第193配信 荒川河川敷だよ変人集合
浅谷女子学院――埼玉県浅谷市にある小中高一貫の女子校であり地元ではお嬢様学校として知られている。そんな由緒正しい女子校で四人のオタク女子が運命の出逢いを果たしてから早八年。
学校ではオタクである事を隠し淑女を装いながら生活している四人は閉塞感を感じていた。いつものように放課後に香澄の部屋に集まった彼女たちは録画したアニメ『魔法少女プルプルァ』を視聴しながら自分たちの境遇を嘆いていた。
「今日も学校じゃ息が詰まった感じで疲れたよ」
香澄の机に突っ伏して横目でプルプルァを観ながら呂布子が言った。その一言を皮切りに他の三人も同様の意見を口にする。
「……確かにね。学校じゃアニメとかゲームの話なんかしてる子いないもんね」
「自分は今の環境に不満はありませんが、もしクラスの皆でロボアニメの話が出来たら最高ですなぁ」
「そうですわねぇ。皆と触手責めされた女騎士の快楽堕ちについて雑談が出来たら凄く素敵だと思いますわ」
「さすがにそれは難しいだろう」と亜姫以外の三人が内心思っているとプルプルァのオープニング曲が聞こえてきた。軽快なリズムの音楽に合わせて四人は身体を揺らす。
『プ~ルプルァ! プ~ルプルァ! プ~ルプルァ! プルプルァァァァァァァァァ!!!』
「「「「プルプルァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」」」
曲のサビで合いの手を入れ一緒に歌いながら彼女たちはアニメ鑑賞を満喫していた。視聴終了後、呂布子が先程の話の続きをする。
「このプルプルァにしたってわたしらが小さい頃から放送されてる大人気番組だし観てる人は多いハズ。だから皆でプルプルァについて雑談とかしてみたい訳よ。例えば女児番組とは思えないパンチラや尻や太腿の描写についてとかさ。製作スタッフ陣の並々ならぬこだわりを感じるのはわたしだけじゃないハズよ。でもプルプルァを学校で話題にしてる子はいないし皆興味ないのかな?」
「ふむ、呂布子氏よく考えてみてくだされ。それを言ったら自分たちも学校ではアニメの話等は一切しておりませんぞ。周囲から見たら我々もリア充と思われていても不思議ではありません。呂布子氏が言いたいのは、つまり我々のようなオタクが気軽かつ自然にオタトークを楽しめる場があれば良いという訳ですな」
「そんな都合の良い場所があれば最高だけどね」
呂布子、桂、香澄がオタ活動の閉塞感について話し合っていると亜姫が思い出したように口を開いた。
「そういえば話は変わりますが隣の馬並市で面白い都市伝説があるらしいですわよ」
「亜姫、本当に話題変わりすぎでしょ。でもその都市伝説気になるから続きよろ」
「かしこまりましたわ。何でもその都市伝説というのがどうやらある男子中学生の話らしいのです」
「男子中学生ですと?」
「その通りです。彼の名は、えーと確かトキシック・カインド・ドラグマニアだったかしら」
「随分うろ覚えね。――で、そのトキシックは何者なの?」
「トキシックさんはもの凄い厨二病の少年だそうですわ。ちなみにれっきとした日本人です。噂ではかなりのオタク知識の持ち主で現在中学二年生なので私たちと同い年のハズです。彼とでしたら楽しくオタトークが出来るかもしれませんわ。会ってみる価値はあるのではないでしょうか?」
「へぇ、面白そうじゃん。よし決めた! 明日の放課後四人で馬並市に行くわよ!」
「分かった、分かった。やると言い出したら止まらないからね、呂布子は。それで亜姫、あんたの事だからそのトキシックの出現ポイントの目星はついてるんでしょ?」
「勿論ですわ。彼は夕方に馬並市の荒川河川敷によく現れるそうです。そこで何やら大声で叫ぶのが彼の日課らしいですわ」
「ふむふむ、何やら面白くなってきましたなぁ。明日の放課後が楽しみですぞ」
こうして即決した超厨二少年トキシックに会いに行こうツアーは翌日決行された。
四人は授業が終わると浅谷市から馬並市まで電車で移動し荒川河川敷までやって来た。夕方の河川敷は人がまばらでやや寂しい雰囲気であった。
そんなセンチメンタルさなど知った事かと四人は意気揚々と河川敷を歩いて行く。トキシックらしき人物を捜しながら呂布子が言った。
「荒川河川敷って言ってもかなり範囲があるわね。ここからたった一人の男の子を捜すのってよく考えたら無理じゃないの?」
「そんな事はありませんわ。噂では彼はここで大声で叫んでいるらしいです。その日課をこなしていれば自ずと向こうから――」
亜姫が言いかけた時、それは聞こえてきた。
「ウーーーーーーーーー、ヤーーーーーーーーーー、ターーーーーーーーーーーー!!!!」
大気を震わせるようなバカデカい声が何処からか聞こえてきて彼女たちの鼓膜を刺激する。思わず両手で耳を塞いだ四人はこの声の主がトキシックに間違いないと確信し、声が聞こえてきた方へ向かって歩き出した。
「く……うるさ……。この声どうなってんのよ。こんなバカデカい声だってのに本人は結構離れた所に居るし。あそこから聞こえてきたのこれ……嘘でしょ?」
「凄まじい声量ですな。すぐ近くで聞いたら耳がおかしくなってしまいますぞ」
「てか本人はこんなデカい声を出して問題ないの? 普通に喉を壊すレベルの発声でしょ」
「これ程の声の大きさの人物に会った事はありませんわ。ワクテカしてきましたわぁ」
声の主は二百メートル以上先に居た。この距離では姿格好はよく分からないが間違いなくそこから規格外の声が発せられている。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! ボ◯テッカァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「三倍界◯拳のぉぉぉぉぉぉぉ!! かめ◯め波だーーーーーーーーーーー!!!! ……四べえだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
それはもはや災害であった。バカでかボイスの元凶との距離は約百メートル。徐々にその人物の詳細な姿が見えてきた。
四人の少女は耳を守りながら更に接近すると、声の主の姿を目の当たりにして絶句した。
少年は額に赤いハチマキ、右目に眼帯、左腕に包帯、両手に指だしグローブ、全身黒ずくめの服とマントを身に付けており異様な雰囲気を醸し出していた。
「彼で間違いなさそうですな。しかしこれは中々……」
「さすが馬並市の都市伝説になるだけの事はあるわね。さっきの規格外のボイスにあの姿……見るからに異質だわ」
「トキシックさんは実在したのですね。私、感動しましたわ」
三人が厨二を地で行く彼の姿に感嘆している中、呂布子はコスプレ目線でその姿を観察し評価していた。
「あの衣装よく出来てるわね。普段着できるように生地にもこだわっているみたい。もっと近くで見てみたいなぁ」
少女四人は意を決して黒ずくめの少年に話しかけようと歩みを進める。その時、土手の階段側から怒号が聞こえてきた。
「くぅおらぁっ! トキシックてめぇ、毎度毎度やかましいんじゃボケェ!! 俺とミポリンの楽しいイチャつきタイムにいつも水を差しやがって……そんなに大声出したいんならカラオケで思いっきり歌ってこいや!!!」
声の主は香澄たちと同年代くらいの学生服姿の少年であった。金髪リーゼントの如何にもヤンチャ系の彼の隣には同じく金髪黒ギャルの少女が居た。
「もー気分最悪なんですケドー。せっかくタケチンと良いムードになったのに台無しなんですケドー」
金髪カップルに非難されるトキシック。この緊迫した状況を前にして基本陰キャな少女四名は怯みトキシックに話しかけるチャンスを逸してしまう。
一方、トキシックは顔色一つ変えずにカップルの方に視線を向けると涼しげな声で言った。
「カラオケ店のマイクでは俺のミラ◯ルボイスに耐えられず、以降敷居をまたぐ事を禁じられた。だからここで声を出すことで地球に刺激を与え回転させているのだ。――理解したか、ゼウス?」
「ああ、もうカラオケ行って出禁くらったんか、済まんかったな……ってちがーう!! つーか何でお前の力で地球が回転している事になってんだ。それに前から何度も言ってるが俺はゼウスなんて名前じゃねーから!!」
「あはは、まじウケるー。地球は自転してるだけだし。それよりもカラオケのマイクを壊す声なんてどんだけー!」
「俺の力を現代機器で制御する事は不可能だ。それよりも今日はいつもより髪が巻いているな、ヘラ」
「あはは、分かるー? 今日はギャル巻き超上手くいったしー。それとあーしはヘラじゃないしー。それってギリシャ神話の女神の名前じゃね。超ウケるんですケドー」
黒ギャルは意外にも神話ネタに詳しかった。
「俺がミラクルボ◯スを思う存分使うことが出来るのはこの河川敷だけだ。そういうお前たちこそ、こんな閑散とした場所ではなく他の場所で愛を育めばいいだろう。貧しい青春だな」
「お前だけには言われたくないわっ!!! それよかこういう人気が無い穴場だからいいんじゃねーか。なあ、ヘラ……じゃなかったミポリン」
ゼウスはヘラの腰に手を回し自分の方へたぐり寄せるとトキシックに見せつけるようにキスをした。オーディエンスが居ることで最初は戸惑っていたヘラもすぐに好意に夢中になっていく。
数分後、ゼウスとヘラはやっと唇を離し呼吸を整える。ゼウスはトキシックに勝ち誇った顔を向けると当の本人はうとうとしていた。
「おいーーーーー!! ちょ、おま……寝るなーーーーーーーー!!!」
「ん……ああ、終わったか?」
「お前……同年代の男女が目の前で濃厚なキスをしていたというのにその淡泊な反応はなんだ? お前に性欲は無いのか?」
「性欲ならばある。ただ、お前たちの児戯では俺に劣情を抱かせるレベルに至らなかった。ただそれだけだ。俺を興奮させたいのであればせめてこの位の内容でなくてはな」
ゼウスを挑発する言葉を発しながらトキシックは胸元から一冊の単行本を取り出した。その漫画のタイトルは――『独りエッチ』であった。




