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勇者殺しの囚人  作者: 携帯充電器
サイドストーリー『聖国の戦い編』
33/35

怪力の勇者

【怪力】それがシテンの能力。

その力はシンプルにして強力である。

拳一つで山を崩し、ワイバーンを殴り飛ばすシテンの豪腕は人族の限界を遥かに超えている。


そんなシテンの豪腕が受け止められていた。

シテンの左手のパンチをオーガは右手でがっしりと受け止めて驚きの声を上げる。


「…おまえ本当に人間か? 俺様が押し返せねえなんて…同じオーガでもいなかったってのによお」

「俺も初めてだぜ、拳を受け止められるなんてな」


しかし、オーガはニヤリと笑ってシテンを見た。


「ただ、どうして右手で攻撃しなかったんだ? 俺の攻撃を受け止めたのは右手だったよなあ…べつに左利きってわけじゃあねえんだろう?」

「さあな、おまえ程度なら左手で十分だと思ったんじゃねえか?」


シテンはそう言ってはぐらかすがオーガはシテンの右手を見ていやらしく笑う。


「そうかな? その痙攣した右手…さっきの攻撃で痛めたんじゃあねえか?」

オーガの言葉に何も言わずにシテンは受け止めているオーガの手を振り払って距離を取る。


右手は幸い腫れたり折れたりはしていないが、たしかにオーガの言う通り鈍い痛みがある。


「その右手で俺様を殴り飛ばせるのか?」

「飛ばされてみるか? この右手でよ」

「おお飛ばしてみろよ、その右手でよお」


両雄共に拳を構え走り出す。先に拳を振るったのはオーガだった、オーガの頭には回避するなんてものはなくシテンの拳に殴られてでも拳を当てると意気込んでいたのだ。


しかし、その拳はシテンに当たらず空ぶった。


そしてシテンの拳は当たるどころかシテンはそもそも拳を振るうことなくオーガの横を通り抜けて走って行ったのだ。


「なっ!? キサマ逃げる気か!!」

「まじめにやり合うバカがどこにいるってんだよ!」


シテンは教会とは反対方向に向かって走り出す。オーガもすぐに追いかけるが、シテンの走った方向は入り組んだ道の多い商店街だった。

シテンは小道と大通りを行ったり来たりしながらオーガを撒こうとするが、オーガは意地でシテンを追いかける。


とうとう商店街を抜けると、シテンは走るのをやめて振り向いた。


「ここだな、ここにしよう」

「…なんだよ、諦めがついたのか?」

「ああ、孤児院を壊すわけにゃあいかねえからな」


人気のない広場の中心で二人は再び向かい合う。



今回はシテンが先にオーガに左手で殴りかかるが、オーガは躱すそぶりすら見せずに腹に一撃を食らった。

しかし…オーガの表情は余裕そのものだった。

「痛いが、その程度じゃあ俺の舎弟と同程度だな」

「はは、それはぞっとしねえな」


オーガは仁王立ちのまま右手でシテンを殴り飛ばした。


ドカッと鈍い音がしてシテンは広場の中心から10メートル以上吹っ飛ばされ、そのまま倒れ伏した。



顔を殴られたせいか視界が眩む、しかし骨も歯も折れたりはしていないのは奇跡だろうか。

幸い、殴られた右目の眉の上の肉が少し抉れているだけだ。出血はひどいが致命傷ではない。


オーガは殴り飛ばされたシテンを眺めている。すぐに止めを刺そうとしないのはアリアを情報を吐かせるためか、それとも既に死んだと思っているのか。


「…はあ、クソ痛え。それに…」

シテンの懐が少し濡れている。うつ伏せのまま懐をまさぐって目当てのものを取り出す。


「溢れちまってクソが、もったいねえじゃねえか」

「生きてたか、死んでもよかったが…なんだそれは」


それは小さな酒瓶だった。シテンは商店街を走り回っている時に見つけた酒をくすねていたのだ。

シテンはオーガを無視して常に持っている杯に酒を注ぐ。


「酒なんてどれも一緒だ、大事なのは杯なんだよ。これで飲んだ酒はいつも同じ味がする」

「…何を言っている?」


オーガは勝利を確信している余裕からかシテンを怪訝な目で見つめていた。


「俺の母さんの形見だ、家を出た父親が持っていたんだっていつも俺に話してた」

「…おい待て、その杯は」


そこで初めてオーガは杯に注目して驚いた。


「その杯…見たことがあるぞ、東洋の怪物が持ち歩いていた杯に似ている!」

「なんだよ、俺の父親が化け物だって言いてえのかよ」


シテンは杯の酒を一気に飲み干しヘラヘラと笑う。オーガはありえないとシテンから一歩後ずさる。


オーガはさっきの余裕など感じさせないほどに警戒していた。


「…たしか、そいつの名前は…」


その時だった、シテンの体に明確な変化が現れた。身長が少し高くなり、オーガよりも一回り小さい程度にまで大きくなった。


そして、皮膚の色が少し赤みがかり爪は黄色く変色した。



何より、えぐられた眉の上から突き出す5センチほどの黄色い角が圧倒的な存在感を放っている。


「やはり…お前の父親は、東洋の怪物」

「オーガじゃねえな」


オーガの言葉を遮ってシテンは立ち上がり言った。


「そんでもって東洋の怪物でもねえ、今わかったよ。どうして父親が家を出たのか、それに母さんが父親のことについて何も言わなかったのか」


シテンの独白を無言で見ているオーガ、その表情に余裕など一切なかった。今までのシテンとは明らかに違う、見た目も力も比べ物にならないとオーガは感じていた。


「そりゃあ言えねえよな、父親が人間じゃねえだなんて」


シテンはオーガに一歩近づく。オーガは黙って一歩後ろに下がった。


「どうした? お前の好きな力比べだ」

「…なんなんだよ、その力。なぜ俺たちと同じ力を持っている! 混血にそんな力があるはずがない!!」


オーガはそう言って拳を振るう。狙いも何も無く振るわれた拳は少し前のシテンなら軽く吹き飛ばせる威力があっただろう。


そう、少し前のシテンなら。


「薄まらねえよ、この血は」

「なあっ!?」


…片手。シテンの拳を受け止めたのはオーガのように今度はシテンがオーガの拳を片手で受け止めていた。


そして、シテンはもう一方の掌をオーガに向ける。その掌からはバチバチと電気が走り、徐々にその輝きは増していった。


「…なるほどな、たしかに俺たちとは違う」


オーガはそう言ってニヤリと笑う。

その笑みは今までの好戦的な笑みとは違い、どこか納得し諦めたような笑顔だった。



その直後、シテンの掌から真っ白な光線が放たれる。それは雷であり、光であり、熱であった。


光が消えると、その場にいたのはシテンと上半身を失って焼け焦げたオーガの下半身。



「慣れないな、この力は」


その力はかつて民衆から恐れられ、畏怖されていた。そしてその力はシテンの能力として再び蘇ったのだ。



民衆から恐れられ、畏怖される存在。



そう定義される存在はあるものを除けば除けば一つしかない。


圧倒的な力で恐れられ、畏怖される。

それは恐怖の象徴とされると共に信仰の対象ともなった。


『神』である。




怪力の勇者、能力【鬼神】

それは天地を揺るがす無双の力である。

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