3話 ゴールデンかぼちゃの馬車
どんどん、と扉がノックされて何度も私を呼ぶ声がする。
「リッピーどの。ちょっとだけ辛抱していてください」
「あいわかった。この来訪者にはどうしても会えない理由があるのですな」
「さようです」
リッピーさんとする会話は楽しい。なんだか時代劇に入ってしまったような感じがする。
「灰かぶりのドレーさん。いらっしゃるのでしょう? 開けてくださいな」
どんどん、と扉をしつこくノックしてくる来訪者。
しわがれたお婆ちゃん風の声を頑張って出しているが、どうにもこの人は声色を変えるのが下手らしい。
「おりませんよ女神さま」
「ほらいるじゃないの」
「やっぱり女神さまじゃないですか。ずっと見てたんですか? すとーかーですよ」
「……」
「ドレーどの。返事をしては居留守がバレてしまうよ」
「大丈夫です。これは肉を切らせて骨を断つ妙技。しっかりと効いております」
墓穴を二つ掘るとも言う。
「妙なことに、本当に静かになりましたな。いったいどういうカラクリで?」
「どうやら女神さまは私の事が好きみたいなのです」
「──心配してんのよーっ!」
だんっ、と勢いよく扉が開かれた。
白髪頭……のかつらがずれた、老婆もどきの女神さまが肩で息をしている。
「あー。こわしたー」
「壊してないわよ! 魔法で開けたの」
「むむ。魔法使いでござったか。それがしはネズミの騎士の──」
「戦わないわよ。それより観念して外に出てきなさい、あなた」
「はい。わかりました」
女神さまのご厚意だ。蹴れば女神さまが不幸な気持ちになってしまうので、ある程度は乗ってあげよう。
そのために下準備もしているのだから。
「じゃーん! かぼちゃの馬車ー!」
「面妖」
「面妖ですね」
「……何それ? 流行ってるの?」
軒先にはかぼちゃの馬車が停まっていた。
ものすごく大きなかぼちゃの中をくり抜いて居住スペースにして、なんだかそれっぽい車輪と馬がついたやつだ。ちなみに全部金ピカである。
「わーい。かぼちゃの馬車だー」
「あなたが開口一番に面妖って言ったのを私はまだ忘れていないからね」
「いえ。でも本当に嬉しいです。興味がないふりをして実はパーティーに興味があったので」
「ふーん? じゃあ乗ってくれるの?」
「はい。喜んで」
嘘をつく時は真意も混ぜる。そうすると嘘じゃなくなるので、心は傷まない。
私が短い人生でおぼえた嘘のつき方だ。
私の生き方は、いかに上手く嘘をつけるかというのが重要なポイントになってくるのだ。
かぼちゃの馬車に乗り込んで、窓にうつる自分を見る。
私を見つめ返すドレーは、何を言っても嘘か本当か分からないような、力の無い目をしている。これでいい。
「お嬢……いや、友よ。そういう時にこそ、羽根飾りをさわりたまえ」
「リッピーさんにはお見通しでしたか」
「すべて独りで背負い込むことはない。それがしも同類なのだ。わかってくれたまえ」
リッピーさんはいい男だ。ネズミの騎士だけど、見た目よりもずっと大きい無敵の剣客。そして詩人。
王子のご機嫌取りに勤しむ女性たちよ。最強のイケメンがここにいるぞ。
「あら。ちょっとは機嫌なおったじゃない?」
「おや女神さま。おひさしぶりです」
「ええ、五分ぶりね」
「御者はおらぬのか? この馬車は」
「運転は飽きたわ。今はオートパイロットよ」
「面妖な」
「面妖面妖」
車内、三人でくつろぐ。
中央のテーブルにはクッキー・ビスケット・チョコ・おせんべい・ターキッシュディライトなど盛りだくさんのお菓子が並べられていて、紅茶も用意されているのでうきうきだ。
「ほんふふふははひへはふほいはふは?」
「何言ってるのかわからないわよ。っていうか食べ過ぎるとドレスが着れなくなるわ」
嬉しすぎて口いっぱいに頬張ってしまっていた。
朝からシリアルしか食べてなかったので、どうしてもテンションが上がる。
ちなみに窓の外はもう暗い。黄昏時というやつだ。
「そういえば採寸とかしないんですか?」
「魔法でばーんっとやるから安心していいわ」
「はひ。はんひんひはふ」
「……お菓子代、請求してもいい?」
お菓子は魔法で出せないらしい。がっつくと女神さまは露骨に私からお菓子を遠ざけてしまった。
それからほどなくして、馬車の揺れが止まった。
「さあ、目的地に着いたわ。魔法をかけるから外に出てちょうだい」
広大な駐車スペースには色々な馬車が止まっていて、少し先には大きなお城が見える。
「デ◯ニーランドみたい」
「やめときなさいあなた。さあ目を閉じて……破ァッ」
女神さまが両手を私に向けて気合を入れると、今着ている服がびりびりに破かれてしまった。
「いやーん」
「破ァッ」
もう一度気合を入れてもらうと、今度は全身が黄金の光に包まれる。ポカポカで気持ちの良い光だ。
でも、夜の暗さでこの光はとても目立つ。
その金色も、肌こそ隠しているものの、体のラインがくっきり見えてしまっているので恥ずかしいことこの上ない。
もしこれが恥ずかしくないという人がいるとしたら、それは蛍光色の全身タイツを着て渋谷の街を歩ける人か、あるいは普段からこういう変身に慣れている魔法少女くらいだ。
「いつまでうっとりしてるの。はい、鏡」
いつの間にか変身は終わっていたらしい。
差し出された鏡を見ると、かなり派手なドレスを着ている事が分かった。
まず胸より上にほとんど布がない。首や肩がすーすーする。背中もかなり広範囲がすーすーするので、おそらく丸出しだ。
なのにスカート部分はもっこりと布が広がっていて、かなり防御力に偏りがある。実際に触ってみると、傘の骨のようなものが入っているらしく、その防御力は確かなものだった。
ちなみに全部金ピカである。
「ドレス魔法、面妖ですな」
「あと悪趣味ですね」
「え? なんで? 金色って景気良くっていいじゃない」
限度というものがある。
私の着ている金ピカドレスは、光を反射しているというより、何にもない暗闇で金ピカに発光しているのだ。
「私はこれからパレードに参加するんですか?」
「まさか。デ◯ニーランドじゃないんだから」
「しかしこれでパーティの準備が整いましたな」
「まだよ」
女神さまはニヤリと笑うと、どこからともなく透明の靴を取り出した。
「てってれー。ガラスの靴ー」
「不思議な道具みたいに言いますね」
「まあ、そこそこ不思議よ。あなたのドレスは0時を過ぎると消え去るけど、この靴だけは永遠に不滅だから」
えっへんと誇らしげに胸を張る女神さま。きっと上等なマジックアイテムなのだろう。
「さあ、お履きなさい」
「サイズが合いません」
本当に足が入らなかった。
もちろん想定内である。
「えっそんなはずは……ってなんでこんなにむくんでるのよ?」
「お菓子を食べすぎました」
「それだけでこんなにパンパンにならないでしょ!」
「お水をたくさん飲みました」
「……他には?」
「薪を担いだままスクワット100回こなしました」
「はぁ〜〜〜〜〜……。じゃあサイズを大きくしておくから……」
計画通り。
女神さまは多分、気付いていないだろう。
サイズを大きくしてしまう意味を。
「入りました」
「良かったわね……。それじゃ、行ってらっしゃい。きっと幸せを見つけてくるのよ。あと0時過ぎたら魔法が解けるから、それまでに帰ること。まあ、そんなに遅くまでいるなんてフケツな事はないでしょうけど」
確かに女神さまの言うことはもっともだ。遅くまで開かれるダンスパーティーって実は結構ふしだらなものなのかもしれない。ちょっと用心しよう。
お城を進むと、大きなホールにたどり着いた。
みんな踊っているのでここがイベント会場に違いない。
「広いですね」
何畳分くらいあるのだろうと思って数えていくと、途中に階段があったりして分からなくなってしまった。
とにかく広かった。
「東京ドーム三個分くらいでしょうか」
「面妖な。東京ドームとはそんなに大きなものなのか」
「今のはちょっと誇張気味ですけど。まあ大きいですよ、東京ドーム」
みんな一様に派手めのドレスを着ている。お姉様たちがいたので手を振ってみたけれど、無視されてしまった。もしかしたら、私が妹だと気付いてないのかもしれない。
「王子様っぽい人は見当たりませんね」
「どうやらまだご登場されていない様子」
ピカピカのドレスが目立つので、周囲の視線を気にしながらテーブルに置いてあったお肉にかぶりついていると、ざわざわと周囲が騒がしくなった。
「キャー! 王子様ー!」
ホール内が黄色い声で埋め尽くされる。
私はお肉――このお肉は、いわゆる ¨マンガ肉¨ の形状をしていて、チキンの味がするとても美味しいお肉だ――を置いて、声のする方に振り返った。
「ウェーイ! みんなノッてんねぇ〜〜?」
「チョリチョリーっ! 双子王子の登場だぞコラぁ〜〜! フゥッフゥ↑↑」




