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曇天に曙光は射し込んで  作者: 榎元亮哉
それぞれの適性と役割
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~それぞれの適性と役割~ 六話

「和弥、落ち着いてください」

「これが――……すまん、ありがとう」


 和弥の背中から降りた綾華の手を勢いで振り払いそうになる。しかしなんとか落ち着きを取り戻して謝罪した。


「なんで、良治……」


 ふらふらと公園に歩いていくまどか。呆然とした様子で入口まで着くと力なく座り込んだ。頬に何かが流れて行くのが見える。


「……多分、もう力が残り少なかったでしょうね。だから……」

「力が少ないと、なんで残ることになったんだ」

「外から張るよりも、中に術者が残って張る方が簡単で、力も少なくて済むんです。きっと、もう良治さんの力は……」


 確かに、と理解出来る。

 この場に居る三人ともあの竜との戦闘で憔悴している。そうしなければ勝てなかった。なら、彼も同じような状態ではなかったのか。


「……助けるぞ」

「和弥?」


 いつの間にか右膝が地面に着いていた。ゆっくりと立ち上がって木刀を握り締める。結界は邪魔だ。


「ダメです、和弥。結界を消したらもう張れません。そうなると、あの魔獣たちが……」

「でも、中にはリョージがいるんだぞ。このままにしておけないだろっ!」

「それは私も同じです。だから、方法を考えましょう。結界はまだ残っています。良治さんはまだ生きてます。まだ、間に合います」


 確かにまだ結界は残っている。もし良治が力尽きたのなら自動的に消えてしまう。ならまだ無事ということだ。


「なら、俺は……」


 考える。考える。考える。

 友人を助ける方法を。救い出す手段を。


「――綾華、葵さんに連絡してくれ。今の状況とここまで来るのにどれくらい時間がかかるか聞いてくれ。まどかはあの高村さんたちに報告を」

「はい」

「……」

「まどかっ!」

「え、あ……うん、わかった」

「しっかりするんだ。絶対に間に合わせるぞっ!」

「……うん!」


 立ち上がって振り向いたまどかの瞳に強い意志が戻っていた。これなら大丈夫だ。


「なんとか、絶対になんとかするぞ……!」








「とりあえずここで待機しておきましょう。体力も回復させておきたいですし」

「そうだな」


 連絡を取り終わり、公園とは逆側の歩道脇に腰をかけた。やることはやった。あとは動き出す必要があるまで少しでも回復に努めるべきだろう。

 葵の到着予定は一時間後。準備はしていたがさすがに時間はかかる。

 高村たちは近くにいるらしく、今こちらに向かってる最中だそうだ。


「……良治さんに役目を押し付けすぎてましたね」

「綾華?」

「いえ……少し思ったんです。二人がゲームに例えていたじゃないですか。私の好きなゲームに例えると、良治さんはファイターでありメイジであり、プリーストでありシーフです。そして、全体を纏めるリーダーでも」


 彼女の言う事はわかる。前線に立ち、詠唱術を扱い、医術で手当てをし、戦闘を優位にするために細々とした行動を取り、そして全員を統率していた。


「誰かがリーダーをするのは仕方ないですが、それでも役割は二人分でしょう。でも」


 綾華が思うに彼は五人分の役割を果たしていた。ファイターは和弥、メイジは綾華、シーフはまどかがメインとしても、それでも全員のサポートに卒なく動いてくれていた。

 きっと本人は苦に思っていなかったはずだ。出来ることをしていただけ。


「でも、容量を超えちまったって、そういうことか……」

「はい」


 良治だけに負担をかけ過ぎた。それがこの現状を招いた。

 なんでも出来て頼りになった。頭の回転も速くて指示もくれた。


「甘えすぎてた、な。俺たち」

「はい。ここにいる三人とも、そうだと思います」

「私、パートナーなのに、こんな……」

「まどか、元気を出してください。良治さんを助けたあと、支えるのは貴女にしか出来ないことです」


 良治は誰にも頼ろうとしない。困ったことがあったとしても、あくまで対等な立場で交換条件を持ち出してくるだろう。一方的に寄りかかるようなことはない。

 しかし、ただ一つだけの例外があった。


「他人に頼らないリョージが頼ったのはお前だけだよ、まどか。あの契約がなによりのその証拠だ」

「そう、ね……私が頑張らなきゃ」

「ああ、そうだ。なんとかするぞ」

「……うん」


 良治を助けたい、そしてこれからも助けたい。誰よりもそう思っているのは目の前の少女だ。


「和弥、誰か来ます」


 座っていた綾華が立ち上がると人影の方へ顔を向けた。

 近くの照明に照らされた二人組の人影は見覚えがあるもの。高村と世良だ。


「よう、どうだ状況は。さっき聞いたままか?」

「はい。結界は張られ、良治さんは中にいます。しばらくしたら援軍が来ます」

「オーケー。……それにしてもあの柊が下手打つとはね。信じられないな」

「……だからまだ子供だと」

「まぁ柊でダメなら支部長クラスを連れてこないとダメだろう。もしかしたらそれでもダメかもしれない。だから世良ちゃん、そんなこと言わ――」

「いえ、こちらの実力不足は確かでしたので。なにも言い訳できません」


 高村がフォローしたが綾華がそれを遮る。彼女の言うように全員が全力を出してこの結果では実力不足としか言えない。

 現実に打ちのめされたが、それでも前に進むしかない。そしてそれは遅れれば遅れるほど何かが失われていくだろう。

 だから全力で、全速力で立ち直って前に進むことを選ぶ。


「あー、工事の時間何時までだったっけ世良ちゃん」

「六時までです。あと四時間半ほどかと」


 公園を離脱したのが午前一時前、あれから三十分近くが経っている。工事という名目での道路封鎖と公園の立ち入り禁止は今朝まで。あまり時間はない。


「あんまり長引かせると国交省のお役人さまが良い顔しないんだよなぁ。まぁ無理そうなら言ってくれ。なんとかしよう」

「すいません、お願いします」

「気にしないでくれ、ちょうど近所に国交省の施設がある。ちょいと脅せば延長してくれるだろう」

「高村さん、そういうのは言葉に出さないでください。後々問題になりますよ」

「はは、世良ちゃんの言うとおりだね。危ない危ない」


 世良の注意を笑ってやり過ごす高村。いつも似たようなやり取りをしているのだろう。


「じゃああとは援軍が来てからにしようか。君らは疲れてるだろうし少し休んだ方がいいからね」

「ありがとうございます」


 素直に高村の言葉に従って、さっきまでいた場所にまた座る。今出来るのは休息を取ることだ。和弥も戻って綾華の隣に座った。


「葵さんたちが来たら急いで突入しよう」

「はい」


 一刻も早く助けたい。しかしまだその時ではない。

 その時が来るまで待とう。そして彼は目蓋を閉じた。









「……和弥」

「なんだ、この音。車か?」


 周辺は住宅街。この時間帯に通る車は少ないが、その分音は響きやすい。

 だがそれを含めても遠くから爆音が聞こえてきた。


「バイクじゃないの?」

「……車だ」

「え」


 最初はまどかの言うように和弥もそう思ったが、バイクとはやや音が違った。そして彼の予想を示すように、視界に一台の真っ赤な車が入った。


「おおおっ!?」


 ドリフトしながら止まった車から降りてきたのは待ち侘びた人物。南雲葵だ。運転席から素早く降りて三人の所まで駆け寄る。その表情は硬い。


「お疲れ様。現状は?」

「はい、報告した時点から変わっていません。良治さんはまだ公園内、結界も維持されてます」

「葵さん、早かったですね」

「了解、綾華ちゃん。まぁ急いだからね」


 ウィンクをして笑う葵。彼女も良治の危機に出来る限りのことをしたのだろう。五人も乗せて来たことについては触れない。


「で、あと四人連れて来たわ。多いほうがいいでしょ?」

「あと四人……翔さんと正吾、勅使河原さんと三咲さんですか」


 それは東京支部に所属する全員。つまり総力戦だ。

 しかし現在の状況を考えるならそれも理解できる。確かにそれくらいの戦力は必要だ。

 しかし綾華の言葉に葵は首を振った。そして車の方へ振り返る。


「は……?」

「なんで彼女がここに」


 和弥と綾華が呆けた声を上げる。

 車から降りてきたのはさっき予想した宮森翔、浅川正吾、勅使河原結那。そこまでは合っている。しかし最後の一人が違った。

 翔は苦笑いを浮かべ、正吾は困惑した表情、結那は不機嫌そうだ。全て最後に地面に立った彼女のせいなのは明白だ。


「そんな反応をしなくてもいいでしょう。それとも私が来たのがそんなに不思議なことでしょうか?」


 さも当然といった表情で堂々と言ってのける彼女の名を和弥は知っていた。それはそうだ同じ学園に通う仲でもある。一緒にカラオケも行ったことがある。


「潮見、天音……」

「はい、そうですよ」


 潮見天音、十五歳。数か月前に中国地方の陰陽陣を抜け、今ではフリーの退魔士として活動したりしなかったりしている。

 茶色がかったクセっ毛を指で弄りながら笑う。


「どうしたんですか。良治さんを助けに行くんでしょう?」

「お、おう。そうだ、急がないとっ」


 天音に気付かされて慌てて皆を見渡す。早く作戦を立てて突入しなければならない。葵と眼が合うと彼女は頷いた。


「さ、作戦会議よ。……と、御二方も聞いておいてくださると助かります」

「もちろん。口は出しませんが聞いておきますよ」

「……はい、わかりました」


 ちょっと離れた場所に居た高村と世良が答える。高村は専門家に任せた方が問題なく進むと思っている。世良はそれに渋々従ったようだ。不満そうなのがありありと見える。


「じゃあ始めるわよ。まず結界を破って、すぐに張り直す。破るのは和弥くん任せられる?」

「大丈夫です、任せてください!」


 結界を破るのに特別な技術は必要ない。力任せに木刀を振るえば破れるはずだ。待たされていただけに和弥のモチベーションは高い。


「破れたあとに張り直すのは綾華ちゃん頼める?」

「……いえ、すいません。出来るか微妙なところです。張ったところでいつまで持つか」

「うーん、そうなると……」


 葵が腕を組んで悩む。

 綾華が無理なら他の者に任せるしかない。では誰にするのか。


「――私がやりましょう」


 すっと手を挙げたのは、綾華と翔を除いた最後の術士――潮見天音だった。そして彼女は一歩前に出た。


「白兼綾華が結界を張れないというのでしたら私が代わりましょう。他に適任がいるというのなら構いませんが」

「そうね、潮見さんお願いするわ。衝撃緩和・防音・人払い・出入り禁止の一般的なやつでお願い」

「わかりました。あと何かありますか?」

「今回私が結界を張った時、石を基点にしています。なのでそれに触れて力を流せば隣の石を伝って全体に行き渡ります」

「なるほど、複数の石を短い間隔で配置して流す力の伝導率を上げて効率化を図ったんですね」

「そういうことです」


 感心した顔で納得する天音。陰陽陣ではあまり使われてる技法ではないようだ。


「よし、じゃあ結界は潮見さんに任せるとしてそのあとね。多分公園内に入れば気配である程度良治くんの居場所はわかるだろうし、全員で全速力で。最速で到着することを優先するから遅い人は置いていくわ。ただ最後尾になった人が一人にはならないように気をつけて」


 確かに単独で置いて行かれるのは危険だろう。その気配りは大事だ。


「良治くんを発見したら翔さんとあと一人で公園を離脱。誰かはその時に指示するわ。残ったメンバーは公園内の魔獣の掃討。ここまで人数を掛けたんですもの、一気に解決するわよ」

「わかりました」

「了解です」


 葵の指示の元、各自が公園の入り口に歩いて行く。準備はもう出来ている。

 と、そこでまどかが結那に話しかけたのが背中から聞こえた。


「……ね、なんであのコがいるの?」

「んー、支部を出る時に見つかっちゃって。そのまま丸め込まれてって感じかしら。あいにく車にも乗れる範囲だったのもあるかな」


 結那の声に張りがない。どうやら彼女としても少し不本意らしかった。


「……別に構わないでしょう? 協力すると言っているのですから」

「潮見天音……」

「貴女たちが私に良い感情を持っていないことは重々承知していますが、それでもあの人が死ぬよりはマシです」

「……そうね」


 まどかが不承不承といった感じで返事をする。数ヶ月前は命を賭けた殺し合いをした人物。そう簡単に割り切れないのはわかる。このことに関しては和弥や良治が少しずれていると言われても仕方ないだろう。


「柚木まどかさん、私は別に貴女のことは嫌いではありませんよ。ただ立場がそれを許さないだけで」

「私はあまり好きじゃないけどね。他人の彼氏にちょっかい出すような人は」

「それは否定しませんけどね。それでも騙し討ちみたいなことはもうしたくありませんので。――改めて宜しくお願いします」

「……返り討ちに気をつけてね」

「はい、望むところです」


 まどかと天音のやりとりに肝を冷やす。剣呑な雰囲気を醸し出している二人が背後にいるというのはなんとも言えないものだ。


「和弥、集中しましょう」

「あ、ああ。でも怖くないか、あれ」

「なに言ってるんですか。怖いですけど良治さんの立場の方がもっと怖いと思いますよ」

「確かに」


 友人に好意を持つ女子はなんでこうも積極的というか好戦的なのか。もう一人口を挟みそうな結那は渋い顔で黙っていた。口喧嘩は好きではないようだ。


「さ、その辺にして行くわよ。続きは良治くんが助かってからにしなさいな」

「いや葵さん、それはそれでリョージが可哀想な気がするんですがそれは」

「ま、それだけ愛されてるってことでしょ。じゃあ和弥くんお願いね」

「まぁそうかもですけど。……じゃあ、いきますよっ!」


 助けたあと良治はどうなってしまうのか気にはなったが、葵の言うようにそれは助けてから考えることだ。考えを放棄して和弥は結界に向かって木刀を振り下ろした。


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