宣戦布告
頭が痛いなら頭を取れば良いじゃない。
唐突に喧嘩をふっかけてくる少女にグリース達は戸惑いを隠しきれなかったが、次の言葉で戸惑いは驚愕に変わる。
「私だって魔王の1人! あなたが戦わない理由なんてないでしょ?」
「なっ!? 魔王だと!」
グリースの言葉を他所に少女は両手に業火を出現させて火炎放射器のようにグリースに向けて放出する。
「【ヘルフレア】二輪咲き!!」
「くそっ! 避けろアンリ!」
「…え?」
グリースはギリギリで炎を避けるが、アンリは動けずモロに炎に飲み込まれた。
炎が消えると、残ったのは焦げた地面のみ。
「あれ? 1人消えちゃった?」
「…貴様、【炎の魔王】か」
グリースが少女にそう聞くと、少女は嬉しそうな声を上げる。
「そうよ勇者さん! 私はアン、みんなから炎の魔王って呼ばれているの!」
「とりあえず、貴様は殺す」
アンリの仇だとグリースは右手を前にかざす。
「…【魔術剣】アーパス」
「何それ? 魔剣なの?」
現れた剣は刀身に薄く水を纏った銀色の剣。
グリースはそれを両手で構えてアンを睨みつける。
「お前を殺す。話はそれからだ」
「炎には水ってことね、良いわよ勇者さん。名前的に電気だと思ってたのになー」
アンはそう呟きながら右手を天に掲げる。
すると、右手に炎の球が現れてどんどん大きくなっていく。
グリースは慌ててアンとの距離を詰めるが、剣の間合いに届くより早くアンの炎の玉はグリースに向かって発射される。
グリースの身長を遥かに超える大きな炎の玉が目の前に迫る。
「【フレアボール】一輪花! この距離は外れないでしょ?」
「…っ!!」
グリースの言葉が爆炎と爆音でかき消える。
「ふふんっ! これでお姉さまが戦う理由は消えたわね」
勝利を確信したアンの笑顔は晴れやかなものだったが、すぐにその笑顔は消えた。
炎が収まってアンが爆心地で見たのはグリースの焼死体ではなく。
「…熱い、が…なんとか耐え切れた」
「炎には水…あの火力でもダメなのね」
全身水浸しのグリースだった。
しかし、グリースの体のあちこちには火傷のような赤い腫れが見える。
完全に炎を防ぎ切ったわけではないようだ。
「でも、何度も防げるかしら!!」
「そうなんども攻撃させるかよ!」
右手をグリースにかざすアンに剣を横薙ぎに振る。アンは右手を戻して剣を後ろ跳びで避けながら辺りに小さな火の玉を展開する。
「別に構がなくてもこのくらいなら出せるのよ? 【バレットファイア】乱れ咲き!」
「くそったれ!」
次々と向かってくる炎を剣で防ぐが、撃ちながら次の炎を待機させるアンの攻撃は止まらない。
『…グリース! 二本目だ、もう一本剣を出せ!』
「そうしたくてもそんな暇がない!」
ロエースからアーモンがそう叫ぶが、したくても10を超える炎がいっぺんに襲いかかってくるこの状況では不可能だ。
『くそっ! しょうがねえな』
アーモンがそう呟いた瞬間だった。
グリースの右手の甲に紫色の光で紋章が現れる。
「なっ!? 何だこれは!」
『意識しろ、お前に今何が必要なのか』
…今必要なもの。
グリースは炎を防ぎながら考える。
炎…炎が邪魔だ。
アンを切るには炎が邪魔だ。
「…この炎を消せたなら。」
その呟きが、右手の光を輝かせた。
「なに? この光…」
アンが突然の事態に驚くが、攻撃の手は緩めることはなかった。
しかし、次の瞬間。
グリースが一気に目の前に現れた。
「えっ!? ちょっと待ってよ!」
「…待つかよ!」
アンは慌てて右手に業火を出現させてグリースに向けた。
「【ヘルフレア】一輪咲き!」
しかし、その炎はグリースの持つ一本の黒い剣の一振りによってかき消された。
「…何よ、その剣」
「さあな、俺にも分からん」
グリースは剣をアンの首元に突きつけた。
敗北が確定したアンは涙目になって目を閉じた。
しかし、剣はいつまで経ってもアンの首を切り裂くことはなかった。
目を閉じたアンの耳にドサッという音が聞こえる。
「…え?」
間の抜けた声を上げたアンの瞳に映ったのは、気絶して倒れたグリースの姿だった。
魔力の過剰消費、グリースの【魔術剣】は想像以上に燃費が悪かった。
アンを切り裂くはずの黒い剣は気絶した瞬間に消えてなくなったのだ。
グリースが目を覚ましたのは、戦闘があった場所から2メートルほど離れた木陰の下だった。
体を起こすと地面が焦げた戦闘跡地が瞳に映る。
そして、何故かキスをしているアンとアンリ。
アンリは慌ててアンから離れてグリースの元に駆け寄る。
「グリース! 無事だったの?」
「…それはこっちのセリフなんだが」
「あれは分身…私は大丈夫」
「そうだったのか、よかった」
互いの無事を確かめ合う2人の元にアンが神妙な顔で近づく。
「あ…あの〜」
「貴様、どうして俺にとどめを刺さなかった?」
「グリース…ちょっと待って」
「…どうした?」
敵意を隠さないグリースをアンリが止める。
アンリはアンの横に立ってアンの頭を撫でる。
「アンは…敵じゃない。むしろ利害が一致してる」
「…どう言うことだ?」
グリースはアンリの言葉が理解できなかった。すると、今度はアンがグリースに頭を下げて言う。
「ごめんなさい! 私、てっきりあなたが勇者だと勘違いしてて…」
「そう言えば、俺を紫電の勇者って言っていたな」
アンリを殺されたと思って冷静さを欠いていたが、そう呼ばれた記憶はあった。
「お姉さまが魔国を襲う紫電の勇者を大義名分にして人族と戦争を起こすって聞いて…慌てて紫電の勇者を止めようと思ったんだけど」
「紫電の勇者は既に敗走…勘違いで俺を襲ったと」
アンは涙目でグリースに詰め寄る。
「お願い! 私と一緒にお姉様達を止めて! きっと紫電の勇者はお姉さまの仲間が倒したのよ! もう戦争は始まってるのよ!」
その言葉に返事をしたのはグリースではなくアーモンだった。
『良いぜ? むしろ好都合だ』
「…アーモン?」
「え? 悪魔?」
アーモンはニヤニヤ笑いながらアンを見る。
『ただ条件がある。この戦争が終われば俺たちに魔国を返すと…悪魔の魔国追放を無かったことにすると約束しろ』
アーモンの条件にアンは笑顔でうなづいた。
「それくらい、お安い御用よ!」
それから2日後、王国に魔国が宣戦布告をした。




