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霧の魔王

今日は少し早めに投稿です。

…もう寝たいのじゃ

魔国のアミラ達の城とは違う、霧の魔王エリザベートの住処がある魔国の西の端にある山に向かう道中。

グリースはクレイブの首を切り落とした魔剣を右手に握りしめ、その刀身を見つめていた。


「これは…他の【魔術剣】とは違う?」

「その剣は魔剣、きっと魔剣ダインスレイブだと思う。どうしてあなたが持っているのかはわからないけど」


アンはそう言ってグリースの手に握られている魔剣を見る。黒く禍々しい刀身が見るものに不安を感じさせるグリースの【魔術剣】のどれとも似つかないものだ。


「この剣は、一体なんなんだ? クレイブの能力を封じたのもこの剣の力なのか?」


グリースの質問にアンはうなづく。

「そうだと思う。ダインスレイブの力は呪いの力、それがあの勇者の能力を縛ったんだと思う。私はそこまで魔剣とかに詳しくないからよくわからないけど」


アンが話しているとアーモンが笑顔でロエースから現れた。何やら嬉しそうにグリースの魔剣を見ている。


「…どうした? これが欲しいのか?」

『いいや、剣はふさわしい奴の手にあるのが美しいんだよ。その点お前は最高だ、お前の手は剣しか握ることが許されない。その制約をお前は力に変えている、お前以上に剣に愛された存在はいない』


やけに饒舌なアーモンに怪訝な顔をするグリースだが、辺りに霧が立ち込めてきたため気を引き締めて辺りを警戒する。


相手は霧の魔王、すでに相手のエリアに踏み込んでいるのだ。


霧の中を迷わないように細心の注意を払いながら目的地である霧の魔王の居城まで歩く。戦争中だからなのか魔物1匹出てくる気配はない。


「…意外とあっさり到着したが、ここからが本番だ」

「ここが、霧の魔王のお城。意外と小さいのね」

「いや十分でかいだろ」


山腹に建てられた城は確かにアミラ達の城と比べれば一回りほど小さいが、それでも威圧感を感じるには十分な大きさであった。


グリース達が城の扉に近づくと、扉は誰も触れていないのにもかかわらず自然に開いた。

警戒しながら中に入るが誰もいない。


「魔王は…奥にいるのか?」

「なんだか、少し怖いわね」


灯りはなく、窓から入る日光すら霧に遮られている城の中は外と比べて余計に暗い。ジメジメとした霧と相まってかなり不気味な雰囲気を醸し出している。


慎重に奥に進み、キッチンや空き部屋を探索していくと大きな扉に遮られたら大広間に出た。

扉の隙間からは霧が出ており、この部屋から霧が発生しているように見える。


魔王はここにいる、グリースはそう確信してアンを見た。

アンはすでに顔が真っ青になっており、恐怖心が限界を超えているようだ。


「…いくぞ」

グリースの言葉にアンは無言で首を上下に振る。言葉すら出てこないのだろう。



グリースは重い扉を押し開けた。


「待っていたわ、小さな魔王さんと剣士さん。私は霧の魔王エリザベート、どうぞよろしくね」


優雅に揺れる黒いドレスと足元にまで伸びる白く長い髪、霧の中でもはっきりと見える紫色に輝く瞳。そしてなによりもその圧倒的な存在感を放つのは彼女の右手の薬指とその隣の中指に嵌められた2つの金色の指輪が霧の中で怪しく光っていた。


「…グリースだ、アンタに話があってここに来た」

「そうなの? なら話だけでも聞いてみようかしら」


エリザベートはゆったりと椅子に腰をかけてグリースを微笑みながら見つめる。しかし、その視線はグリースをいつでも射殺すことができるぞと言わんばかりの余裕を感じさせるものであった。


グリースは意を決して口を開こうとしたその時、アンがグリースよりも前に出た。



「お願い! アミラ姉様とフェルサ姉様を止めて欲しいの!」


アンは必死な表情でエリザベートに訴えかけた。


「…それだけかしら?」

「え?」

突き放すようなエリザベートの言葉にアンは狼狽えるが、エリザベートは笑顔で椅子から立ち上がる。


「あなた、名前は?」

「…アン」


その名を聞いてエリザベートはアンの頭を撫でた。


「そう、アンちゃんね。どうしてあの2人を止めたいのかしら?」

「…戦争なんて、して欲しくないから」

アンがエリザベートをじっと見つめて答えた。



「そう、戦争を止めたいのね。人族と魔族の争いを止めたいとあなたは本心で思っているのね」


エリザベートはそれだけ言うとアンに笑いかけた。


「いいわよ、私…あの2人が気に入らなかったのよね」

「…いいの? 本当に?」


アンはそう聞き返すとエリザベートは笑顔を崩すことなくうなづいた。


「剣士さん、あなたは帝国と聖国の同盟軍に加勢してきなさいな。私はアンちゃんと魔国でしたいことがあるの」

「…戦況も詳しく知っているのか」


グリースの言葉にエリザベートはゆったりと笑う。


「魔王ですから」



グリースはエリザベートの言われた通りに同盟軍の元に向かった。エリザベートはアンを抱き抱えて魔国のアミラ達のいる城に向かうらしい。


「道中、道に迷わないように霧に案内させるから安心なさい。あなたが迷うことはないわ」

「助かる」



エリザベートがパチンと指を鳴らすと目の前に霧でできたバラのような花ができ、そこからいばらのように霧の道が伸びていった。


「霧の中に現れる霧のバラ道、素敵だと思わない?」

「俺は芸術が分からん、そう言うのはアンに聞け」


グリースがアンを指差す、アンは目を輝かせてバラの道を見ていた。


「あら? あなたも私と同類なのかしら?」

「すごい! とっても綺麗ね!」


グリースは興奮する2人を放ってバラの道沿って山を降りた。




そのころ、黄金の勇者ルークの率いる帝国軍は獣の魔王フェルサが自ら率いる魔族の軍とぶつかり合っていた。

帝国軍はフェルサたちの凄まじい身体能力に圧倒されており、魔族側が有利だった。



「入ってくるな!お前らは離れて雑魚狩りしてろ!」

「おいおい、アタシと一騎打ちでもするつもりかい?」

「おうとも! まさにそのつもりだ!!」


ルークはそう叫び魔王と一騎討ちを狙う。

もちろん、魔族側はそんなことお構いなしにルークを狙うが、同盟軍が必死にそれを防いだ。


「…すまんな、コイツにはこうでもしないと勝てそうにない」


黄金の勇者が兵士たちを見てそう言った。


一騎討ちはフェルサが終始圧倒していた。

「おらおら! 粋がっても所詮人間は人間だね! 動きが遅すぎるったらありゃしない!!」


ルークの宝剣はフェルサに掠ることすらなく、逆にフェルサの攻撃は着実にルークに体に傷をつけていった。


兵士たちは加勢に入ろうとする気持ちを必死に抑え、ルークを信じてルークを狙う魔族たちを必死に足止めして一騎討ちの邪魔を防いでいた。


「つまらない! まったくもってつまらないよ!」

「…うぐっ!」


一騎討ちは2分とかからず、ルークが膝をついた。

身体中から血を流し、息も上がって立つことすらままならなかった。


そして、フェルサがとどめを刺そうと拳を振り上げた。




…その時だった。



「待っていたんだよ、この時を!!」

ルークがそう叫んだ瞬間、ルークとフェルサの間に刹那の閃光が煌いて皆の視界がほんの一瞬だけ白に染まる。

そして、閃光が止んで帝国軍と魔国軍の目に映った光景はフェルサが膝をつき、ルークがフェルサの首に宝剣を向けているという有り得ないものだった。


「…一体、何が起きた!?」

「【敗者は天に拳を掲げ、勝者は地に膝をつく】…一騎討ちで俺に勝てる奴は存在しない。それだけの話だ」


フェルサの驚いた声に黄金の勇者は静かにそう言った。フェルサは軽く舌打ちをして両手をあげる。


「…これだから勇者はキライだ、降参するよ…別に私は世界征服なんて願ってないし」

フェルサはそう言って空気に溶けるように姿を消した。


魔族軍は魔王が姿を消したと知ると慌てて魔国に戻っていった。



「降参する奴が逃げるわけないだろ」


ルークは逃げていく魔国軍を見て自分の軍に命令を出す。


「お前たち! まだ戦争は終わっていない、一度帝国に戻り物資の補給と回復をする! そして一度とはいえ魔王を退けたことを国民に報告するぞ!」



戦いはまだまだ終わらない。

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