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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第五話「虐待狼」
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展望台

 町を一望に見渡せる絶好の場所に公園があり、そこにちょっとした展望台がある。人口の減少に伴い、公園を訪れる人が居なくなり、沙耶たちが帰省していた頃には既に雑草の生い茂る廃公園になっていた。そこの展望台を秘密基地にして遊んだと言うのだ。

「お願いです。お兄ちゃんを無事に保護してください」と沙耶が言う。

 生きたまま捕まえてくれと言うことだ。

「分かりました」と答えたものの、少々、傷つけてしまうかもしれない。それは容赦してもらいたいと思った。

 秋晴がフリーマンだとすると、こちらの方が危ない。

 電話を切ろうとした時、沙耶が驚くべきことを言った。


――先ほどの刑事さんにも伝えておいてください。


「先ほどの刑事?」

「はい。今さっき、別の刑事さんがまた、兄のことを聞きに来ました」

 別の刑事? 聞いていないぞ。

「何処の署の刑事でした?」

「さあ、そこまでは分かりません。警察バッジを見せてくれたので・・・」

「名前は?」

「難しい名前でした。滑る谷みたいな」

「忽滑谷!」

 忽滑谷だ。恐らく、俺たちの後をつけていたのだ。そして、沙耶の存在を知った。事情聴取に夢中になっていたので、周囲を観察するのを怠っていた。あの喫茶店に忽滑谷がいたのかもしれない。

 俺たちが去った後、忽滑谷が刑事に成りすまし、沙耶から事情聴取を行ったのだ。ということは、やつも秋晴の祖母の実家に向かっている可能性が高い。やつはWCPを集めて楽園をつくろうとしている。

「急ごう!」

 電話を切ると、俺たちは秋晴の祖母の実家へ急いだ。

 車で高速を飛ばして二時間弱で秋晴の祖母の実家に到着した。

 山際にある寂しい町で、秋晴の祖母の家の周りには畑しかなかった。農家を営んでいたのだろう。住居の傍に納屋が建っていた。納屋の裏には小川が流れている。都会の喧騒を離れ、子供たちが夏休みを過ごすには絶好の環境と言えた。

 明日香が無造作に家に近づくので、「待て!」と呼び止めた。

「俺が先だ」と警棒を構える。

「私を守ろうなんて、おこがましい」と明日香が言うと、「僕は先輩の後にします」と平尾が俺の背後に回った。

 そう、それで良い。明日香もそうしてくれ。

 玄関は引き戸になっており、きちんと閉まってはいたが鍵がかかっていなかった。引くとがらがらと開いた。

「すみませ~ん。入りますよ~」と声をかけながら家に上がり込んだ。

 二階家だった。昨年、空き家になったばかりだとあって、読みかけの雑誌がテーブルの上に開いて置いてあったり、アジシオの瓶の蓋が開いていたりして、生活感があった。家人がちょっと外出しているといった感じだった。

 ここに秋晴が潜伏しているのかもしれない。

 ゴミ箱をのぞく。ティッシュやジャンクフードの袋に混じって、コンビニ弁当の空き容器が捨ててあった。

「見ろ! 賞味期限が昨日になっている。やつはここにいるぞ」

 秋晴がここにいるのは間違いない。

 一階を見て回ったが、秋晴の姿は無かった。

「二階だ。俺について来い」

 俺を先頭に二階に上がる。二階には二部屋あったが、どちらも空だった。

「いないみたい」と明日香。

「ここにいないとすると、展望台かもしれませんね。展望台に行ってみましょう」と平尾が言う。

「忽滑谷が来ている可能性が高い。そちらも注意しろ」

 忽滑谷は展望台のことを知らない。俺たちが県警の許可を求めている間に、先行できたはずだ。ここに着いていたとして不思議はない。秋晴が家にいないことを知り、周囲を探し回っているのかもしれない。

 家を出る。

 辺りを見回したが、忽滑谷の姿は見えなかった。安心するのは早い。やつのことだ。もうここに来ている。そう思った方が良い。

 家の前の道が山へと続いている。この道を登って行けば、沙耶が言う展望台に出ることができるのだろう。

 山道を登って行く。森の中の細い山道で、くねくねと蛇行している上に勾配が急だ。

「結構・・・きついですね・・・」と平尾が悲鳴を上げた。

 暫く、山道を登って行くと、突然、森が切れて視界が開けた。

「展望台が見えます」

 山の斜面の平になった場所に公園がつくられており、崖淵の見晴らしの良い場所に展望台がつくられていた。展望台自体は小さなもので、五メートル程度の高さしかないが、展望台の下は崖の様になっており、地上からはかなりの高さだ。森が切れた見晴らしの良い場所にあり、展望台から町を一望に見渡せる。絶景の眺望だ。

「先輩。人がいるみたいです」

 展望台に人影が見えた。

「奥田秋晴だ!」

 間違いない。奥田秋晴だ。

 俺たちは公園に駆け入った。展望台に近寄ろうとすると、「近づくな!」と空から声が降って来た。

 秋晴が手摺を乗り越えて、展望台の縁に立った。もし、そこから飛び降りたら、助からないだろう。

「止せ! 早まるな」

 俺たちは足を止めた。

「近づくな。近づけば、ここから飛び降りるぞ!」

 秋晴が怒鳴る。

「止めて。分かっている。辛かったのよね。あなたのお父さんがやったことは分かっている。気に入らないことがあると手が出た。あなたと沙耶ちゃんに暴力を振るっていた。あなたがWCPだと分かった途端、怖くなって暴力を振るうのを止めた。やっと暴力が止んだと思ったのに、またお父さんに何かされたのね。就職が決まらずにむしゃくしゃしていた。ついかっとなって――」と明日香が秋晴に話しかける。

「違う・・・」

「いいのよ。悪いのは、あなたじゃない。暴力を振るった父親だから」

「違う・・・」

「あなたは悪くないのよ」と明日香が言うと、「違う。違う! そんなんじゃない」と秋晴が首を振りながら否定した。

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