聖国へ
最近は手洗いうがいを徹底しろって周りがうるさいですが、そもそもこんな状況にならないと徹底しない奴らがいる事が問題だと気づけ。
帝国から逃げ出すことに成功したグリースとアンリは今、聖国に向かってのんびりと歩いていた。
「…予定通りじゃ無いけど、予定通り?」
2人目の勇者と会ってから聖国に向かう予定だったが、憲兵に追われてしまったためすぐに帝国を出ることになってしまったのだ。
「本来なら2人目いる帝国の勇者が1人しかいないことが分かったんだから予定通りだ」
まあ、あの串焼き屋の話を信じればの話だが帝国には怪力の勇者しかいないらしい。
「でも…いちいち憲兵に追われたりするのは、面倒だね」
「そうだな、行動が制限されるのは面倒だ」
グリースたちがそうぼやいた時、ロエースからアーモンが姿を現した。アーモンは椅子に座るような体制で浮遊しグリースたちと並走している。
『そんなお前らに朗報だぜ、聖国は宗教国だ。つまり制度や法律があまり変わらない』
「…それがどうしたんだ?」
グリースの質問にアーモンはニヤリと笑って答える。
『俺の知識が活きるってことだ、今までの王国や帝国はコロコロとその時代によって柔軟に制度を変えてしまうから俺の知識と齟齬が生じる。ただ、宗教国の聖国は違う。なぜだかわかるか?』
グリースは数秒考え、答えを出した。
「法律や制度が宗教の戒律に準じているからってことか?」
『本当に頭は良いんだな、お前』
宗教国は法律や制度を簡単に変えることはできない。法律も制度も宗教の教え、戒律に則って決められているからである。
つまり法律や制度を変えたければ宗教の教え自体を変える必要が出てくるのだ。
『そして、朗報と言ったのは聖国の法律はお前らに味方しているからだ』
「…どんな法律なんだ?」
アーモンが言った法律は、グリースとアンリを驚かせるものだった。
『宗教国の懐の大きさと言えば聞こえは良いが、聖国は法を犯したもの…そして国から逃げた犯罪者の入国を法律で認めてるんだよ』
「…本当なのか? それは」
「嘘じゃ…無いよね?」
犯罪者の入国を認めている国は少なく、住人が多い大国であればなおさら入国審査は厳しくなるのが普通である。
しかしさすがは宗教国、罪人すら受け入れる懐の大きさは他の国には無い特徴と言えるが治安的には問題ないのか心配だ。
『でも俺が見ていた時代じゃあ治安はかなり良かったな、宗教が良いのか…信者が良いのかは知らんがな』
「宗教に良いも悪いも無いだろう。宗教は宗教だ、それ以上でもそれ以下でもない」
「…グリース、無宗教?」
「ああ、俺は特定の宗教に入信していないが…お前はどうなんだ?」
「私も…無宗教」
『無神論者に人格者はいねえってのが昔の常識だったところもあるんだがなぁ』
アーモンが2人を呆れた目で見るが、2人は気にせず歩いていく。アーモンはため息をついてロエースに消えた。
5日ほどで聖国に到着した2人は国の入り口で入国審査を受けたが、犯罪者であることを申告しても入国できた。
むしろ歓迎されたような気もするのは気のせいだろうか。
しかし、犯罪歴がある人間は入国して三日以内に教会に行かなければならないらしく、グリースは面倒ごとを先に済ませようと教会に向かった。
「…教会、入信を強いるようなのは勘弁だがな」
「でも…それさえ済ませれば、自由だよ?」
「まあ、そうなんだがなぁ」
聖国内はアーモンの言った通り治安は良く、住宅も白を基調とした美しい街並みだった。
教会は国の中心、商店街を抜けた先にあると入国審査官が言っていたが、そこは人通りが多く買い物や散歩をする人で溢れかえっていた。
「…人が多いな」
「みんな…表情が明るい?」
街を歩く人々の表情は明るく、皆が満ち足りた顔をしていた。なぜそこまで幸福を顔に表すことができるのか、グリースたちはわからなかった。
「…宗教か?」
その時だった。グリースたちの前方から多くの人々の悲鳴が上がった。
グリースたちは悲鳴の上がる方向に走って向かう。
そこには腹から血を流し倒れる男と、血の滴るナイフを持った男。
「…治安は良い、と思っていたんだがなあ」
「タイミング…最悪」
ナイフを持った男は目をギラつかせ、辺りを見渡して次の獲物を探しているように見える。
「しかし、これは見逃せないな」
「…行くの?」
アンリの言葉に答えるようにグリースは右手を前にかざす。
「【魔術剣】キュア」
「…え? それ回復魔術じゃ」
アンリの言葉を無視してグリースは現れたナイフを掴んで走り出す。既にナイフの男は獲物を見つけてナイフを振りかぶって走り出していた。
標的に選ばれた男とナイフの男の間にグリースは割って入りナイフを受け止める。
お互いの得物の大きさは同じ、グリースの魔術剣は使用した魔力の大きさによって剣の大きさが決まる。そしてその元となる魔術によって剣の効果も変わるのが彼の能力である。
そして、今回使用した魔術は回復魔術。
なぜそんな魔術で剣を生み出したのか?
それはすぐにわかる。
ナイフの男は割って入ったグリースに標的を移し、グリースに向かってナイフを振りかぶりグリースの顔目掛けて振り下ろす。
振り下ろされたナイフをグリースはナイフで受け止め、弾き返す。そしてグリースからは攻撃することはない。
「お前…なめてんのか!!」
ナイフの男はそう叫ぶとグリースに向かってナイフを突き出すが、グリースはナイフを受け流して男を蹴り飛ばす。
しかし、ナイフの男はすぐに起き上がってグリースにナイフを突き刺そうと襲いかかる。
それもグリースはナイフを弾いて男を蹴り飛ばし、倒れる男を眺める。
しかし、また男は起き上がって叫びながらグリースに襲いかかる。
グリースはそれから5分ほど襲い掛かってくる男の足止めを行なった。
グリースはその間に多少の手傷を負ったが、何もせずともすぐにその傷は癒えて消えた。
そう、【魔術剣】キュアの効果である。
攻撃を受けても時間さえあれば傷が癒えるこの剣は足止めにもってこいのものである。
「しかし…憲兵はまだか」
「このビチグソがぁぁ!!」
グリースの呟きはナイフの男に聞こえることはなく、叫びながら襲いかかってくる。
時間が経つにつれてナイフの男の攻撃は激しさを増していった。グリースに対する怒りがどんどん溜まっていったからだろうが、グリースにとっては迷惑極まりない。
グリースはため息をつきながらナイフを構えるが、その後すぐにグリースとナイフの男以外の声が聞こえてきた。
「罪人よ、お前の罪を数えなさい」
その言葉が聞こえたと思った瞬間、目の前にいたナイフの男が倒れ伏した。
そして、倒れた男の腹からはナイフに刺された後のような出血がある。
グリースはうつ伏せのナイフの男の元に駆け寄り、体をひっくり返して出血している傷口を確認する。ナイフの男に触れた時、男は既に死亡していたが出血が止まることはなかった。
「…この傷、こいつが刺した男と同じ?」
グリースの疑問は尽きなかったが、そんなグリースの元へ近寄る人物がいた。
「あなたが、通り魔を足止めしていた方ですね?」
「…そうだが、アンタは誰だ?」
その人物は輝くような金髪に紫色の瞳は神々しく、女性すら魅了されてしまうほどに美しい女性だった。
「申し遅れました、私は聖国の教会でシスターをしているものです」
彼女はそう言って微笑み、グリースを見る。
「周りからは神聖の勇者と呼ばれております」
私は外出して家に帰るとすぐにアルコール消毒をしてからもう一度石鹸で手を洗います。




