休憩時間。セレスが日傘の下でハーブティーを飲んでいるその正面で、レオニードはあえて上着を脱ぎ捨てた。

 燦々と降り注ぐ太陽の下、汗ばんだ肌に、彫刻のように鍛え抜かれた腹筋と胸板が浮かび上がる。彼はわざと大きく息を吐きながら、激しい剣の素振りを披露した。


(どうだ。……これでも俺を『可愛い坊や』だと言えるか?)


 レオニードは内心で勝ち誇った。案の定、セレスが「レオぉぉぉ!」と悲鳴を上げて駆け寄ってくるのが見えたからだ。


「まあ、レオ! なんてこと! その汗……尋常じゃないわ! 熱中症よ! これは重度の熱中症の初期症状だわ!」


「……は?」


「いけないわ、こんなところで脱ぐなんて! 直射日光で脳が沸騰しちゃう! はい、脇の下を冷やして! 冷却魔法・フルパワーよ!」


 ドゴォォォォンッ! という音と共に、セレスから放たれた極低温の氷魔法が、レオニードの色気あふれる上半身を物理的に凍らせた。


「ひっ、冷た……っ!? セレス様、これは、そうではなくて……!」


「いいからじっとしてなさい! あなたは自分がどれだけ虚弱(※大陸最強です)か分かってないんだから! はい、水分補給のポーションを飲みなさい!」


 色気の演出は、セレスの「救急救命士(自称)モード」によって、無慈悲なまでの衛生管理へと変換された。


 だが、レオニードは諦めなかった。

 夜。周囲の焚き火が消え、テントの中に二人きりとなった静寂の時間。

 作戦その二:聴覚と触覚の侵食。


 セレスが寝支度を整えようとした瞬間、レオニードが背後から音もなく現れ、彼女をテントの柱へと追い詰めた。

 逃げ場を塞ぐような、重厚なホールド。

 彼はわざと顔を寄せ、耳元で低く、掠れた声音で囁いた。


「……セレス様。……いい加減、分かってください。……俺は、貴女が思っているような、行儀のいい子供じゃない」


「レ、レオ……? 急にどうしたの、その声……。喉を痛めたの!? うがい薬を――」


「……黙ってください」


 レオニードは強引にセレスの手を取り、自分の剥き出しの胸板へと押し当てた。

 手のひらに伝わる、激しく、暴力的なまでの心臓の鼓動。

 そして、岩のように硬く熱い、雄の肉体。


「……聞こえますか。……俺の鼓動が、貴女に触れるだけで、こんなに狂っているのが。……これでも、俺が『可愛いお兄ちゃん』に見えますか?」


 至近距離で見つめてくる金色の瞳。そこには慈悲など微塵もなく、ただただ目の前の女を食らい尽くしたいという、剥き出しの独占欲が渦巻いている。


「あ……レオ……。あなた……」


 セレスの言葉が止まる。

 初めて、自分を見下ろす視線が「子供」のものではないことを、本能が察知した。

 顔が火照り、心臓が爆発しそうなほど跳ね上がる。目の前の大男が、かつての少年の面影を完全に脱ぎ捨てた「男」であることを、彼女の細胞が理解し始めていた。


「……セレス。……貴女を、一生……誰の手も届かない場所に、閉じ込めたい。……俺の腕の中だけで、生きていればいい……」


 レオニードの顔が、あと数センチの距離まで近づく。

 触れそうなほど近い唇。逃げられない、熱い吐息。

 ついに「狂犬」がその牙を剥き、聖女を「女」として組み伏せる――。


「……レオ、あなた……っ!!」


 セレスは叫んだ。


「やっぱり……真っ赤よ! 顔が! 顔がこんなに熱いわ! 知恵熱ね!? それとも、さっきの冷却魔法が効きすぎて逆に風邪を引いちゃったのね!? うわあああん、やっぱり私が目を離すからぁぁぁ!」


「…………」


 セレスは真っ赤な顔をしてレオニードを突き飛ばすと、「解熱剤、解熱剤はどこ!?」と叫びながらテントを飛び出していった。


 静かになったテントの中で、レオニードは一人、呆然と立ち尽くした。

 だが、その唇の端が、暗く歪んで持ち上がる。


「……逃げましたね、セレス様。……俺を『病人』扱いして、必死に自分の動揺を隠して……」


 彼女は赤面していた。あきらかに、自分を男として意識して、逃げ出した。

 レオニードは、自分の手の中に残るセレスの柔らかな感触を確かめるように強く握りしめ、暗い悦びに浸った。


「……次は、逃がしません。……貴女が、自分の口で『男』だと言うまで」


 テントの外では、副官が「……将軍、今の声、外まで丸聞こえですからね。あと、聖女様が『レオが恋の病(物理)だわ!』って泣いてますよ」と虚空に呟き、深い深いため息をついて終了した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ