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王国の勇者

今回は短めです

「…アミラが戦線離脱、城の方向へ飛んだ」

「わかった、ありがとなアンリ」

「このくらい…簡単」


主人公にそう返したアンリの表情はいつもと変わらぬ無表情だったが、瞳は喜びで輝いていることを誰も知らない。


「帝国と王国にアンリがいることは事実だが、アンリと他の勇者との間にそれほど接点がないことまでは魔王も分からない」


…先ほどアミラに言った脅し文句は全て嘘っぱちなのだ。しかし頭がいいアミラはそれがたとえ嘘であっても可能性自体は無いと言い切れないものに対しては警戒する。


例えば、戦線を離脱して体制を整えようとしたり。


「これで統括する頭が消えた。残っている魔族を狩るぞ」

「…結局お手柄はアンリじゃない」

フェルサは主人公にそう言うが、アンがフェルサを諫めた。


「安心しろ、アミラと戦闘になればアンとフェルサに頑張ってもらうからな」

「…アンタも頑張りなさいよ?」

「当然だ」


それからの戦闘は楽なものだった。

アンリが足止めしている魔族を後ろから挟み撃ちにして討ち取っていく。実力のある主人公達には戦闘というよりも作業のように感じた。


「まさか同族を討つことになるとは」

「ちょっと悲しいね」


そういう2人の手は止まることなく次々と手際良く魔族を倒していく。


「行動と言動が一致してないぞ」

「…いや、私がこっちについてるのに未だに私の下につかないこいつらは反逆者だからな」

「…私はそもそも戦争反対だし」

主人公の言葉に当然だと言わんばかりにフェルサが不遜に答え、アンも悲しいと言った割にはドライだった。


戦闘…いや、作業は三十分もかからずに終了した。



魔族がいなくなった王国はほぼ壊滅状態だった。

その上、魔族が攻めてきたと知った貴族達は早いうちから王国を出ており、国の政治は完全にストップしていた。


貴族でなくても商人のような土地を持たない市民は国を離れており、残っている国民は農家や冒険者といった魔族と戦えるものか、土地がないと生活していけない人間くらいだった。


「…実質、王国は滅んだと言っても過言じゃないか」

「勇者は全滅、貴族もいなくなった。王様も政治を司る力はほぼ残っていない」


主人公とアンリがそう言うと、

『…いいや、まだ王国には勇者がいるぜ?』

アーモンが姿を表してそう言った。


「どう言うことだ?」

『おい!いるんだろう?話があるんだよ』


主人公の質問にアーモンは答えることなく虚空に向かって叫んだ。


その瞬間だった。

主人公達の目の前に黒いモヤがどんどんと集まり出して、人の形を成していく。


「…なんだこれは」

『おかしいとは思ってたんだよ、紫電の勇者がアンと出会す前に敗走してた。そんな短時間で勇者を倒せる奴は限られる、その上勇者の移動ルートを把握してる奴なんてグリースだけだが、グリースじゃない』


アーモンはニヤリと笑う。


『驚いたぜ、いることはずっと前から知っていたが…さすがにここまで人間をやめてるとは思わなかった』

しかし、その声はかなり緊張していた。

人の形をした黒いモヤはだんだんと人間らしい姿を作り上げた。

身長は主人公より少し低く、闇のような黒い髪に闇より黒い瞳の色白の少女。


「……話は何?」

その声は鈴のような美しさがあったが、それ以上に冷たい針のような人の緊張を煽る鋭さがあった。


『お前に協力してほしいのさ、魔王アミラとの戦争を終わらせたい』


少女は何も言わずにアーモンを見つめる。

アーモンはそんな少女を構うことなく説得を続ける。


『お前だって戦争が続くことをよしとはしないだろう?別に魔王を殺せと言っているわけじゃない。ただ、少し力を貸してほしいだけなんだよ』

「…目的は何なの?」


少女の言葉にアーモンは胸を張って答えた。


『悪魔の居場所を取り戻す。俺の願いはそれだけだ』


少女はしばらく黙ったままだった。

そして、なぜかアンリをじっと見つめた。


「…わかった、少しだけ協力する」

『そうか!お前がいれば百人力だぜ!』


アーモンはそう言ってニヤリと笑った。


『よろしく頼むぜ?初代勇者サマよ』

その言葉に皆が驚いたが、中でもアンとフェルサは少女から飛び退いて警戒した。


「この人が…魔王バートリーを殺した初代勇者!?」

「何でそんな古代の英雄が生きてるのよ!」


アンとフェルサの言葉にアーモンはため息をついた。

『さあな、それは俺でもわからんが…まぁ魔王殺せるような奴だ、人間辞めてて当たり前みたいなモンだろ?』

「……心外だ、ただ寿命を消しただけ」

「それは一般的には人間辞めてるぞ」


少女の言葉に主人公が突っ込んだが、少女は気にする様子もなくアンリに話しかける。


「ねぇ、あなたは勇者なの?」

「…いや、私は勇者じゃない」


アンリの言葉に少女は少し残念そうに笑った。

「…そう、王国は見る目がなかったのね」

「…えっと」


戸惑うアンリに少女は微笑んで抱きしめる。

意外な行動に主人公達は驚いたが、近寄りがたい雰囲気に誰も動けなかった。


「あなたには勇者の素質がある。それを恐れる人がいてもめげないで、それを誇れるようになりなさい」

「…勇者、さま?」


そして、少女は空気に溶けるように消えていった。


姿が消え、少女の声だけがどこからか聞こえてくる。


「協力はする、先に魔王の城で待ってる」


名前も、実力もわかない少女はその目的すら明かすことなく去っていった。

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