殿下の来訪
ささやかなお茶会の時間が終わり、名残惜しさを感じつつ二人を見送ろうとした時、アンリエットが急に何かを思い付いたようにパタパタと駆け出す。向かったのは従僕に日傘を差し掛けてもらっているリオンの元だ。ギョッとしたように「おい、なんだ!?」と、下がろうとする彼の前に立つと、アンリエットはニコーッと無邪気な笑みを浮かべる。私もジェーンも、いったい何をするつもりなのかと止めるのを忘れて成り行きを見守っていた。
リオンはいきなり茶会で監視していた令嬢の一人が自分に近付いてくるとは、予想していなかったのだろう。完全に不意をつかれていた。しかも、アンリエットは手土産に持たせたお菓子の包みの中から大きなクッキーを取り出し、「はい、これあげるね!」と彼の手にそのクッキーを押しつけた。
私達がお茶会をしている間、ずっと立ちっぱなしだったリオンと従僕のクライスのことを気づかったようだ。クライスにも、「はい、あなたも!」と同じようにクッキーを渡す。そして、「さようなら!」と手を振って引き返してきた。私もジェーンも、「ブフッ!」と笑いそうになって両手で口を押さえる。
リオンはポカンとしているし、クライスは片手に日傘、片手に貰ったクッキーを持ち、困惑の表情を浮かべていた。令嬢からいただいたものを、いらないと返すのも憚られたのだろう。
私は改めて、二人と挨拶を交わし笑うのを我慢しながら玄関まで見送った。戻ってきた時には、リオンは「おい、なんだ。あの娘は! クッキーをいきなり渡してきたぞ。なんなんだ!?」と顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。
「労いのクッキーよ。うちのクッキーは大きくて食べ応えがあっておいしいんだから。アンリエットの気遣い、無駄にしないでね」
私がニコーッと笑って言うと、彼は渋面を作り、まるで得体の知れない未知の食べ物でも見るような目でクッキーを凝視していた。その横で彼の従僕は、「ああ、本当ですね。とてもおいしいです」とクッキーを咀嚼している。そんなクライスにも、リオンは未知のモンスターと出くわしたような驚愕の表情を向けていた。まったく、これだから。温室育ちのお坊ちゃまは。食べたくなかったら、クライスにあげればいいんだわ。
◇◇◇
子爵家の邸宅に、急に殿下が来訪したのは翌日のことだ。王族など歴代の子爵家のご先祖も合わせて一度ももてなしたことがない我が家は、朝から大騒ぎだった。なんとか体裁を整えて一番上等の客間で待っていると、殿下が護衛の騎士を連れて入ってくる。父様と母様とはホールで挨拶をかわしたらしい。
私的な訪問だから服装は目立たない地味なものだった。とはいえ、王室御用達の仕立屋に作らせた最上級の生地の服だ。父さまが着ているようなくたびれた上着とは、生地の色艶が全然違う。
「殿下、ご来訪、心よりお待ちしておりました」
殿下の前に進み出たリオンが、サッと膝をついて挨拶をする。なぜ、王太子妃の私よりも、あなたの方が先に挨拶をするのかしらねぇ。まあ、いいんだけれど。殿下を見上げるリオンの目はキラキラして、まさに大好きなご主人様に駆け寄っていくチワワそのものだ。小さな尻尾を精一杯振っている姿まで目に浮かんでくる。
「キャバリック、ご苦労だな。こちらで問題は生じていないか?」
「はい、私がくまなく目を光らせておりますので、屋敷の警備は万全にございます。妃殿下は必ずやお守りいたしますのでご安心ください!」
ハキハキ答えるリオンに、私はふきそうになるのを必死に我慢した。日頃の傲慢不遜な態度とは違いすぎて、面白いほどだ。殿下の前では猫をかぶっているのだろうと思っていたけれど予想以上である。
「そうか、よろしく頼む」
「はっ、おまかせください。この命に代えましても、殿下より賜ったお役目を果たしてみせます!」
キリッとした表情を作って答えるチワワ君の健気な姿に、私はとうとう耐えきれずに「ブフッ」と声を漏らした。口を押さえたけれど、二人にも聞こえたらしい。リオンが一瞬だけ、キッと鋭い視線を投げてくる。それを無視して殿下の前に進み出た私は、できるだけ礼儀正しく挨拶をした。
「君は元気そうだな。安心した」
「お陰様で。近衛騎士様が護衛をしてくださるので、心穏やかに過ごしております。実に快適ですよ?」
私はニコッと微笑んで、リオンに視線を向ける。リオンは私が何か言い出すのではないかと警戒しているのだろう。顔をしかめていたけれど、殿下が振り返るとすぐに元のキリッとした表情に戻っていた。
殿下が応接椅子に座るのを待って、私も向かいに腰を掛ける。リオンと殿下が連れてきた護衛騎士は壁際に控えていた。扉の外にも一人待機している。
屋敷の侍女が緊張しきった面持ちでお茶とお菓子を運んできた。殿下にお出しするお菓子を、急遽用意したのだろう。特大のケーキだった。「王太子殿下、ようこそいらっしゃいました!」とアイシングで文字が書かれたクッキーがブッ刺さっている。殿下の訪れを知らせる宮廷の使いがやってきてから、厨房では怒号が飛び交っていた。まるで今から処刑台に引きずられていく罪人のように青ざめた料理長が、震えながら母様に殿下にお出しするお菓子について伺いを立てていた。
母様は「うちのケーキは王都で一番ですもの。なんでもお喜びになるわ」と、のんびり答えていた。その結果、厨房の使用人たちが一丸となって作り出した傑作のケーキがこれなのだろう。うん、おもてなししたいという気持ちは十分に伝わってくるよ。ちょっと奇抜すぎて、リオンがものすごい形相でケーキを睨んでいるけれど。
殿下もびっくりしたらしく、目が丸くなっている。毒々しい色のマジパンで作った薔薇の飾りもついるし、確かに見た目は賑やかだ。王宮でこんな奇抜なお菓子は出てこないだろう。
侍女がナイフを取り出すと、一瞬だけリオンと殿下の護衛が剣の柄に手をかける。殿下がサッと手を上げなければ、侍女を叩き切っていたところだ。私も緊張して背筋をピンッと伸ばす。
侍女は気の毒なくらいに震えた手でナイフを握り締め、ケーキに入刀する。つい力が入りすぎたせいか、歓迎の意を込めたクッキープレットが真っ二つに割れてしまっていた。侍女は短い悲鳴を上げると、パタンと倒れる。
慌てふためいた従僕たちが駆け込んできて、二人がかりで彼女を抱えて客間から運び出した。
「大変失礼しました……」
老執事が冷や汗を拭いながら頭を下げて客間を出て行く。部屋に残されたのは、ナイフが突き刺さったままの特大のケーキと、ポカンとした私と殿下、それにあ然として突っ立っている護衛二人だ。
うちの素朴な使用人たちに、殿下のおもてなしはやっぱり荷が重すぎたわ。
「ええっと……私が切り分けましょう!」
私はサッと立ち上がり、ナイフを取る。うん、こういうことは、気にしても仕方ない。それに、殿下も今日は私的な来訪だ。この程度の失敗は気にしないだろう。けれど、後ろに控えた護衛二人はそうではないようで、ものすごい形相になっていた。
崩れかけの毒々しいケーキを、殿下に食べさせるなど正気ではないと思っているのだろう。失礼ね。うちの料理人たちが頑張って作ってくれたケーキだ。見た目は独創的だけど、味は悪くないはず。私は遠慮せずに切り分け、皿に移したケーキを殿下に差し出す。真っ二つに割れてしまったクッキープレ―トは私と半分こだ。盛り付けも全然美しくないけれど、殿下は皿を受け取ってくれた。
「いただこう」
「で……殿下!」
護衛騎士が進み出ようとしたが、殿下が手を上げて止める。毒味をしようとしたのね。うん、気持ちは分かる。殿下がケーキにフォークを入れるのを、ヒヤヒヤハラハラした様子で見守っていた。チワワは、「僕の殿下によくもそんな得体の知れない物体を食べさせたな!」と言わんばかりの形相だ。
「大丈夫です。うちの料理人は腕がいいんですから。一流の宮廷料理人には負けますけど。これはこれで……素朴な味がするはずですよ!」
私は笑顔で言い、先にパクッと口に入れる。毒々しい赤紫色のソースはラズベリーだったらしい。ケーキはチーズの風味がする。マジパンがちょっと甘いけれど、全体的には悪くない味だ。キッチンの使用人たちの苦労が偲ばれる。きっと、時間がない中で試行錯誤してくれたのだろう。殿下も気に入ったのか、三口でケーキを平らげていた。
「あの~~よければ、もう少し食べます?」
殿下の視線が残りのケーキに向いているものだから、さりげなく訊いてみる。殿下は「いただこう」と、頷いた。そんな殿下に、後ろの護衛二人は目を見開いていた。お二方とも、表情が失礼ですよ。私はにこやかに、ケーキを取り分ける。殿下って、硬派なのに意外と甘党ね。
紅茶をゆっくり飲みながらくつろいでいると、殿下がカップを置いた。
「急に訪れてすまなかった。公務があるため、あまり時間が取れなくてな」
「いいえ、殿下のお顔を見れて嬉しいですよ。少し、お疲れなのではありませんか?」
目の下が少々黒く見える。
「昨日、寝るのが遅くなったからだろう。気にしないでくれ」
「気にしますよ。殿下が無理をしてないか、心配するのは当然です」
「そうか……」
「そうです」
これでも、表向きはまだ王太子妃なんですからね。夫の体調管理も本来なら妻の役目だ。とはいえ、殿下の場合は側近がついているのだし、侍医もいるのだから、体調に気を配る者は大勢いるだろう。私の心配などいらないのかもしれないけれど。
「今日、訪れたのは君に報告があったからだ」
「毒の件……でしょうか?」
「ああ、それもある。昨日、王宮近くの河川で行方不明だったキッチンメイドが発見された」
河川で発見ということは、すでに亡くなっていたということだろう。私の表情が硬くなる。
「……お茶の席でするような話題ではないな」
「いいえ、かまいません。気になっているので聞かせてください」
「メイドの衣服の中から遺書らしきものも見付かった。君に毒を盛ったことを告白する内容だった」
「……本当にそのメイドが書いたものです?」
「ああ、家政婦長にも確認し、彼女の雇用計画書のサインと筆跡を比べた。サインは間違いなく彼女の書いたものだろう。だが、それ以外の文面はいささか怪しい」
完全に一致しないということだろうか。それなら、サインだけさせた紙に後から別の者が内容を書き加えた可能性もある。
「なんだか、都合良く犯人が見付かりすぎですね……」
私はカップを持ったまま考え込む。完全に黒とも言えず、白とも言えない。そんな曖昧な気持ち悪さがある。
「死因は溺死だ。入水か他殺かは不明だが、アルコールを飲んでいたのは確認されている」
「捜査はこれ以上、進展を見込めないでしょうね」
「そうなるだろうな。君には申し訳なく思っている。もう一度、使用人の身元調査と部屋の確認をさせているから、戻るのはもう少し待ってもらいたい」
殿下は私が王宮で安全に暮らせるようにしてくれている。それが私には少し申し訳なかった。私は王宮より、この住み慣れた子爵家の邸宅の方が居心地が良くて、このままでもいいと思ってしまうから。それに、いつまで王太子妃でいられるかわからない身だ。
「殿下……ミレーネ嬢はどうしていますか?」
「彼女なら公爵家の邸宅にいるだろう。体調を崩しているから、表には出られないようだ」
「体調を?」
「公爵が言うには心労によるものらしい」
「やっぱり、私のせいでしょうか……」
「そうではないだろう。疲労が蓄積していたのだと思う。多くのことが起こりすぎた」
「そうですね……」
結婚式から連れ出され、馬車が襲われ、ローマンが死亡。その上、王宮にやってきて私の糾弾までした。育ちのいい令嬢にとっては、過酷なことばかりだっただろう。けれど、一番の原因はやっぱり、彼女の戻るべき場所、彼女が本来いるべき場所を私が奪ってしまっている現状にある。殿下が私と結婚していなければ、彼女の戻る余地はあった。けれど、私が居座り続けているから、彼女は名誉も回復できない。噂も耐えがたいものだろう。私はどうしたらいいのか。
「君が心を痛める気持ちはわかる。だが、誰がなんと言おうとも君が王太子妃であることには変わりないし、私の結婚の誓いは変わることはない。公爵家が何を言ってこようともだ」
殿下は真面目な顔つきで私を見つめている。殿下は誠実な人だ。そのために、成り行きで結婚してしまった私でも庇おうとしてくれるし、味方でいてくれようとする。
「だから、ですよ……殿下はいい人だから。私のために困らせたくはないし、公爵家との関係が悪くなって立場が悪くなるようなことにはなってほしくはないんです。殿下、私はそう多くのことを望んではいません。誰かいい人と結婚して、困らない程度の生活ができて、家族仲もよかったら、それでいいと思ってしまうんです。平凡でしょう?」
私は困ったように微笑んだ。
「……私との結婚では、その君の願いは叶えてやれないと?」
「殿下は叶えようと努力してくださるでしょう。けれど、それが無理なこともおわかりでしょう? 殿下はどうあっても王太子で、ゆくゆくは王となられる平凡とはほど遠い方なんです。私は……正直、殿下の隣に並び続ける覚悟がまだできていない。王太子妃が平凡では務まらないでしょう? かといって、私が努力してもきっとミレーネ嬢には及びません。それなら……ちょっと問題はあったけれど、元のようにミレーネ嬢が王太子妃になる方がずっとうまくいくと思いませんか?」
ああ、息苦しいな。結婚しておいて、選ばれておいて、今さらできないと弱音を吐いて誰かに丸投げしたくなっている。そんな自分の往生際の悪さも、覚悟が決まらない優柔不断さも、背負うべきものを背負う勇気もない臆病さも全部、嫌になってしまう。だから、私は平凡だ。平凡な田舎貴族の娘だ。
王太子妃という立場にしがみつけばつくほど、私はきっと殿下を失望させて、失敗を繰り返すだろう。私はそれが嫌だ。殿下はいい人だから、幸せでいてほしい。王国国民全員が誇らしく思えるくらい、完璧で立派な君主になってもらいたい。私では、殿下を支えきれない。この人の背負う重荷を、一緒に背負っていく自信が少しもない。
成り行きで結婚してうっかり受け取ってしまったものは、私の想像よりもずっとずっと重いものだった。愚かな私はそのことを知らなかった。そんな私を、誰が王太子妃だと認めるだろう。私のせいで、殿下が後ろ指を指させるようなことになるのは嫌だ。私はお荷物にはなりたくない。
私は目が潤みそうになって下を向く。殿下は何も言わない。呆れているのか、離婚の手続きを真剣に考えているのかは分からないけれど。ごめんなさいと謝る言葉を口にしかけた時、殿下がテーブル越しに手を伸ばし、私の手を握り締める。大きな手だ。この人の腕枕は好きだったなとぼんやりと思い返す。よく眠れたのだもの。けれど、それすら自分には過ぎたもので受け取る資格はないものだ。
公爵家は私が王太子妃の位を奪ったのだと思っているだろう。どう言い訳したところで、それが真実のように思える。
「君は思い違いをしている。君は自分を平凡な人間だと言う。だが、私も君と同じように平凡な人間でしかない」
「殿下が平凡だなんて、誰も信じませんよ」
殿下は生まれた時から特別な人だ。それに、身分を抜きにしても彼はとても優秀で人格者だ。それだけで十分に非凡だ。
「そうか? だが、君と同じように、当たり前の日々を願っているだけだ。妻を迎え、共に生き、子を作り、老いてできれば安らかに死にたいと願うただの人間だ。君もそうではないのか?」
「それは……そうです」
見つめられると、言葉に詰まる。彼の真剣な眼差しがどこか熱を持っているようでドキドキしてしまい、視線をどこにやればいいのか分からない。つい、リオンに何度も視線をやってしまい、そのたびに彼の形相は険しくなっていた。なんで、こっちを見るんだとでも思っているのだろう。だって、隣の殿下の護衛は知らない人で、美形だけどクール系でちょっと怖いんだもの。まだ、チワワの方が見ていて安心するのだ。
「だとしたら、君と私の目的は同じだということだ。それ以上のことを君に強いるつもりはない。ただ、私の傍らにいてくれたらそれだけでいい。そう望むことも、君には耐えられない負担となるのだろうか」
私の手を握り締める殿下の手はホカホカしている。その熱は私の緊張感や不安を少しずつ溶かすように感じた。
殿下、なんだかすごい殺し文句を言われている気がするんですけど?
顔の温度が急に上がり頭が酔ったみたいクラクラしてくる。うっかり一生ついていきますと口にしそうになり、正気に戻れと言い聞かせて頭を小さく振った。殿下の無自覚殺し文句の殺傷能力は高すぎだ。
「殿下……あの、えっと…………もう一切れ、ケーキ食べます!?」
私は咄嗟に話を逸らして、まだ半分以上残っている特大ケーキを指差す。殿下はチラッとそれを見て、「いや、もう十分だ」と首を横に振った。ですよね~~。
「それなら、お茶なら……!」
私はさっとティーポットを取り上げる。軽い。これは茶葉しか残っていないだろう。お給仕、お願いしまーすっ! 心の中で叫んだけど、もちろん気の利く使用人たちは迂闊にこの客間には近付いてこない。
殿下はあたふたしている私を見て、スッと手を引っ込めた。それにホッとする反面、ちょっと寂しく思う。だって、殿下の手の温度、気持ちいいんだもの。
「いや……いい。君を困らせたいわけではないんだ」
少し苦笑いを浮かべた殿下を見つめて、私はギュッと唇を引き結んだ。
「もう少し……時間を……時間をください! 頑張れるかどうか分からないけれど……前向きに検討しますから!」
気付けば、そんな言葉が口から出ていた。熱い。頭も頬も熱くて、このまま池か川にダイブして冷ましたくなるくらいだ。水を張った洗面器に顔を突っ込むのでもいい。とにかく、冷まさないとのぼせたまま、今度は自分の口が何を言い出すのか分からない。
でも、殿下にあんな殺し文句まで言わせたのに。私ではやっぱり無理ですなんて言えない。
ああ、この人はズルいな。言えないのを分かっていて、ずっと高いところから登っておいでと手を差し出すのだ。その手を取るという誘惑がどれほど抗いたいものか知っているくせに。
「そうか」
表情を和らげて、彼は微笑む。
ああ、これはダメだ。
彼の手の上に落ちていくような感覚に、私は赤くなった顔を両手で覆う。
そんなホッとしたような顔をされては、私は――もう、さっきとは同じ言葉を口にはできないだろう。
たとえ、今さらミレーネ嬢が王太子妃になりたいと言ったとしても。私は彼の隣を、誰かに譲りたくないと思ってしまった。
たとえ、その居場所を守り続けることがどれほど苦難を伴う茨の道だと分かっていたとしても。
恋は人を勇敢にさせる。そう言ったのは誰だったかのか。
勇敢にさせるんじゃない。無謀にさせるのだ。
浮かれた頭は、後先も考えず誰かの胸に飛び込んでしまいたい衝動を我慢できないから。




