第192配信 女子中学生の日常
◇過去編なので三人称視点でお送り致しまぁす
――十年前。埼玉県浅谷市、相良家相良香澄の部屋。日曜日の昼下がり。この部屋に四人の女子中学生の姿があった。
「はぁ……暇だなぁ」
ため息を吐いて暇を持て余しているのは浅谷女子学院中等部二年生である戦部呂布子、十四歳――後のぶいなろっ!!三期生フェネル・ホウテンガゲキである。
「まあまあ呂布子氏、そう言わず漫画でも読んでみてはどうですかな?」
クセのある口調で呂布子に漫画を差し出したのは同学院の二年である一角桂、十四歳――後のぶいなろっ!!五期生ユニ・ホーリーである。
「こちらがお勧めですわよ。約二十ページと短いですが、その分内容が……濃ゆいですわぁ」
妖しい笑みを浮かべて薄い本を呂布子に手渡したのは同学院の二年である周防亜姫、十四歳――後のぶいなろっ!!一期生メルア・ティオ・アルビオンである。
「なっ……! 亜姫、ちょっと待った。あんたが持ってるその本は何処から取り出したの!?」
隠しておいた薄い本が目の前で手渡される光景を目の当たりにし動揺しているのは同学院の二年生である相良香澄、十四歳――後のぶいなろっ!!敏腕マネージャー兼同人誌作家乱れ牡丹である。
「これですか? これは本棚の分厚い本の中に隠されるように差し込まれていたものですわ。同様の方法で隠されている薄い本が全部で十冊あるのを確認しています。それがどうかしましたか?」
「まさか同人誌の位置を全て把握されているなんて……。いつこのブツの存在を知ったの?」
「あれは確か中学一年生になったばかりの頃でしたわ。この大きい本が気になって取り出してみたら薄い本が隠されていて、何だろうと思って見てみたら卑猥な内容の漫画ではないですか。鎧を着た女性が植物のような怪物に捕まって無数のツタに縛られ鎧が溶かされてイき……そしてツタが……ツタが彼女の……! ハァ……ハァ……あの興奮を思い出したら身体が熱く……!!」
亜姫は自らを抱きしめ身悶える。その表情は上気しうっとりとしていた。御年十四にして彼女は既にエロ道まっただ中であった。しかしそれは彼女だけに言える事ではない。
「それって『女騎士アンジェラの触手快楽地獄』でしょ。あれの素晴らしさが分かるなんて亜姫、あんた良いセンスしてるじゃない」
亜姫の作品チョイスに関心した香澄もまたこの年齢にして既にエロ道熟練者であった。十四歳で同人誌を所持している彼女が将来どのような大人になるのかは羞恥……じゃなかった周知の事実である。
「ふむ、この本は内容からして成人向けなのでは? 香澄氏、このような書物をどのようにして手に入れたのですかな?」
「それは企業秘密よ。ところで桂がさっきから作っているのはプラモデルよね?」
「如何にも! 1/144ガン◯ムGP03デン◯ロビウムですぞぉ。この巨体! この異形のフォルム! 早く完成させたいと思いますがプラモデルは組み立てている時が醍醐味ですからじっくりやりたいとも思ってしまう。くぅ~、このもどかしさが堪りませんな」
歓喜の声を上げ桂は説明書を見ながらパーツを丁寧に組み立てていく。既に組み上がったパーツの中にはかなり大きめの物もあり、この部屋の中で圧倒的な存在感を放っていた。
「あんたがガ◯プラ好きなのはあたしもよく知ってる。でもねあたしが聞きたいのはそんな当たり前の事じゃないわ。ウチに来た時、確かあんた手ぶらだったよね? そのガン◯ラは何処から出てきたの?」
「ああ、それでしたら……」
桂はすっくと立ち上がるとクローゼットを開けて、その中の一番下のスペースを指さした。そこにはガ◯プラの箱に布がカムフラージュとして被せられており、しっかり確認しなければ見過ごしてしまう状態になっていた。
「以前から少しずつガン◯ラのパーツを持ち込んでいたのでありますよ。気が付かなかったようですな。ポケッ◯の中の戦争の劇中でコロニーに解体したケン◯ファーをこっそり搬入し現地で組み立てたやり方を採用したのであります!」
「ごめん、何を言っているのかさっぱりだわ。それよりもプラモデルを組み立てるなら自分の家でやりなさいよ。何でまたあたしの部屋でやるのよ! しかもそのプラモデルすんごいデカいし」
「いやー、ここが一番落ち着いて作業に没頭できるからでありますなぁ。友人の楽しそうな声を聞きながらパーツをランナーから取り外し少しずつ組み立てる。この一時が自分にとって一番の癒やしになるのであります」
「はぁ……もう好きにして。――ん?」
何やら嫌な予感がして香澄が振り返ると自分の学習机の近くに呂布子が立っていた。小柄な彼女はクッションに乗って高さ調節をするとスカートをめくってショーツ越しに局部を机の角にあてがった。
「すぅーはぁー……よし、全集中……!」
「あんたはこれからどんな型を繰り出すつもりよ」
スパァァァァァァァァァァァァン!!
「んほぉっ!!」
香澄はハリセンで呂布子の後頭部を叩き、その衝撃で股が想定以上に机の角に食い込んだ。今まで経験したことの無い刺激が呂布子を襲い彼女は一撃で果てた。
その場にぺたんと座り込み身体を震わせると呂布子は真っ赤な顔で香澄を見上げて抗議を始める。
「ちょっと何て事してくれてんのよ、香澄! 今の衝撃で変な声出ちゃったじゃない! それに何だか新しい扉を開いた気がする。この責任どうとってくれるのよ」
「そんなのあたしの知ったこっちゃないよ。それよりも呂布子、あんたよくもあたしの学習机を穢そうとしてくれたわね。今まであんたの奇行には目をつぶっていたけど、さすがに今回のは見過ごせないわ!」
「穢そうとした……ね。香澄、あんたまさかこれがわたしのファースト角◯ナだと思った訳じゃあないわよね?」
呂布子の言葉の意味を理解すると香澄の顔から血の気が引いていった。
「まさか……」
「穢そうとしたんじゃない……もうとっくの昔にあんたの机はわたしの角オ◯の洗礼を受けて穢れてんだわ。既に三ヶ月前からの付き合いなのよ、彼とわたしはね!」
「何て事してくれてんのよ、あんたは!!」
その後しばらくの間、香澄は机の角をアルコール消毒していた。必死に机の角を磨いている様子を見て呂布子は不服そうな顔で言った。
「そこまで念入りに消毒されると傷つくんですけどー」
「うるさい黙れメス豚! そんなにハッスルしたけりゃ自分の机でヤればいいでしょ。あたしの机をあんたの欲求不満に巻き込むな!!」
「もちろん自分のでも試したわよ。でも、ウチの机の角は少しエッジが利き過ぎててスパート掛けた時に痛くなるから萎えるのよ。学校のは逆に角が丸くて刺激がなさ過ぎるから気持ち良くなれないし。そんな時にわたしを満足させてくれたのが香澄の机だった。昔からの知り合いとこんな淫らな関係に発展するとは思ってもいなかったわ」
「あたしもまさか親友が自分の机と密会してるとは想像した事もなかったよ。あんたの性欲を舐めてたわ。しかも色んな机とも致していたとはね……」
「ふふ、中二にしてプレイガールになってしまうなんて自分の女としての魅力が怖いわ。わたしは男を狂わせる魔性の女なのよ」
「あんたの言う男って机なん? 机を狂わせてどうする気なのよ。はぁー……」
自画自賛が止まらない呂布子に対し香澄のため息も止まらない。二人のいつものやり取りを亜姫と桂は笑いながら見守っていた。
女子中学生四人はその後も香澄の部屋でダラダラと過ごしていた。一般的な女子中学生は休みの日となれば街に繰り出し可愛い物を探し求めるハンターになると思うのだが、インドアなこの四人はこの狭い空間でアニメや同人誌、プラモデルなど自分たちが好きな物にそれぞれ没頭していた。
香澄は自作のエロ漫画を描き進め、亜姫は同人誌やエロ漫画を読んでは悶えて悶えては読んでを繰り返す。
桂は鼻歌を歌いながらデンドロ◯ウムの組み立てを順調に進めていき、呂布子はその様子を眺めていた。
「桂って本当にプラモデルが好きだよね」
「正確にはロボットが好きなのでありますよ。プラモデルはそんな推しロボットを立体化する一つの手段。だからこうして推しが少しずつ組み上がるのが楽しくて仕方がないのであります」
「推しの立体化……か。難しい表現だなぁ」
「ははは、そんなに堅苦しいものではありませんぞ。呂布子氏も好きなアニメキャラのコスプレをするのが好きではないですか。それも推しの立体化の一つの形ですぞ」
「なるほど、そう言われると分かり易いわね。コスプレと同じかぁ」
「立体化以外には好きなパーツを組み合わせてロボットを造って戦うゲームもありますが、自分は現存の内容では物足りない感じです。もっと自由度が高くそれこそ自分が本当にロボットを造ったり乗ったり出来るような……そんなゲームをしてみたいですなぁ」
「そっかぁ、桂の夢が叶うと良いわね。――そうだ! そんなゲームが発売されたらわたしも遊んでみたいから、その時はわたしのロボットを桂が造ってよ。それで一緒にゲームしようよ。凄く面白そうじゃん」
「それは素晴らしい考えですな! 自分が造った機体はかなりのじゃじゃ馬になると思いますが、果たして呂布子氏に乗りこなせますかな?」
「任せなさいよ、ゲームの腕は普通レベルだけど問題ないわ。しっかり練習すれば上手くなるでしょ」
二人の会話を聞いていた香澄と亜姫は微笑んでいた。彼女たちの趣味が公に出来ないものである事も相まってこの部屋の空気感が彼女たちにとって幸福なものである事をそれぞれが実感していた。
四人の趣味は、かたやエロ漫画を描くこと、かたやエロ漫画を読むこと、かたやロボット作成に勤しむこと、かたやコスプレを楽しみつつ持て余した性欲の発散方法を探求すること。――彼女たちが通う女子校ではいずれも公言しにくい内容ばかりであった。
四人の趣味は四人だけの秘密。そこに多少息苦しさを感じるものの公表したら周囲からどんな目で見られるか分らず現在の平和な環境を壊す要因にも成りかねない。
オタクに対する偏見がまだ強かった時代、オタク達がその趣味を内々で楽しむしかなかった時代。四人もそのルールに準じてオタク趣味を楽しむしかないと思っていた。――彼の存在を知るまでは。




