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5. 婚約者と花冠

今日は、ユロリア王立学園のビッグイベントの一つ——剣術大会の日だ。


三日間に渡り、学年ごとにトーナメント形式で優勝者を決定する。初日は新入生、つまりサンドラたち一年生の部が行われる。


参加は任意だが、出場者の目的はさまざまだ。

騎士を志して実力を示したい者、武勇によって家名を高めたい者、婚約者候補を見つけたい者、あるいは次期当主の座を狙い、自身の価値を周囲へアピールしたい者もいる。


ちなみに、この大会では一勝するごとに、花冠が授与される。

そして、その花冠を婚約者、もしくは想いを寄せるレディーへ贈るという伝統がある。そのため、誰が誰に花冠を贈るのかは大きな注目を集め、女性陣にとっても胸が高鳴る一大イベントとなっている。



アランも、この大会の参加者だ。

サンドラは、大会前にアランを激励しようと選手たちの控え場所となっている訓練場の一角に向かった。


そこで、大会用の剣術服に身を包んだアランを見つけた。白い立ち襟のシャツに、黒の細身のズボンに、皮のブーツというシンプルな装いが、アランの整った顔立ちと引き締まった体躯を際立って見せた。

昔読んだ物語に登場する若き騎士のような姿に、サンドラは思わず目を奪われた。


すると、サンドラに気付いたアランが笑顔で近づいてきた。


「サンドラ、応援に来てくれたんだね。ありがとう」

「アラン、今日は頑張ってね!」


アランはサンドラを真っ直ぐ見つめ、柔らかく微笑んだ。


「君が応援してくれると思うと、負けられないな。花冠を持って帰るよ」


そう言って、軽くウィンクした。そのアランの仕草に、サンドラは鼓動が高鳴った。


「怪我だけはしないでね…」

「ああ、約束する」


アランは力強く頷くと、試合会場へ向かっていった。サンドラも観覧席に向かおうと、踵を返す。

すると、そこには苛立ちを滲ませた金髪縦ロール伯爵令嬢が立っていた。


「アグリヴェール男爵令嬢。アナタ、調子に乗らないことね。婚約者だからといって、アラン様のお気持ちまで手に入れたと勘違いなさらないことです」


——そんなこと、私が一番理解している。


サンドラが何も言い返せず、黙っていると、気分を良くした伯爵令嬢が更に追い打ちをかけてきた。


「ご存じないかもしれませんが、我がカイティクス家の物流網が“王国の豊穣地”と呼ばれるシャンヴェール伯爵家を支えていますのよ。

お父様が、現在シャンヴェール家のご当主に、販路拡大のための取引を持ち掛けています。

そのついでに、アラン様と私の婚約を打診しているようなのです」


金髪縦ロール伯爵令嬢は、瞳をうっとりさせ、上気した頬に手を当てた。

そして、満足したのか、サンドラの元を去っていった。


——そんな話が上がっているなんて、知らなかった…。


残されたサンドラは、その事実に衝撃を受けていた。

しかし、アランの幸せを考えれば、シャンヴェール家の利益になる家と結婚する方が、いいに決まっている。


アランの側にいられる時間も残りわずか…。

彼が何の憂いもなく婚約解消ができるよう、今の私にできることは、この傷をなかったことにすることだけだ。


そう思うと、背中の傷が痛んだ気がするが、気付かない振りをする。

いつもの癖で、ぎゅっと手を握りしめ、一つ深呼吸をすると、サンドラは静かに観覧席へと歩みを進めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



サンドラが闘技場につくと、そこは既に熱気に包まれていた。


『次っ!アラン・シャンヴェール 対 クレオ・ベアノール!』


いよいよ、アランの出番が来た。女子生徒から人気を誇るアランに、黄色い声援が飛ぶ。


「「「アラン様~!頑張って~!!」」


すると、それに対抗するように、今度は男子生徒たちから野太い声援が上がった。


「「「クレオ~!頑張れ~!イケメンなんかに負けるな~」」」


会場は一気にお祭り騒ぎとなった。

サンドラは、祈るような気持ちで試合を見守った。


「アラン…頑張って…」


アランとクレオが剣を構えた。一瞬の静寂の後、先に動いたのはクレオだった。

鋭く踏み込み、斬撃を次々と繰り出した。しかし、アランは涼しげな表情のまま、一撃一撃を軽く流す。

焦れたクレオが、剣を大きく振りかぶった瞬間——アランは一歩踏み込み、クレオの剣を弾いた。


『勝者っ!アラン・シャンヴェール!』


会場は一気に歓声に包まれた。その中で、アランは観客席へ目を向けた。

そして、サンドラを見つけると、真っすぐ彼女の元へ向かい、花冠をサンドラの頭に優しく被せた。


「応援ありがとう。サンドラ。次も君に花冠を捧げられるよう頑張るね」


アランは淡いグレーの瞳を優しく細め、甘やかな微笑みを浮かべながら、サンドラを見つめた。「キャーッ!」と、女子生徒の歓声が、観覧席を包んだ。


「見た?今の?」

「直接花冠を持ってくるなんて、素敵!」

「うっとりしちゃう…!」



アランの表情や仕草に、サンドラは赤面した。恋心を閉じ込めていた蓋が、うっかり開きそうになった。


(蓋、蓋、蓋……)

サンドラは呪文のように、心の中で唱えた。


アランは、そんな様子のサンドラを満足そうに眺めていた。そして、サンドラの花冠を優しく撫で、颯爽と闘技場へ戻って行く。



——結果、一年生の部はアランが優勝。勝ち進むたびに、観客席まで花冠を優しく持ってくるアランの姿に、サンドラは、ドキドキしっぱなしだった。


帰りの馬車の中、花冠の束を抱きしめながら、“今日のことは一生の想い出にしよう”と心に誓った。



余談だが——翌年以降、剣術大会では「花冠は観客席にいる大切な人へ直接届ける」という形が、ユロリア王立学園の新たな伝統として定着したらしい。


ここまでお読みいただきありがとうございました!


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