落下する土曜日・1
すっきりと晴れた青い空を見上げて葵は目を細めた。
休みに入った土曜日、浮ついた空気が流れる週末の昼下がり。
はたからすれば、放課後の時間をもてあました女子高生がたそがれているように見えるかもしれない。
腰掛けているのが、古びたビルの屋上の錆びた鉄柵でもなければ。
柵の外に投げ出した両足を揺らしながら葵は空を見ていた。
その顔に思いつめたような表情はない。ただ何かをふっきったような目で空をながめていた。
(私が飛び降りたら)
かの人は多少なりとも感情を揺るがすだろうか。
あるいは取材相手が逃げ出した、と渋い顔をするだけかもしれない。
待ち合わせの時間からは十分ほど過ぎていた。
はたして、既望は気付くだろうか。
葵が来ないことに。
その居場所と計画に。
気付いた時にどう動くのか。
もし、既望がここに現れるならば。
殺してあげる、とそそのかした既望が再び葵を引き留めるなら、その意図を探ってみよう。
あの取り繕った表情を。
断片しか見せない思惑を。
決して尻尾を掴ませない言動を。
揺さぶって切り崩して捕まえるには、いったいどうしいたらいいだろう。
何せ相手は正攻法では捕まらないのだから。
(さて、何をしてやろうか)
声に出さずに呟いて、既望が現れることを前提にしている自分に苦笑した。
もし、既望がここに現れなければ、もとの計画通りに飛び降りればいいだけだ。
死ぬなんていつだっていい。
……ただ、
(やっぱり、本当はあの日に死ぬべきだったな)
顔を上げれば否応なく鮮やかな青が目に入る。
本当なら梅雨が始まる季節になろうというのに、雲もろくにない。
青い空は冷たい、とあいつは言った。
あまりにも高く、突き放されるみたいだ、と。
晴れた日は真夏でも長袖のシャツを着て帽子を目深にかぶり、日陰を縫うようにして歩いていた細い背中。
太陽に嫌われてるんだ、と嘯いた声
冗談めかしてはいたけれど、表情には諦めの色が強かった。
青い空は冷たい、と葵は実感する
あまりに冴え冴えと葵を見下ろすから。
この空は、きっと自分を受け入れてはくれないだろう。
(これはあいつの空じゃない)
こんな抜けるような青空じゃない。
のしかかる灰色の雲でもない。
ほの暗いのにまぶしくて、あたり一面をぼんやりと白く包みこむような空。
見つめていると、あの白に吸い込まれてしまいそうで。
あのまま体を投げ出せば、空に溶けていけるような気がして。
たとえそれが一瞬の夢だとしても、最後に意識を塗りつぶすのがあの一面の白ならば……。
けれど今、はっきりと現実を浮き彫りにする明るい日差しは、そんな些細な錯覚さえ許してはくれない。
(まあ、いい)
ためらいを振り払うように葵は首を振った。
もう一時間もすれば日も傾くだろう。
この青空が変われば少しはきっと楽になる。
どうせ既望の反応を待つつもりでいたのだから。
目を閉じて、背後の非常階段に意識をこらす。
今度は上ってくる足音を逃さないように。




