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勇者殺しの囚人  作者: 携帯充電器
サイドストーリー『聖国の戦い編』
32/35

開戦

「おじさん大きいねー」

「マザーがちっちゃく見える!」

「マザーと同じ勇者様なんでしょ?」

聖国に連れて行かれたシテンは神聖の勇者アリアが経営する孤児院の庭で子供たちにまとわりつかれていた。


「…おい、神聖の勇者サマよぅ」

「アリアと呼んでくださっていいんですよ? 私もシテンさんと呼ばせていただきますので」

アリアが庭に備え付けられたバーベキューコンロで肉と色とりどりの野菜を炒めながら笑顔でシテンに答えるが、それがシテンには憎たらしく見える。


「こいつら俺のこと全然知らねえじゃねえか! 何が俺のファンだよ! 俺を連れてくるときにそう言ったはずだぞ!」

「まあまあ、これからファンになるんだからいいじゃあないですか。気長に待ってください」


シテンの叫び声を聞き流しながら子供たちが持ってくるお皿に焼けた肉や野菜を置いていくアリア。

シテンの怒りはどこにも届くことはなく、子供たちにすら面白がられている現状にシテンは起こっても無駄だとため息をついた。


「…俺は嘘が嫌いなんだよ」

「あらあら、私は大好きですよ? あなたのそういうところ。とても好感が持てます」

「俺は苦手だよ、あんたのそういうところが」


全ての子供に昼食を取り分けたアリアは笑顔でシテンにお皿を渡す。お皿には子供たちよりも少し多めに取り分けられた昼食がきれいに盛り付けられていた。


「ありがとな」

「いえいえ、子供たちも楽しそうにしていますので」


シテンは子供たちのために小さく切られた野菜をフォークで刺してアリアに突き出す。


「ほら食え」

「…ほぇ?」


アリアはキョトンとしてシテンを見つめる。

「おまえ、自分の分はどうしたんだ?」

「ああ、私はもういただいていますよ」


アリアはそう言って微笑むが、シテンの視線は未だにアリアを睨みつけている。


「もう一度言うぞ、俺は嘘が嫌いなんだ。おまえが昼飯を食ってねえことは知ってんだよ」

「…あらあら、バレちゃいましたか」


アリアは諦めた様子で笑うと、それを聞いていた子供たちがわらわらと集まってきた。


「マザーご飯食べてないの?」

「お腹空かないの?」

「僕のご飯あげる!」

「私も!」


子供たちは眩しい笑顔でアリアに自分のお皿を差し出す。


「あっちょっと貴方達! 自分の分のご飯はちゃんと自分で食べなさいよ!」

「でもマザーのご飯がないんでしょ?」

「マザーもちゃんと食べないとダメだよ!」

「お腹空いたら元気でないよ?」


叱ってくるアリアに子供たちはしっかりと反論してお皿を差し出してくる。アリアは真っ直ぐ見つめてくる子供たちに困った顔をする。


「しょうがねえ奴だなおまえ、ほら食え。子供のぶん取るよりマシだろうが」

「…ええ、いただきます」


アリアが子供たちが用意したお皿にシテンの差し出した皿から少しだけ取り分けると、子供たちは安心した様子で食事を再開した。


「すみませんね」

「詫びは酒で許してやるさ」

「私の宗教ではお酒はダメですよ」

「俺は入信してねえよ」

「…しょうがないですね」


その後の昼食の時間は落ち着いたものであった。




しかし、戦争の波はゆっくりと聖国にも近づいてきていた。


昼過ぎ、教会にて。

アリアは聖国に駐屯する兵士から魔国と王国の戦争の現状を聞いていたが、王国の劣勢に苦い顔をする。


「それで、帝国の動きはどう?」

「実は…魔王の一人が帝国にも攻めてきているらしく、なんとか勢力を拮抗させることができている状況です」

「そうなのね、なら私たちも増援を送りましょう。一応同盟国ですからね」


そのときだった。

ドガンッ!!という派手な音とともに国境をなぞる壁が崩れて魔族の大群が押し寄せてきたのだ。


教会は聖国の中心にあるが、そこから見ても分かるほどに壁は派手に崩れて魔族の大声と市民たちの叫び声が聞こえてきた。


「まずい…魔国は三国を同時に叩いて各個撃破するつもりなの!?」

「勇者様、貴方は急いで戦場へ! 私は軍を連れて急ぎ向かいます!」

「頼みましたよ!」


アリアは教会を飛び出して魔族の大群に向かって走っていった。



その頃、孤児院の庭の隅ではシテンが子供たちが遊んでいる姿をのんびりと眺めていた。

孤児院は戦場とは反対方向にあり、壁が崩された音も魔族たちの暴れる音も聞こえなかったのだ。


しかし、孤児院に忍び寄る影はひっそりとシテンのもとへ近づいていた。



そいつは突然現れた、孤児院の塀を崩しながら堂々とシテンの背後から歩いてきたのだ。


「おかしいな、神聖の勇者は女と聞いていたんだが…おっさんじゃねえか」

シテンの背後にいたのは赤黒い皮膚に黄色い角を額にもつ大男だった。


帝国で一番身長が高いと言われるシテンを見下ろす巨体の大男はシテンをギロリと睨みつける。一方、シテンは未だに大男の方を向かずに大男に驚いている子供たちに視線を向けている。


「情報が間違っているのか、それとも勇者はここにいないのか…おいお前、いつまで背を向けてんだよ! ビビって振り向くことすらできねえのか!!」


シテンは大男を無視して子供たちに向かって大声で言った。


「お前ら、教会の場所はわかるな? そこに行って匿ってもらえ、きっとそこが一番安全だろうからな」

「…で、でも…」

一番年長であろう男の子は不安そうに大男を見るが、シテンは笑顔で言い放つ。


「いいから行けよ、マザーが待ってるぜ?」


その一言で皆が動き出した、子供たちは年長が年下の小さな子供たちを連れて教会に向かって走り出す。


そして、大男はイラついた様子で背を向けている視点に向かって大振りで拳を振るった。


「俺様を放って子供を逃すだと! 舐めた真似してんじゃあねえぞ! お前には勇者の居場所を吐いてもらう、そうなりゃ子供なんぞに用はねえ!!」


拳はシテンの頭に向かって吸い込まれるように振るわれ、大男の拳はシテンの右手に受け止められた。


ドオオン! と空気の震える音とともに両者の周りに砂埃が舞う。


「勇者ならいるぜ? お前のすぐ目の前に」

「…おまえ、帝国の怪力の勇者だな」


大男は赤い顔をさらに赤くしてシテンを睨みつける。


「オーガの俺様の拳を受け止めるなんて馬鹿げたこと…怪力の勇者しか考えられねえ」

「どうした? おまえが望む勇者だぜ?」


右手で大男の拳を受け止めながらシテンは懐に隠していた一升瓶の注ぎ口を口で噛み切って封を開け、そのまま豪快に飲み干した。


「はぁ…やっぱラッパ飲みは旨くねえな」


愚痴るシテンをニヤリと笑いながら大男はシテンから距離を取る。


「おまえは標的ではないが…放っておくには危険すぎる。ここで俺様が直々に殺しておいてやろう」



聖国の孤児院でオーガと勇者が対峙した。

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