第二章 魔法の練習
「もっと気を練らんかい!」
スパーンと、どこから持って来たのかハリセンでしばかれる。
「痛っ!」
「魔法は気合いとイメージじゃ!」
このところ、ずっと夜に繰り広げられる魔法練習だ。
どこぞのスポ根アニメのように、しごかれている。
「そんなこと言っても」
スパーン!
「どうすれば」
スパーン!
「いいのか」
スパーン!
「話を聞けー!」
ハリセンを持つ手が、ようやく止まった。
「具体的に説明してくれ!」
「仕方ないのぉ」
メレオスは、ハリセンを脇に挟んだ。
「体の中の気を、体内で巡らせるんじゃ」
「それでもって、指先に気を集めて、後はイメージじゃ」
言いながら、人差し指を立てた。
「ほれっ」
メレオスの指先に、火が灯った。
「おぉ!すげぇ」
なになに。体内の気を巡らせて、指先に気を集めて、イメージか。
言われたとおりに、指を立ててみる。
「何も起こんないぞ」
「イメージが足りないのじゃ」
メレオスは、自分の指先の火を、ふっと消した。
「そうさのう、ロウソクの火が指先に灯るようなイメージをしてみろ」
ロウソクの火、ロウソクの火。
「むん!」
ポワッ!
「あちち!」
「ぶわっはは、自分の魔法でダメージを受けとるわ!」
腹を抱えて笑いながら、それでも指で距離を示してきた。
「もう少し、指から離れた所に灯るようにイメージするのじゃ」
指先の熱を振って冷ましながら、俺は少し得意になっていた。
「でも、出来たぞ!簡単だな」
「馬鹿者が、普通の人間には出来んわ。伊左衛門の修行のおかげじゃ!」
「じいちゃんの修行が……」
「そうじゃ。小さい頃から気功の訓練をしてたおかげじゃ」
昔は友達と遊びたかったのに、やらされていた訓練のおかげか。
「ラノベと違って、詠唱しなくても魔法は使えるんだな」
メレオスは、にやりとした。
「お主は、その歳で『火の精霊よつどえ何ちゃらかんたら』言いたいんか?」
それは恥ずかしい。勘弁して欲しいな。
「いまのは火種じゃ」
「は?」
「ロウソクは入り口。簡単などと思うな」
「じゃあ、次は何だよ」
メレオスは、脇のハリセンを抜いて、肩に担いだ。
「もっと大きな火をイメージせい。ただし、部屋の中で焚き火はするなよ?」
するなよ、と言いながら、目が笑っている。
ラノベなら、ここでファイアボールだ。
野球ボールくらい。いや、メロンくらい。いや、コンロよりは大きく——
「むん!」
ドワッ!
リビングの真ん中に、火の玉が落ちた。
「あわわわわ!」
テーブルも、床も、焦げる。
カーテンの裾が、燃えている。
「消火!消火!」
「ぶわっははは!イメージがデカすぎるわ!」
笑ってる場合か!
水道へ走る。コップ、足りん!!バケツで水をかける。
バシャー!
やっと消えた。
ドン、と床が鳴った。
下の階だ。
「夜中に何やってんだよ!」
「す、すみません!」
周りを見ると、いつの間にかメレオスがいない。
消えた。
「おい、いるだろ」
返事がない。
テーブルは、まあしょうがないが、床も少し焦げている。
賃貸なのにぃ~
濡れたカーテンの裾を絞る。
「どうじゃ。消えたか?」
いつの間にか、後ろにいる。
「消えるんなら、先に火を消せ」
メレオスは、焦げた床を見下ろして、平然と言った。
「守護神は見世物じゃないからのぉ。火はお主が出した」
そうだ。俺が出した。責任は俺にある。
でも、消してくれてもいいだろう。
使えない守護神様だ。言わんけど。
「簡単じゃなかったな」
「当たり前じゃ。火種と焚き火は別物よ」
「次は、小さくする練習な」
「ほう。学習したか」
「明日、会社なんだよ。部屋を燃やすわけにいかん」
メレオスはハリセンを、どこかへしまった。
窓を開けて、焦げた匂いを出す。
下の階は、もう文句を言ってこない。
火は使えた。
使っていい場所では、なかった。
明日は会社だ。
憂鬱だ。




