落下する土曜日・2
西日がまぶしい。
目を閉じていても金色の光が瞼を透かしていのがわかる。
薄く目を開けて光の先をたどれば、線路を挟んだ向こうの駅ビルに太陽が沈みかけていた。
あたりを包む夕映えが、段々と明るさを失いながら赤みを増していく。
結局のところ、既望は現れなかった。
少なくとも葵が決めたリミットまでに顔を出すことはなかった。
今もまだ、耳を澄ましても足音は聞こえてこない。
なんとも間抜けな話だ、と葵は苦笑する。
死のうとしたときには止められて、待とうと思ったときには相手は現れない。
諦めようとした疑問を散々突きつけられた挙句、答えはお預けのまま。
あるいは、日曜までちゃんと付き合えば何らかの謎解きがあったのだろうか。
だとしても、あれ以上おとなしく付き合い続けることはできなかったし、そのうえで与えられるであろう架空の答えを受け入れられる気もしなかった。
いい加減潮時だろう。
ずっと不安定な体勢を続けていたせいで太ももが痛い。
小さく身じろぎして体を伸ばす。
前を見やれば、もう太陽はすっかりビルの影に隠れていた。
夜になりきる前の空色は嫌いじゃなかった。
淡い夕闇は真昼の日差しのように見たくもない現実を暴いたりしないから。
(……悪くない、か)
もう一度目を閉じて、周りの景色を遮断する。
別に、今際の際なんて言葉を持ち出したって、大した感慨はない。
これまでの記憶が走馬灯のように蘇る、なんてこともない。
死んだらもう一度会えるだとか、そんな馬鹿げた望みも持たない。
ただ、途切れるだけ。
今が、途切れるだけ。
さあ、これが最後の呼吸。
大きく息を吸い込んで、鉄柵を後ろ手に押しやった。
ふっと、宙に浮く感覚。
体も、感覚も、意識も、記憶も、望みも、執着も
あとはもう、落ちるままに。




