いつか見た空の色・2
回想です。
そもそものきっかけはなんてことはない。
高校に入ってクラスで席が近かっただけだ。
「後藤、空です。よろしく」
振り向いて自己紹介をした前の席の男の子に葵は目を瞠った。
綺麗な顔をした子だな、と思った。
地毛だという茶色い髪に、同じく色の薄い目。肌も白い。
整った顔立ちで一見冷たそうだが、笑うと形の違う二重まぶたに愛嬌があった。
綺麗な子だな、と思った。
華奢に見えるから好みは割れるだろうが、かなりモテるタイプだろう。
関わると面倒そうだな、と思った。
ただ出席番号が近かっただけ。接点はない。
席が変われば自然に離れていくだろう。
とくに警戒はしなかった。
ところが。
「さーのさんっ」
やたらと明るい声に呼ばれてため息をつく。
振り向けば調子のいい笑顔で空が歩いてくる。
「これから帰り?」
「委員会」
「ありゃ残念」
そっけない返事に大げさな落胆の声が返ってきた。
そのまま歩き出した葵の横にちゃっかりと並ぶ。
昇降口には遠回りだろうとじと目で隣をうかがえば、まんまと目が合ってしまった。
ここのところ万事こんな調子だ。
顔を見れば声をかけてくるし、ひとりと見ればやってくる。
同じ図書委員になった楠本敬司が空の友人だったというのがまたまずかった。
放課後、貸し出し当番のときにまで必ず顔をだしにくる。
二人にまきこまれる形で話し込み、司書の先生に注意されたこともある。
それはそれで楽しくなかったわけじゃないけれど。
正直、一緒にいると疑わしげな女子の視線を感じることが少なくなかった。
ただでさえ人付き合いは得意じゃない。今はまだ不自由もしていないが、この先避けられるようなことがあれば学校生活に支障をきたす。
できればあまり目立ちたくはない。
それに。
妙に積極的な様子はあるものの、どこまで本気なのかは疑わしい。
普段からノリは軽いし照れも緊張もまったく感じられない。
葵にちょっかいを出しては反応を楽しんでいるだけじゃないのか。
明るい笑顔でさえもときどき作り物めいてみえてどこか底知れない。
下駄箱へ降りる階段を通りすぎる。
どこまでついてくるつもりだろう。
「あのさ」
しびれを切らして口を開いた。
「ふざけてんならやめてくれる? うっとうしいから」
きょとんとした顔でこっちを見る。
丸くなった目には驚きこそあれ動揺は見られない。
やっぱり、と思う。
本気ではなかったのだろう。
「付き合う気もないくせに」
つぶやくように吐き捨てて、背を向けて歩き出す。
と。
突然何かに腕をとられて足を止めた。
空が制服の上から手首をつかんでいる。
「何、」
にらみつけようと顔を上げ、息をのんだ。
初めて見る表情だった。
淡い色の目が夕陽に透けて妙に赤い。
いつもの笑みを含まない眼差しはいやに強く、まっすぐに葵をとらえる。
「付き合って、くれんの?」
いつになく硬い声。
捕まった、と葵は唇を噛んだ。




