幕間 子午線の会議
どこの国の地下なのかは、そこに座る者たちにも、知らされていなかった。
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円い卓があった。
明かりは、卓の真ん中に一つだけ。
光は卓の縁までしか届かず、座る者たちの胸から上は、暗がりに沈んでいた。
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席は、七つあった。
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四つの椅子に、人が座っていた。
残りの三つには、椅子の代わりに、黒い画面が立てられていた。
画面の中にも、人がいた。
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七人とも、顔を覆っていた。
白い、のっぺりとした仮面だった。
額に、線の入った紋様が一つずつ、刻まれていた。
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線の数は、席ごとに、少しずつ違った。
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誰も、名前を呼ばなかった。
ここでは、名前は使わない。
使うのは、経度だけだった。
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「始めよう」
卓の北の席から、声がした。
年を取った声だった。
その席は、零度と呼ばれていた。
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「東経百三十五度」
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呼ばれた席の男が、わずかに背を伸ばした。
仮面の下で、喉が動くのが分かった。
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「報告を」
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「……『常世会』の本部は、先に報告したとおりです」
東経百三十五度が言った。
「その後、残っていた拠点を、一晩で六か所、潰されました」
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「一晩で」
「一晩で、です」
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「確保されたのは、四十九人。『常世会』の首謀者も、含まれています」
東経百三十五度は、手元の紙に目を落とした。
「さらに、湾岸の倉庫で、二十三人」
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卓の空気が、硬くなった。
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「首謀者は、何を喋った」
西経七十五度の画面から、声がした。
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「知っていることは、全部」
「何を知っていた」
「多くは、ありません。あの方の顔と、会った場所と、会った回数くらいです」
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「十分だ」
西経七十五度は、吐き捨てるように言った。
「顔と場所があれば、人は辿り着く」
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零度は、黙って聞いていた。
それから、一つだけ、聞いた。
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「死者は」
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東経百三十五度は、少し間を置いた。
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「……ゼロです」
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円卓が、静かになった。
今夜いちばん、静かになった。
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殺す相手なら、話は簡単だった。
死んだ者は、何も喋らない。
消えた拠点は、消えたまま、忘れられていく。
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殺さずに捕まえる相手は、違う。
捕まえた数だけ、証言が残る。
証言の数だけ、紙が残る。
紙は、五十年かけて消してきたものを、一枚ずつ、元に戻していく。
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「東経百三十五度の処分は」
零度が言った。
「後で決める」
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東経百三十五度は、何も言わずに、頭を下げた。
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「西経七十五度。西経百二十度」
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二つの画面が、わずかに明るくなった。
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「CIAの担当官が、まだ、日本にいる」
西経七十五度が言った。
「名前を掘り返した男だ。本国から、二度と口にするなと言わせた。帰国の命令も出させた」
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「それでも、戻らなかった」
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「あの国の上のほうにも、我々の席はある」
西経七十五度の声は、低かった。
「その席から、言わせた。……それでも、だ」
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「五十年前には、それで足りた」
西経百二十度が言った。
「担当者ごと、消せば済んだ」
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「今は、済まない」
零度が言った。
「日本の役人が、あの男を抱え込んでいる」
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「扉のほうは」
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「東海岸は、二度」
西経七十五度が答えた。
「西海岸は、一度。どれも、開きかけて、閉じた」
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「足りなかった、ということです」
西経百二十度が付け加えた。
「差し出したものが」
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差し出したもの、と、西経百二十度は言った。
人の数のことだった。
誰も、それを言い直さなかった。
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零度が、卓の上で、指を組んだ。
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「一つだけ、開いた」
零度が言った。
誰に向けたとも分からない、低い声だった。
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どこの扉が、と聞く者はいなかった。
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「呼んだのは、我々だ」
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零度は、組んだ指に、少しだけ力を入れた。
それきり、続きは言わなかった。
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明かりが、揺れた。
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風のない地下で。
卓の真ん中の、一つだけの明かりが。
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円卓の端の、どの席でもない暗がりに、男が一人、立っていた。
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誰も、扉の開く音を聞いていなかった。
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四十くらいの男だった。
くたびれた上着を着ていた。
子供みたいな目をしていた。
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顔を、覆っていなかった。
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円卓の中で、ただ一人。
隠す必要がないのだと、全員が分かっていた。
その顔は、あれの顔ではなかったから。
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壁際の護衛が、銃を上げた。
三人。
三つの銃口が、男に向いた。
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男は、そっちを見もしなかった。
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「下ろせ」
零度が言った。
「無駄だ」
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銃口が、ゆっくりと下がった。
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男は、首を傾げて、円卓を見回した。
七つの仮面を。
七つの紋様を。
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「みんな、顔を隠してるんだね」
楽しそうな声だった。
「隠してるから、見つからない。見つからないから、何もしない。五十年も」
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「招いた覚えは、ない」
零度が言った。
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「呼んだ覚えは、あるでしょう」
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零度は、答えなかった。
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「お前は、我々が呼んだ」
代わりに、そう言った。
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「うん」
男は、頷いた。
「だから、来た」
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「来てあげた、の間違いだと思うけど」
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西経七十五度の画面が、ざらりと揺れた。
「湾岸で、二十三人を失った」
声が、尖っていた。
「回線も捨てた。首謀者も渡した。……お前は、遊んでいただけだ」
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「伊左衛門の孫に、かまいすぎる」
西経百二十度が続けた。
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男は、画面のほうを向いた。
首を、反対側に傾げた。
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「遊んでたんじゃない」
「見てたんだ」
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「何を」
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「撃たないやつが、どこまで撃たないでいられるか」
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誰も、続きを聞かなかった。
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男は、円卓の縁に、両手をついた。
それから、七つの席を、順番に見た。
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「提案が、あるんだ」
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「全部の扉を、同じ夜に、開けよう」
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円卓が、凍った。
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「一か所ずつ開けるから、一人に止められる」
男は、言った。
「五十年前も、そうだった。今年も、そうだった」
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「東も、西も、北も、南も。この卓にある席の、全部の扉を」
「同じ夜に開けたら、止める人間は、足りない」
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「開け方は」
零度が言った。
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「知ってる」
男は、あっさり答えた。
「向こうから来たのは、こっちだから。扉の、どこを押せば開くのか。いちばん、よく知ってる」
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零度は、黙った。
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円卓の全員が、同じことを分かっていた。
この男は、呼んだはずの道具だった。
そして、扉の鍵でもあった。
道具なら、捨てればいい。
鍵は、捨てられない。
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「反対だ」
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西経百二十度の画面だった。
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「五十年、隠れてきたのは、理由がある。表に出れば、各国が、本気で潰しに来る」
西経百二十度の声は、震えていなかった。
「同じ夜に、全部を開ける。……それはもう、儀式じゃない。戦争だ」
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男は、西経百二十度の画面を、じっと見ていた。
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「五十年、隠れてたから」
静かな声だった。
「負けたんだよ」
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画面の向こうで、何かが、ぴしりと鳴った。
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薄い陶器にひびが入るような、小さな音だった。
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西経百二十度の仮面に、額から顎まで、一本の線が走っていた。
紋様の線とは、違う線だった。
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画面の中の人影が、仮面を両手で押さえた。
声は、出なかった。
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画面が、暗くなった。
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回線が切れたのか。
切られたのか。
誰にも、分からなかった。
誰も、確かめようとしなかった。
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男は、何事もなかったように、円卓の縁に手をついたままでいた。
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その指が、卓の木目を、なぞっていた。
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几帳面な、一画だった。
それから、もう一画。
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指が、止まった。
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男の首が、がくりと、大きく傾いた。
ほんの一瞬、目の色が、変わった。
疲れた、大人の目に。
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すぐに、戻った。
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「……まだ、起きるんだ」
男は、誰にも聞こえない声で、呟いた。
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円卓の誰も、気づかなかった。
全員が、暗くなった画面を見ていた。
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卓の木目に、二画だけの、何かが残っていた。
書きかけの、字のようなものが。
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「決を、採る」
零度が言った。
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「同じ夜に、全部の扉を開ける。賛成の者は」
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東経百三十五度の手が、上がった。
処分を待つ席に、選ぶ余地はなかった。
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西経七十五度の画面の中で、手が上がった。
残りの席も、一つずつ、上がっていった。
暗くなった画面の分を、除いて。
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零度の手だけが、上がらなかった。
***
一拍。
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男が、零度のほうを見た。
首を、傾げて。
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零度の手が、上がった。
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呼ばなければよかった。
その一拍のあいだに、零度が何を思っていたのかを、口に出す者はいなかった。
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「いつ」
零度が聞いた。
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「一番、長い夜に」
男は、答えた。
「夜が長いほうが、扉は、よく開くから」
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「日本の扉は」
東経百三十五度が、かすれた声で聞いた。
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「あの山」
男は、嬉しそうに言った。
「今度は、邪魔が入らないように、するから」
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会議は、それで終わった。
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画面が、一つずつ消えていった。
椅子の者たちが、一人ずつ、暗がりの扉から出ていった。
誰も、男のほうを振り返らなかった。
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円卓には、二人だけが残った。
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零度と、男と。
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「一つ、聞く」
零度が言った。
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「邪魔が入らないように、と言ったな」
「言ったね」
「邪魔とは、誰だ」
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男は、窓のない壁を見た。
東のほうの、壁だった。
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しばらく、そうしていた。
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「伊左衛門の……」
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そこまで言って、男は、首を傾げた。
それから、笑った。
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明かりが、揺れた。
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揺れが止まったとき、円卓の端には、誰もいなかった。
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零度は、一人で、卓の木目を見下ろしていた。
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几帳面な、二画だけの、何か。
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零度には、それが何なのか、分からなかった。




