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第百十八章 お茶を、出してから

『宿題』


課長が、ホワイトボードに書いた。

それから、下に四つ並べた。


***


『一 零度への答え』

『二 椅子 紙半分』

『三 カップ 七つ』

『四 紅茶 二箱』


***


三月十六日。火曜日。

0課の会議室だった。


全員、そろっていた。

赤城さんも、『ブル』も、共さんもいた。


***


「下から、いきます」


加藤さんが言った。


「四。紅茶は、私物です。小沢さんの」

「三。カップは」


***


「職人の、隣の、店で、ござる」


『ブル』が言った。


「同じ、揃いを。一つ、取り寄せ申す」


「送料は、私物です」


***


「二。紙、半分は」


「床を盛るので。紙は、要らないです」


「では、なしで」


加藤さんは、二と三と四に線を引いた。

三分だった。


***


一が、残った。


課長が、その横に書き足した。


『誰が、閉めたか』


***


「本当のことしか、言えないのよね。あんた」


『レディー』が、爪を見たまま言った。


「七十五度の手下が、北の町に行った」

「それも、本当でしょ」


***


「言えば」


『ホラー』が言った。

前髪の奥だった。


「消えます。あの席の、人」


***


声が途中で切れた席が、一つあった。


『レディー』は、爪から目を上げなかった。


「……分かってるわよ」

「言ってみただけ」


***


「名乗れば、いい」


『レスラー』が言った。


「小沢が、閉めた。それで、終わりだ」


「早い」


赤城さんが言った。

一言だった。


***


「零度は」


『ブル』が、膝に手を置いた。


「拙者に、傘を、持たせた、男で、ござる」

「死を、恐れる、男では、ござらなんだ」


***


「決を、採りました、とき」


隅から、共さんが言った。


「零度の、方だけ。一拍、遅う、ございました」


***


部屋が、静かになった。


一拍遅い人に、だけ。

届く言い方が、あるかもしれなかった。


***


「……伊左衛門の、家族です」


俺は言った。


「うちの家族、の。言い直しです」

「嘘じゃ、ないです」


***


赤城さんの手が、止まった。


「先生の、名前を」

「あの、卓に。出すのか」


***


零度が、じいちゃんの名前を知っているのかどうか。

誰にも、分からなかった。


それでも、賭けだった。


***


誰も、決めなかった。


「うん、うん」


課長が言った。


「これは。持ち帰って……」


「だめです」


全員が言った。


***


俺のポケットが、鳴った。


母だった。


***


「カップ、七つって、言ってたでしょう」

「六つと、一つ。揃いを、探してるのよ」


「……今、会議中で」


「何の」


***


うちの決まりは、先に言うことだった。


全部、言った。

会議室の、全員の前で。


***


「その会。お茶は、出ないのよね」


「出ない」


「じゃあ、あんたが、出しなさい」


***


「答えは」


「聞かれたら、言えばいいじゃない」

「うちの、名前なんだから」


「おじいちゃんの名前で。悪いことは、してないでしょう」


***


「ただし」


母は、言った。


「お茶を、出してから」

「話は、それから。順番よ」


***


「赤城さん、いる?」


いた。

背筋が、伸びた。


スピーカーにした。


***


「……奥様の。おっしゃる、とおりに」


「お願いね」


電話は、切れた。


***


「うん」


課長が言った。

一回だった。


決まった、ということだった。


***


課長は、一の横の字を消した。

書き直した。


『一 お茶を出す』

『二 伊左衛門の家族です』


***


「淹れるのは」


「私で、ございます」


共さんが言った。


「三分。数えられます」


***


「わしの、ぶんは」


肩の上で、メレオスが言った。


「八つ目の、席じゃ」


***


「八つ目は」


加藤さんが言った。


「経費では、落ちません」


***


『決定 奥様』


ホワイトボードの、一番下だった。


課長の字だった。


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