幕間 覚えている顔
土曜、久しぶりに実家に顔を出した。
課長に「休んでおきなさい」と言われた翌日だった。
休み方が分からず、結局、実家に帰った。
食卓には、いつもの三人がいた。父、母、由紀。
「健ちゃん、痩せた?」
母の第一声は、いつもこれだった。
「別に、普通だよ」
「お仕事、大変なんでしょう」
「まあ……警察関係だから」
いつもの答えで、済ませる。
由紀が、箸を止めて、こっちを見た。
「その『警察関係』、いい加減、詳しく聞きたいんだけど」
「言えないんだって」
「怪しい。メッチャ怪しい」
いつもの応酬だった。
気が、緩んでいたのかもしれない。
「この前、赤城さんに会った」
言ってから、しまったと思った。
***
「あかぎ……」
由紀が、箸を置いた。
「あ。葬式にいた人だ。丁寧なのに、めちゃくちゃ怖かった人」
名前しか出していないのに、即答だった。
「よく覚えてるな」
「あの空気は、忘れないよ」
妹の記憶力に、少し感心した。
***
父が、顔を上げた。
「赤城さんと……お前が?」
箸が、一瞬、止まっていた。
「はい。仕事の関係で」
「そうか」
それだけだった。
だが、驚いた顔は、隠しきれていなかった。
「お父さんも、知ってるの?」
由紀が聞く。
「まあ、お祖父ちゃんの、知り合いだからな。国務大臣だ。」
「えぇ!大臣?めっちゃ偉い人じゃん!」
由紀が驚く。
***
母が、場を取りなすように言った。
「偉い人と知り合いなのね、健ちゃん」
「知り合いってほどじゃ……」
「今度、うちにも呼んでよ」
「無理だと思う」
軽口に、軽口で返す。
いつもの食卓に、戻っていく。
由紀は、まだ何か言いたそうな顔をしていたが、それ以上は追及してこなかった。
***
夜、アパートへの帰り道。
家族には、まだ、ほとんど何も話していない。
赤城の名前も、公安0課の中身も、ほんの入り口だけだ。
由紀の食いつきも、父の一瞬の驚きも、無理はない。
葬式で見ただけの、雲の上の人だ。
それが、まさか息子の仕事相手になるとは、誰も思っていなかった。
それだけのことだ、と思うことにした。




