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ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~  作者: 河原 机宏
第3章 GTRぶいなろっ!!鯖編

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第190配信 ワンユウ教に入って私と姉妹になってよ

 泣きたい気分で朝食を食べ終えると周防さんの表情が真剣なものに変わった。同じテーブルに居た陽菜、ルナ、依流芽さんも先程までの穏やかな様子とは違い緊張した面持ちになる。


「実は犬飼さんに聞いていただきたいお話があるのです」


 一瞬、「どうせエロゲーの話でしょ?」と言いかけたが明らかにそんな雰囲気では無かったので真面目に返すことにした。


「それは構いませんが、何故俺に?」


「犬飼さんは既に私たちぶいなろっ!!メンバーとねんごろな関係と考えています。だからこそ話しておいた方がいいと思ったのです」


「分かりました。そのお話を聞かせていただきます。でも、『懇ろ』は意味的に危険なんでせめて『親交がある』ぐらいの表現にしてくれませんかね」




 朝食を終えて一時間後に話を聞く事になり一旦仮眠室に戻った。外はまだ大雨と強風が続いており、ニュースでは公共交通機関にも影響が出ているため関東圏の学校は休校、企業によっては休みにもなっているらしい。


 ふと先程の朝食時の事を思い出すとこの土砂降りのような気分になる。陽菜と月は依流芽さんの行動に対し異論を唱えていなかった。それどころか背中を押していたような節すらある。

 普通、自分の恋人に異性が近づいて来たら面白くないと思うハズだが、二人の態度はその逆のようだった。これってつまり俺は二人にとって、もはや興味の無い存在なのではないだろうか?


「胃がキリキリしてきた……」


 気分が沈んでいると部屋のインターホンが鳴った。確認すると相良さんの姿が映っていたのでドアを開ける。


「おはようございます、犬飼さん。昨晩は良く眠れましたか?」


「はい、熟睡できました。こんなに良い部屋を使わせていただきありがとうございます」


「えーと本当に眠ったんですか? 夜間、陽菜さんや月さんがやって来て夕べはお楽しみでしたね的なイベントは起こらなかったんですか? 嘘でしょ……」


「用が無いみたいなので閉めますね」


「ちょっと待って……用ならあります! これから亜姫から大切な話があるじゃないですか。そこに案内するために来たんです」


 ドアを閉めようとすると無理矢理こじ開けられてしまった。敏腕マネージャーはフィジカルも強いらしい。

 

「表情が優れないようですがどうかしましたか?」


 指摘されて顔に出ていたのかと思い戸惑う。とっさに「何でも無いです」と返答したが、彼女はそれで納得はしなかった。


「今の犬飼さんは明らかに悩みがある顔をしていますよ。さすがに見過ごせません。これでもぶいなろっ!!メンバーの相談に乗ったりしていますから力になれると思いますよ。どうぞ話してみてださい。まだ時間もありますし」


 正直一人でいると色々と考えてしまう為、話を聞いてくれると言われて正直ホッとした。まさか相良さんにこんな形で感謝する日が来ようとは思いもしなかった。

 陽菜の身近な存在である彼女であれば良い返答が貰えるかもしれない。少し逡巡した後に彼女に悩みを打ち明ける。 


 話し終わると――。


「ふ……ふふ、ああはっはははははははははははははは!!!」


「わ……笑った? 俺の深刻な悩みを笑ったぁ!?」


「ひひひ……んはは……! ふぅ……ふぅ……すみませんでした、余りにも予想外の内容だったので」


「そんなに意外でしたか?」


「ええ、それはもう。陽菜さんや月さんの猛プッシュを犬飼さんが受け入れた形の恋人関係だと思っていたので……。存外、犬飼さんもゾッコンだったんですね。後で二人に伝えておきます。きっと大喜びしますよ」


「頼みますから言わないで下さい」


 相良さんは呼吸を整えると本題に戻った。


「犬飼さんが依流芽さんからアプローチを受けていた時の陽菜さんと月さんの態度ですが心配要りませんよ。月さんの時だって同じ感じだったでしょう?」


「あれは陽菜と月の仲が良かったから今の関係が成立したんですよ」


「そうですね。確かに陽菜さんと月さんは親友の間柄です。でも、仲が良いと言うのならぶいなろっ!!メンバー全員にも言えるんです。あたしの目から見ても家族――いえ、もしかしたらそれ以上の仲の良さですよ」


「確かにコラボ配信でも皆の仲が良い事は分かります。でも家族以上っていうのは言い過ぎなんじゃないですか?」


 率直な意見を述べると相良さんはフフッと笑う。そこには嫌みな感じは全く彼女の目からは優しさが滲み出ていた。


「犬飼さんはご家族を愛しているんですね。それは凄く素敵なことです」


「……それはどうも」


「話は少し逸れますが犬飼さんは昨日ぶいなろっ!!メンバーに実際に会ってみてどう感じました?」


 昨日焼肉店で会った時、そしてスタジオで野球拳をした時の事を思い返してみる。配信の時と同じ居心地の良さをずっと感じていた。予定していた夜のお戯れを台無しにされた陽菜と月も最終的には野球拳を楽しんでいたし終始アットホームな雰囲気だった。


「皆良い人ばかりで凄く居心地が良かったです」


 俺の返答を聞いて相良さんは満足した笑みを浮かべ続きを話し始める。


「犬飼さんもご存じだと思いますが人は集団の中で他のメンバーに対し負の感情が形成される事が多々見受けられます。あるメンバーの方が自分より優れているという思いから嫉妬や怒り憎しみに発展する事も珍しくはありませんし、特殊な特徴がある人物に対し拒絶や無関心……もしくは嫌がらせに至る傾向もあります」


 ふと昔の自分を思い出し思い当たる事が幾つもあり苦笑いしてしまう。はいはいはい、確かにありましたわー。多感な学生時代に経験しましたわー。


「どうやら犬飼さんにも心当たりがあるようですね。ぶいなろっ!!メンバーも同じです。配信者として才能を発揮する反面、彼女たちには特異な趣味や行動が見られます。その部分を理由に大なり小なり他者からネガティブな干渉を受けた過去があります。そのような経験があるからこそぶいなろっ!!内に同様の感情を持ち込むことを本能レベルで禁忌にしているんです。各メンバーは広大な配信の海で共に助け合う仲間でありライバルでもある。互いに刺激し高め合う環境の中で強固な信頼関係と結束力が築かれているんです。犬飼さんが実感した彼女たちの穏やかさはその結束力故のものなんですよ」


「それで家族以上の仲の良さであると……戦友みたいなものなんですね」


「そうですね、楽しい事も辛い事も一緒に経験して乗り越えてきましたから。戦友という表現が合うかもしれませんね。――だからこそ、依流芽さんも決していい加減な気持ちで犬飼さんにアプローチした訳ではないんです。陽菜さんと月さんに事前に相談して各々納得した上での行動だったみたいですし」


「そうだったんですか!? だから一致団結している感じがしたのか」


「陽菜さんにとって犬飼さんはとても大切な存在です。でも、ぶいなろっ!!のメンバーも同様に大切な存在。だから依流芽さんの切実な想いにできる限り応えたいと思ったのでしょうね」


「……陽菜らしいですね」


「それに食事会で酔った勢いでワンユウ教なるものを立ち上げて入信希望者を募っていましたよ。犬飼さんが如何に素晴らしい男性か熱く語っていましたねぇ。キャッチフレーズは『ワンユウ教に入って私と姉妹になってよ』だそうです」


「姉妹ってまさか……聞かなかった事にしよう」


「犬飼さんを通しての姉妹関係なんて素敵じゃないですか。あなたの頑張り次第でどんどん姉妹が増えますよ。アハハハハハハハハハハッ!!」


 頭が痛くなってきた。陽菜は捉えどころの無い性格だとは思ってはいたが予想以上にぶっ飛んでいた。これから先、俺はいったいどうなるのか見当も付かない。


「今後の犬飼さんの波瀾万丈の生活が楽しみでなりませんよ。それではそろそろ時間なので皆の所へ案内しますね」


「皆……? 待っているのは周防さんだけじゃないんですか?」


「これから話されるのはぶいなろっ!!の今後に関係する大事な話です。なのでメンバー全員が待ってますよ」


「嘘でしょっ!?」




 拝啓おふくろ様。最近肌寒くなってきましたが如何お過ごしでしょうか? あのテンションがやたら高い父親と朗らかな弟と一緒に笑顔の絶えない生活であるのなら喜ばしい限りです。

 今、俺は推しVTuberグループの禁断の領域に足を踏み入れようとしています。もしかしたら生きて帰って来れないかもしれません。もしも、万が一生還できたら久しぶりに帰省しようと思っています。これから益々寒くなるのでご自愛ください。


                                   敬具

 

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