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幕間 お茶も、出ない

「かわいくは、ないね」


由紀が言った。

赤いバスの話だった。


***


三月七日。日曜日。

夜の七時だった。


実家の居間だった。


***


由紀は、バスを振った。

じゃら、と鳴った。


「入ってる」


「余った、小銭」


「ポンドじゃん」

「使えない、貯金じゃん」


***


それでも、棚に置いた。

店長の飴の、隣だった。


***


こたつの上に、紅茶を三箱並べた。


「あら。うち、急須しか、ないわよ」


母が言った。


***


「奥様」


共さんが、風呂敷包みを前に出した。

四つの角を、順番にほどいた。


箱が、出てきた。


***


白いポットだった。

カップが、六つあった。


「二段の、お弁当の。お礼で、ございます」


***


母は、カップを数えた。


「六つ、あるわね」


「数えて、まいりました」


***


父。母。由紀。俺。共さん。

一つ、余る。


「神様の、ぶんで、ございます」


「……わしのか」


上座の座布団で、メレオスが言った。

余っていなかった。


***


共さんが、台所に立った。


「いれ方は。ロンドンで、見て、覚えました」

「三分で、ございます」


「時計、あるわよ」


「数えられます」


***


目を閉じていた。

階段を、四十二段数えた人だった。


三分、ちょうどだった。


***


「苦い」


メレオスが言った。

角砂糖を、五つ入れた。


「……神の、飲みものじゃ」


ビールのときと、逆だった。


***


「で」


母が、カップを置いた。


「全部、聞くからね」


「はい」


実家では、うん、とは言えなかった。


***


全部、話した。


緑の戸。四十二段。白い面。円い卓。

会議が、一つ増えたこと。


***


「何人の、会なの」


「七人」


「町内会の、役員じゃん」


由紀が言った。


***


「お茶は、出たの」


「出なかった」


「百四十年も、やってて」

「お茶も、出さないの」


母は、紅茶を一口飲んだ。


「ろくな、会じゃ、ないわね」


百四十年の会が、一言で片づいた。


***


「あんた、何て、言ったの。そこで」


「うん、うん、と」

「あと。持ち帰って、検討します、と」


***


父が、新聞から目を上げた。


「……それで、通ったのか」


「通った」


「どこも、同じだな」


証券会社の部長だった。


***


「それと。うちの、家族です、と」


母の手が、止まった。


「家族、って、言ったの。悪い人たちの、前で」


「……はい」


***


「閉めたのは、私じゃ、ないわよ」


「あたしと、お兄ちゃんと、かみさま」


由紀が言った。


「本当の、ことだよ」


***


母は、少し考えた。


「じゃあ、いいわ」

「全部、言ったんだし」


うちの決まりは、守っていた。


***


「椅子は」


父が言った。


「直した」


「……そうか」


新聞に、戻った。

父がほめるときの、戻り方だった。


***


「次も、行くのね。その会」


「席が、あるので」


「手ぶらは、だめよ」


***


「紅茶が、二箱。残って、おります」


共さんが言った。


「それ、持っていきなさい」


***


敵の会議に、紅茶を持たされることになった。


宿題の答えは、赤城さんより先に、母が出した。


***


紅茶は、三杯飲んだ。


カップは、六つとも使った。


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