掲げる剣
メインストーリーは後2・3話で終わりますが、サイドストーリーはまだ続きますので。
グリースたちが帝国に到着した時には既に初代勇者とエリザベートが戦っていた。
黄金の勇者は帝国軍を率いて五万を越える魔族たちを足止めしていた。その中にはアンリの分身たちも魔族の足止めに協力していた。
しかし、状況は魔族側が優勢に見えた。
黄金の勇者、もしくは初代勇者のどちらかが倒れればそれだけで魔族側が一気に帝国を飲み込むだろう。
「あなたがバートリーを殺したと聞いた時、私の中の全てが終わった」
エリザベートは戦いの中で初代勇者に語る。
「愛も、幸せも、悲しみも、苦しみも感じない。バートリーが死んでから私は虚無の中にいたの」
初代勇者はそれを聞いて何も答えなかった。
「虚無の中にあるのはただ一つ、あなたに対する怒りのみ。そのためだったら王国だろうが帝国だろうが潰してみせる。あなたが守ろうとした全てを私が潰してあげる」
エリザベートはバートリーと付き合っていた。そして、真に愛していた。
エリザベートが左手の中指と薬指に嵌められている指輪に軽く触れる。
「この指輪は私とバートリーの結婚指輪、探すのに苦労したわ。それでも探さずにはいられなかった…本当は小指につけたかったけれどあの人の指は太くてね、しぶしぶ中指につけることになったわ」
初代勇者は無言でエリザベートに攻撃をするが、エリザベートも攻撃の手を緩めることなく互いに互いの攻撃を打ち消し合う。
熾烈な争いは、決着がつく様子がない。
しかし、初代勇者が放つ闇はエリザベートの霧を飲み込み消し去るが霧は減るどころかさらに増えていった。
「一から生み出す必要のある闇をこれだけ生み出すあなたはまさにバケモノだけど、自然界にある水分を集めるだけでいい私の操る霧に量で勝ることは不可能よ!」
「…量で勝てないならば質で勝てばいい」
霧と闇、濃霧と暗黒の攻防は人の目で見るにはあまりにも白く…そして黒かった。
主人公たちが帝国に到着した時、帝国は霧と闇に包まれていた。
「…なんだこれは」
『想像以上にヤバイ戦いだな…2人が今どこにいるかすらわからねぇ』
「これが勇者と魔王の戦い…本当に自分が魔王にふさわしいのか分からなくなってくるわ」
「…魔族は黄金の勇者たちが足止めしている、だけどそれ以上に初代勇者の闇が魔族を取りこんで消してる」
アンリの報告に主人公たちは余計に驚いた。
「魔王と戦いながら魔族の処理…本当に規格外だ」
「…どうする?加勢するの?」
「とりあえず魔族を倒す、初代勇者の負担を少しでも軽くする!」
その時だった。
突然、帝国を覆っていた霧と闇が晴れて太陽の光が眩しく帝国を照らし出す。
「…ぐ、かはっ!」
「量より質、とか言ってたけど…結局足手まといを守るためにせっせと闇を使っちゃって…量でも質でも劣っちゃったわね」
そこで主人公が見たものは、見慣れない剣を初代勇者の胸に突き刺している霧の魔王エリザベートの姿だった。
「…どう…して…」
「何を不思議そうにしているのかしら?もしかして体を闇に変えられないことに驚いているのかしら?」
霧の魔王は初代勇者が苦悶の表情を浮かべる姿をニヤニヤと笑いながら嬉しそうに話す。
「私の持つ魔剣エクスカリバーは魔を払い栄光の輝きを所有者にもたらす。魔力の闇を操り、魔力の闇と化すあなたにしてみればこの剣は天敵でしょうね」
初代勇者は胸に刺さっている剣を見て、霧の魔王を睨みつけた。
「どうして、この剣をあなたが持っているの?」
「…私が持ってちゃダメなのかしら?」
初代勇者がエクスカリバーの刀身を両手で掴んだ。
「…これは、バートリーの剣だ」
この時、初めて霧の魔王の表情が凍りついた。
「なぜ…バートリーはこの剣を一度も抜いたことはないはずなのに!」
「抜かなくても知ってる。この剣の力も、本当の使い方も全部教えてもらったから」
初代勇者の体を闇が覆う。
「無駄よ!この剣が刺さっているあなたが闇となって逃げ出すことはできない!」
「闇になれないなら、闇に呑まれればいい」
「…な、何を!?」
初代勇者の体が闇に覆われていく、ついに胸に刺さっている剣すら闇が覆い…霧の魔王の手にまで到達しようとしたとき、霧の魔王は剣を手離してしまった。
「…なぜ、この剣は闇を照らして栄光をもたらす剣のはずなのに!」
「本当の使い手じゃないとこの剣は真の力発揮しない。所詮あなたはその程度…バートリーには及ばない」
初代勇者の表情は冷たく、胸に刺さっている剣を抜いても苦しそうな表情をすることはなかった。
「…本当に、あなたは人間を辞めてるのね」
「魔王を倒す勇者なんてこんなものよ」
初代勇者はエクスカリバーを持って霧の魔王に背を向けた。
霧の魔王はその姿を見つめ、顔を伏せる。
「…ねぇ、初代勇者さま?」
「なに?」
「なぜ、バートリーを殺したの?」
その問いに初代勇者は少し黙った。
エリザベートの問いは続く。
「あなたはバートリーを殺したことを悔いてる、それは戦う前から知っていたけど…だからこそわからない!」
エリザベートの言葉に初代勇者は重い口を開いた。
「…初めは、彼のことなんて噂程度でしか知らなかった。人々を苦しめ続ける死の象徴、魔族を力で支配する情なき帝王。そんな話しか知らなかった。きっと初めは義務感だった、私以外に勇者はいない…私が助けないといけないって思ってた」
でも、と初代勇者はつづける。
「魔族は人族以上にまともな人もいた。人族よりも情に厚い人がいた、人族よりも勇敢な人がいた。誰もがバートリーを好いていた」
「なら…どうして!」
初代勇者はエリザベートの問いに自嘲的に笑った。
「気づいた時には…もう遅かった。それに気づいたのは、バートリーを殺してからだったから」
「…そんな…」
初代勇者はエクスカリバーを見つめて言った。
「剣を持たない彼をこの剣で刺した、彼は自分が死ぬとわかっていても笑顔を崩さなかった。彼は私に人族と魔族を頼むと言った」
「…あの人が、そんなことを?」
初代勇者はうなづいた。
「その時初めて、私は自分の間違いに気付かされた…自分の義務感が間違っていることを彼を殺した時に思い知った」
初代勇者のエクスカリバーを持つ手が震える。
「彼はずっと勇者を待っていた、魔王を殺す勇者じゃなく…魔王と手を繋ごうとする勇者を。エクスカリバーはそのための剣だと…『斬る』のではなく『掲げる』剣なんだって言っていた」
「…掲げる剣」
「でも、いくら待ってもそれらしい人はいなかった。グリースとか言う勇者殺しも、黄金の勇者も怪力の勇者も論外…聖国の勇者も違った」
初代勇者が俯いた時、どこからともなくアーモンが現れた。
『なるほどね、選定の剣エクスカリバー…生で見たのはこれが2度目だな』
「あげないわよ、悪魔」
興奮した様子で話すアーモンに初代勇者が釘を刺す。
『さすがの俺もお前を前にして強奪なんてしねぇな、ただ試したいことがあるだけだぜ?』
「試したいこと?」
初代勇者が聞き返し、アーモンがニヤリと笑ってうなづいた。
『俺はずっとこの剣を探していたんだ、ダインスレイブ、勝利の剣に勝るとも劣らない伝説の剣…俺が望む魔国への帰還を果たす1番の近道』
「…これはあなたの望みを叶える剣じゃない」
初代勇者の言葉にアーモンはもっともだとうなづいた。
『この剣を持つのは俺じゃない、そして俺の望みが叶うのは言ってみれば「ついで」みたいなモンだ。この剣には今の魔族と人族との争いを解決する力…あらゆるハッピーエンドを叶える力があるんだよ!』
その言葉に初代勇者は怪訝な顔をする。
『信じられねぇって顔だな初代勇者サンよ、騙されたと思って試してみろよ?』
「…何をするの?」
アーモンはいつも通り、ニヤリと笑って言った。
『その剣をグリースに渡せ、そしてグリースがエクスカリバーでアンの胸を刺すんだよ』




