迷惑な木曜日・2
まだ体温の残る椅子に腰掛けるなり葵は言った。
「なんで杏香を呼んだの」
既望はわざとらしく眉根を寄せる。
「そう怖い顔をしない。可愛いのにもったいない」
「関係ない。理由は何」
「それこそ関係ないんじゃないかな。あと三日の命だろう?」
「もういい。杏香に聞く」
葵は言葉に詰まったように唇を噛んだ。
すねたような反応に既望は目を細めた。
「君は今井さんをどう思う」
葵は顔を上げた。
「今井さんには君のことを聞いたから、君には今井さんのことを聞こうかと思って。公平だろう?」
「あなただけが不公平だわ」
「それじゃあ、今井さんと話していてわかったことをひとつ」
芝居がかった仕草で葵の目をのぞき込む。
「彼女は君を心配している」
「知ってる」
苦々しげに葵は言った。
「だからうっとうしい」
「どうして?」
葵は怪訝そうに既望を見上げた。
ここで聞き返されるとは思わなかったのだろう。
「気にしなければいい。君はもう死ぬんだろう?」
「杏香がかかわると面倒くさい。……いろいろ」
「未遂のことも今回の話も今井さんにはしていないよ?」
既望の言葉は安心すべきものなのに、口調はどこか挑発じみて聞こえて、葵はその顔をにらんだ。
黙ったままの葵に既望はあっさり話題を変えた。
「じゃあもし、今井さんが君の立場なら死ぬと思う?」
「知らない」
そっけなく葵は言った。
だが今度は押し黙っても既望は話を変えようとはしなかった。
葵はため息をついた。
杏香なら。解せない疑問を残したまま、空が死んだとして。
悲しむ、ことは悲しむだろう。葵よりずっと率直に。
たぶんまっとうに悲しんで、まっとうに現実と向き合う。
空が死んだことも。疑問が解けないことも。自分が置かれた状況をそっくりそのまま飲み込んで。
あの性格なら一人になったって孤立もしない。
そもそも、付き合っていたのが杏香なら。
別れるようなことにはならないかもしれない。
「杏香なら死なない。死ぬような状況にならない」
投げやりに、だが妙にきっぱりと葵は言った。
既望は目を見張る。
「何?」
問いただす葵に、既望はおかしそうに笑った。
「やっぱり今井さんはすごいな。尊敬してしまうよ」




