第百十九章 隣の、店
「送料は、私物です」
加藤さんが言った。
ロンドンから届いた、箱の話だった。
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三月十九日。金曜日。
0課の朝だった。
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『ブル』が、箱を開けた。
紙に包まれて、カップが一つ出てきた。
白かった。
うちにある六つと、同じだった。
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「七つ、そろい申した」
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箱の底に、紙が一枚あった。
走り書きだった。英語だった。
『ブル』が、読んだ。
長いこと、読んでいた。
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「……隣に。細い傘が、来た」
「三日、かかる、そうだ」
『ブル』の、訳の声だった。
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部屋が、静かになった。
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「大事な、席の、前には」
『ブル』は、紙を置いた。
「あの男は。傘を、巻き直して、出かけ申す」
二十年前から、そうだった人の話だった。
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「職人は。客の、ことは、言わぬ」
「隣は。言うので、ござるな」
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「頼んで、あったのか」
『ジョン』が聞いた。
「カップを、頼んだ、だけで、ござる」
『ブル』は、紙の端を指さした。
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もう一行、あった。
「……カップの、代金は。まだか」
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「払って、ないんですか」
「着いてから、払い申す」
「ロンドンの人、催促、早いですね」
「隣も、職人も。同じ、通りで、ござる」
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その日の午後。
警察病院の、個室だった。
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廊下の長椅子に、『レスラー』がいた。
「けさ、花が、来た」
「普通の、花屋だった」
「送り主は」
「書いて、なかった」
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鷲尾は、ベッドの上で、背筋を伸ばしていた。
窓の台に、白い花があった。
その横に、封筒が一つあった。
花の中に、挿してあったらしかった。
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「開けて、いないのか」
赤城さんが言った。
「私宛では、ございません」
鷲尾は、封筒を俺のほうへ押した。
定規で測ったみたいに、まっすぐだった。
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「引き継ぎで、ございます」
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封筒の表に、字はなかった。
線が一本、引いてあった。
まっすぐな、一本だった。
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中に、白い紙が一枚。
数字だけだった。
『23・III・15:00』
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「三月、二十三日。午後、三時」
赤城さんが読んだ。
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「前と、同じ、戸で、ございます」
「線の、先の」
鷲尾は、窓を見たまま言った。
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「カップは」
「七つ、そろいました」
「……結構です」
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「紙、半分も。お忘れなく」
「床を、盛ります」
「床、で、ございますか」
鷲尾の眉が、動いた。
「……それは。存じ、ませんでした」
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封筒を、胸のポケットに入れた。
名刺の、隣だった。
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「健司」
肩の上で、メレオスが言った。
「また、鉄の塊じゃな」
「……なれた」
「半分、じゃろ」
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三月二十三日まで、あと四日だった。




