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祈り

理解できない、2人は2人の正義をそう言い放った。しかしお互いの雰囲気は険悪ではなく、むしろ2人とも楽しげだった。


「あらあら、やっぱりあなたもそうでしたか。では私はあなたに殺されてしまうのでしょうか」

「…いいや、俺はお前が間違ってるとは思っていない。むしろこの国ではその正義は歓迎されているじゃないか。ただ、宗教を中心とした正義が俺には理解できないってだけだ」


グリースの言葉を笑って受け流すアリア。

「そう、私もあなたが復讐心を正義と言い換えてるようにしか聞こえなくてね。まあ言いたいことが分からなくはないのだけれど…それを貫こうとするあなた自身が理解できないわ」


その言葉にグリースはにやりと笑う。

お互いに理解できない、相入れないと言い合った2人は互いに背を向け歩き出す。


グリースは教会の外へ、アリアは教会の中へ。


「じゃあな、いい暇つぶしになったよ」

「ええ、もうここへは来ることはないでしょうけれど…来たくなったらいつでも受け入れますよ。もちろん入信はいつでも歓迎です」


グリースは無言で外に出る。アリアもそれを見送ることなく教会の中にある神を模した像の前に膝をつく。


「…神よ、旅立つ2人に祝福を」




教会を出た2人はとりあえず宿を探そうと先程通った商店街を歩いていた。さっきは色々あって周りを見る余裕がなかったため、今回が初めて通るようなものではあるが。

「…それにしても、あんな事件があったのに呑気なものだな…人が減った様子がないぞ」

「それだけ…平和ボケしてる。もしくは、慣れてる?」


堂々と失礼なことを言う2人を無視して人の流れは川のように緩やかに、しかししっかりと動いていく。

そして5分ほど歩いた時、グリースたちの耳に複数の男たちの会話が聞こえてきた。


「…おい見ろよこれ! 紫電の勇者が魔王討伐に本格的に乗り出すってよ」

「王国が全面的に協力するって…あそこにはもう1人勇者がいるんだろ? 片方だけ応援して大丈夫なのか?」

「それだけ紫電の勇者が強いってことじゃないか?」


グリースが声の聞こえた方向を見ると、3人の男が新聞を見て騒いでいた。そしてその会話はグリースにとって聞き捨てならないものだった。


グリースは3人の男がいるカフェのテラス席に向かう。

「なあ、あんた。その新聞を見せてくれないか。」

「…ん? ああ、別にいいけど」


グリースが新聞を持った男にそう言うと、男は新聞をグリースに手渡す。グリースはそこに書かれた記事を見て驚いた。


『紫電の勇者、魔国に遠征。王国が全面的に協力』


グリースの新聞を握る手に力が入り、新聞はくしゃりと音を立てて皺ができる。

「お、おい!」

「…ああ、すまない」


グリースは新聞をテーブルに置いてテラスから立ち去った。


「…グリース?」

「喜べアンリ、復讐の時間だ」

アンリに向けるグリースの顔は、復讐に燃える鋭く冷たい笑顔だった。




宿はそれからすぐに見つかった。

「おい、アーモン。いるか?」

『おうよ、俺はどこにでもいるぜ』


グリースが部屋でそう呼ぶと、どこからともなくロエースからアーモンが現れる。アンリは2人の邪魔をしないように先にベットに潜っていたが、布団に隠れながらチラチラとグリースを見つめていた。


「紫電の勇者が近いうちに魔国に遠征に行く、奇襲の狙い目だとは思わないか?」

『…遠征なら複数人で行くんじゃないか? それに魔王討伐ともなれば軍隊で行く可能性もある。奇襲は難しいと思うぞ』


アーモンは難しい顔をするが、グリースは何も考えなしに言ってはいない。


「確かに、討伐は軍で行くだろうな。だが人数の有利は俺たちには関係ない」

『…アンリか』

「ああ、あいつの能力は自分の分身を出せる。それも制限なしに。今も帝国と王国に複数人の分身を置いて国の様子を監視している」

『それは、お前の命令か?』


グリースは首を横に振った。

「いや、俺が言う前に既にやっていたことだ。あいつは天才だよ、俺の考えの五手十手先を考えて動いている」

『それは末恐ろしいことだな、精々愛想を尽かされないようにしておけよ?』

「善処するさ、俺にはまだやるべきことがある」



グリースはそう言って窓の外を眺める。

紫電の勇者の出発は未定だが、王国にいるアンリが常に国の出入り口を見張っているため紫電の勇者が出発し次第グリースの横にいるアンリの元に情報が来る。


「アンリがいなければ、ここまで順調に行くことはなかった。本当に俺は幸運だ」

その言葉を聞いたアンリは恥ずかしそうに顔を赤くして枕に顔を埋めた。

アンリが起きているのに気付いたアーモンはニヤニヤとグリースを見るが、その真意にグリースは気づくことはなかった。


『それじゃあ、紫電の勇者が王国を出た瞬間に奇襲を仕掛けるのか?』


アーモンの言葉にグリースはニヤリと笑って否定する。


「いいや、そんなバカ正直なことはしない」

『…ん? じゃあどうするんだ?』


グリースは自身の考えた作戦を説明する。

「俺の望み、そしてお前の望みを同時に叶える作戦だ。まずは紫電の勇者の後ろをずっと尾行し、魔王と紫電の勇者の争うまで待つ」

『…なるほど』

アーモンはすぐにグリースの作戦を察した。


「そしてお互いがある程度消耗した時、一気に紫電の勇者を奇襲する。魔王は殺さないで恩を売って悪魔の共存を認めさせる」

『なるほど、漁夫の利を狙って一石二鳥か。面白いことを考えやがるぜ』


グリースとアーモンはお互いにニヤリと笑い合った。


「それじゃあ、紫電の勇者が動くまでに準備を整えるぞ」

『何か必要な物があるのか?』


アーモンの言葉にグリースは強くうなづく。


「服も食い物もアンリが調達したが、俺たちに圧倒的に足りない物がある」

『…ほう、何がないんだ?』


グリースは真剣な顔で言う。

「全くと言っていいほど金がない」



服も食べ物も今までの金も全てアンリが盗んだ戦利品。その事実はグリースの数少ない良心に少なくはないダメージを与えていた。

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