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ダンスのレッスン

 王宮に戻ってから、王太子妃教育が再開され、私は朝から晩までメイスン侍女長の地獄の特訓を受けていた。分かったことは、王太子妃になるためには優雅さと気品だけではなく、体力と気力も必要らしい。背中が少しでも丸まっていようものなら、すぐさま叱責の声が飛んでくるのだ。お辞儀の姿勢を維持するのも足腰の筋肉がいる。私は産まれたての子鹿みたいに足をプルプルさせながら、いいと言われるまでその姿勢のまま耐えなければならない。これはもう騎士の訓練並みのハードさである、と私には思えた。もちろん、騎士の皆様はもっと厳しい訓練を受けていることだろう。


 私が今までのんびり、緊張感もなく過ごしていたのが悪いのだけど、もうちょっと扱きは手加減してほしい。けれど、近々夏の園遊会が王宮の庭園で行われるため、メガネ侍女長もそうのんびり教育してはいられないのだ。社交シーズンになれば、行事も多くなる。公務を欠席することが多ければ、「やっぱり、王太子妃に相応しくない田舎貴族の娘」と笑われてしまうだろう。それに、何かにつけてカストリアン公爵令嬢の振る舞いと比べられてしまうことも想像がつく。メガネ侍女長ことメイスン侍女長も、私が大恥をかいたり、大失敗をして、無様な姿を晒して王室と殿下の恥にならないように、考えてくれている。


 分かっているから、泣き言は言わない。言わないけれど、泣きそうだ。

 午後からはダンスのレッスンだ。メイスン侍女長は、他の仕事があるため今日は部屋にはいない。いるのは護衛騎士のリオンとセシーナの二人だ。三十分ほど後に先生が来ることになっている。それまでは、自主練習の時間というわけだ。

 セシーナが演奏してくれるヴィオラに合わせて、一人でワルツの練習をする。クルクル回っているうちに気持ち悪くなってきて、「セシーナ、ちょっと休憩!」と中断する。

「だいぶ、よくなってきますよ! 次はもうちょっと、テンポを上げてみましょうか?」と、爽やかな笑顔で怖ろしいことを言ってくる。セシーナも貴族令嬢だけど、立派な女性騎士だ。メイスン侍女長よりはマシだと思って指導を頼んだのが間違いだった。


「これ以上、テンポを上げたりしたらスカートに絡まって転けるわよ!」

 私はペタンと床に座り込む。椅子に座って紅茶を飲みながら見物していたリオンが、「おい」と眉を潜める。

「王太子妃ともあろうものが、床に座り込むなど品がないぞ!」

「だって、椅子はあなたに占領されているじゃない」

 レッスンのために使わせてもらっているのは小ホールだ。ささやかな茶会やパーティーに使う部屋だが、普段は使われていない。そのため、家具もほとんどおいていないのだ。あるのは今、リオンが座っている壁際の椅子とテーブルだけだ。

「立っているのも訓練のうちだぞ」

「ええ、そうね。その訓練は是非あなたがどうぞ? 私が苦労している間に、のんびり自分だけお茶を飲んでいるなんてズルいじゃない。見なさい。セシーナだって、立って演奏をしてくれているのよ!」

 私はよっこらっしょと腰を上げてリオンの側に行き、腰に手を当てて彼を見下ろす。

「僕の役目は護衛だ。サボっているわけじゃない」

「サボっているようにしか見えませんけどね」


「キャバリック隊長に男性役をやってもらってはどうです? お相手がいる方が上達が早いですよ」

 にこやかにセリーヌが提案すると、リオンは心底嫌そうに顔をしかめる。

「この僕に、女の手を取って踊れだって!? 考えただけでも寒気がする。お断りだ」

「本当はダンスが苦手で踊れないんじゃないの? 隠すことはないわ。人間誰しも、不得意なことはあるものだし」

 私がからかうように言うと、リオンはムッとしたように睨んできた。


「踊るくらい容易いに決まっている!」

「でも、女性とは踊ったことないんでしょう?」

「ハッ、バカにするな。屋敷のドリーとはいつも踊っていたぞ」

「ドリー? 誰? お屋敷のメイドさん?」

「番犬だ。ドリーは優秀なんだぞ。鷹を捕まえたこともあるんだ」

「……犬?」

 幼い頃のリオンが、犬を相手に一生懸命ダンスの練習をしている姿を思い浮かべて、私は笑い転げてしまった。

「失礼だな。何がおかしいんだ!」

「ごめんなさい。ええ、そうよね。きっとあなたはワンちゃんと素敵なダンスを踊れるのでしょうね。見て見たかったわ」

「キャバリック隊長、かわいいですね」 

 セシーナにまでほっこりしたように言われて、リオンはガタッと椅子から立ち上がる。怒っているのか、笑みを浮かべた顔が怖かった。


「下品な田舎ダンスしか踊れないくせに、殿下のお相手が務まると思うなよ。今のまま舞踏会に出てみろ。笑い者どころか、殿下の面目丸潰れだ。この僕が直々に指導してやる!!」

「えっ……遠慮したいんだけど?」

「ドーリッシュ! 貴様がこの田舎女の相手を務めてやれ。僕がヴィオラを弾いてやろう」

 リオンは胸を反らして、得意げに言う。

「リオン、楽器も弾けるの?」

「当然だ。貴族の嗜みだろう。そもそも、楽器の一つも演奏できないお前が恥さらしなんだ。少しは練習しろ!」

「えっ、だって私、演奏会に呼ばれる方でしょう? 演奏する機会なんて巡ってこないと思うの」

「そうとは限りませんよ。慰問先で演奏を行うことはあります。簡単な曲でも練習しておくほうがいいでしょう」

「そ、そう?」

 セシーナにまで言われては、逃げられない。音楽の授業まで増えるのかと思うと、余計に気が滅入ってため息を吐きたくなった。


「では、演奏はキャバリック隊長にお任せして、私がお相手を務めさせていただきます」

 ヴィオラをリオンに預けると、セシーナは優雅に礼をする。女性なのにキリッとした顔立ちだから、うっかりドキッとしてしまう。私はスカートを広げて、「それじゃあ、お願いします」とお辞儀をした。


 きっと、セシーナなら優しく親切にリードしてくれるはず。それに相手も女性だから、私も緊張もしない。なんて、甘く考えていました――。

 リオンの奏でる曲のテンポに足がついていかなくて、私は「待って。ちょっと早い!」と、悲鳴を上げる。「大丈夫です、落ち着いて」なんて、セシーナは笑っているけれど、彼女の足さばきに追いつかなくて、私はステップの順番が分からなくなって混乱する。

 案の定、ターンの方向を間違えてよろめき、セシーナにもたれ掛かってしまった。セシーナは私を握ったまま、クスクス笑って「大丈夫ですか?」と顔を覗き込んできた。


「ああ、うん。大丈夫。でも、ちょっと目が回って気持ち悪い……リオン、イジワルしないで! 今のはいくらなんでもテンポを上げすぎよ。あんな速さで踊っている人なんていないでしょう?」

「いいえ、今の速度が一般的ですね」

「えっ、そうなの!?」

 私は田舎の領地で行われる身内を招いた舞踏会しか出たことがない。田舎では、けっこう気ままに踊っているからテンポなんてあまり気にしない。


「当たり前だ。あの程度についてこられないようで、王宮の舞踏会に出られるものか。まったくひどいものだ。あれなら、ドリーの方が百倍うまく踊れるぞ」

「いくらなんでも、そこまでひどくないわよ!」

 私のダンスが上手くないのはわかっているけれど、犬よりはマシなはずだ。けれど、リオンは嘆かわしいとばかりに首を横に振る。

「いいや、ひどいね! 自分の姿を鏡で見て見ろ。一曲踊っただけで、髪は振り乱れているし、息も上がっているじゃないか。まったく優雅さに欠けている。しかも、踊りながら叫ぶし、躓くし、踊っているというよりは振り回されていると言うべきだろう。嵐に遭って飛ばされそうになっている女にしか見えなかったぞ」

 リオンの辛辣な指摘が次から次に飛んでくる。言われていることはその通りだから、一つも反論できやしない。一曲踊るだけで、この有様なのだ。大貴族のご令嬢たちは、どうやって優雅さと気品をキープし続けていられるのだろう。


 生まれた時からの厳しい教育と指導の賜だろうか。だとしたら、田舎貴族でわりと自由奔放に育てられてきた私は、大きく出遅れていることになる。メイスン侍女長が焦って、色々詰め込もうとするはずよ。きっと、何もかも間に合ってはいないのだ。私はふぅと息を吐いてハンカチで汗を拭った。


「心配はいりませんよ。私がいくらでもお相手いたしますから」

 胸に手を当てたセシーナが、ニコッと微笑む。

「セシーナ……」

 私は目を潤ませて彼女の両手を取った。でも、セシーナも容赦はしてくれないのよね。「さあ、さあ。もう一度、最初からトライしましょう」とホールの中央に私を連れて行く。


「姿勢は崩すなよ。途中で雄叫びを上げるのもナシだ。それとみっともない靴音を立てるな。間違えた時に足下を見ようとする癖も直せ。疲れたからといって肘を下げるな。ワルツの基本は軽やかにだ! ボテボテ踊るのが田舎流なのかもしれないが、ここは王都なんだ。笑い者になりたくなければ封印しろ。いいな!?」

 口うるさく指摘してから、「では、最初から」とリオンはヴィオラの弦を構える。

 最初より若干テンポを落としてくれたのは、多少の気遣いなのだろう。それでも、私はセシーナについていくのが精一杯だ。セシーナは「大丈夫です。落ち着いて」と、微笑む。つい、セシーナの男前っぷりに惚れてしまいそうになる。リオンに少しくらい見習わせたいものだ。


 リオンはワルツを難なく弾いている。いささか情熱的過ぎる癖のある演奏に、私の足が混乱しそうになる。ただ、音楽に造詣の深くない私が聞いても、上手いことだけは分かる。それにヴィオラの演奏が好きなのか、演奏中のリオンは楽しそうだ。気分が乗ってきたのか、後半になるについてテンポがさらに上がっていた。おかげで、一曲終わった後は私の額から汗が流れ落ちる。つ、辛い。足がつりそう。

「もう、無理……」

 私は床にへたりこみ、ペタッと横たわった。

「おい、床で寝ようとするな!」

 弦を私に向けながら、リオンが神経質な声を上げる。だって、床の冷たさが気持ちいいんだもの。

 もう少し、味わっていたい。けれど、リオンがうるさい。「それが王太子妃の姿か!」、「誰かに見られたらどうする。お前には恥がないのか!」とガミガミ言ってくる。

 セシーナは「あはは」と笑って、私に手を出してくれた。私はその手につかまって、引っ張り起こしてもらう。


 ちょうど三十分経ったのだろう。休憩する暇もなく、ダンスの先生と侍女長が部屋を訪れる。その時にはリオンもセシーナも居ずまいを正して、壁際に並んでいた。私は先生にご挨拶する。

「まあ、自主的に練習なさっていたんですね。素晴らしいですわ。では今日は、昨日のおさらいから。最初は基本的なナチュラルターンからしっかり練習していきましょう」

「……よ……よろしくお願いいたします」

 私は優雅に見えるように微笑んでおく。「頑張ってください!」と言うように、セシーナが片目を瞑る。分かっているんだけど、もうそろそろ体力が限界よ?

 

◇◇◇


 その日の夜、入浴をすませた私は、フラフラしながら寝室のベッドに歩み寄り、うつ伏せに倒れ込んだ。疲れた。足がくたくたで、もう少しも動きたくない。メガネ侍女長がいればはしたないと叱られるところだけど、幸い侍女長は早めに部屋を退いた。きっと園遊会に備えて準備があるのだろう。だらしなく転がっていても、文句を言ってくる人はいない。なにせ、今この寝室にいるのは私だけだ。

 ごろんと転がってベッドの真ん中に移動し、大の字に寝転がる。ネグリジェの裾が多少めくれていても気にしない。殿下はまだご公務があるだろうから、たぶん戻ってはこない。昨日も殿下が寝室に入ってきたのは私が寝た後のようだった。


 これが明日も、明後日も、明明後日もずっとずっと続いていくかと思うと、気が遠くなりそうだ。

「足がパンパンよ……誰か揉んで~~~~」

 思わずそんな声を上げると、「……私でよければやろう」と声が返ってきた。びっくりして飛び起きると、今日はいつもより早く殿下が寝室に入ってくる。

「殿下! いいえ、違うんです。殿下にそんなことを頼めません。つい口から願望が出てしまったんです!」

 私はあたふたして、首を大きく振った。

「疲れているのだろう。ダンスレッスンをずいぶん頑張ったと聞いた」

 殿下はベッドに上がってくる。すでに寝間着に着替えている。入浴したばかりなのか、髪もしっとり濡れていた。そのせいで、いつもより色香を漂わせているように感じてしまって、ドキドキする。


「そんなことまで、ご存じなんですか?」

「君についての報告書は侍女長から送られてくるからな。君には無理をさせている。負担になるようであれば、授業の日程を調整させよう」

 殿下は私をうつ伏せに寝かせると、本当に足のマッサージをしてくれるようだ。私は赤面して断ろうとしたが、すでに殿下の手は私のふくらはぎをゆっくりと揉んでくれている。それがあまりに気持ちいいものだから、遠慮の言葉が出てこなかった。

 引き寄せた枕に顔を埋め、されるがままになる。「うー……」と声が漏れるのは、あまりにもむくんだ足が痛かったからだ。仮にも王太子殿下に足を揉んでもらえるなんて、私は国一番の贅沢者だ。他の誰かに知られたら、不敬だなんだのときっと批難の的になる。

 

「行軍の最中、私も足が痛くて自分で揉んでいたからな」

 殿下は懐かしそうに呟く。そういえば、殿下は十五の時、隣国との戦争に参加している。一年半ほど王都には戻ってこられず、辺境の砦を防衛していたようだ。今でこそ和平が結ばれて戦争は起こらなくなったけれど、小競り合いはたまに起きていると聞いている。有事の際にはまた、騎士団を率いて戦場に赴くのだろう。そんな日が来なければいいのにと思うけれど、歴史の授業でも平和な時期はあまり長く続かないと教わった。いつだって、どこかで戦いは起きている。そのための騎士団だ。殿下は王都で政務を行わなければならない国王陛下に代わり、騎士団を率いて戦場に赴き、指揮をとる立場にある。


 グイグイと遠慮なく揉まれて、あまりの痛さに悲鳴を上げそうになる。枕に顔を押しつけて必死に堪えたけれど、痛みから逃れようとして脚をバタバタと動かしてしまった。

「で、殿下……待って、待って……うっ、そこ痛いです!! 痛い。痛たたたたっ、ものすごく痛い!!」

「そうか? そんなに強く押してないつもりなんだが」

 殿下はパッと手を離して首を傾げる。私は涙ぐみながら、頭を起こして殿下のほうを見ようとした。

「すごく強いですよ!」

「では、もう少し加減しよう」

 殿下は暴れる私の両脚を簡単に押さえると、先ほどより優しい手つきで揉んでくれた。ちょうどいい強さがあまりにも気持ちよくて、緊張も解れて体が温かくなってくる。このまま眠ってしまいそうだ。

 殿下にマッサージしてもらいながら寝るなんて、あまりにも図々しい。気力で起きようとしたけれど、瞼が重くなってくる。


「……君は少し頑張りすぎだ」

「そんなことないですよ……全然、追いつかないんですから」

「焦ることはない」

「でも……もうじき、夏の園遊会があるのでは?」

「そうだが。園遊会は庭園で行われる。舞踏会ではないから、ダンスを踊るわけではない」

「それはよかったです……」

 私はヘニャッと笑った。つい、「うー……」とか、「あー……」とか小さな声が漏れてしまう。それくらいに、痛気持ちいいんだから仕方ない。

「代わりに、私が殿下の肩もみをしますね」

「気を遣わなくていい。私は慣れている」

「私だけがマッサージしてもらうわけにはいかないですよ。怒られます」

「黙っていれば、誰も文句は言わないだろう」

「そうですけど……私が申し訳ないんです。うっ……痛たた……」

「これでも、まだ強いか?」

「いいえ、そのままでお願いします。痛いけど、すごく気持ちいいから」

 私が答えると、殿下がフッと笑う気配がした。驚いて振り返ろうとしたが、殿下の顔までは見えない。

 すぐに私は起こした頭を枕に戻した。


「君と踊る機会が楽しみになるな」

「任せてください。今はまだ田舎流ダンスですけど、もうちょっとしたらちゃんと踊れるようになりますから」

「田舎流ダンス?」

「リオンに……いえ、キャバリック卿に笑われたんです。ですから、今日は護衛騎士のお二人に猛特訓してもらいました」

「その田舎流ダンスというのがどういうものか、見てみたいものだな」

「ダメです。きっと殿下も大笑いしたくなります」

「私もダンスはそう得意ではないから、笑いはしないさ」

 太ももを滑る殿下の手は大きくて温かい。


「嘘です。そんな事を言って、私よりずっと上手いんですから」

「そんなことはない。子供の頃はダンスが嫌いで何度も逃げ出した」

「それ、どうなったんです? 怒られたんですか?」

「そうだな。その度に剣術の稽古を禁止されるから、最後には諦めた。そちらの方が辛かったからな」

「殿下はダンスは苦手なのに、剣術の稽古はお好きだったんですね」

「そうではない男子の方が少ないのではないか?」

「うちの弟は剣術の稽古なんて嫌がりますよ。あの子は臆病で、気が小さいんです。体を動かすことも苦手で、図書室にこもって本ばかり読んでいるんです。剣術の稽古なんてさせたら、三日ももたず逃げ出すはずです」

「そうか? 勉強が得意なのであれば、それも才能だ」

「そうだといいんですけど……」

「君はどんな子供だったのだろうな……」

 少し楽しそうな殿下の声が聞こえる。低くて落ち着いたその声を聞いていたら、ウトウトしてしまって気付けば目を閉じて寝てしまっていた。

 

 私はただの暢気な娘でした。面白みもなくて、刺繍も得意じゃなくて、音楽も苦手で、乗馬もできなくて――誇らしい気持ちになったことも一度もない。ただ、健康だけは自信があった。病気になることは滅多になかったから。家柄も古く、元気な子供を産むことはできるだろうと、それだけの理由で伯爵家のローマンの婚約者に選ばれた。それでも、別によかったのだ。


 子供は嫌いではなかったから。子供を育てて、屋敷の管理をして、それでこの先も平凡ながら慎ましく生きて行ければそれでいいと、ずっと思っていた。けれど、人生はどう転がっていくのは分からない。そんな私が、今王宮にいて王太子妃になんてなっているのだから。


 殿下に、こんな私を妃にしてよかったと思ってもらえる日は来るんだろうか。そのためには、元気な世継ぎを産むことなのかもしれない。たぶん、それくらいしか私には役に立てることがない。けれど、殿下は相変わらずお優しいままで、私の脚のマッサージはしてくれるけれど、それ以上は触れてこない。


 今はまだ色々と問題が解決していなくて、私がまだこの先も王太子妃でいられるかどうか分からないからなのかもしれない。下手に子供が出来れば、離婚できなくなる。それは困ることなのだろう。


 


 


 

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