幕間 お茶も、出ない
「かわいくは、ないね」
由紀が言った。
赤いバスの話だった。
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三月七日。日曜日。
夜の七時だった。
実家の居間だった。
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由紀は、バスを振った。
じゃら、と鳴った。
「入ってる」
「余った、小銭」
「ポンドじゃん」
「使えない、貯金じゃん」
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それでも、棚に置いた。
店長の飴の、隣だった。
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こたつの上に、紅茶を三箱並べた。
「あら。うち、急須しか、ないわよ」
母が言った。
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「奥様」
共さんが、風呂敷包みを前に出した。
四つの角を、順番にほどいた。
箱が、出てきた。
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白いポットだった。
カップが、六つあった。
「二段の、お弁当の。お礼で、ございます」
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母は、カップを数えた。
「六つ、あるわね」
「数えて、まいりました」
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父。母。由紀。俺。共さん。
一つ、余る。
「神様の、ぶんで、ございます」
「……わしのか」
上座の座布団で、メレオスが言った。
余っていなかった。
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共さんが、台所に立った。
「いれ方は。ロンドンで、見て、覚えました」
「三分で、ございます」
「時計、あるわよ」
「数えられます」
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目を閉じていた。
階段を、四十二段数えた人だった。
三分、ちょうどだった。
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「苦い」
メレオスが言った。
角砂糖を、五つ入れた。
「……神の、飲みものじゃ」
ビールのときと、逆だった。
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「で」
母が、カップを置いた。
「全部、聞くからね」
「はい」
実家では、うん、とは言えなかった。
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全部、話した。
緑の戸。四十二段。白い面。円い卓。
会議が、一つ増えたこと。
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「何人の、会なの」
「七人」
「町内会の、役員じゃん」
由紀が言った。
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「お茶は、出たの」
「出なかった」
「百四十年も、やってて」
「お茶も、出さないの」
母は、紅茶を一口飲んだ。
「ろくな、会じゃ、ないわね」
百四十年の会が、一言で片づいた。
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「あんた、何て、言ったの。そこで」
「うん、うん、と」
「あと。持ち帰って、検討します、と」
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父が、新聞から目を上げた。
「……それで、通ったのか」
「通った」
「どこも、同じだな」
証券会社の部長だった。
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「それと。うちの、家族です、と」
母の手が、止まった。
「家族、って、言ったの。悪い人たちの、前で」
「……はい」
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「閉めたのは、私じゃ、ないわよ」
「あたしと、お兄ちゃんと、かみさま」
由紀が言った。
「本当の、ことだよ」
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母は、少し考えた。
「じゃあ、いいわ」
「全部、言ったんだし」
うちの決まりは、守っていた。
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「椅子は」
父が言った。
「直した」
「……そうか」
新聞に、戻った。
父がほめるときの、戻り方だった。
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「次も、行くのね。その会」
「席が、あるので」
「手ぶらは、だめよ」
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「紅茶が、二箱。残って、おります」
共さんが言った。
「それ、持っていきなさい」
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敵の会議に、紅茶を持たされることになった。
宿題の答えは、赤城さんより先に、母が出した。
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紅茶は、三杯飲んだ。
カップは、六つとも使った。




