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曇天に曙光は射し込んで  作者: 榎元亮哉
それぞれの適性と役割
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~それぞれの適性と役割~ 五話

「まどか」

「うん……!」


 良治が声をかけると、緊張したまどかが呼吸を整えて目蓋を閉じる。そして段々と力が集まっていき、身体全体に行き渡っていく。傍目にも強くなっていく様が見て取れた。


「おお……」


 魔族の力故に禍々しい気配はあるが、それを纏ったまどかに恐怖も嫌悪も感じない。目蓋を開けたその瞳は金色だが、それでもよく見知った友人だった。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫だと思う。まだちょっと慣れないけど」


 身体のあちこちを触りながら確認する。まだ戸惑いはあるようだ。

 自分の中に異物が混じるようなものだ。それは当たり前だろう。


「まだ二回目だからな。前回と比べて違和感はないか」

「んー、ないかな。前より楽なくらい」

「なら大丈夫そうだな。ただ長時間使うものじゃないからな。無理だと思ったらすぐに言ってくれ」

「うん」


 まどかの姿を変化前と比べると、身体を包む力が増えたのと、瞳の色が金色になっていることだけだ。あと一つ付け加えるなら力が増えた影響かその表情は自信に満ちている。


「めっちゃ光ってるな目」

「そうなの? 自分じゃわからないのよね」

「ああ、リョージみたいだ」

「なら別に気にしないわ」

「おい、そろそろ来るぞ」

「ってリョージもかっ!」


 まどかと話している間に良治は半魔族化を終えて立っていた。ほんの一瞬だったはずなのに。


「お前は大丈夫なのか、それ」


 良治はこの魔族の力の影響で命を落とす寸前までいっていた。もう命の危険はないと聞いていたがそれでも心配は心配だ。

 良治は和弥の問いに肩を竦めながら落ち着いて答える。


「もう大丈夫だよ。力の一部がまどかに流れてるから前よりは無理できないけど」


 白髪に金色の瞳の友人が苦笑する。しかし無理をしているようには見えないので少しだけ安心した。


(まぁリョージは無理してても大丈夫って言うから油断ならないんだけど。ちゃんと見ておかないとな)


 無理をさせない。それは心がけておくべきだろう。

 和弥はそろそろ周囲を見るということをしなければならないと、そう自覚し始めていた。自覚はしてきたが、そう簡単に出来ることではないのがもどかしい。


「綾華さん、お願いします」

「はい!」


 竜はもう間近。既に野球場の敷地内に侵入していた。


「――氷棺永眠ッ!」


 綾華の詠唱術が解き放たれ、竜の左前脚が凍っていく。

 氷はバキバキと鳴り、普段よりも範囲を絞って凝縮されているのがわかる。


「まどかっ!」

「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 貯めに貯めた『雷迅』から放たれた矢はまるでいかずちそのものだった。蒼雷の一撃は動きを止めた竜の首に直撃をする。


「うおおおおおぉっ!」

「はあああああぁっ!」


 和弥は左から、良治は左から首を狙う。

 右前脚を足場に跳び、天使の力を解放した一撃を上段から振り下した。


「ぐっ!」


 鈍い手応え。しかしそれは鱗を飛び散らせ、肉に食い込んでいく。


「はああっ!」


 一瞬遅れて良治の村雨が、和弥とは逆側から首を切り裂いていく。彼らの刃の先、ちょうど中央にはさっきまどかが射った矢が突き刺さっていた。


「ッ!」

「!」


 力任せに木刀を押し込んでいく。筋力を、天使の力を、和弥の持つ全ての力を振り絞る。


「抜け、ろおおおぉッ!」


 首の骨まで達すると、それをも木刀で押し込み砕く。

 決して引くことはしない。押して押して押し斬る――


「グウウオオオオッ――!」


 和弥と良治の刀が交差し、そしてお互いもすれ違う。

 着地をした二人の背中に竜の頭が落ちた。


「……」


 無言で振り向いて頭を確認する。確かに竜の頭部だ。重い音を響かせ凍っていない脚が崩れて腹を地面につけた。身体の方も動きが止まり、動き出す気配はない。長い首も力なく倒れている。

 向こう側の良治も注意していたが、やがてこっちを見ると静かに頷いた。


「……勝ったな」

「ああ、なんとかなったな」


 よろよろと歩み寄り、頭も動かないことを確認する。いきなりがぶりとされるのは遠慮したい。念には念を入れた。


「ふぅ……」


 良治が半魔族化を解き、完全に戦闘態勢を解く。もう問題はないようだ。


「一撃に全力って、乗るもんなんだな……」


 天使の力をフルで使い、全てを木刀の一振りに込めた。竜の皮膚が硬かったこともあり、振り切るまで少し時間がかかったことも力を使い切ることの一因と言えるだろう。


「凄かったよ和弥。一撃の威力じゃとても追いつけない。……見てみろよ」

「ん?」


 良治の視線の先は首の切り口だ。

 そこには違う二種類の痕があった。


「お前の方が深く入ってる。俺の方は三分の一ってとこだろう。和弥が居なかったら倒せなかっただろうな」

「そこはみんなが居たから勝てた、っていうとこだろう?」

「……そうだな。みんなで掴んだ勝利だ」


 苦笑して、良治が歩いてくる二人に手を振る。合図がなかったので待機していたらしい。


「勝ったんですよね?」

「おう、倒したよ。みんな全力を出したお陰だな」

「はぁ、怖かった。すぐに合図してよ良治」

「悪い、まだ動くかと思って様子を見てた。もう大丈夫そうだ」


 四人全員に安堵の表情が浮かび、笑いあう。

 間違いなく強敵だった。今まで相手をした魔獣の中では一番強かった。

 それを倒せたことは大きい。何よりも自信になる。


「……すいません、結界を解いても良いですか? ちょっと力が尽きそうで」

「私も切り替えるね。疲れちゃって」

「ああ、了解です。二人とも大丈夫ですよ」


 疲労の色の濃い綾華とまどかの言葉を良治が受け入れる。彼女らも全力を使い切ったのだろう。竜の足の氷は透き通っており、純度の高さが窺えた。

 ふと結界特有の違和感が晴れ、解除されたことを肌で感じる。


「綾華、大丈夫か」

「はい……ちょっと力を使いすぎたようです」


 彼女に手を貸す。身体に力が入っていないようで手を貸した拍子に少しふらついた。気をつけないと倒れそうなほどだ。


「じゃあ俺は葵さんに連絡を取る。少し待っててくれ」

「おっけ」


 そう言うと携帯を取り出して少し歩きながら電話をする。

 綾華に手を貸したまま一応周囲を見回しておく。まどかも手持無沙汰らしくきょろきょろとしていた。


「――え、わかったんですか。はい……え?」

「ん?」


 良治の疑問の声に振り向く。真剣な表情の良治がそこにはいた。


「なにかあったんでしょうか……?」

「なるほど、だから死骸の消えない魔獣がこんなところに――」


 葵の方で何かわかったらしく、それが良治に伝えられているようだ。それはあの魔獣たちに関することだというのはなんとなく伝わってくる。


「まぁ何にしても色々情報が入ってきたみたいで良かったな」

「ですね。戻ったら情報を整理してみましょう」


 とりあえず帰ってゆっくり休みたい。出来るならすぐに風呂に入り泥のように眠りたい。


「――ね、ちょっとこれ……」

「どうしたまどか」

「向こうから、何か来ない……?」

「え」


 竜が来た放送塔の方向から何かが動いてる気がする。暗くて見えないが、和弥はその気配から正体を理解した。理解したくないが理解してしまった。


「おい、魔獣がまだ残ってるぞっ!」

「まだ残ってたみたいです。すいませんが加勢お願いします!」

「なんでこんなにいっぱいいるのよっ!」


 まどかの悲鳴が響き渡る。しかしそれも仕方ないと言えた。

 何故なら迫ってくる魔獣の数が半端ない数だった。数十ではとてもきかない。百を超え、もしかしたら数百に達するかもしれない大群だったのだ。


「あのカブトガニか!」

「撤退するぞ、今の状態じゃ勝てん!」


 リーダーである良治が即座に撤退の指示を出す。

 正直和弥は踏み止まって戦いたかった。だがそれは今にも意識を失いそうな彼女を見てスパッと斬り捨てた。そんな意地など彼女の安全に引き換えにする価値はない。


「綾華、背中に」

「すいません……」

「気にするな、走るからちゃんと掴まっておけ」

「ある程度魔獣を誘導する。最初の入り口に向かうぞ! まどかは先行して安全確認頼む!」

「おっけ!」


 とても走れそうには見えない綾華を背負い、良治が指示した入口に向かって走り出す。まどかも一発矢を放ってから走り出した。


「どうだ?」

「ダメね。私の攻撃じゃあんな大群足止めも出来ないわ」


 まどかの得意なものは矢による狙撃。個に対しては良治と同程度の攻撃力を誇るが、あれだけの群れを相手にするにはどうしようもない。数体蹴散らした程度では何も変わらない。


「すいません、私が術を使えれば」

「いいよ、気にすんな。それに使えてもあれは無理だよ」


 道一杯に広がり追いかけてくるカブトガニの群れ。まだまだ奥にもいるようでその数は把握出来ない。


「ってかなんだよホントにこの数はっ!」

「殺された男の身元が判明して、そいつは元陰神の研究者、だったってのがわかったっ」

「研究者、だってっ」


 走りながら良治と会話をするが、お互い疲れが見えてきているので途切れ途切れだ。


「ああ、ここはその、研究所だったみたいだっ、だからこんなに、魔獣がっ」

「でも、なんでいきなり、こんなにっ」

「多分……さっきの竜が出てきた穴からでしょうね。蛇やスライムは違う穴から出て来たか、もしくは蛇は影を移動できますし、スライムは狭い場所も通れたかもしれません」


 背中の綾華が見解を述べる。確かにあの二匹なら狭い場所でも通って来れるだろう。可能性は十分にある。それに別の出口があったのかもしれない。


殿しんがりは、俺が受け持つ、急いでくれっ」

「つーか、公園出たら、どうするんだ、よっ」

「俺が結界を、張り直すっ、力を通すだけなら、きっと俺でも、出来るはずっ」

「そうですね、大丈夫だと思います。私が出来ればよかったんですが……」


 綾華にその力は残されていない。良治の指示通り全力を出した結果なので彼女の責任ではないが、それでも責めずにはいられないのだろう。


「はっ!」

「追いつかれてきたぞ!」


 道の脇からも沸いてきたカブトガニに良治が風の術で吹き飛ばしたり牽制をする。もうギリギリだ。


「あぅっ!」

「綾華っ!」

「ちっ!」

「大丈夫ですっ」


 背中から感じた衝撃から、綾華が魔獣の攻撃を受けたようだ。ちらりと視線を後ろに向けると良治が魔獣を刀で打ち払ったところだった。あれが綾華を攻撃した魔獣だったのだろう。


「綾華さん」

「すいません」


 そのまま良治が綾華の背中に手を当てだす。治癒術だ。

 どうやらパッと見でも出血が確認されたらしい。


「少なくとも、出血だけは止めないと、まずいですからねっ」

「良治、見えたわっ!」


 先を走って安全を確認していたまどかの声が全員を勇気づける。

 あとはこのまま公園を出て、良治が結界を張ればいい。解決にはなっていないが、援軍が来るまでの時間稼ぎと休息を取ることが出来る。


「走れっ! 俺が最後に結界を張るっ!」

「頼んだっ!」


 最後の力を振り絞って公園の入り口を走り抜ける。

 まどかが矢を射って後ろのカブトガニを牽制し、援護しているのが見えた。あとは良治が公園を脱出して結界を張るだけだ。

 振り返るとしゃがみこんで、入口に設置してあった石に触れている良治の姿。もう後ろのカブトガニは数mのところまで迫っていた。


「急げっ!」


 良治は小さく苦笑すると口を動かした。


「――」


 声はない。口を動かしただけだ。でもなんて言ったかは理解できた。


『あとは頼んだ』


 そしてそのまま結界が発動し、公園が閉じられた。

 カブトガニの姿は見えない。そして――良治の姿も。


「おい、なんでだ……」

「え、どういうこと? 良治、なんで」

「良治、さん……」


 結界を張ったのはわかる。でもなんで良治がいないのかがわからない。思考が止まる。向こうは、公園は魔獣の溢れる死地だ。


「なんでだよ……なんでだよ、リョージいいいいいいいぃっ!」


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