第六章 雷と、酔っ払い無双
三週間目は、雷だ。
「火の速い版よ。ただし、お主の腕を通すな」
通した。
しびれた。
「痛っ!自分の魔法で——」
「ぶわっはは!火魔法の再現じゃ!」
木に落とす。樹皮が、白く弾ける。小さめでも危ない。
「人前でやるなよ」
「やるか。死人が出る」
一か月の終わりには、四つの気を、なんとか出せるようになった。
火。風。土。雷。
マスター、というほどではない。
それでも、一か月という期間なら、こんなもんだろう。
深夜アニメのイメージのおかげだ。
***
夜、焚き火の前で、じいちゃんの話をした。
「厳しかった」
「知っておる」
「飯が少なかった」
「知っておる」
「でも、それ以外はやさしかった」
メレオスは、遠くを見るような目をした。
屋根の夜のことは、俺は知らない。
「伊左衛門は、何も求めて来なかったからのぉ」
「守ってやって欲しい、とは求めただろ」
火を見たまま、メレオスは首を振った。
「孫の話よ。自分の話ではない」
そうか。
じいちゃんは、自分では何も欲しがらなかった。
清水を飲んだ。
山は、まだ昼でも暗い。
***
麓で買った酒を、一本出した。
「神様は、酒、飲むの」
「飲むぞ。飲むに決まっておる」
子供に見える相手に、飲ませる。
罪悪感が、ハンパない。
一杯。
二杯。
「守護神の座、ゲットだぜ!」
三杯目で、はじけた。
そこからは、酔っ払い無双だ。
「雷、いくぞ!」
「するな——」
ドワッ!
近くの木に、落ちた。テントが、風で飛ぶ。
土が柔らかくなって、鍋が沈む。
「消火!消火!」
火が落ち葉を燃やす。
消火。鍋の掘り出し。諸々の後始末は、俺の仕事である。
メレオスは、木の上で歌っている。……使えない。
翌朝、二日酔いの神様が、きまり悪そうに言った。
「昨日のは、酒のせいじゃ」
俺は、二度と飲ますまいと心の中で誓った。
それから、何事もなかったように付け足した。
「まあええ。特訓は合格じゃ」
暴れた件をなかったことにするメレオスであった。
***
テントを畳んだ。
清水で顔を洗った。
四つの魔法は、使える。使っていい場所は、まだ、この山くらいだ。
車で三時間。
アパートに戻る。
明日から、会社だ。
憂鬱だ。




