第百十八章 お茶を、出してから
『宿題』
課長が、ホワイトボードに書いた。
それから、下に四つ並べた。
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『一 零度への答え』
『二 椅子 紙半分』
『三 カップ 七つ』
『四 紅茶 二箱』
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三月十六日。火曜日。
0課の会議室だった。
全員、そろっていた。
赤城さんも、『ブル』も、共さんもいた。
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「下から、いきます」
加藤さんが言った。
「四。紅茶は、私物です。小沢さんの」
「三。カップは」
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「職人の、隣の、店で、ござる」
『ブル』が言った。
「同じ、揃いを。一つ、取り寄せ申す」
「送料は、私物です」
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「二。紙、半分は」
「床を盛るので。紙は、要らないです」
「では、なしで」
加藤さんは、二と三と四に線を引いた。
三分だった。
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一が、残った。
課長が、その横に書き足した。
『誰が、閉めたか』
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「本当のことしか、言えないのよね。あんた」
『レディー』が、爪を見たまま言った。
「七十五度の手下が、北の町に行った」
「それも、本当でしょ」
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「言えば」
『ホラー』が言った。
前髪の奥だった。
「消えます。あの席の、人」
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声が途中で切れた席が、一つあった。
『レディー』は、爪から目を上げなかった。
「……分かってるわよ」
「言ってみただけ」
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「名乗れば、いい」
『レスラー』が言った。
「小沢が、閉めた。それで、終わりだ」
「早い」
赤城さんが言った。
一言だった。
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「零度は」
『ブル』が、膝に手を置いた。
「拙者に、傘を、持たせた、男で、ござる」
「死を、恐れる、男では、ござらなんだ」
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「決を、採りました、とき」
隅から、共さんが言った。
「零度の、方だけ。一拍、遅う、ございました」
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部屋が、静かになった。
一拍遅い人に、だけ。
届く言い方が、あるかもしれなかった。
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「……伊左衛門の、家族です」
俺は言った。
「うちの家族、の。言い直しです」
「嘘じゃ、ないです」
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赤城さんの手が、止まった。
「先生の、名前を」
「あの、卓に。出すのか」
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零度が、じいちゃんの名前を知っているのかどうか。
誰にも、分からなかった。
それでも、賭けだった。
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誰も、決めなかった。
「うん、うん」
課長が言った。
「これは。持ち帰って……」
「だめです」
全員が言った。
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俺のポケットが、鳴った。
母だった。
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「カップ、七つって、言ってたでしょう」
「六つと、一つ。揃いを、探してるのよ」
「……今、会議中で」
「何の」
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うちの決まりは、先に言うことだった。
全部、言った。
会議室の、全員の前で。
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「その会。お茶は、出ないのよね」
「出ない」
「じゃあ、あんたが、出しなさい」
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「答えは」
「聞かれたら、言えばいいじゃない」
「うちの、名前なんだから」
「おじいちゃんの名前で。悪いことは、してないでしょう」
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「ただし」
母は、言った。
「お茶を、出してから」
「話は、それから。順番よ」
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「赤城さん、いる?」
いた。
背筋が、伸びた。
スピーカーにした。
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「……奥様の。おっしゃる、とおりに」
「お願いね」
電話は、切れた。
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「うん」
課長が言った。
一回だった。
決まった、ということだった。
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課長は、一の横の字を消した。
書き直した。
『一 お茶を出す』
『二 伊左衛門の家族です』
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「淹れるのは」
「私で、ございます」
共さんが言った。
「三分。数えられます」
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「わしの、ぶんは」
肩の上で、メレオスが言った。
「八つ目の、席じゃ」
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「八つ目は」
加藤さんが言った。
「経費では、落ちません」
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『決定 奥様』
ホワイトボードの、一番下だった。
課長の字だった。




