↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/14

11.陰謀

——時は遡り、アランが傷の手当を終えた頃。


コンコン、と執務室の扉をノックすると、「入れ」と、中から返事が返ってきた。


「失礼いたします」


執務室には父がいた。父はアランを見ると、ソファーへ座るよう促す。


「無事で何よりだ。サンドラ嬢はどうしている?」

「今は、部屋で休んでいます」

「そうか。サンドラ嬢には申し訳ないことをした」


父は、そっと目を伏せた。アランは、その様子を見て本題を振った。


「…残念ですが、動きましたね」

「ああ…」

「この件は俺に任せていただけますね。父上は身内に甘いので」

「頼む…」


父は、寂しそうな表情を浮かべると、小さく頭を下げた。うなだれる父の姿に、アランは心を痛めた。

それでも、決意を宿した眼差しを父へ向け、静かに告げる。


「ダリオ・シャンノール男爵は、四年前と今回の襲撃事件の黒幕でした。父上には、つらいご決断かと思いますが、しかるべき処分を下します」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ダリオは苛ついていた。なぜなら、アランの襲撃が失敗に終わったからだ。


「くそっ…。四年前も今回も…。なぜ失敗する」


ダリオは、ずっと双子の兄であるシャンヴェール伯爵を妬んでいた。たった数分早く生まれただけで、兄は“王国の豊穣地”と呼ばれるシャンヴェール伯爵家当主となった。それに引き換え、自分は分家の男爵にすぎない。もし、先に生まれていれば、そのすべては自分のものになるはずだった。そう思うたびに、兄の存在が許せなかった。


だから、息子たちに後継者のアランをいじめさせた。とことん自信を無くし、後継者としての能力が無いと判断されたら、息子たちのどちらかが、シャンヴェール伯爵家を継げると思ったからだ。


しかし、それもうまくいかなかった。ある日を境に、アランが能力を開花させた。

シャンヴェール伯爵家の後継者として申し分ない——それが、周囲からの評価となった。

そのため、ダリオはアランを害し、後継者の座から排除することを決意した。


本当なら、四年前にアランは“不慮の事故”で、この世を去るはずだった。しかし、アランの婚約者であるサンドラに邪魔をされた。


ダリオは、それから四年間、じっと機会を窺っていた。

——またすぐにアランを狙えば、自分が疑われると思ったからだ。


そして、ようやくこのタイミングでアランを排除できると思ったのに…。

またしても失敗に終わった。


「最後に、あの生意気な小僧の顔を拝んでやろうと、わざわざ出向いてやったというのに。…とにかく今は、一刻も早くここを離れねば」


ダリオは、計画を練り直すため、自領に戻ることにした。潜伏先のホテルを出ようとエントランスホールに向かう。しかし、その瞬間、突如としてシャンヴェール伯爵家の騎士たちに囲まれた。


「なんだ、お前たち。私が誰だか分かっているのか?このような無礼、許されると思っているのか!」

「分かっていますよ。叔父上。ですが、これは父も同意の上です。諦めて我々と同行してください」

「アラン!お前っ!何のつもりだ?!」

「四年間と今回の襲撃事件について、叔父上の関与が明らかとなりました。抵抗はおすすめしません。これ以上、シャンヴェールの名を汚さないでください」


その言葉に、ダリオは腹の底から熱く激しい感情が湧き上がった。頭に血がのぼり、嫉妬と長年の鬱屈がむき出しになった。


「うるさいっ!何がシャンヴェールの名を汚すなだ!たった数分早く生まれただけで、当主になった兄貴も!たまたま兄貴の息子に生まれただけで、後継者になったお前も!

…お前らごときがシャンヴェールを語るな。私の方がシャンヴェール伯爵家の当主に相応しいはずだっ!」


ダリオの怒りを、アランはただ静かに見つめていた。

そして、ぽつりと口を開く。


「叔父上…。あなたは何も分かっていない」

「私が何を分かっていないというのか!」

「本来、叔父上は伯爵になれたのです」

「なっ…、どういうことだ…?」

「おばあ様は、一人娘でした。しかし、おじい様と恋に落ち、シャンヴェール伯爵家に嫁いでこられました。その際、二人の間に男児が二人生まれた場合、長男をシャンヴェール伯爵家の当主に、次男をおばあ様の実家である伯爵家の当主にする予定だったのです」

「何っ!?私は知らないぞ!そんな話!」

「いいえ。叔父上にも、何度も説明があったはずです」


——ダリオの両親、アランにとっての祖父母は、何度もダリオに事情を説明し、勉学に励むように諭してきた。しかし、当のダリオは兄への嫉妬で頭がいっぱいで、耳を貸そうとしなかった。

そして、自身の悲劇を嘆き、努力を怠った。その結果、学園では素行の悪い者たちとつるむようになり、成績も最低だった。


ある日、ダリオの父——前シャンヴェール伯爵家当主は、ついに決断した。

「このまま妻の実家を待たせるわけにはいかない」と、新しい後継者を今から育てるよう伝えた。当のダリオは、学園を卒業後は平民として、シャンヴェール伯爵領で働かせることにした。


しかし、その厳しい判断に異を唱えたのが、アランの父だった。


「確かに、当主としての重責は耐えられないでしょう。しかし、平民というのはさすがに…。せめて、男爵の爵位だけでも与え、分家として独立させてはいただけないでしょうか」



アランの父の説得もあり、『次代のことは後継者に任せる』と前当主は判断した。そのため、ダリオは辛うじて貴族の身分を保つことができた。


しかし、結局は恩を仇で返す形となってしまった。

すべてを知ったダリオは、うなだれたまま、抵抗することなく連行されていった。


アランは、その背中を見送りながら、ふと四年前のことを思い出した。襲撃事件の直後、黒幕がダリオであることはすぐに判明していた。だが、父はダリオを許すことを選んだ。

その判断がどうしても許せず、アランは父に直談判した。

しかし、「今ここで事実を公にすれば、サンドラ嬢との婚約も危うくなるぞ」と諭され、アランは耐えるしかなかった。


あの時、アランは思い知った。大切なものを守るためには、権力が必要なのだと。

そして、守るべきもののためなら、時には非情な決断を下さなければならないことも。

だからこそ、アランは四年間、密かにシャンノール男爵家を監視し続けていた。



サンドラが嫁いでくる頃には、彼女が安心して笑っていられるよう、すべての憂いを取り除いておくつもりだった。




——その後、ダリオは爵位を剥奪された。息子たちは、母方の実家に引き取られた。しかし、そこにはすでに正統な後継者がいた。そのため、彼らもまた、いずれは平民として生きていくことになるだろう。


ここまでお読みいただきありがとうございました!


『続きが気になる!』『主人公頑張れ!』と思ってくださった方は、ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。