覚醒
切実に眠たい時は寝ればいいと思う。
神速の勇者クレイブと紫電の勇者イライが帝国軍を襲う。神速の勇者の能力【無限加速】は発動していればそれだけでどんどん移動速度・思考・反射神経などのあらゆるスピードが上がっていく。その速さに限界はなく、時間が経てば経つほどに手がつけられなくなっていく。
その速さで帝国軍を見境なく剣で切り刻んでいく姿はまるで暴れる獅子のようだった。
しかも、帝国兵を殺せば殺すほどにクレイブの動きが速く、そして力強くなっていた。
「俺は生き返った! そして新たな力を手に入れたのさ!【血塗られた供物】だ! 魔物も人間も俺は殺して強くなる! 殺せば殺すほどに俺はどんどん強くなる!!」
クレイブは嬉しそうに、そして残虐に笑って無双していく。
それに対し、紫電の勇者は落ち着いて向かってくる兵士のみを自信の操る紫色の雷雲で焼き殺していた。
そして、その間にアミラが向かわせたであろう魔国の増援が到着し、帝国軍に襲いかかる。
この絶望的な状況で、黄金の勇者は希望を捨てずに帝国軍にこう言った。
「諦めるな! 勇者は俺が引き受ける、お前達は魔国の増援と王国軍を足止めしろ!」
帝国軍はそう聞くや否や動き出す。
魔国の増援を足止めしながら王国軍を勇者2人から引き離していく手際はまさに戦闘のプロである。
残された神速の勇者クレイブと紫電の勇者イライはルークとグリースとアンの3人を睨みつける。
「…雑魚ばっかりで退屈していたところだ。そろそろメインディッシュと洒落込むかぁ!」
クレイブはそう言ってグリースに向かって剣を構えた瞬間、一気に距離を詰める。
その速さはクレイブが瞬間移動でもしたのかと錯覚するほどだ。
「クソッ! なぜお前が生きているんだ!」
「生きてるんじゃねぇ! 生き返ったのさ!」
グリースの言葉にクレイブがそう言いながら目にも止まらぬ速さで剣を叩きつけるようにグリースに攻撃し続ける。
紫電の勇者はその姿を黙って見ており、ルークとアンはグリースに助太刀したくてもクレイブの速さでは入る余地すらなかった。
グリースの猛攻にグリースは受け止めきれずに吹き飛ばされながらも急所に攻撃を喰らわないように最新の注意を払って受けながしていたが、時間が経てば経つほどに速くなるクレイブの攻撃の前では時間の問題だった。
徐々に攻撃が急所に近づいていき、グリースの声が気を弾く手が遅れ気味になっていくその時だった。
アンがグリースに叫んだ。
「グリース!私と戦った時の魔剣よ!」
無意識とは少し違う、それだけが頭に残って…それ以外のものが全て雑念となって頭から消えた。
アンと戦った時…そう、あの時…咄嗟に生み出したアンの炎をかき消した剣。
普段は魔術の属性や効果をしっかりと考えないと生み出せないはずの剣が、今はこんなにアバウトな情報だけで出てきた。
手に取った剣でクレイブの剣を受け止める。
ガギッと金属同士がぶつかる音が響く。
「…なんだよお前、なんなんだよこれは!!」
クレイブの悲鳴にも聞こえる声に主人公も驚いた。
クレイブの動きが、遅くなった。
いや、今まで増幅していた身体能力や加速が全て消えていたのだ。
「…わからない」
「そんなはずがあるかぁ!!さっきの魔族が何かしたのか!!」
クレイブはヤケになって剣を振り回すが、そのスピードは今までの攻撃と比べてあまりにも遅すぎた。
主人公はクレイブの剣を躱し、自身の剣でクレイブの左腕を切り落とした。
クレイブの悲鳴に紫電の勇者が黄金の勇者を放ってクレイブに駆けつける。
「クレイブ!大丈夫か!?」
心配そうにクレイブを見る紫電の勇者を見て、クレイブは痛みに顔を歪めながら言った。
「…ああ、もう大丈夫だ」
「…え?」
どすっ
クレイブは味方であるはずの紫電の勇者の首に自身の剣を突き刺した。
「が…がはぁ!?」
「ありがとう、イライ。お前のおかげで助かった」
喉に剣を突き刺された紫電の勇者は言葉を発することなく倒れ伏した。
あっけない最期だった。
そして、紫電の勇者を殺したクレイブは再び能力【血塗られた供物】が発動し、身体能力が増幅する。
……はずだった。
神速の勇者の体…主人公が切り落とした左腕の傷口から幾何学模様のような文字が溢れ出し、神速の勇者の体に縄のように巻きついたのだ。
「…な、動けない…だと!?」
「これが…魔剣ダインスレイヴの力。なぜこんな魔剣を魔族でもないグリースが?」
アンが主人公の剣を見てそう呟いた。
主人公は神速の勇者の前へゆっくりと近寄った。
「お…おい!お前は俺が誰だかわかってるのか!?勇者!勇者なんだぞ!!」
「わかっている」
主人公はクレイブの前で剣を構えた。
「お前はただのクズだ」
その言葉とともにグリースはクレイブの頭と体を切り離した。
そして、クレイブの胴体を蹴飛ばしてイライの遺体を抱き抱える。そして血痕や死体から少し離れた場所に手厚く葬り軽く祈りを捧げた。
「紫電の勇者…お前への恨みは忘れん。だが、お前もアイツの被害者だ。せめて安らかに眠れ」
神速の勇者、紫電の勇者の死を知った王国軍の士気は下りに下り、魔国と帝国の兵から逃げ出す兵士が後をたたなくなった。
戦況は、聖国帝国の同盟軍と魔国の一騎討ちとなった。
魔国は既に敗戦が決定的な王国を無視し、同盟軍を狙って進軍していた。
「…どうする?向こうは俺たちを潰してからゆっくりと甘い蜜を吸いに来る算段だ」
主人公はアンにそう言うと、アンは俯いた。
「……なんで…お姉さまたちは戦争なんて始めたのかな?」
主人公はアンの言葉に応えることなく、アンを置いて歩き出した。
その方向は、魔国が進軍してくる方向とは少しズレており、アンの姉がいる城のある方向とも違った。
「…どこに行くの?」
アンの問いかけに主人公は何も答えない。
アンは主人公を追いかけて走る。
「アーモンから聞いた。魔王はお前らの他にも居るんだよな」
「…え?」
主人公はアンに向かってニヤリと笑った。
「魔王には魔王をぶつければいい」
寝ます




