第9章 ごきげんよう、帝国。
第9章 ごきげんよう、帝国
朝、5人はバスコンの中で目を覚ましました。
「起きたら、そのまま走れるんですね」
チャトラがカーテンを開けました。
「それが便利」
「朝ごはんは?」
「町で食べよう」
身支度を整え、バスコンを走らせました。
町へ入り、朝から開いているカフェの前で停めます。
「ここにしよう」
「昨日はオムニバスの中でしたから、今日は外ですね」
5人は店へ入り、朝食を頼みました。
食べながら、オリビアは資料集を机の端へ置きます。
「食べ終わったら、ベルガマの神殿遺跡へ行くよ」
ミミが資料集を見ました。
「これですか」
「うん。今日は実物と見比べよう」
「昨日までより本の出番が多いです」
「世界史の旅になってきたからね」
*
朝食を終えると、5人は再びバスコンへ乗りました。
荷車や馬車が通れる道なら、そのまま進めます。
「このオムニバス、ここでも便利ですね」
タマが窓の外を見ます。
「大きすぎないからね」
「昨日のサンバーよりは大きいです」
「寝られる分は必要だから」
道が細くなるところでは速度を落とし、遺跡の手前で邪魔にならない場所へ停めました。
「ここから歩こう」
5人は資料集を持って遺跡へ入りました。
丘の上には、古代ペルガモンの建物跡が残っています。
「ここ、資料集の写真と角度が違います」
ミミが言いました。
「写真は見やすい方向から撮ってるからね」
オリビアはページを開きました。
ヘレニズム時代の地図と、目の前の地形を交互に見ます。
「カッパドキアとは、また違う歴史の見え方ですね」
ベラミラ先生が言いました。
「そうですね。今度は町の形を歩いて見られます」
チャトラが資料集の地図を指しました。
「この町、海から少し離れてます」
「でも交易の道はつながってる」
タマが別のページを見ました。
「国が変わっても町は残るんですね」
「残る町もあるし、消える町もあるね」
ミミは柱の跡をスケッチしています。
「また描いてる」
「ここは描きたいです」
「画材、全部持ってきて正解だったね」
「はい」
午前中を使って神殿跡や周辺を見て回りました。
資料集の図だけでは分かりにくかった高低差や、建物同士の距離が、歩くと分かります。
「そろそろ行こうか」
「次はイズミールですね」
「うん」
5人はバスコンへ戻りました。
*
ベルガマを離れ、バスコンでイズミールへ向かいます。窓の外には畑と丘が続き、時々小さな集落を通りました。
「飛ぶより景色が近いです」
ミミが窓を見ています。
「今日はこれで正解だったね」
「止まりたくなったら止まれます」
「そう。それもオムニバスのいいところ」
チャトラが前方を見ました。
「ずっとこのまま港まで行けます?」
「町の中へ入る前にしまうよ。狭くなったら邪魔だから」
夕方前、イズミールの壁の外まで来ました。
オリビアはバスコンを停めます。
「ここから歩こう」
荷物を収納し、バスコンも収納しました。
5人は町へ入り、港へ向かいました。
*
ホテルの窓から海が見えました。
「船がいっぱいです」
ミミが窓辺へ行きます。
港には大小の船が出入りしています。
「明日はあっちへ戻るよ」
「ミズーリですか」
「うん。でも今日はホテル」
夕食は、ここでもリージョナルの日替わりメニューにしました。
「またお任せですね」
チャトラが言いました。
「その土地の料理を出してくれるから楽だよ」
「先生、辛いのあります?」
タマがベラミラ先生を見ます。
「毎日辛くなくても大丈夫ですよ」
「前にも聞いた気がします」
「私も言った気がします」
3人が笑いました。
食後、部屋は3つです。
「先生は、今日も1人部屋ですね」
「お願いします。今日の資料をまとめます」
「私とタマ」
チャトラが言いました。
「うん」
ミミはオリビアを見ます。
「画材、まだ預けたままです」
「じゃあ今日も一緒」
「はい」
旅の間に、3部屋の組み合わせはすっかり固定されていました。
ミミは窓から見える港の船を少し描いてから眠りました。
*
翌朝は、イズミールの街を歩きました。
今日は、帰った先の人たちへの土産も探します。
「ダンジョンで研究してる人たちと、ギルドの人たち。エルフ国にも持って帰りたいね」
オリビアが指を折りながら言うと、ミミが続けました。
「しらかば亭の人たちもです」
「うん。みんなの分を見ていこう」
店を1軒ずつ見ながら、菓子や乾いた果物、布、工芸品などを選んでいきます。
「これはギルドで分けやすそう」
「じゃあ少し多めに」
「こっちは研究してる人向けにどうです?」
「面白そう。買おう」
タマは別の店先に並んでいた工芸品を手に取りました。
「これはエルフ国にどうです?」
「いいね。いくつか選ぼう」
「しらかば亭には食べる物がいいです」
「私もそう思う」
買った物は順番に収納へ入りました。
ミミは小さな飾りを1つ手に取ります。
「これは?」
「自分用?」
「はい」
「それも買おう」
午前中いっぱい、5人は港に近い通りを歩きました。
*
「そろそろ帰ろうか」
オリビアが言いました。
「帝国を出るんですね」
「いったんね」
5人は壁の外の開けた場所へ戻りました。
オリビアはBell 505を出します。
「またこれです」
ミミが機体を見上げました。
「今日は短いよ」
5人が乗り込み、ローターが回るとBell 505は浮き上がりました。港の沖合まで出たところで、オリビアは海面を見ます。
「ここなら大丈夫」
前と同じように、喫水線より下で船体と重なる形の海水を収納し、ほぼ同時に、その空間へミズーリを召喚します。
海面に、巨大な灰色の船体が現れました。
「戻ってきました」
チャトラが言いました。
「久しぶりです」
タマも窓から見ています。
「数日なのに、久しぶりに見えます」
ミミが笑いました。オリビアは後部甲板へ回り込みます。近代化後のミズーリの後部甲板には、ヘリコプターが降りられる区画があります。
「降りるよ」
「はい」
Bell 505はゆっくり高度を下げてヘリパッドへ着艦しました。ローターの回転が完全に止まってから、5人は降ります。
「これもしまうね」
オリビアがBell 505を収納します。
甲板の端には、淡い緑色の乗務員が待っていました。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
「航海艦橋までご案内します」
「お願いします」
後部甲板から航海艦橋までは少し距離があります。
5人は緑色の乗務員について、久しぶりの艦内を歩きました。
「ここ、覚えてます」
チャトラが言います。
「私も」
「前より迷わないです」
通路ですれ違う乗務員が軽く敬礼します。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
ミミも小さく手を上げました。航海艦橋へ入ると、当直の乗務員たちがこちらを見ます。オリビアが敬礼し、チャトラ、タマ、ミミ、ベラミラ先生も続きました。
「戻ってきました。またしばらくお願いします」
当直の乗務員が敬礼を返します。
「お帰りなさい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「今日からまた一緒ですね。よろしくお願いします」
オリビアが言うと、近くの乗務員が少し肩を上げました。
「はい。航海を再開できます」
「では、お願いします」
*
その時、オリビアへ港の植物から知らせが入りました。皇帝の側からオリビアたちを追ってきた接触役たちが、ちょうど桟橋へ到着しています。
「来たみたい」
「誰がです?」
「帝都からずっと私たちを探してた人たち」
チャトラが港の方を見ました。
「あそこですか」
「たぶん」
ミミも手すりの方へ寄ります。
「今から来ても、ここまで来られません」
「そうだね」
オリビアは桟橋の方へ向いて、片手を上げました。
「ごきげんよう」
チャトラたちも手を振ります。港側で、小さな人影がこちらを見ています。
直後、ミズーリの汽笛が鳴り、低く大きな音が港と海へ広がりました。
「出ます」
艦橋の乗務員が報告しました。
「お願いします」
ミズーリがゆっくり動き始め、桟橋と町が少しずつ遠ざかりました。5人はしばらく手を振っていました。
*
夕方から夜にかけて、ミズーリはエーゲ海を進みました。
夜、前方に大きなカルデラの島々が近づきます。
「今日はここで泊まろう」
「島ですか」
「サントリーニ」
ミズーリはカルデラ内へ入り、十分な水深と周囲の船を確認して錨泊しました。
「明日の朝、景色がいいと思うよ」
「今は暗いです」
「だから朝のお楽しみ」
5人は久しぶりのミズーリの士官用区画で休みました。
*
朝になり、甲板へ出たミミが最初に立ち止まりました。
「白いです」
カルデラの崖の上に、白い家々が連なっています。
水色の屋根が朝の光の中に混じり、その向こうには風車も見えました。
「昨日の夜は何も見えなかったのに」
チャトラが手すりから見上げます。
「上に町があるんですね」
「イアの方も見えるよ」
オリビアも崖の上を見ました。海から見上げると、町はずいぶん高いところにあります。タマが言いました。
「どうやって上陸します?」
オリビアは少し考えました。
「それを今から決めよう」
「上陸作戦ですね」
チャトラが楽しそうに言いました。
「じゃあ、作戦会議」
5人は白い町と崖を見ながら、サントリーニ島への上陸方法を考え始めました。
更新時間待ちに読める珍しい理系女子向け悪徳令嬢追放ものを書いてみました。当然人口比率的にニーズが無いのでとても過疎りますw 刺さる方にはささります。ページ上の魔法少女3部作シリーズリンクに入れてあります。
「悪徳令嬢 技術内政系 王妃教育を受けてゲーム知識もある婚約破棄された公爵令嬢と、下層社会から父の子爵に引き上げられた子爵令嬢ヒロインの物語」




