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襲撃

続くよ、まだまだ続くよ

明朝、グリースはアーモンに魔王について詳しい説明を受けていた。相手の情報は少しでも多い方が良いに越したことはないのだ。


アーモンが言うには、魔国の魔王は4人存在するらしい。グリースは紫電の勇者がどの魔王と戦闘になった時に漁夫の利を狙い、どの魔王と戦ったら漁夫の利を狙わず逃げるのかと言う見極めをしていた。


アーモン曰く、そもそも漁夫の利を狙う前に紫電の勇者が殺される可能性もあるらしい。


『前は2人だったんだが、その内の1人である【死の魔王】バートリーが初代勇者に殺されて新たに3人の魔王が現れたんだ』

「…現れたって、そんな簡単に名乗り出られるものなのか?」

『実力さえあればな、ただその3人は特殊だ。あいつらは【死の魔王】の生まれ変わりだと言って3人で協力して魔国の領土の3分の2を自分のものにしやがった』


そう言ってアーモンは指を一本立てた。

『1人目は【血の魔王】アミラ、死の魔王の知力と冷酷さを受け継いだ3人の魔王の長女だ』

「長女だと? 3人は血が繋がっているのか?」

アーモンはうなづき、二本目の指を立てた。


『そして2人目、次女の【獣の魔王】フェルサ。死の魔王の力と野心を受け継いだ奴だ』

「力と野心か…厄介そうな奴だな」

『だが、長女の血の魔王が大体のことは仕切っているからな…野心家の獣の魔王がそれに甘んじたいところを見る限り一番ヤバいのは血の魔王だろうな』

魔王を従える魔王…それは血が繋がっているが故の関係なのか、それとも実力で勝ち取ったものなのか。


「それで、3人目は?」

急かすグリースにニヤリと笑ってアーモンは三本目の指を立てる。

『3人目の末っ子【炎の魔王】アン。こいつは死の魔王の狂気を受け継いでいるらしい』

「…らしい? さっきより曖昧だな」

『なんでも姉2人でも手がつけられないのかあまり外に出されていないんだよ。だから情報も少ない名前だけの魔王さ』


名前だけの狂気の魔王、いるならコイツが一番厄介なのではないか? グリースはそう考えて恩を売る相手を考える。

「…その魔王三姉妹のことはわかった。だが魔王はもう1人いるんだろ?」

『ああ…だが、そいつは関わらない方がいいと思うぜ? 何せ何百年も生きてる魔王だ、紫電の勇者がコイツとまともにやりあえる可能性は低い、その時は素直に逃げた方がいいな』

「…誰なんだ?」


アーモンは四本目の指を立てる。

『伝説の魔王だ、【霧の魔王】エリザベート。彼女1人で国2つを落とした怪物だ』

「…国、2つだと?」

『かなり昔だがな、当時では大国と呼ばれていた国だ。バートリーほどではないが、魔王三姉妹に勝るとも劣らない…いや、魔王三姉妹よりも強いなアレは。とにかく相手にしない方がいい』

真剣な顔でそう言うアーモンにグリースは霧の魔王エリザベートの危険度をさらに上だと認識した。


「なら、とりあえず獣の魔王と紫電の勇者がぶつかるのが理想か」

『…最悪、血の魔王だな。他の2人…特に炎の魔王は未知数すぎる』

「そうと決まれば、まずは金だ。金があれば堂々と食い物も武器も買える」

『お前に武器は必要ないだろう?』


アーモンの言葉にグリースは笑った。

「何言ってるんだ、必要に決まっているだろ」

『…お前、俺の渡した力はいらねえってのか?』

グリースは笑顔で応える。


「その力を活かす武器がいるんだよ」

『活かす武器だと?』


グリースは部屋のドアを開け、寝ているアンリを起こさないように静かに言った。


「ポーションだよ、アレは魔力をかなり使うからな」


ドアが閉まり、部屋から出て行ったグリースをドア越しに見つめるアーモンは一言呟いた。


『…そりゃ武器じゃねえだろ』




グリースは聖国で冒険者ギルドを探していたが、聖国にギルドは存在しなかった。

「日雇いの仕事も無いとは…この国の経済はどう回っているんだ」


グリースはそう愚痴りながら街を歩く。

金を手に入れる手段がなくなったため、当分はアンリに頼る生活になってしまう自分に情けなさを感じてしまう。


「…これは、早く仕事を探さないとな」



それから2週間、グリースは仕事どころか日雇いの仕事すら見つけることができなかった。

いや、見つけることはできるのだが見つけた数少ない仕事が『女性限定』だったり、女性限定じゃなくても『人魔教徒に限る』だったりとなかなか仕事に恵まれないのだ。


「…確かに、子供の頃から金運に恵まれたことはないが…これほどだったのか?」


己の金運のなさに戦慄していると、向かいからアンリが走って来た。息を切らして走ってくるアンリにグリースはとうとう来たかと笑みを浮かべた。


「はぁ、はぁ、グリース!」

「出国したのか?」

「まだ、あと1週間で出国する!」


アンリは強くうなづき、グリースはヘトヘトのアンリを抱き抱えて歩く。


「グッ!?グリース!?」

「急いで宿に戻るぞ」

「だからって!抱えなくても…」

「走って知らせてくれた礼だ」


グリースがそう言うとアンリは俯いて何も言わなくなった。顔が赤くなっているのは走って来たからなのか、それとも別の理由なのかはアンリにしか分からない。



宿に着き、荷造りをしているグリースにアーモンが作り出したロエースと現世の狭間から顔を出して問いかける。

『意外と早かったな』

「王国の協力だからかもな」


『…準備は?』

「十分だ」

『勝算は?』

「無いと行かねえよ」


そしてアーモンは最後にもう一つだけ質問をする。


『殺れるな?』

「殺れるさ、当たり前だろ」




急いで聖国を出て、王国を出た紫電の勇者を追うグリースたちは8日程で王国の砦門にたどり着いた。

国境を遮る壁がない王国は国境の役割をしている山々に複数の砦を設置することで入国者を取り締まったり敵を退けているのだ。


「紫電の勇者が出国したのはこの門でいいんだな?」

「…うん」

「できれば出国と同時に尾行したかったが…仕方がない。急いで後を追うぞ」

「わかった」


紫電の勇者が王国から出たと同時に尾行するのが理想だったが、想定よりも王国に戻るのに時間がかかってしまったグリースたちは少し遅れて紫電の勇者の後を追うことになってしまった。


しかし、紫電の勇者が魔王と接触する前に追いつければ問題はない。それに狙うのは紫電の勇者と魔王が戦闘で疲弊した瞬間だ。


それさえ見逃さなければ問題はない。



グリースは極めて冷静に紫電の勇者一行の後を追った。





しかし3日目にしてこのプランは頓挫した。

紫電の勇者の後を追って立ち寄った村でとある噂が立っていたのだ。


そして、何人にも聞いてその噂が真実であることを知った。



『紫電の勇者が何者かによって敗走した』


グリースはアンリに情報の真偽を確かめさせる。

「アンリ、王国の様子はどうだ?」

「…まだ異変はない、けれど少し貴族が慌ただしい気がする」

「そうか、とりあえず紫電の勇者を追ってみよう。何か情報があるかもしれない」


グリースたちは紫電の勇者の通った道を通り、戦いの跡や死体がないかを探した。



そして、それは簡単に見つかった。

戦いの跡や死体ではない。



「あなたが紫電の勇者ね! お姉さま達の代わりに私が相手してあげるわ!!」


こちらに戦いを仕掛けてくる少女だった。

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