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第百十九章 隣の、店

「送料は、私物です」


加藤さんが言った。

ロンドンから届いた、箱の話だった。


***


三月十九日。金曜日。

0課の朝だった。


***


『ブル』が、箱を開けた。


紙に包まれて、カップが一つ出てきた。

白かった。


うちにある六つと、同じだった。


***


「七つ、そろい申した」


***


箱の底に、紙が一枚あった。

走り書きだった。英語だった。


『ブル』が、読んだ。

長いこと、読んでいた。


***


「……隣に。細い傘が、来た」

「三日、かかる、そうだ」


『ブル』の、訳の声だった。


***


部屋が、静かになった。


***


「大事な、席の、前には」


『ブル』は、紙を置いた。


「あの男は。傘を、巻き直して、出かけ申す」


二十年前から、そうだった人の話だった。


***


「職人は。客の、ことは、言わぬ」

「隣は。言うので、ござるな」


***


「頼んで、あったのか」


『ジョン』が聞いた。


「カップを、頼んだ、だけで、ござる」


『ブル』は、紙の端を指さした。


***


もう一行、あった。


「……カップの、代金は。まだか」


***


「払って、ないんですか」


「着いてから、払い申す」


「ロンドンの人、催促、早いですね」


「隣も、職人も。同じ、通りで、ござる」


***


その日の午後。

警察病院の、個室だった。


***


廊下の長椅子に、『レスラー』がいた。


「けさ、花が、来た」

「普通の、花屋だった」


「送り主は」


「書いて、なかった」


***


鷲尾は、ベッドの上で、背筋を伸ばしていた。


窓の台に、白い花があった。

その横に、封筒が一つあった。


花の中に、挿してあったらしかった。


***


「開けて、いないのか」


赤城さんが言った。


「私宛では、ございません」


鷲尾は、封筒を俺のほうへ押した。

定規で測ったみたいに、まっすぐだった。


***


「引き継ぎで、ございます」


***


封筒の表に、字はなかった。

線が一本、引いてあった。


まっすぐな、一本だった。


***


中に、白い紙が一枚。

数字だけだった。


『23・III・15:00』


***


「三月、二十三日。午後、三時」


赤城さんが読んだ。


***


「前と、同じ、戸で、ございます」

「線の、先の」


鷲尾は、窓を見たまま言った。


***


「カップは」


「七つ、そろいました」


「……結構です」


***


「紙、半分も。お忘れなく」


「床を、盛ります」


「床、で、ございますか」


鷲尾の眉が、動いた。


「……それは。存じ、ませんでした」


***


封筒を、胸のポケットに入れた。

名刺の、隣だった。


***


「健司」


肩の上で、メレオスが言った。


「また、鉄の塊じゃな」


「……なれた」


「半分、じゃろ」


***


三月二十三日まで、あと四日だった。


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