4話 ゴムゴムのスモークターキーレッグ
「「チョリチョリッフゥ~~↑↑」」
王子さまは双子だった。
金髪で、それぞれ白と黒の燕尾服を着ている。
すらっとした体型で、やっぱりイケメンだ。
「でもなんかチャラくないですか」
「チャラいとは?」
「あの双子王子のような人たちの事をチャラいと言います」
「なるほど。ではチャラいですな」
みんなの注目が王子に集まったのを確認すると、私は再びマンガ肉の攻略を開始した。
ナイフやフォークを使うのは邪道。せっかくこんなに持ちやすいのだから、ガブリといくのが礼儀というものだ。
お肉は弾力があって、かじったあとはぐいーっとあごを引いて食いちぎらなければならない。みょーんとお肉が伸びるのが中々面白い。
味の方はしっかりと美味しい。弾力があるのでゴムっぽいかというとそんな事もなく、口の中に入ればじゅわっと肉汁が広がって、とってもジューシーな味わいだ。
ゴムっぽいと言えば、昔とある遊園地で食べた七面鳥のスモークだけど、あれは正直ゴムを食べてる気分だった。
「ドレーどの。ドレーどの。もう少し周りを気にすべきだ」
「はひ? はんへへふは……はっ」
私がマンガ肉に集中してるうちに、周囲は妙に静かになっていた。
その異様な気配を察知して、私は再び振り返る。
「フゥッ↑↑いい食べっぷりぃ!↑」
「それに君。キャワいいねぇ!? どこから来たのぉ? 名前なんていうのかなぁ??」
いつの間にか私の背後に双子王子がワープしてきていた。
イケメンに話しかけられたことはないのでどきどきしてしまう。あと二人の背後にずらっと並ぶお姫様たちの視線がつらい。
「私はドレ……エラです。ナメメック星からきました、ナメメック星人です。よろしくお願いします」
「ナメ……?」
「ふ……フッフゥ↑ 不思議ちゃんキタコレぇーっ!?」
無理やりテン↑アゲする王子さまたち。でもなんとなく戸惑っている空気は伝わってくる。
これで私がフィルター除外されてくれればいいのだけど。
「さあ僕たちと踊ろうエラちゃん! しっかし金ピカドレスがマブいよねぇ!」
「すみません。光量は調節できないので突然の発光には目を閉じて対処してください」
「そ、そうなんだぁ……君って面白いよねぇ! そういうところ、ステキだよ」
なかなか手強い。笑顔がピッタリと張り付いているようで、ドン引きさせる事はかなわなかった。
でも私のローキックはじわじわと効いているはず。おそらく意地になっているのだろうと思う。
そうと分かれば北風と太陽作戦だ。
「うっふーん。すきよー」
「わ、わお! なんだか突然積極的になったねぇ! エラちゅわぁん」
ダンスを踊りながら王子に胸を押し当てる。
「……む、むがが」
胸というか、胸の中のリッピーさんだけど。
影の立役者、ネズミの騎士。リッピーさん。私と志を分かち合う者よ。オラにもふもふを分けてくれ。
「もふーんもふーん」
「ハァンっ!?……なんだか僕、ヘンになりそうだよエラちゃあん……。ちょっとトイレに行ってくるねぇ……」
そう言うと王子は駆け足でトイレに行ってしまった。
てってれー。チャラ双子王子の片割れをやっつけた!
「兄さんがやられたようだね……」
今のはお兄様だったらしい。
弟王子は一人になった途端、チャラい雰囲気が無くなり、うつむいてしまった。
でもわかる気がする。三人とかだとテンション高めだけど、一対一になった瞬間静かになる感じ。
私もそうだ。
帰りの電車とかで三人で馬鹿騒ぎしてたのに、一人下車すると静まり返るやつ。
会話をしたいわけじゃなくて、会話に混ざりたいだけなのだ。それはきっと、自分のためというより、他の二人にもっと仲良くして欲しいから。
「ドレーどの。弟王子のソウルが大きくなり始めてますぞ」
「そういえばその、ソウルってなんですか?」
「ふむ……難しい質問だ。強いて言うならば、それは業だったり、強さだったり、これみたいなものですな」
リッピーさんは小さな手で、ちょこんと帽子の羽根をつまんで見せた。
なるほど。わから――
「ぐへへへー! エラちゃーん!」
「!?」
突然背後から羽交い締めにされてしまう。
双王子の弟がワープしてきたのだ!
「な、なんですか。ぐぬぬぬ。面妖なっ」
「ぐへー! ぺろぺろぺろーん」
防御力がゼロの背中をぺろぺろされる。
なんて卑劣なんだ。
致し方なし。
――右手をのばす。
私の右手からは、なんぴとたりとも逃れられない。
――なぜなら。
女神さまからすごい運動神経をもらってるから。
伸ばした右手を思い切り引いた。
「ほいっ」
「ぐはっ……!?」
王子はその場で地に伏せた。
私が繰り出した肘鉄は、誰の目にも触れることがなかった。
「なにごとですか!?」
「王子! 大丈夫なの?」
騒然とするパーティ会場。
私はどう収拾をつけるか困っていると――
「きゃー! ばけものー!」
――少し離れたところから別の悲鳴が聞こえた。
「むむ。なにごとか」
「行ってみましょう」
悲鳴の主はお姉様だった。全身がどろどろで真っ黒な人の形をした何かにかじられそうになっている。
「ドレーどの。一足先に御免ッ」
「わ」
リッピーさんは胸元から飛び出ると、一足跳びで真っ黒に飛びかかる。一呼吸おいて、それは真っ二つに分かれて霧散した。
「おみごとです。リッピーさん」
「朝飯前でござる。それよりお嬢さん、ケガはないかな」
「あ、ああ! なんなのですかっ あれは」
「あれなるは心の亡者。人の影に巣食う、人ならざる者。闇の獣でござる」
「強そうですね」
「本来は心の奥に潜む者。このように発現するとは」
リッピーさんは小首をかしげる。
キュートだけど、ネズミの騎士。無敵の剣客にして詩人。そして闇の獣を打ち倒す者。さらに私の友人だ。
「見てくださいリッピーさん。黒いのが一箇所に集まっていきます」
倒れた弟王子から黒い霧が吹き出て、トイレの方へと流れている。
「ふむ。原因が兄王子にあると見た。男子トイレへ向かおう」
「でも私は女子です」
「それがしは男なので大丈夫」
「なるほど」
私たちが駆け付けると、個室の前で弟王子の形をした黒い影がドアを叩いていた。
「兄さん……開けて……」
「ひえ〜〜っやめてくれ〜〜っ」
「兄さん……もう僕はあのテンション無理なんだ……どっちかというと、むっつりだから……」
「わかった! もうやめるから!」
「じゃあ開けて……」
「ひえ〜〜〜っ」
リッピーさんは剣を抜こうとしたけれど、すぐに収めてしまった。でもなんとなく意図している事は分かる。
私が頭にさした羽根飾りを触り一歩前へ出ると、リッピーさんは無言でうなづいた。
「話は聞かせてもらいました」
「きっ君は……!?」
「私は愛の伝道師。あなたのお悩み、解決します」
ポージングをして敵意のない事をアピールする。
ちなみにこのポージングとは両手を前に出して親指を立てるやつだ。
黒い獣は裏を返せば心の悩み。患部を叩いて直すのは人道的ではない。人は、古いテレビではないのだ。
「さあ。悩みを言ってください」
「僕は……女性と触りっこがしたい……」
わあ。
「弟よ! そんなのヘンタイだ!」
「だまれ! 兄さんはチャラい振りをするくせに、結局だれにも手を出さないじゃないか!」
「ひ~~っ」
双子だけど、性格は結構違うらしい。
しかしなるほど。弟だけではなく、兄の方にも問題がありそうだ。
「私にお任せください」
「なんだって? 触ってもいいのかい!?」
「それはちょっと」
「じゃあこの気持ちをどう鎮めればいいんだ!」
闇の獣の弟王子は背中からいくつもの触手を出して、私に伸ばしてきた。
私も右手を伸ばした。
「ほいっ」
「グハァッ」
「落ち着いて下さい。少し時間をいただければ、もっといい人を連れてきますので」
「わ、わかっ……た……」
私の健やかな右ストレートが決まり、黒い獣は爆発四散した。
がちゃりと個室の扉が開かれ、兄王子が顔を出す。
「も、もう終わったのか?」
「いえ。始まったのです」
「なんだって?」
「しっかりと恋をして、女性と付き合いましょう。でないと、あの黒いのは無限に出てきます。たぶん」
リッピーさんは無言でうなづいている。やっぱりそういうモノなのだろう。心、願望の影。抑圧された想いが生み出した膿なのだ。
根治させないと無限に現れて苦しみをばらまく。
私たちが弟王子の元に戻ると、彼は椅子に座って放心していた。
「悪い夢を見たんだ……。僕は女性を襲って……」
「弟よ。共にいい女を見つけに行こう。俺も、もうチャラいフリはやめる。真面目に将来のことを考えるんだ」
「兄さん……!」
双子王子がしんみりしているすきに、私はちょうど良い相手がいないか探そうとした。
でも、騒ぎの起きたダンスホールにはもう、誰の姿も見当たらない。
「むむ。薄情な」
「襲われたら誰だって怖いですからね」
しかし参った。
愛の伝道師として啖呵を切ってしまったので、やっぱりダメでしたなんて言えば襲われても文句は言えない。
そもそも、今の私は立場的に言って、王子に迫られてしまう可能性が大きい。
椅子取りゲームで私が座るようなことがあってはならないのだ。
しかも二つある椅子にお尻を半分ずつ乗せるなど――
「エラちゃ……さん! 愛の伝道師さん! タイヘンだ! 金ピカドレスが透け透けにっ」
「!?」
ごーんごーんと時計の音が鳴る。
なんてこと。もう0時だ!
「はぁはぁっ……女の人の……は、はだか」
「まずい。またしても弟王子のソウルが大きくなり始めているぞ」
「くっ……弟は俺に任せてくれっ……」
震え出す弟王子を兄王子が抱きしめる。とうとい。
「今のうちに逃げるんだ!」
「恩に着ます」
私はガラスの靴をその場に脱ぎ捨てて、馬車のある駐車場へ全力疾走した。




