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幕間 後日談・夏

「経費では、落ちません」


加藤さんが言った。


0課が、少しだけ、ほっとした。


***


七月二十六日。月曜日。

0課の朝だった。


***


加藤さんは、こめかみを指で押さえていた。


机の上に、水のペットボトルがあった。

二本目だった。


***


「……きのうは」


課長が言った。


「きのうは、きのうです」


加藤さんは、手帳を開かなかった。

開くと、字が揺れるらしかった。


***


「二日酔いの、薬は」


『レスラー』が、引き出しから箱を出した。


「私物です」


加藤さんは、受け取らなかった。

自分の鞄から、同じ箱を出した。


***


「金曜の、領収書は」


『ジョン』が、小声で聞いた。


「通しました」


加藤さんは、目を閉じたまま言った。


「一円まで」


***


0課は、いつもの0課に戻っていた。


一晩だけ、違った。

それで、十分だった。


***


八月九日。月曜日。

0課の、昼休みだった。


***


『ジョン』の机に、封筒が一つ、来ていた。


警察病院の、封筒だった。

中に、便箋が一枚。


英語で、一行だけだった。


***


「……茶を、もう一杯、だ」


『ジョン』が訳した。


***


共さんは、もう立っていた。


鞄に、紙コップを入れていた。

ティーバッグも、入れていた。


それから、少し考えて、急須を入れた。


***


「急須、ですか」


「紙コップは。一度で、ようございます」


***


その日の午後、共さんは病院へ行った。


『ジョン』が、ついて行った。

俺は、行かなかった。


二人で、十分な部屋らしかった。


***


夕方、共さんが戻ってきた。


急須を、洗っていた。


「……二杯、お飲みに、なりました」


それだけだった。


***


八月三十日。月曜日。

実家の、夕飯だった。


***


エミリーが、ノートを広げていた。


夏休みの、宿題だった。

絵日記だった。


***


最後のページに、絵が描いてあった。


緑の山と、小さい女の子と、金色の子供。

金色の子供は、羊羹を持っていた。


***


下に、ひらがなで、書いてあった。


『かみちゃんと、やまに、いった』


***


「……行ってないだろ」


「いった」


エミリーは、言い張った。


「ゆめで、いった」


***


メレオスが、ノートをのぞきこんだ。


「わしの、羊羹は。もう少し、厚い」


「あつく、する」


エミリーは、色鉛筆で、羊羹を太くした。


***


九月一日。

始業式の、夕方だった。


エミリーが、ランドセルを背負ったまま、実家の玄関に立っていた。


***


「せんせーが、きいた」


「何を」


「かみちゃんって、だれ、って」


***


「何て、答えたの」


母が聞いた。


エミリーは、少し考えた。


「かぞく」


***


母は、何も言わずに、エミリーの頭に手を置いた。


それから、カレーをよそった。


***


九月の、半ばだった。

共さんの、官舎だった。


***


母に、また羊羹を持たされていた。


『ホラー』は、もう、夜の番をしていなかった。

それでも、週に二回、お茶を飲みに来ていた。


今夜は、来ていない日だった。


***


十時を、過ぎた。


共さんが、鏡の前に立った。

髪を、とかしていた。


***


櫛が、止まった。


***


共さんは、鏡を見ていた。


それから、指で、一本、探した。


白かった。

二本目だった。


***


共さんは、抜かなかった。


手帳も、出さなかった。


***


「……ようございます」


鏡に向かって、言った。


それから、櫛を、また動かした。


***


「抜かんのか」


肩の上で、メレオスが聞いた。


「一本目は。証拠で、ございました」


共さんは、櫛を置いた。


「二本目からは。ただの、白髪で、ございます」


***


羊羹を、切った。


定規は、使わなかった。

全部、同じ厚さだった。


***


夏が、終わりかけていた。


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