第二十三章 黒幕は国際的だった!
朝、地下に降りる。
会議室に入ると、パーカー姿の『ギーク』が、いつになく神妙な顔をしていた。
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「聞いてください。ちょっと、洒落にならないの見つけました」
前置きなしだった。
「紋章の件です」
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ノートパソコンの画面が、みんなに向けられる。
「あの紋章、あちこちの闇サイトとか、追跡ログとか、片っ端から突き合わせてたんですけど」
「うん、うん」
「出てきたんですよ。同じ紋章」
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「どこで」
課長が聞く。
「……CIAのサーバーです」
会議室が、静かになった。
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「シー、アイ、エー」
『レスラー』が、区切って発音した。
「アメリカの、あのCIAですか」
「他にどこがあるんですか」
『ギーク』が、あっさり返す。
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「なんで、そんなとこに入れるんだよ」
「昔、ちょっと縁があって」
「縁で入れるところじゃないだろ、あそこ」
『レスラー』の顔が、引きつっていた。
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「アメリカの国防省に喧嘩売ったことがある、って前に聞きました」
俺が言うと、『ギーク』が親指を立てた。
「あれの延長です」
延長で済む話だとは、とても思えなかった。
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『ホラー』が、画面を覗き込む。
「これ、『常世会』の逃走車のログにあった紋章と、同じですか」
「まったく同じです。線の本数まで」
線が一本多いあの紋章。
それが、日本の田舎宗教団体の話ではなく、アメリカの情報機関のサーバーに残っていた。
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『レディー』が、爪を見るのをやめていた。
「つまり、どういうこと」
「『常世会』の後ろにいる何かは、少なくとも、アメリカにも足がかりがある、ってことです」
『ギーク』の声から、いつもの軽さが半分抜けていた。
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「規模、でかすぎません?」
俺は、思わず聞いた。
新興宗教の残党を追っていたはずが、いつの間にか、話の大きさが二段階くらい飛んでいる。
ラノベなら、これは中ボスの後ろに黒幕組織がいるパターンだ。
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「うん、うん」
課長が、いつもの相槌を打ったあと、珍しく長く黙った。
「これは、赤城さんに、直接聞いてもらったほうがいいね」
冗談ではない声だった。
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その日のうちに、赤城が来た。
課長の連絡から、来訪まで、いつもより早かった。
「見せてくれ」
前置きは、なかった。
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『ギーク』が、同じ画面を見せる。
赤城は、しばらく、無言だった。
「……これは」
「『常世会』の紋章と、酷似しています。ただし、線が一本多い」
「知っている。課長から、聞いた」
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「アメリカが絡んでいる、と」
赤城の声が、低くなる。
「絡んでいる、というより、少なくとも、向こうも把握はしているようです」
『ギーク』が、慎重に言葉を選んでいた。
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「『ギーク』くん」
「はい」
「この情報を得た経緯は」
一瞬、間があった。
「……訓練で身につけた、独自のルートです」
事実を、ぎりぎりまで薄めた言い方だった。
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「そうか」
赤城は、それ以上、追及しなかった。
「詮索しないほうがいい類の話、ということだな」
「はい」
『ギーク』が、素直に頭を下げた。
珍しい光景だった。
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「外務省に、連絡する」
赤城が言った。
「アメリカ側と、正式な形で、この情報を共有できないか、当たってみる」
課長が、めずらしく心配そうな顔をした。
「大丈夫ですか、あの、いろいろと」
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「大丈夫ではないだろうな」
赤城が、あっさり認めた。
「だが、『常世会』の先にいるものが、国境をまたぐ相手なら、うちだけでは手に負えない」
その言い方に、迷いはなかった。
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数日後、課長が、会議室にみんなを集めた。
「外務省から、返事があったそうだ」
「そうだ、って伝聞なんですね」
『レディー』が、すかさず突っ込む。
「赤城さんから聞いた話だからね」
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課長が続ける。
「まず、向こうは渋ったらしい」
「CIAの情報を、どういう経路で入手したのか、と。かなり詰められたそうだ」
『ギーク』の顔が、少しだけ青ざめた。
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「日米関係に響きかねない、危うい橋だと。慎重にも慎重を重ねてくれ、と言われたらしい」
役所らしい言い回しだった。
「それに対して、赤城さんは」
課長が、一拍置いた。
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「そんなことは些細な問題だ、と言い切ったそうだ」
「それより、CIAとの正式なパイプを作ることのほうが重要だ、と」
会議室に、乾いた空気が流れた。
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「些細、って言い切りましたか」
俺は、思わず聞いた。
「言い切ったらしい。外務省の担当者、絶句してたって」
課長が、他人事のように笑った。
他人事ではなかった。
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「結局、押し切られる形で、外務省が折れたそうだ」
「うん、うん。近いうちに、CIAの人間を、うちに招くことになる」
一同、しばらく、声が出なかった。
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「うちって、この、地下の会議室にですか」
『レスラー』が、天井を見上げた。
コンクリート打ちっぱなしの、殺風景な部屋である。
「存在しない部署に、正式な外国機関を呼ぶんですか」
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「うん、うん。前例がない、って外務省も言ってたらしいね」
課長が、他人事の顔のまま、湯呑みのお茶をすすった。
前例がないことだらけの部署だった。今更である。
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「あの」
『ギーク』が、おそるおそる、手を挙げた。
「その、来るCIAの人って、まさか、私がサーバーに入ったこと、気づいてたりします?」
会議室の空気が、また、少しだけ変わった。
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「さあ」
課長が、頼りない笑顔のまま言った。
「気づいていたら、たぶん、真っ先に君に会いたがるだろうね」
『ギーク』の顔から、完全に血の気が引いた。
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「肉まん、何個で許してもらえますかね」
「アメリカ人に、肉まんの交渉が通用するかは、私も知らない」
課長の返事は、少しも慰めになっていなかった。
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アパートに帰った。
「おかえりじゃ。今日は、また、変な顔をしとるな」
メレオスが、ソファでこっちを見ていた。
「『常世会』の紋章、アメリカのCIAのサーバーにもあった」
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メレオスの目が、大きくなった。
「アメリカ、じゃと」
「知らない国の名前でも聞いた顔だな」
「知らんわけではない。じゃが……国境をまたぐほどとは、思っておらなんだ」
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「おじいちゃんが渡り合った相手、そんなに大きいのか?」
「わしにも、全貌は見えん。ただ」
メレオスが、めずらしく、言葉を選ぶ間を置いた。
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「一国の情報機関に、痕跡を残すほどのものじゃとすれば」
「伊左衛門が、殺さずに追い返した、というのも」
「見え方が、変わってくるかもしれん、ということじゃ」
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半分消えたはずの心残りは、いつの間にか、日本の外にまで広がっていた。
近いうちに、この地下の会議室に、外国の情報機関の人間が来る。
存在しない部署に、である。
ラノベでも、ここまで話が大きくなる展開は、そう多くない。
現実は、ときどき、ラノベより無茶をする。




