第六十三章 ゆず湯
下りの山道は、行きより、ずっと長かった。
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赤城が、共さんを背負っていた。
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「代わります」
三回、言った。
三回とも、断られた。
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「兄弟子が、だ」
赤城は、前を向いたまま言った。
息は、少しだけ乱れていた。
初めて見る、赤城の乱れた息だった。
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背中の共さんは、眠っていた。
ときどき、目を開けて、夜空を見た。
それから、また、閉じた。
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後ろから、縛られた二十六人が、黙ってついてきた。
『ジョン』と『ホラー』が、列の前と後ろを歩いた。
誰も、逃げようとしなかった。
誰も、何も言わなかった。
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山道の両側に、もう、影は並んでいなかった。
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錆びたゲートの前に、軽トラックが一台、停まっていた。
運転席で、作業服の老人が、魔法瓶を抱えて待っていた。
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夜中の、一時過ぎだった。
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「……暗うなったら下りてこいと、言うたろうが」
老人は、窓を開けて言った。
それから、列を見た。
赤城と、その背中の共さんを見た。
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「四人で入って」
老人は、指を折った。
「五人で、出てきよった」
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老人の目が、俺の足元で、止まった。
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「……いや。六人か」
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メレオスが、俺の後ろに、半分隠れた。
老人は、それ以上何も言わずに、魔法瓶の蓋に、熱いお茶を注いだ。
一つ目を、赤城に渡した。
二つ目を、俺に。
三つ目を、誰もいないはずの、俺の足元に差し出した。
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メレオスは、少し迷ってから、両手で受け取った。
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「……熱いぞ」
「熱いのが、ええんじゃ」
老人は、そう言って、窓を閉めた。
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ゲートの外には、課長が手配した車が、三台来ていた。
二十六人が、順番に乗せられていった。
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『ジョン』は、車の陰で、電話をしていた。
さっき、出なかった電話だった。
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英語だった。
短い言葉が、何度か、往復した。
それから、『ジョン』は、長いこと、黙って相手の話を聞いていた。
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電話を切って、『ジョン』は、こっちに来た。
顔色が、悪かった。
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「開いたそうだ」
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赤城が、共さんを車の後部座席に寝かせてから、振り返った。
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「どこが」
「うちの国じゃない」
『ジョン』は、北の空を見た。
「ノルウェーの、ずっと北だ。北極圏の、小さな町の外れ」
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「今の時期、あそこは、日が昇らない」
『ジョン』は言った。
「一日中、夜だ。……一番、長い夜の国だ」
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「何が、出てきた」
「分からない」
『ジョン』は、首を振った。
「町の近くの観測所が、真夜中に一度だけ、おかしな揺れを拾った。それだけだ。それきり、何も起きてない。……今のところは」
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いろんなところで、開くんだ。
窪みの縁で、あれが、そう言っていた。
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開いたのは、一つだけだった。
一つだけ、開いてしまった。
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「……報告は、明日でいい」
赤城が言った。
それから、少しだけ間を置いて、付け足した。
「今夜は、よくやった。全員」
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実家に着いたのは、朝の五時だった。
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門の前で、宅配便の制服の『レスラー』が、段ボールに座ったまま、腕を組んで寝ていた。
俺の足音で、片目だけ開けた。
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「……おう」
「おう」
「八人と、一人。全部、課長のとこに送った」
「ありがとうございました」
「礼を言うな」
『レスラー』は、また目を閉じた。
「腹が立つ」
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縁側に、由紀がいた。
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北を向いたまま、座布団の上で、横に倒れて、眠っていた。
毛布の上に、地味なコートが、かけてあった。
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その横に、『レディー』が、座っていた。
化粧のない顔で、庭の柚子の木を見ていた。
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「十二時過ぎに、泣き止んで」
『レディー』は、小さな声で言った。
「それから、ずっと、北を向いてた。三時くらいに、倒れるみたいに寝たわ」
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「……ありがとうございました」
「貸しよ」
『レディー』は、立ち上がって、伸びをした。
「あんたに、つけてある。もう、数えるのも面倒なくらい」
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由紀の肩に、手を置いた。
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「由紀」
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由紀が、目を開けた。
ぼんやりと、俺を見た。
それから、目が、大きくなった。
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「……おかえり」
「ただいま」
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由紀は、起き上がろうとして、よろけた。
十時間、冬の縁側に座っていた足だった。
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「共さんは」
「無事だ。赤城さんが、病院に連れてった」
「……よかった」
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由紀は、それから、少しだけ、顔をしかめた。
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「ゆず湯、冷めた」
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「沸かし直せ」
「それ、あたしの台詞」
「俺の台詞だ」
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風呂場の湯船は、黄色かった。
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柚子が、ぎっしり浮いていた。
湯は、本当に、見えなかった。
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追い焚きのボタンを押して、しばらく待った。
湯気と一緒に、柚子の匂いが、風呂場いっぱいに広がった。
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肩まで、浸かった。
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熱かった。
冷え切った体の、指の先から、じんじんと感覚が戻ってきた。
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柚子が、顔の前で、ぷかぷか揺れていた。
じいちゃんの、ゆず湯だった。
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来年は、健司を、庭に呼ぶか。
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来年は、なかった。
今年、俺は、庭じゃなくて、山にいた。
庭には、由紀がいた。
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じいちゃん。
今年も、異状なしだった。
一個だけ、逃がしたけど。
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「……健司」
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湯船の縁に、メレオスが、しゃがんでいた。
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「……何してる」
「神も、入る」
「狭い」
「柚子が多すぎるんじゃ」
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メレオスは、服のまま、湯船に足を入れた。
それから、柚子をかき分けて、肩まで浸かった。
湯は、あふれなかった。
神様は、湯を押しのけないらしかった。
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「……ええ湯じゃのぉ」
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しばらく、二人で、黙って浸かっていた。
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「伊左衛門も、毎年、こうしとった」
メレオスが、柚子を一つ、指でつついた。
「庭から戻って、冷えた体で、この湯に浸かって。何も言わずに」
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「……お前も、入ってたのか。じいちゃんと」
「背中におったからのぉ」
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柚子が、ぷかりと、メレオスの頭に乗った。
メレオスは、それを、どけなかった。
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その日の午後。
警察病院の、個室だった。
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共さんは、ベッドの上で、上半身を起こしていた。
窓の外の、冬の空を見ていた。
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顔は、四十前のままだった。
病院の検査では、どこにも、異常はなかったらしい。
医者は、年齢の欄に、何を書けばいいのか分からない、という顔をしていたそうだ。
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赤城が、ベッドの横の椅子に座っていた。
俺と由紀は、その後ろに立っていた。
メレオスは、由紀の肩に、しがみついていた。
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赤城が、鞄から、古い綴りを一冊、取り出した。
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表紙に、判子が一つだけ押された、中身のない綴り。
大臣の権限で開けさせた、共さんの記録。
中は、空っぽだった。
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赤城は、万年筆のキャップを外した。
表紙の、判子の横の、空いた欄に、ゆっくりと、字を書いた。
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几帳面な字だった。
一画ずつ、丁寧に。
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書き終えて、赤城は、綴りを、共さんの前に差し出した。
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『久我 共』
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「名前は、本人に、返したいと、ずっと思っていました」
赤城は、言った。
丁寧な声だった。
少しだけ、揺れていた。
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「久我さん。……お返しします」
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共さんは、綴りを、両手で受け取った。
長いこと、自分の名前を見ていた。
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「……くが、とも」
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共さんが、小さく、声に出して読んだ。
確かめるみたいに。
一音ずつ。
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「自分の名前を、自分の口で言うのは……いつ以来か、分かりません」
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「伊左衛門先生は」
赤城が、言った。
「最後まで、あなたの名前を、口にしませんでした。……手帳に書いて、気で閉じていました」
***
共さんは、綴りから、顔を上げた。
***
「……山に入る前に」
しばらくして、共さんは言った。
「伊左衛門さんの手帳の端に、名前を書いたんです。一字だけ」
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じいちゃんの手帳の、地名の脇の、几帳面な「共」の字。
メレオスが最初に見つけて、誰の字だと声を震わせた、あの一文字。
***
「忘れないでください、と言って」
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息が、止まった。
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忘れんように、じゃ。
じいちゃんは、毎年、冬至の夜に、そう言って庭に出た。
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由紀の肩の上で、メレオスが、小さく鼻をすすった。
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赤城は、何も言わなかった。
膝の上で、手を組んでいた。
その手に、少しだけ、力が入っていた。
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「……戸籍は、戻します」
しばらくして、赤城は言った。
「時間は、かかりますが。必ず」
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由紀の肩の上で、メレオスが、身を乗り出した。
***
「待て。わしより先に、身分ができるのか」
「かみさまは、一生無理でしょ」
「なにっ」
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共さんが、メレオスを見た。
それから、小さく、吹き出した。
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五十年ぶりに笑った人の、ぎこちない笑い方だった。
***
由紀が、一歩、前に出た。
***
手に、紙袋を持っていた。
中身は、羊羹だった。
病院に来る前に、駅前の和菓子屋で買ってきたものだった。
***
「……あの」
由紀は、共さんを見た。
「はじめまして、じゃないですよね。店と、戸の中で、二回、会ってるから」
***
「……はい」
共さんは、ベッドの上で、姿勢を正した。
道場で、稽古を受ける前の座り方だった。
「守って、くださって。ありがとう、ございました」
***
「守ってません」
由紀は、首を振った。
「閉めなかっただけです。……助けたいって、言ったから」
***
共さんは、何も言えずに、由紀を見ていた。
由紀は、紙袋を、ベッドの横の台に置いた。
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「羊羹です。おいしいやつ」
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それから、由紀は、くるりと振り返った。
赤城のほうに。
***
「赤城さん」
「何かな」
「羊羹、おいしかったですか」
***
冬至が終わったら、二回目を聞きます。
由紀は、0課の会議室で、そう言っていた。
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赤城は、少しだけ、由紀を見た。
それから、答えた。
***
「うまかった」
***
「あたしも、です」
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由紀は、満足そうに、メレオスを見た。
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「これで、かみさまと、同点」
「……ぬう」
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赤城の口元が、ほんの少しだけ、緩んだ。
鼻血の行を見たときと、同じ顔だった。
共さんが、それを見て、また少しだけ、笑った。
***
その日の夕方。
両親が、温泉から帰ってきた。
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父さんは、上機嫌だった。
温泉まんじゅうを、三箱買ってきていた。
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母さんは、玄関で、靴を脱ぐ前に、俺と由紀の顔を、順番に見た。
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由紀の目が、まだ少し、赤かった。
俺の手には、山で擦りむいた傷があった。
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「……で」
母さんは言った。
「何を、隠してたの」
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由紀が、一歩、前に出た。
***
「ゆず湯、浮かべすぎた」
***
父さんが、廊下の奥から、声を上げた。
「ほら見ろ。お祖父ちゃんと、同じことをする」
***
母さんは、しばらく、由紀を見ていた。
それから、俺を見た。
***
「……まあ、いいわ」
母さんは、靴を脱いだ。
「いつか、ちゃんと、聞くから」
***
その夜。
アパートに帰ると、赤城から、グループではなく、俺に直接、電話があった。
***
「健司くん」
「はい」
「一つ、伝えておく」
***
赤城の声は、いつもどおり、丁寧だった。
丁寧すぎた。
***
「今朝、俺のスマホに、写真が一枚、届いた。知らない番号からだ」
***
「……写真」
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「羊羹だった」
***
息が、止まった。
***
「文字は、なかった」
赤城は、静かに言った。
「神様からではない。神様の番号は、登録してある」
***
「羊羹の写真を送り合っていることを、知っている誰か、ということだ」
***
電話の向こうで、赤城が、少しだけ黙った。
***
「……俺の、すぐ近くにいる誰かだ」
***
窓の外は、もう、暗かった。
冬至を過ぎて、夜は、昨日より、ほんの少しだけ短くなっていた。




