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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第四話「正義狼」
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潜伏狼

「中を見せてもらえますか?」

「鍵は掛かっていないはずです」

 俺と明日香は部屋に入った。

 真っ暗だ。壁際のスイッチを押す。灯りが灯る。

 ベッドがあるだけの殺風景な部屋だった。昼間でも真っ暗なのは、窓が無いからだ。壁は防音と補強を施したのだろう。コンクリート製の壁になっていた。

 毎月、満月の夜になると、息子はこの部屋に籠るのだと言う。そして、夜明けまで、この部屋で過ごす。まるで牢獄だ。息子はここで暴れ回りたい衝動と戦いながら、夜が明けるのをじっと待っていたのだ。

 防音措置は施してあるのだが、それでも息子の遠吠えが外に漏れ出してしまうのは、どうしようも無かったようだ。

 明日香と共に部屋を出る。

「さて、社長さん。大事な話を聞かせてもらわなければなりません」

 俺は社長に尋ねた。「今月と先月の満月の夜、息子さんはここにいましたか?」

「はい。もちろんいました。十八の年に、あいつが狼男になってから、満月の夜は、必ず家にいます。事件を起こすと大変ですので、一度も外出させたことはありません」

 社長は俺の目を真っすぐに見ながら答えた。どうやら嘘をついている訳ではなさそうだ。

 息子がここにいたとなると、一連の事件とは無関係だと言うことだ。

「息子さんが戻ったら、最寄りの警察署に行くか、それが嫌なら私に連絡をください。WCPとして登録し、投薬を受けることが出来るように手配します」

「はい」と社長が頷いた時、「山城さん」と平尾が顔を出した。

 今までどこにいたのだ。

「彼が戻って来ました」

 どうやら息子が家の近所をうろついていることに気がついて、捕まえに行っていたようだ。

 隠れ狼を一人、あぶり出すことに成功したが、捜査は振りだしに戻ってしまった。俺たちは警視庁に戻ることにした。

 帰りの車の中で、平尾が言った。「何故、彼は隠れ狼となって生きる道を選んだのでしょう?」

「差別を受けることが嫌だったのだろう」と俺が答える。

「差別?」

「そうだ。お前、俺と一緒に働いていて、怖くないのか?」

「怖い? 先輩がですか? 優しい人ですよね?」

「はは」平尾の答えにハンドルを握る明日香が吹き出す。

「それを俺に聞くか? 突然、襲いかかって来そうな気がしないか?」

「う~ん。まあ、多分、何とかなるんじゃないかと思います」

 結構な自信だ。

「私も何とかなると思っている」と明日香まで調子に乗って言う。

「狼男に変身したら、お前たちなんて、赤子の手を捻るようなものだ」

「へえ~そうなのですか。でも、大丈夫です」

「何が大丈夫なのだ?」

「だって、僕、強いので」

「あはははは~!」と明日香が大笑いした。「いいねえ~君。気に入った。最近の若者にしては骨がありそうだ」

「ちえっ!」

 俺は舌打ちしたが、内心、ちょっと嬉しかった。明日香と言い、平尾と言い、まるで俺を怖がらない。こんなやつら、本当、見たことがない。俺がWCPだと知れた途端、周りの人間は皆、離れて行った。学生時代、警察官になってからも、俺は常に一人ぼっちだった。心から信頼できる相手と言えば、同じWCPである班長だけだった。

 狼班に戻った。

 班長に報告を行うと、「そうか。隠れ狼を一人、見つけた訳だ。事件を起こす前に見つけることが出来て良かった」と言った。本心だろう。

 そして、表情を引き締めると、「犯人は潜伏狼なのかもしれない」と言った。

「潜伏狼ですか⁉」

「他に考えようがない」

「しかし・・・」

 潜伏狼の話は聞いたことがあった。逆に言えば、それほど珍しい存在だと言えた。

 潜伏狼とは、遺伝子疾患を持ちながらも、満月の夜に狼男に変身することがない男を言う。狼男の遺伝因子が十分でないことから、男でありながら狼男に変身することがない。但し、満月の夜に情緒が不安定となり、暴力的になるなどの症状が現れる。

 同様に未成年の男子や女性でも、狼男の因子が多過ぎると、満月の夜に狼男に変身することはなくても、攻撃的になるなど、狂暴性が現れることがあると言う。

 WCPの研究はまだ始まったばかりだと言える。潜伏狼については、分かっていないことが多過ぎた。

「歯形が成人男子のものとしては小さいことも、それで説明がつく」

「犯人は子供、若しくは女性だと言うことですか?」

「それを念頭に、捜査を進めた方が良いだろう」

「分かりました」と俺は頷いてから、ふと思い出した。「班長。平尾って、何者なのです?」

「説明した通りだ。狼班に配属された新人刑事で、平尾警視正の御子息だ」

「それだけですか?」

「何故だ」

「あいつ、俺を怖がらないのです」と言うと、班長には通じたようだった。

「なるほど」

「あいつ、WCPですか?」

「言っただろう。満月の夜には、お前が使えないから来てもらった刑事だ。WCPだと満月の夜に使えないことに変わりはない」

「班長のような――」

 フリーマンであれば、満月の夜であっても影響は少ない。だが、班長は「違う」と否定した。

「そうですか」

「とにかく鍛えてやってくれ。うちにいるのは、そう長くないだろうから、その間、WCPに関することをしっかり叩き込んでおいてくれ」と班長が言った。

 やはり何かあるのだ。俺に言えないことが。

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