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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第五話「虐待狼」
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33/35

実家

「お婆ちゃんの家です」と沙耶が言う。

「お婆さんの家?」

「はい。子供の頃、学校が休みになると、ママは私たちを連れてお婆ちゃんの家に遊びに行っていました。パパは一緒に来たがらなかったので、ママと三人、お婆ちゃんの家でのびのびと過ごすことができました。お兄ちゃんと一緒に海に泳ぎに行ったり、山にカブトムシを捕りに行ったり、毎日がもう楽しくて、このまま休みが終わらなければ良いのにって、ずっと思っていました。ひょっとしたら、そこにいるかもしれません」

「そのお婆さんの家はどこにあるのですか?」

 沙耶は祖母の家があると言う場所を教えてくれた。他県だった。警視庁の管轄外だ。面倒なことになったと思った。狼班があるのは警視庁だけだ。他県では狼男関連の事件も捜査一課が担当している。この為、他県の警察署から狼男関連の事件について相談を受けることが多い。狼男関連の事件であれば、融通が利くのだが、今回の事件はたまたま犯人がWCPだったという事件に過ぎない。

 通常の殺人事件となると、捜査は現地に任せることになり、出張って行くとなると、それなりの手順が必要になる。

「お婆ちゃん、去年の暮れに亡くなって、家は今、空き家になっていると思います」と沙耶が言う。

 空き家であれば潜伏するのにもってこいだ。追いつめられた秋晴が身を隠すには最適な場所だ。

「他に、何か思い出したことがあれば、連絡をください」と名刺を渡して、俺たちは警視庁に戻ることにした。

 他県へ出張るとなると、班長の許可がいる。

 車の中で、「KY野郎だと思っていたけど、意外に気が回るな」と平尾に言うと、「僕、何かしましたか?」と聞く。

「沙耶ちゃんが気を使って何も頼まないので、お前、パフェを頼んで見せただろう。あれで、心を開いてくれたのかもしれない」

「えっ! あれ、僕がパフェを食べたかっただけです」

「パフェを食いたかっただけ~⁉」

「はい。僕、パフェが大好きなので。先輩におごってもらえるなんて幸せです。いやあ~人のお金で食べるパフェは最高です」

 平尾があっけらかんと言う。

「お前はやっぱり嫌味なクソ野郎だよ」

 狼班に戻って、班長に報告を行う。

「そうか。祖母の実家に潜伏している可能性が高いな。県警に断りを入れてみる」

 班長が捜査員を派遣することで、県警の了解を取り付けてくれた。余所者に縄張りを荒らされるのは嫌なはずだが、狼男関連の事件となれば話は別だ。どこの県警も狼男関連事件については、経験も知識も乏しい。必然、専門部下を設置してある警視庁に協力を仰ぐことが増えて来る。日頃、そう言った依頼にこまめに答えている班長の人徳だ。

「どうだった?」と明日香が狼班にやって来た。

 俺たちが聞き込みから戻ったことを、どうやって知ったのだろう?

「お前、狼班に監視カメラでもつけているのか?」と聞くと、「馬鹿なやつだな~」と明日香が呆れる。

「先輩。警視庁に戻ったら連絡するように頼まれていました」と平尾が言う。

 帰りの車の中で、明日香にメッセージを送ったようだ。すっかり平尾に馴染んで、パシリに使っているようだ。

「それで、元奥さんは何だって言っていた?」

 正直、殺された奥田聖一がDV男だったことは、明日香には聞かせたくなかった。だが、どの道、報告書を読めば分かることだ。報告書で知るよりも、俺から話した方が良い。

「奥さんからは何も参考になりそうな話を聞くことは出来なかったが――」と沙耶から聞いた話を明日香に教えた。

「そのお婆ちゃんの実家に潜んでいる可能性が高いな」

「今、俺たちが直接、現場に行けるように、班長が県警に仁義を切ってくれている。狼男関連事件として、押し切ってくれるだろう」

「私も行く」

「止めておけ」

「何故?」

「相手はフリーマンからもしれない。危険だ」

「お前だってフリーマンではないだろう。私と同じだ。平尾君だって、そうだ」

「そうですよ~狼男と戦うのは勘弁してもらいたいです」と平尾。

「心配するな。俺にはこれがある」と俺は引き出しの中から警棒を取り出して平尾に見せた。

「警棒ですか?」

「対狼男用に開発された特殊警棒だ」

「そう言えば、普通の警棒よりもゴツいですね~」

「しかも電流を流すことが出来る。スタンガンならぬスタンバトンだ」

「へえ~凄いな」

「お前も班長に言ってもらっておくと良い」

「いやあ~僕はやっぱり狼男とは戦いたくはありません。先輩にお任せします」

「お前なあ・・・」

 明日香が口を挟んで言う。「心配するな。私が一緒に戦ってやるよ」

 それが心配なのでついて来るなと言っている。

「では、狼男の制圧はお二人にお任せします」と平尾が言う。

「本当、お前はクソ野郎だな」

「誉め言葉と受け取っておきます」

 班長が戻って来た。「OKだ。奥田秋晴の祖母の実家に向かってくれ」

 俺たちは秋晴の祖母の実家に向かった。

 高速に乗る直前に、沙耶から電話があった。何か思い出したのだろうか。

「どうしました?」と聞くと、「ひとつ、思い出しました。もし、お兄ちゃんがお婆ちゃんの実家にいなかったなら、展望台に行ってみてください」と言う。

「展望台?」

「はい」沙耶が言うのは、実家の裏山の中腹に展望台があると言う。

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