第一章 祖父の死と守護神との出会い
今日は、祖父の葬式だった。
喪主は、父親だ。
祖父の門下生と友人が、結構な人数で来てくれた。それだけなら、分かる。
分からないのが、警察のお偉方と、政府関係者だ。
俺でも知っている大臣までいた。
祖父の交友関係は、謎だ。
父の総一郎は、忙しい顔のまま、出席者とあいさつを交わしている。
母の幸子は、式を、つつがなく回している。
妹の由紀は泣いたのか、目が少し赤い。
俺は受付をやりつつ、祖父との思い出が浮かぶ。
小さい頃から大学生まで、気功と合気道をたたきこまれた。
社会人になってからは、たまにしか訓練はやっていない。
訓練のときは、とても厳しかった。それ以外は、やさしい祖父だった。
突然の死だった。
九十八年生きて、大往生だ。
悲しくなくはない。
良しとしよう。
さよなら、じいちゃん。
ぐすん。
***
葬式もつつがなく終わり、アパートに帰ったらリビングに金髪で、服装の変な子供がいた。
「誰?君?」
子供は、胸を張った。
「オッス!おらメレオス!」
それから、急に声の調子を変えた。
「神であるぞよ」
「神?」
怪しい。
メッチャ怪しい。
控えめに言っても、この上なく怪しい。
「……神様が、何しに?」
いぶかしげに尋ねた。
「伊左衛門の守護霊だったが、死んでしまってのぉ〜」
子供は、ソファの背によじ登った。
「それで、健司の守護霊になりに来た!」
じいちゃん、聞いてないよ!!
「本当に神様なの?」
「ホントにホント。わしは神じゃ。しかも、異世界の」
「異世界!?」
思わず反応してしまった。
ラノベの知識が恨めしい。
「証拠見せてよ」
「ほれ!」
き、消えた!
「どうじゃ?」
また、現れた。
どうやら、本当に神様なのか?
「幽霊じゃないよね。このアパート、事故物件だったのか?」
「あんな、低俗なものと一緒にするでない!」
これは、信じるしかないか。
「なぜ、俺の守護神に?」
神様は、遠くを見るような目をした。
「前々から伊左衛門に頼まれておってのぉ」
ソファの背から、ぽんと床に降りた。
「孫の健司は、とにかく不器用だから、俺が死んだら守ってやって欲しいと」
じいちゃん、それも聞いてないよ!!!
「守護神はいいけど、何か捧げるの?魂?」
「悪魔か!わしは!」
胸の前で、手を大きく振った。
「何もいらん!」
それから、腕を組んで俺を見上げた。
「守護神として受け入れるのか、どうするのか?」
守護神なぁ。
どうすっかなぁ。
悩むなぁ。
損にも得にもならないから、受け入れるか。
「じゃあ、守護神を受け入れるよ」
「じゃあってのが気になるが、まあええじゃろ」
ふんぞり返って、親指を立てた。
「守護神の座、ゲットだぜ!」
こうして、メレオスは俺の守護神になった。
テレレテッテレー
「ところで、守護神って何するの?」
「そうさなぁ。何するんじゃろう?」
「知らんのかい!」
「伊左衛門は、何も求めて来なかったからのぉ」
ラノベの知識が、また顔を出した。
「異世界の神だったら、俺も魔法とか使えるようにできるの?」
「できるぞ」
あまりに、あっさりだった。
「さすがに魔法はできないよなって、できるんかい!」
「お主、伊左衛門から気功を習っておったじゃろう。訓練すれば使えるようになるぞ」
「魔法かぁ。訓練してみようかな」
こうして、守護神様と魔法の訓練をすることになった。
***
深夜、アパートの屋根の上に、メレオスがいた。
街灯の明かりが届かない、低い屋根の端だった。
小さな体が、膝を抱えて座っていた。
夜の空を、長いこと見上げていた。
「伊左衛門、逝ってしもうたか……」
さっきまでの、おどけた声ではなかった。
「人間は、寿命が短いのぅ」
膝の上で、手が組まれた。
「お前との生活は、結構楽しかったぞ」
「お前との約束、一応果たしたぞ」
風が、金色の髪を揺らした。
「天国で、夫婦仲良く過ごしてくれ」
それだけ言って、立ち上がった。
「さらばじゃ、伊左衛門」
メレオスの頬に、涙がつたう。
下の部屋では、俺が、何も知らずに眠っていた。




