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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第四話「正義狼」
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楽園

 犯人が潜伏狼である可能性を考慮に入れ、捜査方針を練り直すことになった。

「潜伏狼って何ですか?」と平尾が聞くので、潜伏狼の説明から始めなければならなかったが、直ぐに理解した様子で、「となると、森愛華が第一容疑者となりますね」と平尾が言った。

「組対(組織犯罪対策部)の人間に聞いてみたんだが、殺された加藤健将、あちこちで恨みを買っていたようだ」と明日香が言う。

 相変わらず狼班に入り浸りだ。一応、一課との合同捜査の形式を取っており、明日香が連絡窓口になっている。

「あがりをピンハネしていたことか?」

「勿論、それもあるが、ピンハネは多かれ少なかれ、やつらがやっていることだ。小遣い稼ぎにしては度を過ぎていたかもしれないがな」

「じゃあ、何だ?」

「レイピスト――あいつのことを、そう呼ぶ人間がいたようだ」

「レイピスト⁉ レイプ魔か!」

「被害に遭った女性がいるはずだ」

「やはり森愛華の容疑が濃くなりましたね」と平尾。

「取り敢えず森愛華と彼女の周辺を洗ってみよう」

 それを当面の捜査方針とした。

 森愛華がいる店は場末のキャバクラとあって、キャバ嬢の数は森愛華を含めて五人、ボーイが一人だ。先ずは、この六人について徹底的に洗った。加藤が殺害されたのは、キャバクラが閉店した深夜零時以降だったので、帰宅途中だということでアリバイのはっきりとしない者が多かった。

 だが、二人目の被害者、森直輝はキャバクラが営業中に犯人に襲われている。先月の満月の夜に絞ると、店を休んでいたのは、高島(たかしま)(なつ)()というキャバ嬢、一人だけだった。

 森愛華と一番、仲の良いキャバ嬢だと言う。

 しかも、勤怠管理記録を調べてみると、毎月、満月の夜に休みを取っていることが分かった。

「潜伏狼の可能性が高いな」

「おやっ!この女は?」

 勤怠管理記録にはキャバ嬢の顔写真が載せてあった。高島夏帆は森愛華を訪ねてキャバクラに行った時に、「コンパニオンだ」と言った、あの若い女性だった。

 高島夏帆から話を聞く為に、俺たち三人は再び、キャバクラへと向かった。

 森愛華はいたが、高島夏帆の姿はなかった。

「高島夏帆さんはいらっしゃいますか?」と森愛華に聞くと、昨晩から無断欠勤をしていると言う。「夏帆に何かあったのかもしれません」と森愛華は不安気だった。

「彼女に旦那さんのことを話しましたか?」

「旦那の話?」

「あなた、旦那さんからDVを受けていたのではありませんか?」と俺が言うと、森愛華は一瞬、顔を強張らせたが、次の瞬間、あきらめたような表情になった。

「はい。日頃は優しい人だったんですよ。でも、何かの拍子でスイッチが入ると、もう、手が付けられなくなって・・・」

「あなたに暴力を振るった」

「商売に触るので、顔を守るのに必死でしたけど、腕に痣が残ったりして、夏帆にバレてしまいました」

「ええ、私も前回、お会いした時、あなたの足に痣があるのに気がつきました」

「やっぱり。隠しきれないものですね」

「それで高島さんは、何と言っていましたか?」

「男のクズ・・・そう言っていました」

「腹を立てていた訳ですね」

「ええ、まあ」

「加藤健将についてはどうです?」

「嫌っていました。ゴミ溜めに沸いた蛆虫みたいな野郎だって。あいつ、夏帆のこと、狙っていたようなのです。それで、夏帆に気をつけた方が良いという話をしました」

「レイプ魔だっていう噂ですね」

「そういう噂があることは知っています。あいつ、私みたいに肉付きの良い女の子はタイプじゃないようで、夏帆のように細い子ばかり、選んで襲っているみたいでした」

「夏帆さんも?」

「あいつが殺される三日程前、夏帆の様子がおかしかったことがあるのです」

「様子が変だった? どうおかしかったのです?」

「もともと無口な子でしたけど、更に無口になって、ママから『そんなに辛気臭い顔をしていると、商売にならない』と言われ、追い返された日がありました。何か思いつめた様子でした。自殺でもするんじゃないかって、心配していました」

 高島夏帆は加藤健将に襲われた。そうに違いない。

「加藤健将の事件の後はどうでしたか?」

「そうですね。普段と変わらない様子だったので、ほっとしました。でも、気になることを言っていました」

「気になること?」

「私、楽園に連れて行ってもらえる――と」

「楽園? 何です、それ?」

「私もそう思ったものですから、夏帆に聞いたのです。楽園ってなあにって」

「何と答えましたか?」

「私みたいなものが、安心して暮らすことが出来るところだって。そして、私に言ったのです。『でも、私が楽園に行っちゃったら、あなたが心配。楽園に行く前に、あなたの悩みを解決してあげる』って、そんなことを必要ないって言いましたけど」

「あなたの悩みを解決する。そう言ったのですね?」

「はい」と森愛華は頷くと、悲しそうな顔をした。

 高島夏帆は森愛華が夫に虐待を受けていることを知り、愛華を守る為に、夫を殺害した。そして、森愛華もそのことに薄々、気がついていた。

「楽園というのは、何処にあるのでしょう?」

「分かりません。ただ――」と言って森愛華が言葉を切った。

 何かを知っている。そして、それを言うことが高島夏帆の為になるのか、ならないのか考えているのだ。

「知っていることがあるのなら、教えてください。高島夏帆さんはWCPです。適切な治療を施さなければ、満月の夜になると、自分を押さえられなくなる。再び、犯罪を、人を傷つけてしまう可能性が高いのです。高島さんに、これ以上、罪を重ねさせないでください」

 俺の言葉に森愛華の目が泳いだ。動揺しているのだ。

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