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いつか見た空の色・3

回想です。平和だった日常の風景。



 昼休み、自分の席で弁当を取り出した葵に杏香が声をかけた。


「あれ、後藤は?」

「知らない」

「なーに、せっかく付き合ってるんだからお昼くらい一緒に食べたらいいのに」


 何故か杏香は唇をとがらせる。


「別に向こうが言わないならいい」

「んなもったいない」


 何がだ、と葵が返すより先に、杏香は後ろを向いて声をかけた。


「ねえ楠本、あんた後藤がどこいるか知らない?」

「あー、図書室か保健室じゃないか」


 言いかけて敬司は窓の外の曇り空を見上げた。


「この天気ならここの屋上かもしれないけど」

「だってよ?」


 だってよと言われてもと思ったが、ここにいても杏香につつかれるだけかもしれない。  

 葵は仕方なく弁当をもって立ち上がった。


 一番手近な屋上へ向かう。

 屋上と言えば休み時間には人気のスポットだが、葵のクラスがあるB棟の上にはめったに人が来ない。

 給水タンクがあるせいで狭く、隣の棟の影になって日当たりが悪いからだ。

 半信半疑で薄暗い階段をのぼる。

 まあいないならいないで適当に時間をつぶせばいい。

 投げやりに考えながら、葵は鉄の扉を押した。


 扉の向こうで誰かが寝そべっているのが見えた。

 金属がきしむ音に気づいて体を起こす。

 空だった。


「……さの、さん?」


 空は目を見開いて葵を見た。

 純粋な驚きの表情に不意を突かれる。

 ふだんの空の顔は笑うにしろ驚くにしろ、どこか意識して作っているもののように見えた。

 意識をとりはらったその目は妙に無防備で、葵は息を呑んだ。


「よくわかったね」


 髪の毛を直しながら笑う。

 もういつもの空の笑みだ。

 なんとなく寂しいような一方でほっとして、改めて空を見る。 


「もう食べたの」


 昼休みがまだいくらもたっていないのに食べ物を持っている様子がない。

 自分も食べてからくればよかったかな、と思いながら空の隣に腰を下ろした


「昼はいつもここ?」

「最近は。天気によっては中の階段とか」

「そっか」


 葵はつぶやくように付け加えた。


「明日も、来ていいかな」

「え?」


 葵の言葉に空は珍しく迷うような顔になった。

 失敗、したか。

 葵は空から目をそらした。


「嫌ならいいけど」

「あ、じゃなくて」


 返ってきたのは思いのほか強い声だった。

 何か決心したように深呼吸し、あのさ、と空は切り出した。


「俺、ご飯の後って速攻でトイレ行かなきゃないんだよ。絶対お腹ゴロゴロで」


 決まり悪そうに頭をかく。


「えーと。だからなんというか、それでもよければ?」

「……もしかして、それでいつも一人で食べてたの?」

「うん、まあ」


 本当は気になっていた。

 休み時間はクラスメイトにかこまれている空が、昼休みになるといつの間にか姿を消すのだ。

 葵にも声もかけずにいなくなる。

 何かあるのかと思っていたのに、蓋をあけてみれば何てあっけない理由だろう。

 我慢できずに葵は吹き出した。

 気まずそうな空と、妙な心配をしていた自分がおかしかった。


「ひどいな。病弱美人も楽じゃないんだぞ?」

「自分で言うな、美人とか」


 すねたように唇をとがらせて、空はまたあお向けに寝転んだ。

 その動きを追うように葵は空の顔を眺める。

 白いな、と思った。

 もちろん頭上に広がる薄曇りの空の白さに比べたら、当たり前のように色のある肌をしている。

 青白いというわけでもない。

 ただどうしようもなく血の気が薄いのだ。


「病気ってさ、治らないの」

「んー、なんかもう病気っていうか体質だからね」


 葵の問いかけに、返ってきたのはあまり興味のなさそうな答えだった。

 もうあきらめているのだろうか。病気が自分自身になるくらいに受け入れて。


「そっか」


 吐き出した言葉は自分でも思った以上に沈んで聞こえた。

 空も気づいたのだろう。返ってきたのは軽い調子の声だった。


「まあでも別に死ぬようなものじゃないし。ちょっと不便なだけ」

「そっか」


 今度はもう少し明るい声を出せただろうか。

 薄暗いのに奇妙にまぶしい白い空を見上げて、葵は目を細めた。



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